王都に向け出港
「ふぅ、何とか町に着きましたね」
「お嬢さんのおかげですよ。あとは…衛兵の方」
「ん?どうした、何か用か商人?」
「途中で盗賊団に出くわしました。どちらも合わせて一つの盗賊団です」
「ご苦労。こいつらは…よくやった!質は悪いが数が多い奴らで困っていたんだ。こっちへ来てくれ」
事情を話すとすぐに隣の入口から奥に通してもらう。
「それで、頭目は?」
「連れてきてもらえますか?」
「了解です!」
私はジャネットさんと一緒に頭目を連れてくる。あとは向こうのパーティー代表としてアゼルさんも来てもらった。
「こいつか。本当によくやってくれた。こいつらは強くないがほとほと困っていてな」
「確かに強くはなかったけど、困ってたのかい?」
「ああ。それなりの盗賊団になるとどうしても加入にも条件がある。だが、こいつらのような下位の盗賊団でも数を頼みにしているやつらは直ぐに人員を補充する。つながりも弱いし事情も様々だが、だからこそ簡単に加入できちまうのさ。おかげで、頭目が逃げ続ける間は解散することがない」
「なるほどねぇ。思っていたよりも懸賞金が高くてどうしてだろうって思ってたのさ」
「懸賞金?」
「表に張ってあっただろ?こいつらは実力の欄はDになってたけど、報酬はCでもおかしくないそこそこの額だったからね」
「そんなのありましたっけ?」
「まあ、アスカは街に入れるかどうかでまだまだドキドキしてる感じか」
「ち、違いますよ!」
「オホン」
「すみません。話の腰を折ってしまって」
「いや、それで報酬が出るわけだが分配はどうする?ここで決められるが」
「その前にこいつらのため込んでた金もあるんだ。先に数えてくれないか」
「む、そうなのか。ではそうしよう。おいっ!計算を」
「はい」
「一応、そういうことだから頭目も団員と一緒にな」
「分かった。先にできる計算だな。頭目が金貨5枚で副頭目は金貨3枚。他は金貨2枚だ。けがはないんだな?」
「大丈夫です」
「ならそれで馬車にくくりつけられていた割合でいいか?」
「私たちもそれで構いません」
アゼルさんも同意してくれ、報酬はひとまず2分割された。
「それじゃ、先にベルンさんにこれ渡しておきますね」
「こちらは?」
「盗賊たちの報酬の半分です。ほら、馬車の後ろ借りましたし、そのせいでちょっと予定より遅くなっちゃいましたから」
「よろしいので?」
「リーダーの決めたことならね」
「私たちは…」
「こういうのは個別だし、護衛の依頼内容も違うだろうからそっちはそっちでね」
「了解です!」
元気に答えるアゼルさん。どうするのかな?
「団長!計算が終わりました」
「そうか。では、額がこれで半分が町というか国だな。商人に2割、冒険者が3割だ」
「結構取られるんですね」
「まあ、5割といっても奪われた資産の補填や遺族への慰霊金に使われるから残るのはわずかだ。そうそう、特別報酬税があるから、受け取る金はそこから1割減るから注意するんだぞ」
「そんなのもあるんですか」
「まあ、金持ちはこれぐらいなら困らんだろうということでな。代わりに孤児院の運営や、町や街道の保全に見廻りの費用など安全な生活に寄与しているんだ」
「それなら納得です」
「商人の方は今度も通るな?」
「はい」
「細かい部分はその時に済ますからとりあえずこれを持っていけ」
「ありがとうございます」
「んじゃ、これでひと先ずは終わりかい?」
「そうだな。改めてご苦労だった」
「いいよ。こっちも儲かったしね」
アゼルさんは向こうの商人さんに報告して町に入る。
「それじゃあ、ここまでね。私たちはギルドに護衛完了の報告があるから」
「お疲れさまでした」
「では、我々は乗船の手続きに行きましょう」
ベルンさんと一緒に船着き場へと向かう。
「ん?乗船はどれだ?」
「王都バンデルベルク行きです」
「名簿は…これか」
ベルンさんがやり取りをして乗船の確認をする。
「ほう?珍しいな商人の方は一般船室か。いや、まあ当然か」
ちらりと船員がこちらを見ると納得したように名簿にチェックを入れる。
「馬は明日だが、馬車の方は今日積み込めるが。どうする?」
「馬は明日連れてきますのでお願いします」
「あれ?馬車はもういれちゃうんですか?」
「大きいし重たいものですので、積み込みは先なんですよ。それより乗船はいつにしますか?今からでもできますよ」
「えっ!?できるんですか?」
「はい。その代わり、下船はできませんが。船からすると乗船チェックの手間が省けるので、やってるんですよ。ただ、食事は明日からになりますよ」
「う~ん。せっかくだし乗ろうかなぁ。あっ!でも…」
ちらりとリュートの方を見る。
「だ、大丈夫だよ。アスカの作ってくれた酔い止めもあるし」
「いいの?なら、ご飯食べたら乗ろうね!」
リュートの許可も出たことだし、早速食事をしよう。
「この辺だとあの辺の店が人気ですよ」
「あそこですか?でも…」
ベルンさんおススメの店は確かに良さそうだ。ただ、本格レストランって感じだ。残念ながら港町のレストランってわざわざ肉料理メインで出してくるんだよね。せっかくだし川魚を食べたい私の理想ではない。
「う~ん。ちょっと回ってみます」
「それでは、また下船時に」
「失礼します」
「んで、どこ行くんだい?」
「お魚が食べられるところをさがそうと思います」
「なるほどねぇ。あそこは?」
「ちょっと小さい店ですけど味があっていいですね」
「ならそこにするかい?」
「でも、キシャルとか大丈夫かな?」
小さい店だと従魔とか難しいところも多いんだよね。意外に広い店の方が奥でちょこっとならいいですよとか、外に近い席で窓際とか屋外席を用意してくれたりする。
「ま、それは入ってみないとねぇ」
「いらっしゃいませ!」
「あ、あの!従魔って大丈夫ですか?」
「えっと、大きいですか?」
「この子なんですけど」
「わっ!?キャット種。暴れたりしない?」
「大丈夫です。我慢できる子なので」
「そ、それじゃあ、奥にお願いします」
「お姉さん、すごく警戒してたね」
「キャット種は魚よく食べるからねぇ」
「そうか…そうだった!」
キシャルって結構肉食べてるからあんまり意識してなかったけど、猫といえば魚だよね。近くに湖とか川がないと中々手に入らないから忘れてたよ。
「我慢するよね~」
にゃ~~
「大丈夫って言ってます」
「本当に大丈夫かな?まあ、せっかくのお客さんだし座ってよ!」
席に通されるとメニューを見せてくれる。
「う~ん。といっても出てこないとわかんないんだよね~」
「どうせ、いっぱい食べるから頼んどこう。これとこれとこれ。あとこれもね」
「分かりました!大きいのも入ってるから順番に出していきますね」
「ああ、頼むよ」
「お勘定は気にしなくても?」
「美味いとこね。こっちのお嬢様がこだわるもんでさ」
「ちょっと、人のせいにしないでくださいよ!」
「そうそう。エールの樽あるかい?」
「ありますけど…そんなに飲むんですか?」
「んな訳ないない。ちょーっと見せて欲しいだけさ」
「別にいいですけど」
「ほらキシャル、付いてきな」
にぃ~
ジャネットさんがキシャルを連れて行く。どうしたんだろ?
「アスカはこっちでしょ」
「あっ、うん」
リュートが運ばれてきたジュースをくれる。まあいいか。
「お待たせしました。1品目の料理です」
「おっ、来たね!ついでにエールくれよ」
「はい。あれっ?こんなに冷えたっけ?」
「ほらほら、さっさと入れる」
「は、はい」
おかしいなと思いながらも店員さんはエールを持ってくる。
「ああ~、冷えててうまいねぇ~」
「ジャネットさんまさか…」
「キシャルはちょっとのどの調子が悪かったんだよな?」
にゃ~
「ほら、ご褒美だ。ただし、冷ます程度だぞ」
にゃ!
切り身の一部をジャネットさんが取り分けると尻尾を振りながら冷やして食べるキシャル。くっ、これじゃあ誰の従魔か分からない。
「ほらキシャル~、こっちも」
にゃ
私があげようとするとプイッと顔を背けるキシャル。
「ええっ!?私のは食べてくれないの?」
「いや、まだまだ料理は来るんだからもっと待ってやりなよ」
「なるほど、キシャルってそこまで食べないもんね。今食べたら種類も食べられないか」
そんなこともありつつ、充実した食事を終えて翌日の朝ごはんも夜店で買った私たち。
「よ~し!船に乗りますよ」
「はいよ」
「ん?もう乗船かい?下船できないから注意してくれよ」
「はい」
「それじゃあ、名前を…」
「アスカです」
「アスカ様…これは失礼しました。ご案内します」
船に入るとそのまま案内される。
「こちらになります。その…4人部屋になりますが、構わないのですか?」
「大丈夫ですよ」
「ああ、護衛だから問題ないよ」
「そうですか。では、何かありましたらお申し付けください」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、今日はもう遅いし寝るとするかね」
「せっかく船に乗ったのに?」
「明日も明後日も乗るんだし、いいだろ?」
「まあ、それはそうですけど…」
色々しようかなと思ったけど、結局は寝るだけになってしまった。
「アスカ、薬を…」
「そうだった。はいこれ」
リュートに酔い止めを渡して私たちは船での1泊目を満喫した。




