ティタ
「ふんふ~ん」
ハティルから帰り、報酬をもらって2日。私はのんびりと細工をしていた。
「あれから急ぎで大変だったな~。ミュートさんたちとは笑顔でお別れしたけど、大丈夫かな?まあ、ジードさんもいるし大丈夫か。結局、受けた依頼もキャンセル扱いになったし。でも、達成ポイントはこそっと入れてくれるって話だし、いいよね別に」
そんなにランクにこだわってるわけじゃないし、代わりに多めに入れてもらえたしね。パラナさんからも当初より報酬は大目にもらったし。
「もらったのは輝石とあとはマイクロバッグだっけ?小型化する特殊なバッグ」
30cm四方のバッグだけど、魔力を送ると5cmぐらいに縮む特殊な魔法がかかっている。内部は1m四方ぐらいのスペースがあるらしいし、ほんとに変わった代物だ。
「そう言えば中身を見てなかったな…」
おもむろにマイクロバッグを取り出し、中身をごそごそしてみる。
「これは…えっ!?あの時のともう一つ違うドレス!?」
中身はなんとこの前にパラナさんの屋敷で着せてもらったドレスと、もう一着新しいドレスだった。
「あとはこっちに小箱があるな…こ、こっちもあの時の髪飾りと首飾りだ」
これはいくらなんでも高すぎでは?騎士団の責任者とはいえ、いいのかな?お金すごくかかってそうだけど…。あとでジャネットさんにでも相談しよう。
「ア、アスカ…」
「ん?どうしたのティタ。そういえば帰って来てからそわそわしてるけど」
「イシ、たべたい、たべたい、たべたい!」
「お、落ち着いてティタ。どうしちゃったの!?」
ピィピィ
なんとかアルナに通訳してもらって事情を把握する。
「えっと、石って輝石?」
ぶんぶん
思いっきり首を横に振るティタ。あれ?でも石って他にあったっけ?
「ミスリルゴーレムのかく」
「核?そっかぁ、そういえばまだ渡してなかったね。はい」
しかし、ティタは受け取ろうとしない。あれだけ欲しそうにしてるのに?
「ど、どうしたの?」
「たべたら、たぶんへんかある」
「変化?」
どうやら今までティタが食べなかったのは食べる時に変化が起きるかららしい。キシャルのようにランクアップするのが自分で分かるのかもしれない。
「そっか。じゃあ、悪いけどジャネットさんたちにも相談して明日でもいい?」
「はやくする」
「う、うん」
ティタには悪いけどせかされても明日なのは変えられないんだよね。そんなわけで、細工にも身が入らないのでベッドの上でアルナと一緒にごろごろする。最初こそキシャルもいたんだけど、暑苦しいとさっさと他のベッドに行ってしまった。
「アスカ、帰ったよ。ん?遊んでんのかい」
「はい。ちょっと細工って気分じゃなくて」
「そりゃ珍しい。そうそう明日だけどさ…」
「ジャネット。アスカ、いそがしい」
「お、おう。そうなのかい?」
「まあ、そんな感じです」
気の立ってるティタをなだめつつ、ジャネットさんに事情を説明する。
「なるほどねぇ~。そりゃあ、勝手には食べられないね。それにしてもよく我慢したもんだね。アスカの従魔なのに」
「私の従魔だからじゃないんですか?」
「いやいや」
「そう言えば、ジャネットさんは何を言いかけてたんですか?」
「ああ、宿に居ても暇だろうから依頼でもって思ったんだけど、明後日にするか」
「そうですね」
そんなわけで、残りの時間はリラックスタイムだ。
「じーーーー」
「ティ、ティタそんなに見ないで」
「うん」
「全く、この子たちは。それで、どうなるかはわかってるのかい?」
「ううん。でも、たぶんおおきくかわる」
「大きくねぇ。やな予感しかしないね」
「どうしてですか?きっとキシャルみたいにキリッとなりますって!」
「それだけだったらいいんだけどね。まあ、明日を待つか」
その後もご飯が終わると寝ろ寝ろとすごく視線がうるさかった。
「うう~、おはよう」
「おはようアスカ」
早い。いやまあ、ティタは寝ないからそりゃあ一番最初に返事は返せるんだろうけどね。
「ジャネットさんたちは?」
「ごはん、いかせた」
行かせた…。本当に我慢してたんだなぁ。そして、そんな中でも私を起こさないのはなんというか。
「それじゃ、私も着替えてご飯食べてくるね」
「いってらっしゃい」
「まだ、着替えてないからね。ちょっと待ってね」
「むぅ」
そそくさと食堂に逃げ込む。
「アスカ、来たかい」
「おはようございます。ジャネットさんたちはもう食べ終わっちゃったんですね」
「そりゃ、夜明け前に起こされたらね…」
「私は今起きましたよ」
「アスカが起きたらすぐにできるようにって、起こされたんだよ。はい、朝ごはん」
「ありがと、リュート。2人ともすみません。あとでティタには言っておきます」
「いいよ。確かに、従魔たちのことを気にしてなかったしね」
「そうですね。従魔たちのことはずっとアスカに任せっきりでしたし」
同じパーティーだからもう少し、気づかうべきだったとありがたい返事を返してくれる2人。
「それじゃあ、ご飯食べちゃいますね」
と言うわけで食事も済ませ、部屋に戻る。
「ああ、そうそう。こっからバルドーのおっさんの家に移るから」
「へっ?ここでしないんですか?」
「なにが起こるかわからないだろ?さすがに宿じゃなぁ」
「何も起きないと思いますけどね」
「はいはい、それじゃ行こうよ」
リュートに促されて私たちはバルドーさんの細工店に向かう。従魔も全員ついて来ているので、結構目立つ。
「きょろきょろしないの」
「でも、目立ってますし」
「町を出る前にやったこと覚えてるのかい?」
「なにもしてません」
「バーナン鳥をディプスバーナン鳥にしただろ?」
「あっ!?え~と、それは…」
「僕も昨日宿で働いてたら、子供の間ではそこそこ噂になってるみたいだって。大人は話のタネにしてるだけだったけどね」
「ほっ」
「ホッとしない!全く…」
「ついた、はやくはいる」
「はいよ」
ティタに急かされてやけくそ気味に扉を開けるジャネットさん。
「おう、予定より早いな」
「バルドーさん、お邪魔します」
「ああ、気にせず奥を使え。いや、奥を使ってくれ」
「バルドーさん、なんで言い直したんですかね?」
「どうしてだろうねぇ。それより、さっさと始めるよ。視線がいたい」
ティタはすでに部屋に入ってテーブルの上に鎮座している。
「それじゃあ、始めます!準備はいい、ティタ?」
「うん」
私はティタの前にミスリルゴーレムの核を置く。それをティタは慎重につかみ、口に含んだ。
パァァァァァァァッ
「な、なに!?」
「光が…」
「まぶしい!」
にっ
ピィ
三者三様の反応を返し、光が収まる。
「お、終わった…」
「アスカ、ありがとう」
「あ、うん」
そこにいたのは流ちょうに言葉を話すティタだった。
「これからも誠心誠意、お仕えいたします。ご主人様」
「あっ、はい」
「へぇ、結構ちゃんと喋れるようになったんだね」
「はい、ジャネット様」
「えっと、話し方は変わったけど他には何かあるの?」
「能力についてですか?リュート、待ってください。…ありました。行きます、トランスフォーム!」
ブゥン
キラキラした光がティタを包み込むとそこにはメイド服に身を包んだティタの姿があった。サイズは50cmぐらいだけど。
「とりあえず、人型を取ることができるようになりました」
「へぇ、そいつはすごい…のか?」
「はい。形態変化を取れるゴーレムは私だけかと思います」
「そ、そうなんだ。良かったね、ティタ。でも、結局MPは私から取っていくんだね…あっ」
「ア、アスカっ!?」
「ご主人様!?気を確かに!」
「ひ、ひとまずこのソファに寝かせましょう」
こうして、ティタの予想通り私は寝込むことになってしまったのでした。




