バーナン鳥のお風呂屋さん
グラントリルに住むバーナン鳥たちの待遇改善と、お風呂のお姉さんの待遇改善を兼ねて、現在お風呂屋の店長さんとお姉さんが交渉中だ。
「どうなったかな?」
「アスカちゃ~ん!OKもらったよ」
「ほんとですか?よかったね」
ピッ
「ついでに住むところも建てるって!店長、前から小鳥飼ってみたかったらしいです」
「それはよかったです。そうそう、言い忘れてたんですけど、週に1度か2度はこのご飯を上げてくださいね」
そう言いながら私は薬草の入った特別なご飯のレシピを渡す。
「これは…薬草を使ったご飯ですか?」
「そうです。こういうのがみんな好きみたいなので。それに健康にもいいんですよ。私の故郷の子たちも病気知らずなんですよ」
「そうなのね。店長に言っておくわ。小鳥といっても魔物だし、病気といっても中々お医者様も見てくれないの」
「じゃあ、なおさらですね」
「でもいいの?これって重要なレシピじゃ…」
「う~ん。でも、この子たちのためですし。公開しないならいいですよ」
「そう…その辺も店長にしっかり言っておくから!」
「お願いします。それじゃあ、みんな。当番を決めてね。ディプスバーナン鳥の子はこっちの小さいお風呂。バーナン鳥の子たちはこっちの大きいお風呂に水を入れて、魔道具を発動させてね」
ピッ!
了解しましたと言わんばかりに片羽を開くバーナン鳥たち。うんうん、これで一安心だ。
「それで魔石の値段なんだけど…」
「あっ、どうしますか?2つなら金貨10枚になっちゃいますけど…」
「それは構わないんだけど、小屋も作らないといけないから少し待って欲しくて」
「小屋ですか?」
「そうなの。木材もいるし、そういうの作れる人も限られるから中々ね」
「それならいい人を知ってるんですけど、予算はいくらぐらいですか?」
「予算?そうねぇ、金貨3枚ぐらいかな?」
「金貨3枚ですね!」
私は頭の中で計算をする。木は切ってマジックバッグに入れればただみたいなものだし、加工は直ぐ。組み立てはリュートにも手伝ってもらうとして、乾燥を考えたら普通なら2日必要かな?
「材料が銀貨5枚。組み立て・乾燥にかかる時間と技術で金貨1枚。設置にかかる費用と予備で金貨1枚。残りが利益っと。まあ、大丈夫かな?」
どんぶり勘定だけどこれぐらいならジャネットさんも許してくれるだろう。
「えっと、アスカちゃん?」
「心当たりの人を当たってきますね!きっといい返事がもらえますから」
「あっ…行っちゃった。本当にそんな知り合い居るのかしら?町に来て間もないはずだけど…」
まあ、本当に連れてきてくれるなら助かると思い、仕事に戻る。
「そういえば、これそのまま使っていいの?」
その数分後、息を切らしたアスカちゃんが簡易風呂を取りに来るのだった。
「はぁ、はぁ。ぜ~ぜ~。ス、スミマセン、それは大事なものなんです」
「ええ、そうよね」
そう言って去っていくアスカちゃん。しかし…。
「こっちの魔石は置いていってもいいの?」
相変わらず、よくわからない子だ。
「アスカ、戻りました…」
「うん。わかってるけど、なんでそんなに息切れてるんだい?」
「ちょっとありまして。それより、お仕事もらってきました!」
「仕事?細工の?」
「いいえ、日曜大工です」
「…なんでまたそんな話に」
私はさっきお姉さんとした話をジャネットさんにもする。
「えっと、木材は外からとってくるのかい?」
「そうですね。そしたら材料費もただですし、予算も抑えられますよ」
「まあ、それはいいとして組み立てはどうするんだい?」
「そこは木材加工は私がやるんでリュートに頼むつもりです」
「リュートに?あいつが設計なんてしてるところ見たことないけどねぇ」
「あれ?そうでしたっけ。でも、レンガの家を作ったわけですし、大丈夫ですって!」
「鳥小屋は門外だと思うんだけどね。まあ、困ったら自分でやらせりゃいいか」
「どうかしました?そろそろご飯ですよ」
「な~んにも!」
階段を下りて食事を取りに向かう。今、グラントリルではリュートからの情報をもとに、色んなお店がから揚げやカレーなどのメニューにチャレンジ中だ。そのため、私としてはうれしいんだけど…。
「味がね…。今一つなんだよね」
別に私が贅沢な舌をしているということでもなく、グラントリルの人と味覚が違うわけでもない。単純に配合が良くないからおいしくないのだ。
「はぅ。リュート」
「なに、アスカ?」
今日の調理を終えて席に来たリュートを呼ぶ。
「から揚げだけでも配合を出したら駄目?正直これちょっと…」
醤油が流通していないのもあるのかもしれないけど、味が薄かったり逆に濃かったりと安定感にかけるのだ。
「どうしようか?確かにこれが広まったらまずいよね」
これはこの町だけの問題ではない。一時、設計料が支払われることで他国にうわさが広まっても、すぐに収まると何か問題のある料理だと思われてしまう。そうしたら、今後はから揚げやカレーは広まらずに地方料理になってしまう。
「せめてこの汎用性のある料理だけでも全国規模になって欲しい…」
「アスカ、そんなに食べ物にこだわるなんて苦労したんだね」
「ち、違うよ!おいしいものがあるんだから、食べたいってだけだよ」
「まあ、確かにアスカの言う通りかもね。あんたが作らないとこの味だろ?」
今日は冒険に出ていたこともあって、リュートが手伝っていたのは最後の揚げる工程ぐらいだった。揚げた状態は良かったけど、その見た目に反して味はいまいちだ。揚げの状態がいいということはこのから揚げはこれ以上おいしくならないということだ。あと改善できるものはというと、もう肉に付ける粉の改善ぐらいだ。
「分かったよ。から揚げとカレーだね。カレーは多分そこまで悪くないはずだから、から揚げだけにしておくよ。多様性も出なくなると困るでしょ?」
「そうだね。そっちはそこまで悪くないし」
「そうそう、あのカレー麺ってやつ登録しといたよ」
「カレーに麺を入れただけなのに?」
「その麺自体そこまで食べられてないからね。新しい食べ方ってことで認められたんだよ」
「そっか。でも、そうしたら新しい麺料理もできるかもしれないね」
「楽しみだね」
「うん!」
そして食事を終えると今日はお休みだ。
「その前にお風呂行かなきゃ!」
パパっとお風呂に行って眠る。お姉さんの様子を見たけど嬉しそうにしていてよかった。
「みんなおやすみ」
「お休みアスカ」
「お休み」
「ご主人様、お休みなさいませ。あとはお任せください」
そして翌日。
「アスカ、今日は外に行くの?」
「そうだよ。リュートも午後からお願いね」
「別に今日のメニューは普通だからいいけど…」
「ほんと!それなら一緒に行こうよ」
というわけでみんな揃って木材を手に入れるために外に出る。
「この前通ったこの辺にいい木があるんだよね~」
1度だけ魔物が出たものの、この前の見回りが効いているのか森の奥に入っても魔物には出遭わなかった。
「これとかどう?」
「いい木だね。でも、立派過ぎない?」
「あ~、確かにちょっと大きめとはいえ、鳥小屋だもんね。じゃあ、こっちにする?」
「それが良いかも」
私たちは太さ30cmほどの木を数本確保し、ササッと枝などを落として加工する。
「そうそう、表面もちゃんと焼かないとね」
「風は僕の方で調整するよ」
「は~い」
板を焼き終わったら長い板を小分けにしていく。
「小屋はいくつかに分けた方がいいよね?」
ピィ!
アルナにも小屋のサイズなどを確認して木材をマジックバッグに入れたら帰還だ。
「さて、それじゃあ、お仕事だね」
「アスカちゃん!お話はどうだったの?」
「あっ、お姉さん。許可もらいました!」
「許可?よくわからないけど、いつぐらいからかしら?」
「今からできます。設置場所はどこになりますか?」
「店長曰く、ここがいいって。雨風もそこまで来ないし、この部分は増設したところだから建物も新しいし、上に引っ掛けるようにして軽く固定すれば、交換とかもしやすいだろうって」
「なるほど。リュートの見立てはどう?」
「僕もいいと思うよ」
「それじゃあ、みんなにも聞いてみよう。アルナ~」
ピィ
アルナを飛ばして、ここに住むであろうバーナン鳥たちを呼んできてもらう。
「分かっちゃいたけど、この光景…」
「かわいい子たちですよね?」
「まあ、それは否定しないけどさ」
「さ、みんなはどれぐらいの人数で住みたい?」
ピッ
ピピッ
ピッ
やはり、これだけ数が集まると意見は割れるようだけど、最終的には3箱ぐらいにまとまった。それと、いくつかの家族はここではなくて住み慣れた家の軒先や、付き合いのある家に引き続き住むということだ。
「うんうん。これまでお世話になってきたんだし、無理はしなくていいからね。ご飯も食べていいからね、多分…」
「も、もちろんですよ!店長もいてくれるだけでも喜んでましたし」
「よかったね。でも、住んでる家の人に心配かけないようにね」
ピッ
うんうん。これだけ人になついてるなら長年住んでる人との関係も大事だしね。
「それじゃあ、数も決まったことだし、早速やっちゃうね!」
「やろうか」
「えっ!?何をする気なの?」
「離れてみてな。多分訳分からないだろうけど」
「はい」
「それじゃあ、まずはこの長い木を三等分して、同じのを一杯作ってと。リュート、釘は危ないから寄木と接着剤にするよ」
「分かった。部屋の作りは?」
「寝室が上でその下は遊び場。横に止まり木かな?」
「分かった」
カンカンと金づちを叩きながら組み立てていく。
「おかしい、夢でも見てるのかしら?どんどん、小屋ができていく光景が見えるわ…」
「ああ、まあ、そういうことにしておくといいよ」
「そっち、接着剤塗れた?」
「うん、乾燥待ち。そっちの方は?」
「こっちは棒の加工かな?面取りが残ってる」
「じゃあ、僕がやるよ。アスカは乾燥させておいて」
「分かった」
「あの…皆さん冒険者の方ですよね?」
「言いたかないがそうだよ。本当に言いたかないがね…」
「苦労されてるんですね」
「分かってくれるかい?」
「はい」
「2人とも~!できました~」
「もうですか、早いですね」
「これ、絶対本職には内緒にしてくれよ」
「分かってます。でも、信じてくれるかどうかわかりませんけどね」
「そりゃそうだ」
これの最初のタイトルは”ポーション”でした。でした…。




