中継地
「アスカ、リザードたちの相手はどうだった?」
「どっちもいい子でしたよ。ちょっとひんやりして触り心地もよかったですし」
「どうせなら従魔にすればよかったんじゃない?」
「どうだろ?きれいな水が好きって言ってたし、そこはティタがいるけど、定住系の種族じゃないかな?水辺があるっていうのが大事だと思うよ、勘だけど」
「アスカが言うならそうなんだろうね」
「それにほんとに戦いとか苦手そうだから旅は難しいかも。従魔というより自宅でペットとかならありかなぁ~?」
「アスカ、念の為に聞くけど余計なことはしてないよね?」
「なにもしてませんよ。ちょっと、ご飯をあげたくらいです」
「ほっ。それならいいんだ。あたしは馬車に戻ってるよ」
「ジャネットさんは馬車に戻っていった」
「あ?」
「なんでもないです」
危ない危ない。ジャネットさんはからかったりするとすぐ反応するからね。私のコミュニケーション能力も成長したものだ。
「さて、それではまいりましょう。明日の夕刻には町に着きますので」
「へ~、港町ですね。楽しみです!」
「ですが、翌日の朝には出航ですから市場などは見られませんがね」
「そっかぁ~、残念です」
「まあ、そんなに残念に思うことはありませんよ。カイラムの港町にしかないものはありませんから。王都の方が珍しいものもあります。まあ、見て回るのが大変ですがね」
「やっぱりそうなんですか?」
「ええ。ですが、旅の最中でしたら大丈夫ですよ。我々商人のように滞在日数が決まっていたら本当に予定を組んでおかないと無理ですがね」
そう言ってベルンさんがメモ帳を見せてくれる。そこにはびっしりと予定が書きこまれている。
「ほんとに大変なんですね」
「ここに書いてある予定も大雑把なものですよ。商品の売れ行きなどは現地でしかわかりませんからね。ただ、店を出せる時間や場所は限られていますから、そこだけは決まってますが」
「お店も持つと高いんですよね」
「高いというか必要な商品をすぐに揃えるか、在庫を持たないといけませんからその資本が足りませんよ」
「お金かぁ~」
「お嬢さんも何か売るものが?」
「まあ、預かりものとかですね。あとはギルドで売れ残ったものとか、商品数が少ないので見栄えの為に出すやつとかですね」
「その歳で苦労なさってますね。おっと、そろそろ今日の宿が見えましたね」
「ここは町ですか?」
「町といっても休憩所のようなものです。露店もほとんど飲食物ですよ。ちょっとした食料の補給や、しばらくぶりに温かい食事を求めてとかね」
「分かりますっ!温かい食事って大事ですよね」
「そ、そうですね。それでは着いたら自由行動にしましょう。私は宿で食事を済ませますので」
「露店で買わないんですか?」
「そんなに余裕がないですからね。まだ売れ行きが分からないから、帰りの時は儲けに応じて買ったりはしますが」
「帰りは買えるといいですね」
「全くです」
そんな話をしていると、すぐに町に着いた。
「では、宿のチェックインだけ済ませましょう」
護衛には最低限の宿代とかも含まれるので、指定された宿での一番安い宿泊費は依頼者持ちなのが普通だ。ただ、大部屋とかもあるので、差額は払うことになるのがほとんどだけどね。
「お泊りですね。部屋はどういたしましょう?」
「4人部屋1つで!」
「では銀貨2枚です」
「…た、高い。流石は王都との中継地」
「これでも王都よりはましですからね。明日はおそらく銀貨2枚半ぐらいかと」
「おおぅ。あれ?みんな驚かないの?」
「いや、アスカ以外は他の王都の相場を知ってるから。そこそこ泊まってるし」
そうだった。リュートもジャネットさんも王都まで護衛依頼を受けてたんだった。
「朝食はついてますから出発前にお召し上がりください」
「ありがとうございます」
とりあえず荷物を置いて露店に行く。
「アスカは何食べるんだい?」
「う~ん。やっぱり、オーク肉の串焼きですかね?」
オーソドックスな料理で、アルバでもちょくちょく食べていた露店料理だ。ただ、難しい調理法じゃない分、当たりはずれが怖いんだけどね。
「リュートはどうするの?」
「う~ん。串もあとで食べるけど最初はこっちのスープかな?」
「わっ!具沢山だね」
「おっ!嬢ちゃんたち仲がいいねぇ。どうだい?一緒に食べないかい?」
「それじゃあ、このスープを2つ下さい。1つはちょっと少な目で」
「はいよ。ちょっと負けて大銅貨1枚と銅貨5枚だ」
「はい、これで」
「毎度!元気のいい子だねぇ」
「あはは」
「はい。リュートの分だよ」
「ありがとうアスカ」
近くにあったベンチに腰掛け、リュートと一緒にスープを食べる。
「ん~!熱くておいしい!!」
「そうだね。ちょっと冷える日も多くなってきたし、体があったまるね」
「お、ここにいたか。ほらよ」
「あひがおうございまふ」
「食べてからでいいよ、話すのは」
「んぐっ。ありがとうございます。串を買ってきてくれたんですね」
「あたしも食べたかったからね」
そういうジャネットさんは30本ほど串を持ってきた。
「多くないですか?」
串といっても焼き鳥串みたいなものじゃなくて、牛串とかみたいな肉厚で大きい切り身のものだ。
「それが30本も…」
「なんだい。これぐらい楽勝だよ。万が一残ってもリュートがいるし」
「まあそうですね」
「リュートもこういうのよく食べるの?しっかりした料理を食べる印象だけど…」
「食べるよ。というか、昔は調味料云々なんて言ってられなかったから、こういう料理の方が馴染みがあるぐらいだし。今はほとんど行かないけどね」
「そうだったんだ。でも、今行かないのはどうしてなの?」
「おいしいけど同じ味だし、料理の研究してるとね。食べられる量は限りがあるし」
「そっか。新メニュー開発も大変だね」
「そりゃあ、相手が相手だからね…」
「フィアルさんも苦労してましたね。せっかく作った新メニューもダメで」
しみじみと語る2人。料理人って大変なんだな。
「そこの団体さん。珍しいもん食べないかい?」
「珍しいものですか?」
スープと串を食べ終え再び歩いていると声を掛けられた。
「おう!最近、商人たちが持ってきた料理なんだぞ」
「へ~、どんなのですか?あっ…」
「アスカどうしたの?ああ、から揚げね」
「なんだい知ってたのか。どうだ?今人気のメニューだぜ」
「う、う~ん」
流石にここで買わないのも悪いかな?仕方なく5個入りのを買ってみる。
「リュート、お願い!」
「分かってるよ」
リュートに一つ味見をお願いする。
「どう?」
「胸肉で味付けは薄め。せめて皮があればパリッとして美味しいんだけどね…。ちょっとかけてみるよ」
そういうとポケットから特製のミックススパイスを掛ける。
「うん、これなら大丈夫。アスカでも食べられるよ」
「私でもっていうのが気にかかるけどじゃあ食べるね」
パクッとから揚げを口に含む。
「ふむ。あ~うん。チャーハンに入ってるから揚げみたいな感じかな?ネギとかキャベツと一緒の方がおいしいかも。でも、ぐっと締まった味だね。屋台でこれと飲み物が何かあれば売れるよ」
「あっ、うん。そうだね」
「どうしたのリュート?」
「嬢ちゃん。その話もうちょっと詳しく…」
「ああ~。しょ、商人ギルドとか行くといいんじゃないですかね~」
それだけ言って、すたこらさっさと逃げ出す。
「ふぅ、もうちょっと食べたかったけど仕方ない」
「でも、やっぱりまだまだ発展途上の料理だね」
「スパイスも売っちゃった方がいいかも?いろんな料理に使えますって。例でから揚げを出しとくとか」
「そうしようか。あんまり広めたくないけど、スパイスの調合を変えられると困るんだけどね」
「そんなに大変なの?」
「混ぜてる種類が多いからね。ちょっとでも配合を変えて違う商品だって言ってこないか心配で」
「それは心配だね。いっそのこと完璧な調合を出しちゃう?」
「その方がいいかもね。変に登録されるとこっちも使った時に色々言われそうだし。種類もいくつか登録しておくよ」
「登録だけで設計料は安くしておくんでしょ?」
「まあ、スパイスが高いしね。こっちが払いたくないだけだし」
「おや、2人とも早いね。あれから戻ったのかと思ったけど」
「ジャネットさんはあのまま屋台に居たんですか?」
「そりゃあ、腹減ってるままだったからね。あたしは別に料理とかしないし」
「お土産は?」
「あるよ」
「やったぁ!」
「ほらよ」
そういうとジャネットさんは私の座っていないテーブルに料理を置く。
「あれ?」
「あれ?じゃないよ。ほら、キシャルもアルナも食いな」
「そういえば、夕方に着いたから食事ないんでした…」
「元々は帰り際に買って帰る予定だったからねぇ。ほれ食え食え」
にゃ~
控えめにブレスを放ってジャネットさんが買ってきたご飯を凍らせて食べるキシャル。
「おいしい?」
にっ
「た、食べないよ。それに凍った肉なんて噛めないし」
アルナとキシャルが食べ終わると串などを片付けてゆっくりする。
「う~ん。あとは寝るだけだね。明日港町についたら船旅かぁ~、久しぶりだし楽しみだね!」
「…そうだね」
そういえばリュートって船酔いするんだっけ。2日だけとはいえ大丈夫かな?
「よ、酔い止め薬作ろうか?」
「あるの!?」
「多分…」
「お願いします!」
元気よく言うリュートに促されて私はちょこっとだけ調合作業に臨むのだった。




