町での生活
私たちは一旦、報酬を分けてもらうと解体場に向かう。ギルドは商人ギルドが横にあるので解体場は少し離れている。臭いのきつい魔物とかもいるからね。
「とうちゃ~く」
「ん?見かけん奴らだな。新人か?」
「旅の冒険者です。見てもらっていいですか?」
「ああ、何体ぐらいだ?」
「8体ですね」
「ならそこの2か所だ。順番に置いて行ってくれ」
おじさんに言われた通り、順番にマジックバッグから出していく。
「ほう、デザートリザードか。それも目立った傷が少ないな。これなら皮は銀貨5枚だな。肉の方はいいところが2割で銀貨3枚、その他が銀貨6枚だ」
「結構するんですね。でも、皮がサンドリザードより安いかも」
「まあな。皮はうちじゃなくて商人ギルドに流れるからな。ご婦人のバッグとか日用品への加工だな。サンドリザードはそのまま冒険者が使うから、ギルドから鍛冶屋とかだが、こっちは商人ギルドに卸すから手数料を考えて安めの買取なんだ。じゃないと、みんなが買えないからな」
「なら、直接売った方がいいんですか?」
「坊主の言う通り、商人ギルドに持ち込めば銀貨5枚と大銅貨5枚で高くなるが、その時はうちで解体料を払ってもらう。自分で解体出来るならってところだな。ギルド同士で揉めたくもないからお互い値段には注意してるんだ」
ボードを見ると解体料は中サイズが大銅貨7枚だ。これならそのまま冒険者ギルドで売った方が儲かる。よく考えられてるんだなぁ。
「皮って耐水性とかありますか?」
「う~ん、こいつはどっちかというと耐熱性だな。砂漠に住んでるだけあって、熱を通しにくいんだ。逆に細かい隙間みたいなのがあってな。水はある程度吸収するぞ。だから、内側にもう一枚皮を張らんといかんがな」
そっか、オアシスが砂漠では貴重で命に係わるって言われてるし、魔物の仕組みもそういう感じなんだ。
「重さはどれぐらいですか?」
「ん?ちょっと待ってろ」
そういうとおじさんは1体目のデザートリザードの皮を切り取り、ある程度の大きさに加工してくれた。
「大体、この状態からちょっと軽くなるぐらいだな思ってるよりは軽いと思うぜ」
「ちょっとぶ厚いかも。もうちょっと皮を削ったりして薄くできたりしますか?」
「出来なくはないだろうが、専用の道具が要るな」
うう~ん、アルバとレディトで使われてるサンドリザードの皮を滑らかにするやつじゃ潰しちゃうだろうし、自分でやってみるしかないか。実は私は細工以外にもちょっと挑戦しているものがある。それがリュックサックもどきだ。魔物の皮の特性を生かしたもので、細工とかが売れにくいであろう地方の村とかで売れると思っていくつかストックを用意している。
「丈夫さと耐熱はガンドンで、丈夫さとか耐久性はサンドリザードで作ってたけど、軽さとは無縁だからこれを使ってみたいんだよね。うう~ん、今度手に入れられるのがいつか分からないし、3頭分ぐらい貰おうかな?」
「アスカ、肉の量で気になってるの?」
「リュート、失礼だよ。いっつも食べ物のことじゃないよ。今は皮で悩んでたの」
「皮?グローブとかでも作るの?」
「そっちじゃなくて背負うバッグの方だよ。あっ、でも靴とかもいいかも。そっちは作ったことないから職人さんに頼まないといけないけど」
手触りもいいし、耐熱性にも優れているなら涼しいだろうし、ちょっとした冒険程度ならいいかも。今のブーツはとっても良いものだけど、中敷きとかで調節しないとちょっと大きいんだよね。私が成長した時に合わせて作ってあるから仕方ないんだけどね。
「それで結局どうするんだい?」
「僕は2頭分の普通の肉をお願いします」
「なら、買取から金貨1枚と銀貨2枚引いておくぞ」
「私は皮を3頭分といいところを1頭分お願いします」
「嬢ちゃんは金貨1枚と銀貨8枚だな。という訳で金貨8枚と銀貨2枚だ」
おじさんにお願いしてそれぞれの割合でカードに入れてもらう。内訳は3人とも金貨3枚で、残りの金貨2枚と銀貨2枚がパーティー用。私とリュートはそこから購入分を差し引きする形だ。
「ジャネットさんはよかったんですか?」
「良いも何もブルーバードの肉がまだあるだろ?そっちもあるのにデザートリザードまで食べてたんじゃ、街で何も食べられないって思ってね」
「大丈夫です。僕はほとんどを干し肉にするつもりですから」
「わ、私は…」
「折角いいところなんだから食べないと損でしょ。宿に言って昼にでも焼いてもらいなよ」
「そうだね。僕も明日はいるからそれもついでに今日の夕食時に頼んでおくよ」
「ありがとう、リュート」
「ううん、ついでだから」
「そんじゃ、宿に戻るとするか」
ピィ
置物みたいになっていたアルナも元気に飛び回る。ギルドなんかで動き回ると絡まれたりするから我慢してもらってたんだよね。
「あっ、おかえりなさい。三人とも」
「ただいまです」
「成果はどうだった?」
「う~ん、普通ですかね?これっ!っていうものはありませんし。でも、そこそこ討伐できたので金額としては良いですけど」
「へ~、若いパーティーなのにいい腕してるのね。どんな依頼を受けたの?」
「ブルーバードの討伐と西の砂漠の魔物討伐ですね」
「えっ!?あの依頼受けてくれたの。それじゃ、今日はサービスしないとね」
「普通に依頼受けただけですよ」
「ううん。あの依頼を冒険者が受けてくれないと町は大変なの。でも、言っちゃなんだけど討伐依頼報酬自体は安いからあんまり人気ないのよね。それが元で大量に魔物が町の近くまで来た時は大騒ぎだったんだから」
「そんなことがあったんですね」
「だいぶ前だけどね。王都からも応援を呼んだりしてかなり大変だったみたいよ。だから、町の治安維持にも貢献してくれるあの依頼を受けた冒険者にはサービスしてるの」
夕食時に料理長でもある宿の主人に聞いたら、実際は町中にも数体入り込んでかなり危険だったらしい。それ以来、Cランク以上で1月以上滞在する冒険者は必ず月に一度は受けなくてはいけない。でも、討伐数は制限がないのですぐに帰ってきたりする人もいて、中々思う成果は上がってないとのことだ。
「ほらよ。今日の分は代金から引いとくからな」
「ありがとうございます」
「あっ、ギャックさん。明日なんですけど、お昼ちょっと料理をお願いできませんか?」
「ん?作るのは夜だろ?」
「それが今日倒したデザートリザードの肉をアスカが食べたいんですよ。出来ませんか?」
「ちょっと時間がずれてもいいなら出来るぞ」
「ほんとですか?ありがとうございます」
「なぁに、こっちもちょっと安めにブルーバードの肉を売ってもらえるからな」
どうやらリュートは厨房を借りるのにブルーバードの肉をダシに使ったみたいだ。料理もだけど交渉事もこれから任せようかな?当日の料理はというと特に変わったものの無いものだ。この辺ではあまり出ないのでオーク肉はなく、代わりにブルーバードを使った料理が豊富だ。でも、そんなに大きい鳥ではないので肉メインというより半分以上は野菜とかだ。
「ん~、野菜もおいしいし、やっぱりいい宿だね」
「まあね」
「どうしたんですかジャネットさん。ブルーバードの肉を見て」
「いや、味は確かに悪くないんだけど、久しぶりに照り焼きを食べたいなぁって思ってね」
「あっ、それは私も思いました。美味しいですよね」
「あれだと、パンも進むし色んなものに合うからねぇ」
「じゃあ、明日は照り焼きにしますか?」
「いいの、リュート?でも、醤油そんなにある?」
「何種類か試したいから数を限定するよ。幸い、この宿のメインは何種類かあるみたいだし」
「それならお願い!私も久しぶりに食べたかったの!」
このセリフを翌日、後悔することになるとは今の私は微塵も思わないのだった。




