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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
17章 鉱石の町ハティルとグラントリル

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ビリーと訓練

「それじゃあ、完成したので付けていきますね」


落成式なんてものでもないので、そのまま完成した小屋を建物の壁面に固定していく。固定方法は屋根から飛び出しているところの部分に穴をあけ、金具を取り付けそこからつるすのだ。さらに壁面には両側にフックを接着してそれを小屋にはめ込んで固定する。ちょっとぐらぐらするかもしれないけど、取り外しも簡単で掃除や交換が楽になるのでこの形を採用した。


「ん~、ダナ。さっきからゴトゴトいってるけど、何してるの?」


「店長!いえ、小屋の設置を…」


「小屋?業者を決めてるとこじゃないの?」


「そ、それが…そう!ちょうど、在庫があるところを見つけて設置してもらったんですよ」


「ふ~ん。よくそんな在庫があったわね」


「発注キャンセル分らしいですよ」


「ああ、そりゃあ残るわよね。需要なんて少ないだろうし」


「は、はい。なので当初の予定通り、金貨3枚ぐらいで収まりそうです」


「そ、それはよかったわ。それで、小鳥たちは…」


ピッ


店長さんとお姉さんが話している間、暇を持て余していたバーナン鳥の1羽が店長に向かって飛んでいく。


「あ、あら、私のところに来てくれたの?」


ピッ!


あのバーナン鳥の子は小さいからか好奇心が旺盛のようだ。店長さんの顔の周りをぴょこぴょこ飛び回っている。


「あっ、店長さんですね。こちらに3箱用意してます。人はここから開けられますけど、寝てる子たちもいるので、返事を聞いてから開けるようにしてくださいね」


「はい!このような機会をもらってありがとう!ところであなたは?」


「アスカと言います。一応この子達を紹介したことになるんでしょうか?」


「なんで疑問形なんだよ。そうだろ」


「本当にありがとうございます。バーナン鳥には小さいころからあこがれていたんですけど、どうしても触らせてもらえなくて…」


「この子たちも町で暮らすぐらい弱いですからね。魔力もそこまで高くないですし」


「ですよね。今、家に住んでいるバーナン鳥も元々は保護された子がほとんどなんですよ。たまにエサが足りなくて親が外に出てそのまま…という子がいるんですよ」


「そうなんですね」


「それがこんなに沢山のバーナン鳥に囲まれるなんて夢のようです!」


「店長さんって父親を亡くされてから、宿をお風呂に改装して頑張ってきたんです。私も力になれてうれしいです」


「お風呂の件も考えてもらって済みません。そうそう、お代ですよね。すぐに持ってきますから」


そういう店長さんの肩にはさっきのバーナン鳥がしがみついている。どうやら、もう気に入られたようだ。この先の不安も消えて安心だ。


「はい。えっと、小屋の代金が金貨3枚で魔石は…」


「こっちが金貨5枚。こっちは4枚です。ちょっと小さいので」


「じゃあ、全部で金貨12枚ね!すみません、お安くしていただいてるんでしょう?」


「あっ、いえ、そんなには…」


後ろをそーっと振り返りつつ返事をする。あんまりいい加減なことを言うとあとで怒られるからね。


「まあ、相場よりは安いけど、損は出てないよ。その代わり、こいつらだって生きてるんだから、ちゃんと面倒見てくれればいいさ、そのための値引きってことで」


「分かりました。この子たちが悲しまないように経営も頑張ります!」


「その意気だよ」


そして、無事に残った木材の引き渡しも終わり、何度も頭を下げてくれる店長さんたちに見送られながら、私たちは宿に戻ったのだった。


「ふふっ、あんなに感謝されたら今度からお風呂に行きにくいですね」


「の割には顔がにやけてるよ」


「ジャネットさんもですよ」


「うるさいよ、リュート」


「そうだよ」


「2人ともそういうところは似てるんだから」


一度、宿に戻ってくると簡単な食事を取る。この後は予定していたビリー君への指導だ。


「はぁ、気が進まないけど行くか…」


「頑張ってくださいね」


「アスカも来るんだよ!」


「え~、この前採ったルーン草でポーション作りたいんですけど」


「ダ~メ!」


首根っこをつかまれて私は連れて行かれる。


にゃ~


「あっ、キシャル。逃げようたってそうはいかないよ。私も行かないといけないんだから!」


逃げようとするキシャルを風魔法で捕まえて、腕に抱く。


「なにしてるのみんな…」


リュートの冷たい視線を受けながらジェシーさんの家に向かう。


「こんにちわ~」


「あら、いらっしゃ…何やってるのあなたたち?」


「逃げないようにね」


「です」


「はぁ?まあいいわ、案内するからついて来て」


「は~い」


あきれ顔のジェシーさんについていく。


「あれ?そういえばバルドーさんは?」


「ジャネットさんが行くならいらないだろうって。まあ、店番も必要だしちょうどいいわ」


街を歩いて小道を抜けると、少し大きい邸が見えた。


「ここよ」


「へぇ~、思ったより立派だねぇ」


「元々騎士の邸だもの。今はシウスが頑張って維持してるのよ」


「結構かかりそうですね」


「まあ、執事とメイドが一人ずついるしね。でも、あいつの腕があれば可能よ。休日に1回冒険者として出かければ簡単に稼いでくるもの」


幼馴染ということもあってかジェシーさんもシウスさんのことは信頼しているようだ。門の前で話しているとシェイニさんがこちらに気づいて出迎えてくれた。


「いらっしゃい。来てくれたのね」


「ビリーってガキは?」


「奥でもう待ってるの。ごめんなさいね、ジェシーが無理を言って」


「まあ、暇だったしいいよ」


嘘つき。ガキの面倒は嫌だってさんざん言ってたのに…。まあ、ジャネットさんも気になるんだろうけどね。


「あっ、お姉さん!来てくれたんですね」


「ん、ああ」


「この前、パ…おじさんとの戦いを見てずっと気になってたんです!今日はよろしくお願いします」


「いいけど、シウスさんに習った方がいいと思うけどねぇ、あたしは」


「ど、どうしてですか?」


「いや、あたしは独学だし、そこはバルドーさんも一緒だよ。対して、シウスさんってどっかの兵士か騎士の経験あるだろ?」


「えっと、確かどこかの騎士団に1年ぐらい入っていたような…。遠征が多いとか言って戻ってきたけど」


「そう、それ!騎士の基本ってのは重要だよ」


「で、でも、僕もいずれは…」


「そういうのって癖がつく前の方がいいよ。癖がついたら直すの大変だしねぇ」


「ま、まあ、一度やってみましょうよ。何かヒントが得られるかもしれませんし」


「アスカの言う通り、せっかく来たんだしやるか」


というわけで軽い実戦形式でやってみることになった。もちろん、双方木刀だ。ジャネットさんはいつも使っているぐらいので、ビリー君は子ども用に少し短い。


「えいっ!やぁ!」


「ほっ、よっと」


まあ、当然だけどジャネットさんに当たるはずもなくビリー君の攻撃は空を切る。


「次はこっちから行くよ。はっ!」


ジャネットさんが一閃するとたちまちビリー君は防戦一方だ。まだ8歳だから、仕方ないけどね。その後も攻撃と防御を入れ替えて数分戦って休憩になった。


「あ、あの、どうでしたか?僕、バルドーさん以外と練習したことなくて…」


「う~ん。はっきり言っていいかい?」


「お願いします!」


「あんた、騎士へのあこがれが強すぎるね。もっと戦い方を重視した方がいい」


「えっと…どういうことですか?」


「構えは悪くないけど、剣を振る時に見栄えが出てきてる。そういうのは実戦じゃ何の役にも立たないからすぐに変えた方がいいね」


「普通に振ってるつもりですけど…」


「ふむ。例えば上段から振り下ろす時、こうやって振るだろ?でも、これじゃ次の攻撃につながらないよな。そういう無駄が多いんだよ、お前さんは。騎士だからカッコよく攻撃!なんてのは無駄って言うんだよ。かっこいいのが騎士かい?違うだろ。みんなを守るのが騎士だ。手段と目的が入れ替わらないようにね」


「は、はい…」


しょんぼりと落ち込むビリー君。ジャネットさんの言ってることはもっともだけど、あの頃の子どもってヒーローにあこがれるから多少はしょうがないんじゃないかな。


「アスカ、変なフォローはこの子の為にならないよ」


「はい」


うっ、見透かされてた。


「そうだ!アスカとやってみな。さっきのことがよくわかるから」


「私とですか?」


「ああ」


「このお姉さんと?でも、魔法使いだと近づけないよ…」


「まあ、一度やってみな。アスカ、当てるんじゃないよ?」


「あ、当てませんよ」


「よ、よろしくお願いします」


「こちらこそ」


「ビリー大丈夫かしら?」


「シェイニ、心配いらないわ。アスカちゃんだって立派な冒険者だもの!」


「あ、うん。そうだといいんだけどね」


「まずは切り込んできて!大丈夫、お姉さん強いから!」


「アスカ…」


「はいっ!」


ビリー君が木刀片手に斬りこんでくる。う~ん。でも、途中から両手持ちになるとはいえ、最初の構えで軌道が読めちゃうな。


アスカは後衛職と言えど、数多くの魔物や時には盗賊とも渡り合ってきた。一時期はジャネットを接近戦で倒したこともあるぐらいなのだ。子どもの、しかも木刀の重さを考慮すると片足の重心移動でも避けられた。ある意味、体全体を使ってゆるやかに避けていたジャネットとは正反対である。


「あ~あ、やっぱりこうなったか」


「ジャネットさん、アスカちゃんってあんなに強いんですか?」


「そりゃあ、魔法だけ使えたって足手まといだろ?あんぐらいはやるさ。なぁ、リュート?」


「そうですね。でも、普通の魔法使いはいくら8歳相手でもあそこまでできないと思いますけど」


「突きに対しても半身を傾けたりして、下がる様子もないわね」


「構えを変える時の動きが大きいからねぇ。次にどう動くか先にわかってるんだよ」


「じゃあ、次は私ね。ファイア!」


「わっ、待って!」


「これは実戦形式の訓練だから待ちません」


とはいうものの、流石に魔法には慣れていないようだから、そのまま放つのではなく手に持つようにして投げつける。


「うわっ!わっ!」


さすが、騎士の息子だけあってか運動神経はいいみたい。しばらく投げてみたけど、もうちょっと早くしてもいいかな?


「アスカの悪い癖が出たね」


「アスカちゃんっていつもあんな感じなの?」


「ん~、なんというか相手への期待値が高いというか、自己評価が低いというか…」


「自分ができることは大体みんなできると思ってる節があるからねぇ。おっと、止めるか。はっ!」


もう1球投げようとしたら、その前の火球をジャネットさんに斬られる。


「もう、いいところだったのに…」


「なにがだい。魔法初心者相手にもう少し優しくだね…」


「はっ!そうでした」


「なにがそうでしただい。見てみなよ」


「お、お姉ちゃん怖い…」


うっ、ビリー君が私を見る目が痛い。どうしてこうなってしまったのか。


 

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