手に入れたもの
「さて、報告だね」
「お疲れ様で~す」
ギルドに入ると受付の人が迎えてくれる。そこまで混んでいないようですぐに順番が回ってきた。
「はい。ご依頼はなんですか?」
「騎士団からの依頼の見回りです」
「えっと、あれは何か所もあるから、わからないところがあるのかしら?」
「いえ、全部回っちゃったので報告です」
「依頼は確かに数日前に受けてらっしゃいますが、実働は今日だと聞いてますが?」
「そうですけど?」
何か変なこと言ったのかな?
「では、依頼完了に必要な魔物の討伐に関する資料をお願いします」
「これです」
「…確かにこれは依頼の通りですね。数の報告もきちんとしているようですし、ちょっと調べてきますね」
そういうと受付のお姉さんは奥に引っ込んでしまった。どうやら奥には上役の人がいるみたいで報告をしているみたいだ。
「ああ、それなら問題ないわ。ただ、思ったより早く終わってるから次の依頼は少し遅めに出しておいて」
「分かりました。あっ、お待たせしました。処理しちゃいますのでカードをお願いします」
「どうぞ」
「うん?もう見廻り依頼が終わったってのか?嬢ちゃん、嘘はいけないなぁ」
「なんですかこの人?」
「ガスパーさん、揉め事を今度起こしたらってマスターから言われたの忘れたんですか?」
「だが、いくら何でもゴーレム相手にこんなにすぐ…」
「あら、ガスパーじゃないの?今度こそランク下げられるわよ」
「ライザ、お前からも言ってやれよ。こんなお嬢ちゃんがゴーレムを倒して依頼を終わらせたって嘘だって」
「お嬢さん?あら、あなたはさっきの…」
「こんにちわ。ここで休憩ですか?」
「ええ。どの道、明日にならないとMPは回復しないし、こうしてみんなで食事を取ってたのよ。ガスパー、この子の実力なら見回りぐらいすぐよ。そうやってすぐに絡んでると、本当に締め出されるわよ」
「なんだよ!そんなわけないだろう」
「おい、ガキに絡んでベテランか?いい加減にしておけよ」
「ギルマス…」
「お前たちは外に出てたから知らんのだろうが、この子たちは件のミスリルゴーレムを倒したパーティーだぞ。街の救世主にえらい口の利きようだな。お前に倒せる相手でもないのに」
「ミスリルゴーレムを…」
「分かったらさっさと下がれ。邪魔だろう」
「あ、ああ」
「ギルド員が済まなかったな。続けてくれ」
「あっ、いえ」
そのまま依頼の報告を終える。
「そうだ!忘れるところでした。こっちの依頼もお願いします」
「これは採取の依頼ですか?」
「はい。ルーン草とリラ草の分です」
「では、鑑定していきますね。どれ…」
う~んと受付の人が鑑定をしていく。
「これは…ジェシーさん!」
「あら、どうかしたの?」
「ちょっと見てもらえますか。間違いだと思うんですけど…」
「何かあったの?」
「それが、ランクが高いものしかなくて…」
「いいことじゃない。ん?アスカちゃん」
「どうも。今日はお仕事ですか?」
「ええ。週に少しだけね。鑑定持ちだからたまに見ておかないと鈍るし、他の子の負担もあるから。それで、これを見ればいいの?」
「はい」
どれとジェシーさんがルーン草を見ていく。
「ふむ…ちょっと話しましょうか」
なぜかジェシーさんに奥へ行くように言われたのでついていく。
「あの…どうかしたんですか?」
「どうやってこんなにAランクばかり採ったの?」
「ちょっとコツがあるんですよ。あとはランクが低いのは採らないようにしてます」
「そういうのがあるのね。このギルドでもこんなに高ランクのものばかり持ってくる子は初めてだわ。念のために聞いておくけど、これは買取でいいのね?こちらとしては常に不足しているから助かるけど…」
「もちろんです!役立ててくださいね。それじゃあ…」
「あっ、ちょっと待ってくれる?」
「はい」
「えっとね。あの、ジャネットさんって暇かしら?」
「予定は空けられると思いますけどどうかしました?」
「シェイニというかビリー君がバルドー以外の剣士を見てみたいって言ってるらしくて…」
「たぶん大丈夫だと思うんですけど、シウスさんじゃダメなんですかね?」
「ん〜、意地の張り合いみたいなものね。あとは、まだまだシウスの剣はあの子には無理だもの。シウスはがっちりしてるから」
「そういえばそうでしたね」
ジャネットさんと戦っている時もかなりの力だったし、子どもじゃ無理か。
「とりあえず、聞いてみますね」
買取を済ませて一路ジャネットさんたちのところへ。
「終わったかい?変なのに絡まれてたみたいだけど」
「はい。それでジェシーさんからお願いがあって」
「別にアスカがいいなら受ければいいだろ?」
「それが私じゃなくてジャネットさんになんです」
「あたしに?なんでまた…」
「ほら、ビリー君っていたじゃないですか」
「ああ、あの子ね」
「その子がジャネットさんの剣を見たいって言ってるみたいで」
「別にあの二人がいれば十分だと思うけどねぇ。まあ、暇だろうし付き合うか」
「ほんとですか!じゃあ、あとはジェシーさんに連絡を…」
「なに言ってんだい。アスカが話を持ってきたんだからあんたがやりなよ」
「えっ、その間に細工とかしようと思ってたんですけど」
「ダ~メ。そこは責任取って一緒に行くんだよ」
「分かりました。それじゃあ、返事してきますね」
「リュートも来なよ」
「僕もですか?」
「当たり前だろ。将来、騎士を目指すってってことは槍も必要だってことだ。お前さん以外には使えないんだから」
「でも、僕だって馬上の槍は使えませんよ」
「馬上だろうが基礎があれば違うだろ。つべこべ言ってないで予定空けとくんだよ」
「はい」
「ジャネットさん、約束してきましたよ!」
「おう!とりあえず今日はもう用はないし帰るか」
「ですね」
まだ、夕方になっていないのでちょっと買い物しつつ宿に戻る。
「それじゃあ、私はちょっと休みますね」
「ああ、あたしは剣の手入れでもしてるよ」
休むといっても何もしないわけではない。ティタの変身の練習があるのだ。今日はもうMPを使うこともないので…。
「あ~~~!」
「どうしたんだい?」
「いっけない!忘れてました。ちょっと出かけてきます」
「遅くならないようにね~」
「は~い!アルナ、行こう」
ピィ?
なんでというアルナを連れて宿を出る。
「あっ、アスカちゃん!お風呂入りに来てくれたの?まだ、やってないけど」
「お風呂は後で。それより、遅くなってごめんなさい。この前言ってたこと忘れてて」
「この前ってお風呂に水をためること?」
「はい!アルナ、お友達を呼んできて」
ピィ
いいけどと、バーナン鳥の巣に向かうアルナ。しばらくすると10羽ほどの群れを連れて帰ってきた。
「これで全部なの?」
ピィピィ
今いるのは全部だと教えてくれる。
「えっと、この子たちがどうかしました?」
「はい。この子たちって水魔法が得意なんです。だから、ご飯を毎日あげる代わりにお水とかを出してもらうのはどうかって。ご飯って言っても町の人があげてるようなのとか、野菜の端でも大丈夫ですし、お客さんに何かするわけでもないから、もしかしたら観光にもなるかも」
「なるほどね。確かにこれなら水はいらないけど…」
「あとはこの温度変化できる魔石です。20℃ぐらいしか変化しないですけど、ぬるま湯ぐらいにはできるのでこの子たちに手伝ってもらえば、薪代も節約できると思うんです」
私が考えたお風呂屋さんのお水事情改善アイディアはこうだ。まずはバーナン鳥たちに水汲みを代わってもらう。もちろんそれだけだと、ご飯代とあまり変わらないだろうから+オークメイジの魔石で薪代を節約する。これは一見、今でもできるように見えるけど魔力を注ぎ込む関係上、バーナン鳥にやってもらうのが一番なのだ。
「なるほど…。確かにそれなら結構節約できるかも。でも、魔石は流石に」
「それなら私が持ってるから大丈夫ですよ!」
「本当にこの子たちがやってくれるんですか?」
「もちろんですよ。ねっ!」
ピッ
水を入れる前だったので試しにみんなに入れてもらう。
ピッ
ピィピッ
「あっ、待って!ああ~、入れ過ぎだよ…」
張り切った子たちがいたみたいで、お風呂から少しあふれてしまっている。
「しょうがない。ウインド」
風を巻き起こしてちょっとお水を捨てる。
「あとはこの魔石を設置してと…」
コールドボックス用に用意していたセットを風呂場の中央に置いて魔力を流せるようにする。
「さて、今度は頑張り過ぎないようにね」
ピッ!
魔力の強いディプスバーナン鳥が1羽だけ近づいて魔石に魔力を込める。コントロールもよく、過剰な力も入っていないようで安心した。
「わぁ!本当に温度が上がってます!でも、火の魔石って高いんじゃ…」
「これは火の魔石じゃないから大丈夫です。せいぜい金貨5枚ぐらいですよ。ただし、熱湯には絶対できないからそこは注意ですけど」
「なるほど、温度を変化させるんだね。相場の半額以下か~」
「あとは実験なんですけど…」
私は自分用の簡易風呂を出して、湯舟からお湯を移す。
「そこでもう一度こっちに移してみてっと」
果たして実験は成功するだろうか?
「なにしてるの?」
「いえ、この魔石って熱を変化させるんですけど、別の石ならもう一回できないかなって。ん~」
私は魔力を込めて魔道具を発動する。
「おおっ!?できた、できました!」
「よかった?わね」
「はい!これでお姉さんたちが最後に入る時に必要な分だけ移せば、温かいお湯に入れますよ」
「本当!すごいわね」
「ただ、ちょっとMP消費が多くて…」
やってみてわかったのは一度、温度を上げたものをさらに上げるには思ったよりMP消費が多いってことだ。はっきり言って普通の人じゃできない。魔力も100ぐらいは必要だろう。
「これはバーナン鳥には難しそうですね。ディプスバーナン鳥の子に任せましょう」
ピッ
いいよ~と私の周りをまわってくれる。彼女?たちも進化して魔力を持て余しているから、こうやって使う機会があるのがうれしいみたいだ。
「それじゃあ、店長さんに聞いてきますね!」
「お願いします。君たちも毎日ご飯がもらえるようになるといいね」
ピッ!
「たまにはおいしいご飯も?わかってるって、ちゃんと言っとくからね!」




