一網打尽
「さ、今日は港町に着きますよ。準備はいいですか?」
「ばっちりです!」
この先は昨日と一緒の大河沿いに進んでいく。往来も多く、魔物はほとんど出ない。じゃあなんで護衛がいるかというと、この区間は盗賊が多いのだ。王都に運ぶもしくは王都から運んでくる商隊を狙って結構な数が出るらしい。
「今日は盗賊メインですし、リュートお願いね」
「うん。アスカは中でゆっくりしていて」
いつもは荷台で大人しくしているリュートと交代して御者席の横はリュートが座る。ただでさえ、馬車の後ろはジャネットさんだし、それに私が御者席の横に居たら家族経営の商会と思われちゃうからね。
「心配しなくても大丈夫だよ。出発の時間も他の商隊に合わせたんだし」
「そうですよね」
馬車の後ろにいるジャネットさんと会話しながら道を馬車は進んでいく。
「あ~、ごめんアスカ。出てもらえる?」
しばらく後で休憩も取って再び進んでいるとリュートに呼び止められた。
「どうかしたの?」
「前の反応。大きな商隊じゃなくて小さい商隊と盗賊みたいなんだ」
「げっ、そうなの!?それじゃあ、行ってくるね」
タタッと前の馬車に向かって駆け出す。
「大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ。ああ見えて魔物以外にも強いんです。ただ、やり過ぎないといいですけど…」
「そうですか、しかしひとりで?」
「こっちも大変ですから。ジャネットさん!後ろはキシャルでいけますか?」
「分かったよ。ほらキシャル、働けってよ」
に”~
なんでこんな奴の相手をと思いながらもキシャルは返事をするのだった。
カン
「おおっ!」
「よっと、お前らこっちの数を生かせよ!」
「へい!」
「む、結構数が多い。不意を突くか…」
風魔法で一気に空に上がり盗賊たちの視界から消えると私は魔法を準備する。
「ああん?何だこの風?」
「頭!上に…」
「上だぁ?」
「皆さん!馬車の周りに」
「お、おう!」
冒険者たちを馬車の周りに集めてすぐに魔法を展開する。
「嵐よ!ストーム」
馬車の周りに嵐を起こし、馬車を守りつつ盗賊を巻き上げていく。
「あとは…」
腰に巻き付けた電撃鞭を手に持って一人ずつ当てていく。
「さぁ、次!」
「あの子、なんなんだ?」
「さあ。でも、後ろにいた馬車の人じゃないかな?ちょっと離れて確かいたと思うし」
パンパン
「これで良しと。大丈夫ですか?」
「ああ、助かったよ」
「けが人はいますか?」
「けが人はいないけど馬が…」
見るとさっきのストームではなく、切り傷が馬についている。
「痛かったよね。エリアヒール」
馬のケガを治してあげる。けがを治したら怖かっただろうから、よしよしとなでるのも忘れずに。
ぶるる
「怖かったね~」
「よし。こっちはこれで」
「こっちも縛り終わったわ」
「もう大丈夫ですか?それじゃあ、私は一度戻りますね」
「ああ、助かった。ん?後ろの方なんか…」
「あっ、大丈夫です。あっちは多分もうちょっと厳しいと思いますけど」
そのころ…。
「後ろの方から応援が行ったみたいだぞ」
「あっちは頭もいるし、ガキが一人だろ。それよかこっちもやろうぜ!」
「おおっ!」
「ちっ!面倒な…キシャルそっちにやるから頼むよ」
に~
「お前ら!手を出すとどうなるか分かってるよねぇ」
「女剣士が一人とは舐められたもんだぜ!」
「どっちが舐めてんだか。ほらよ」
剣を振って相手をどんどん馬車の後ろに誘う。
「ちっ、剣を振り回しやがってこっちがナイフだからって。これでも…」
「よっと」
「アブねぇ!こいつナイフも投げますぜ」
「の、ようだな。だが、馬車に取り付いてしまえばこっちのもんだ」
「ふぅ、頭がそこそこ回るやつでよかったよ」
「なにっ!?」
にゃ~
馬車後部の中央に座したキシャルは盗賊たちを目に入れるとブレスを吐く。
「うおっ!?なんだ?足が凍って…」
「はいよっと」
驚いている盗賊の腹に一撃を入れていく。本当に簡単な仕事だ。別に気絶させる必要はないけどキシャルをあんまり見られるわけにもいかないからね。
「あっちは…まあいいか」
気絶した盗賊を縄で縛りながら辺りを見る。
「リュート!もう周りは大丈夫かい?」
「…大丈夫みたいです。これで全部見たいですね」
「そうかい。なら、あっちにいるやつらに根城でも聞くとするか。ベルンさん、前の馬車に付けるけどいいかい?」
「ええ。多分知り合いの馬車です」
「いっちょ、迎えに行ってやるか」
あたしたちは縄で縛った盗賊を馬車の後ろに括り付けるとそのまま前の馬車へと合流したのだった。
「ジャネットさん、そっちはどうですか?」
「問題なし。ただ、全員気を失っててね。話はそっちからじゃないと聞けなくてさ」
「そうなんですね。実はこっちもほとんど」
電撃鞭の出力がちょっと高かったのか、ほとんどの盗賊たちの意識はまだない。
「う~ん。頭目が誰か分かればねぇ」
「あっ、それならこいつですよ。ずっと命令してましたし」
「そうかい?それなら、ティタ。水まいてくれ」
ジャネットさんの指示によってティタが顔に水をまくと、ゲホッゴホッという声とともに意識が戻る。
「な、なんだ、今のは…」
「あっ、気が付きましたよ」
「お前がリーダーだろ?根城にしてるところはどこだい?」
「けっ!誰が言うかよ」
「そうかい。なら、このまま引き渡すか。間違いなくこれだけどね」
ピッとジャネットさんが首のところに持ってきた指を横に滑らす。
「お、脅そうったって…」
「お前にとれるのは2つ。このまま町に行っておさらばするか、根城を教えて更生可能という姿勢を見せて犯罪奴隷に落ち着くかだ」
「頭ぁ」
「早く決めなよ。こっちは別にどっちでもいいんだからね」
「わ、分かった。連れて行く」
きらりと剣を顔の前にちらつかせると、頭目は観念したのかがっくりとうなだれた。まあ、確実に死ぬよりはどの道誰かに回収されるお金で助かる方がいいもんね。
「んじゃ、そっちから…どっちが来る?」
「私たちですか?」
「ああ。だよなアスカ?」
「はい。盗賊は2つのパーティーというか商会が捕えてますから代表をそれぞれ送るべきかと。うその報告があると心配でしょうし」
こういう時に回収したお金はいったんは町の警備隊に渡され、それから冒険者に割り当てられた分が支払われる。持ち逃げする人もいるらしいけど、ギルドにも報告が行って依頼ポイントにもなるから大体の人は正確に申告している。
「あんたたちもちょっと時間かかるけど良いよね?」
「うちは助けていただいた身ですし、意見などありません」
「私どもも問題ありません。しかし、ボードビーさん。あれほど護衛は3人以上にするべきだと言ったでしょう」
「ひとつ前の商談の結果が悪く、仕方なかったのですよ」
「全く、今回は助かりましたが気を付けてくださいよ」
「ええ。そちらのお嬢さんには助けていただきまして、感謝しきれません」
「いや~」
「話してるところ悪いけど、時間も惜しいし行ってくるよ。んで、決まったかい?」
「わ、私が行きます」
「そうかい。キシャル…とアルナも来てくれ。何もないと思うけど連絡係にね」
にゃ~
ピィ
「うわっ!?剣士さんかと思ったら魔物使いだったんですか?」
「まさか!ほら行くよ」
「はい」
「お前もさっさとこい。渋ったり、違う道を教えたらわかってるよねぇ?」
「わ、解った。だから引っ張らないでくれ」
「くださいだろ!行くよ」
「大丈夫なんですか?」
「心配しないでください。ジャネットさんは優秀ですから!」
「そ、そうですか」
「それより、この人たちを馬車にくくっちゃわないと。予定より遅れますからね」
その後、30分ほどしてジャネットさんたちが帰ってきた。
「大丈夫でした?」
「ああ。見張り番の副頭目がいるだけだったよ。ついでに捕まえてきたからこいつも頼む」
「それで首尾はいかがでした?」
「う~ん。まあ、金はあったね。ただ、目利きがあるやつはほとんどいなくて、闇市や街なんかで売ったみたいで使えそうなものはあんまり」
「皆さんにとっては残念でしたね。それでは出発しましょうか」
「そうだねぇ。時間も食っちまったし」
「これだけの盗賊はどうするんですか?」
「任せてください!」
「だけど、しゃべらないでくれよ。冒険者ならわかるだろ?」
「もちろんだ。助けてもらった恩もあるしな」
「そんじゃ、行くか~」
「お~~~!」
私は盗賊たちに風の魔法をかけて地面を滑るようにする。こうすればちょっとの力で盗賊たちを引っ張っていけるのだ。
「便利ねこれ」
「お前もできるか?」
「吹き飛ばすぐらいならできるけど、これだけ繊細には無理よ」
「そういえばお二人はランクはいくつなんですか?」
「私がDランクでこっちのハールはCランクに上がったばっかりよ。そういえば、自己紹介もしてないわね。私はアゼル、こっちがハールよ」
「私はアスカです」
「よろしくね。といっても、港町まででしょうけど」
「そうなんですか?」
「ええ。商人さんが言ってたでしょう?もうけが少ないから私たちは港町で護衛は終わりよ。まあ、船を降りたら王都は近いしね」
「へ~、そうなんですね。でも、王都までは安全なんですか?」
「さっきみたいに盗賊が出ないわけじゃないからな。といっても、騎士団とかも見廻るしかなり頻度は低いが」
「まあ、品物も多いし珍しいものもあるからね。ただ、馬車も多いからよっぽどの勢力でないと成功しないけど。各馬車の護衛を倒さないといけないわけだし」
「なるほど~」
ピィ
「アルナ、どうしたの?暇だって、しょうがないなぁ」
「盗賊の根城に行く時も思ったんですが、アスカさんの従魔ですか?」
「一応。その予定じゃなかったんですけどね。親が元々従魔で」
「ああ、よくそういった話は聞きます。ウルフを番で従魔にしたらいつの間にか大家族になっていたって」
「えっ!?そういうこともあるんですか?」
「まあ、群れに同じ血を入れておくわけにはいかないから、一時的みたいですけどね」
「だ、大丈夫かな?」
リンネとソニアに子どもが生まれたら癖の強そうな子たちになりそうだけど…。街の番犬として雇ってもらえないだろうか?そんなことを考えながら道を進んでいると、いつの間にか港町についていたのだった。




