ゆったりまったり
「ふんふ~ん」
今日は一応、依頼の日だ。ただ、依頼といっても町の周辺の見回りということで、結構のんびりできている。
「今度は向こうだね」
「範囲結構広いですね」
「ま、門番や騎士たちの負担軽減だからねぇ」
前回のミスリルゴーレムの襲撃によって、けが人も多く出た。そこで、町の見回りを重点的にすることで街の人の不安感情を改善するために、騎士さんたちが駆り出されているため、私たちの見回りはその代わりだ。
「ふむ、アルナ見てきなさい」
ピィ
「キシャルはその木に登って援護するのですよ」
くあ~
なんで命令されないといけないのかと言いながらも、キシャルもティタの命令に従う。
「なんだかティタがリーダーみたいだね」
「従魔に関してはそれでいいんじゃないかい。あたしらよりもずっと魔物に詳しいだろうし」
「まあ、戦いも楽になりますしいいんですけどね…」
完全に私より指揮官!って貫禄がある。むむぅ、頑張らないとな。
「おっと、魔物だね。これはロックワームかな?」
ピィ!
先に言うなとアルナからおしかりが来る。へへっ、まだまだこの分野じゃ負けないもんね!
「やれやれ、さっさと片付けて次に進むか」
ロックワームをサクッと処理して次の場所へ。
「なんだか指定されてるところって街道から外れてますね。普通こういうのって街道沿いですよね?」
「街道はなんだかんだ言って冒険者がよく通るからねぇ。それよりは普段人が踏み入れないところを片付けるってことだろうね。こんなところ来ても金にならないだろ?」
「確かにそうですね。騎士団は給金が出ますけど、ここに来るなら冒険者だと討伐依頼しかありませんね」
「割と街の近くでも魔物が出るし、討伐依頼は護衛のついでで片付くから、騎士団の管轄なんだろうね」
ピィ!
「アルナが先に魔物がいるって言ってます」
「数は?」
ピィ
「ゴーレム3体です」
「それなら、御主人様は火魔法を。私はキシャルに指示を出します」
「あっ、はい」
ちなみにティタは流ちょうに話しているけど、今は前の姿のままだ。変身は慣れたらMPの消費も少ないらしいけど、まだ不慣れだから寝る前とかに少し試しては戻っている。じゃあ、巨大化も?って言ったら、あれは無理に大きくなるからダメらしい。
「アスカ、ぼーっとしてないでくるよ」
「はいっ!フレイムブラスト」
ゴーレムが見えたところで3本の火線をそれぞれに当てて、一気に爆発させる。そうして熱した体に、今度はキシャルがアイスブレスをお見舞いする。
ピィ
そして凍ったゴーレムたちの横の木をアルナが切り倒して、ガツンと当てればガラガラと音を立ててゴーレムの体は崩れ、核だけが残る。
「みんな良くやったわ。御主人様も流石です」
「うん、ありがとう」
私の返事を聞くとティタは早速、核を拾い口に含む。
「ん~、流石は新鮮な核ね。中々だわ。とりあえず今日はあと1つ夜にでも食べましょう。残りは…仕舞っておきましょう」
「あれいいのかい、アスカ?」
「ん~、と言っても市場的に価値があるものでもないですし」
「そうだよね。ただ、一目散に拾って食べてたけど」
「あら、私は御主人様を労ってから頂きました。リュートのその物言いは違います」
そしてなぜか、ティタはリュートにだけはタメ口だ。理由はよくわからないけど、上手く話せるようになっても使いたくないらしい。リュートは気にしないって言ってくれたけど、どうしてだろう?
「どうでもいいけど次に行くよ。まだ、半分だからね」
「はい」
剣呑な雰囲気になる前に、ジャネットさんの一言で次の場所に向かう。
「でも、ほんとに見回り箇所って多いんですね。騎士団の人、頑張ってるんだなぁ」
「ああこれ?普段行かないところもこの際だから入ってるってさ」
「ええつ!?そうだったんですか?」
「ああ。年1とか、めったに行かない場所も今回調査して、住民を安心させたいって。だから今回の調査結果は後で街に張り出すんだって言ってたよ」
「僕もその話はギルドで聞きました。数とか報告が曖昧にならないようにって」
「そういう訳だからちょっとだけあたしらの方が頑張ってるって訳さ」
「ま、まあ、騎士団の人たちが頑張ってるって言うのも事実ですし…」
「そりゃそうだ。あたしらじゃ金にならないところをやってくれてるんだからねぇ」
なんて言いながら、小さい森を横断していると目につくものがあった。
「これは久し振りの薬草ですね。しかも、ルーン草ですよ!」
「取ってくかい?」
「はいっ!」
みんなに了解を取ってルーン草を採っていく。そんなに人が来ないようで、ルーン草の株自体も大きいし数もそれなりにあった。
「これはいい儲け…いや、いい品質」
ルーン草は生息域がちょっと奥めいたところが多いなど、ややレアな薬草だ。効果もMPを回復させたり、魔力に関する病気に一定の効果があったりと市場でも値のつくものだ。
「ふぅ!これぐらい採ればいいかな?」
「もういいのかい?」
「はい。あんまり生育には向いてない場所ですし、これ以上採ると元に戻るまでは時間がかかりそうですし」
薬草の採取も終わったので、次の場所に向かう。
「こっちは魔物の気配がないですね」
「だねぇ。別のパーティーが倒したかもしれないね」
「でもさっきは他の冒険者はこないって…」
「同じ依頼も出てるからねぇ。そういえば、アスカはギルドに行ってないから知らないのか」
「ちなみにどれぐらい出てるんですか?」
「最初は2パーティーだったけど、今は3つか4つは出てるね。依頼を出したからって全部引き受けてくれるかは冒険者が選ぶもんだし」
「そこはみんな優先して受けるってわけじゃないんですね」
「そりゃあ、冒険者の特権だからね。大体、元々商人の護衛依頼を持ってる人間からしたら、そうそう割って入れるなんて難しいし。アスカもそうだけど、その中で休憩が必要だろ?依頼ばっかで失敗しても意味ないしね」
「そっかぁ~。みんな大変なんですね」
「だから、僕たちみたいに特に決まった依頼がないパーティーが受けようってジャネットさんが」
「そこはどうでもいいんだよ」
ちょっと照れたように言うジャネットさんがかわいい。
「ん?あれ?」
「どうした?」
「ん~?ちょっと奥に反応がありますね」
「行くか」
「はい」
とりあえず魔物の反応がする方へと向かう。
ギィン
カン
「ちっ!相変わらず硬いな」
「こっちもちょっと待って。数が多くて…」
「魔法の準備は?」
「あと少し…出来たわ!下がって」
冒険者たちがゴーレムから離れると、魔法使いから魔法が放たれる。
「くらいなさい、グランドバスター!」
地面がいきなり割れると、そこにゴーレムたちが引きずり込まれる。そして、そこに圧力が加わり体が崩れていく。
「あっ、1体残ってる。アースグレイブ」
私は亀裂に入りきらなかったゴーレムに対して槍をお見舞いする。核が壊れちゃうけど、人がいるし今回は仕方ない。
「誰っ!」
「あ、こんにちわ」
「こ、こんにちは…」
「何者だ!」
「あっ、怪しいものじゃないですよ。見廻りの依頼中です」
「同業者か。それにしてもいい魔法だったな。ゴーレムを一撃だなんて」
「そちらのお姉さんの魔法で動きが止まってましたから」
「いや、だからって貫通しないと思うんだが…」
「わ、私の頑張りが…」
「?」
「悪いね、獲物を取っちまって。悪気はないんだよ」
「いや、倒せなくはないが魔法以外で有効打が与えられないから助かった」
「見回り中だと言ったが、何か所目だ?」
「えっと…これで5か所目ですかね?」
「多いな。うちはまだ2か所目だ。それも毎回魔物に遭っててな。今日はこれで帰るところだ」
「もうですか?」
「うちは私の魔法以外じゃゴーレム一体倒すのも大変なの。さっきの魔法は何度も使えないのよ」
「大変ですね。それじゃあ、私たちはこの奥を見てきますね」
「ああ、気を付けてな」
冒険者たちが去ると、私たちはというかティタが亀裂に埋もれた核を探し出す。
「そう、そうよアルナ!やればできるわね」
ピィ!
褒められてうれしそうなアルナだけど、完全にティタの雑用係なんだよね。まあ、私たちとしても核を取るのに埃まみれになりたくないから助かるんだけど。
「奥はいませんね。どうやらさっきのゴーレムたちはここから来てたみたいです」
「なるほどねぇ。まあ、なにもないなら次だね。リュート、次は?」
「今回の分はこれで終わりです」
「なんだい、もう終わりかい。帰りは少し寄り道するか」
ジャネットさんの提案ですぐに街道には戻らず、寄り道しながら帰ることにした。
「あっ、リラ草!ちょっと採っていきますね」
「はいよ」
「アスカ、うれしそうですね」
「なんだかんだ部屋にこもりっぱなしだからね。ああやって、羽を伸ばすのも大事さ」
「でも、あれの使い道を考えると…」
「従魔の飯にするだろ。ポーションとか作らないだろ」
「だといいですね」
そんな話はどこへやら、その後も帰り道で薬草を補充してほくほく顔の私だった。




