ポーション
「ふんふ~ん」
「アスカ、やけに今日は機嫌がいいね」
「だって、久しぶりのポーション作りですからね。材料がなかなか集まらないから貴重なんですよ」
私は薬学も調合系のスキルも持っている。だから、普段から薬品を作っているのかと思われがちだがそこには壁がある。”特異調合”このスキルのせいで、ありきたりのレシピでは薬が作れないのだ。その成功率は通常の10分の1ともそれ以下とも言われる厄介なスキルだ。その代わり、珍しいものを作る時は成功率が上がるので、高級品を作るのには向いていたりする。
「ルーン草だけだと普通のレシピになっちゃうからシェルオークの葉を混ぜないとね!」
「それで結局、何作るんだい?」
「MP回復薬(大)とMP継続回復薬を作るつもりです。失敗しないといいんですけどね~」
「材料が材料だからねぇ」
「特にシェルオークの葉は市場で見ないですからね」
「そりゃまあ、シェルオークを見つけること自体が難しいからね。で、いくつぐらい作る予定なんだい?」
「う~ん。いくつかはギルドに売ることも考えてるので、できたらそれぞれ5本ですね。失敗すると思いますけど」
「じゃあ、あたしは見とくからなんかあったら言いなよ」
「見ておくって相当暇ですよ?」
「誰かさんが無茶するもんでね。最近は本を読むのもちょっと楽しくなってきたからそれで時間をつぶすよ」
「ちなみに何の本を読んでるんですか?」
「今はね…咄嗟に使える言葉だね」
「変わった本ですね」
「そうでもないよ。ほら、急に魔物や盗賊が出た時に普段通りの言葉をかけてたら間に合わないだろ?そういう時にいかに無駄なく指示を伝えられるかっていうのとかも載ってるのさ」
「あっ、それは使えそうですね」
「他にも騎士の剣と我流が陥る罠とか読んでるね」
「なんだか難しそうな本ですね」
「まあ、確かに難しいところはあるね。本人が体を動かしてやってることを文章にしてるんだから。結構、読み解くのが難しいのさ」
「そういう時ってどうしてるんですか?」
「ん~、実際に体を動かして試すことが多いね。やっぱり、最終的には動かす訳だし、文章だけだと意味がないからね」
「じゃあ、私はポーション作ってますからジャネットさんも頑張ってくださいね」
「おう!」
私も作業に向けて道具を取り出す。
「ご主人様、こちらを」
「ありがとう、ティタ。こっちはルーン草に使うすり鉢でシェルオークの葉に使うのはこれだね。あとは…」
「こちら準備完了です」
「わっ、助かるよ!いつも見てたからわかるんだね」
「これまではずっとぼーっとしていた分、頑張ります!」
ティタは言葉が堪能になっただけではなく、これまでは私に危険や疲労がたまる以外では特に行動を起こさなかった。しかし、進化した関係か今では積極的に私のことを思って動いてくれる。
「じゃあ、さっそく始めていくね!まずは、乾燥させてあるシェルオークの葉に水を…」
「あっ、ご主人様。それなら私が水を出します。きっとこの方がいいものになりますよ」
「そう?じゃあ、お願い。私はその間にルーン草を処理しちゃうから」
私は一部の作業をティタに任せ、自分はルーン草の方に取り掛かる。こっちは薬学が必要になるから、流石のティタでもできないだろうしね。
これをすりつぶして魔力を混ぜて…あとはと、ちょっとだけ別の材料も混ぜてと。私は他にも万能薬に使われる材料を混ぜて調合を進める。
「ティタ、そっちは終わりそう?」
「もう少しです」
「分かった。私は次の道具を用意しておくから」
順調に作業は進んでいく。
「入れますね」
「お願い。さて、あとはここで魔力を注入してと…どうかな?」
ふりふりと1つ目の分量を瓶に入れて確かめる。
「うん!これはいい感じだ。どんどん行こう!」
私は2本目、3本目とMP継続回復薬を作成していく。そして、目標の5本目…。
「ん?ちょっと、色味が薄い…」
「ご主人様。少しいいですか?」
「うん?」
ティタが私の手に触れる。
「う~ん、どうやらMPを大量に消耗して、薬が出来上がるぐらいにならなかったみたいですね。ただ、全く効果がないわけではなく、一定の成果はあるみたいです」
「そっか~、残念だな。せっかく順調に進んでたのに。でも、しょうがないな。残りのMP回復薬(大)は午後から作ろうかな?」
「アスカ、ちょい待ち。午後からってまさかポーション飲んでまで作る気かい?」
「しまった、ジャネットさんがいたんだった…」
「全く。人が静かに本を読んでいたら恐ろしいことを言うもんだね。午後は買い物に行くよ」
「買い物?でも、特に不足しているものはありませんよ?」
「足りないとかじゃなくて、気分転換だよ。ここの本屋にはまだ行ってないだろう?」
「そういえば、ほとんど外に出てないからまだですね」
「あたしも、補充をしておきたいからこの後行くよ」
「分かりました。じゃあ、瓶詰を完了させちゃいますね」
私はわかりやすいように、4本の瓶を青く染めたキャップで、出来の悪い1本は赤く染めたキャップを使って封をする。こうしておけば、残りが1本ずつになっても分かりやすいからね。そんなに使う機会もないだろうけど。ダンジョンとか長期間戦場に滞在するパーティーでもないと使う機会はないもんね。
「そういえば、この瓶って軽くだけど装飾されてるんだねぇ」
「はい。別にいいって言ったんですけど、ムルムルとかからこうした方がいいって言われて…」
「まあ、希少性を考えたらその方がいいね。飾るだけでも価値になるし」
「ポーションですよ。そんなことありませんって。それなら、花瓶にして花を生けた方がいいですよ」
「まあ、希少性が見てわかるのも大事だよ?今後もこうしておきな」
「ジャネットさんまでそういうなら、一応続けますね」
とはいえ、この瓶も別に私が作っているわけではないのでどこかで補充しないといけないんだけどね。ガラス細工とかできないし。水晶をくりぬくのだったらできるけど、なんかそういう容器は副作用とか出そうだし。
「アスカ、いる?」
「リュート?いるよ~」
「そろそろお昼だけど、今大丈夫なの?」
「大丈夫。それじゃあ、みんなを連れて行くね~」
返事を返して部屋をぐるりと見まわす。
「あれ?キシャルとアルナがいない…」
「キシャルは広場に、アルナは風呂屋の小鳥小屋だよ」
「ああ、そうなんですか。でも、キシャルが出かけるなんて珍しいですね」
「あの辺、涼しいから気に入ったんだろ?ただ、ちょっと見に行ったらガキに囲まれてたけどね」
「キシャル大丈夫そうでした?」
「ちょろちょろ逃げてたけど、子どもはああいう動き好きだからねぇ。逃げられるのを遊んでもらってると思ってるんだろ」
「なるほど。キシャルは大変そうですけどね」
「あれだけ身軽なんだから何とでもなるよ。それより飯に行くよ」
「はいっ!」
朝からゴリゴリやって、MPも使ったので疲労を和らげるため私は食堂に向かった。
「今日は何かな~」
「はい、お待たせ。今日は珍しく魚がいっぱい入ったらしくて、魚だよ」
「へ~、そういう日もあるんだ」
運ばれてきた料理は30cmぐらいある白身魚のムニエルだった。それにスープとパンがついていて、まるでイタリアの気分だ。
「海はないけどね…」
「は?」
「こっちの話です。ジャネットさんも魚ですよね?」
「いや、あたしは肉でいいって言ってあるから」
「魚もおいしいのに…」
「あたしはそういう気分の日だけでいいよ」
「こういう風に身を取った時にふわ~って湯気が立ち上るのとか風情があるのになぁ」
そう言いつつ、ナイフを使って切り込みを入れて身を上に持ち上げる。
「あんた、食事を紹介するような仕事でもしてたのかい?」
「してませんよ!おかしいこと言いますね」
「いや、食には熱心だしひょっとしてね」
「ありません。冷めないうちに食べましょう」
「だね」
というものの、結局はジャネットさんが早くに食べ終え、10分ほど待ってもらうことになった。う~ん、どうしてこうも差が出るのだろうか?別に味わって食べてるわけでもないんだけどなぁ。
「ほら、着替え終わったかい?」
「はい!じゃあ、行きましょう!ティタ、お留守番お願いね」
「了解しました」
ティタに留守番を頼み、ジャネットさんは鎧を外して軽装に、私はワンピースに軽く上着を羽織って町に出る。
「うっ、思ったより寒いかも」
「いつも部屋にいるからわからないんだよ」
「今度からもう少し出るようにします。とりあえず、魔法を使ってと」
私は火と風の魔法で周囲の気温を操作して、寒さをしのぐ。
「全くこの子は。またそんなことして」
「しょうがないじゃないですか。風邪引くよりいいですよ」
「ま、体調管理に気を付けないよりはいいか。ほら、こっちに来な」
「ジャネットさんも軽装ですもんね」
「言ってな」
こうして、私たちは街に繰り出したのだった。
 




