黒幕を捜せ
「ふわぁ~、よく寝た」
まだ朝早い時間だけど、昨日は早めに寝たし目覚めはばっちりだ。
「アスカ、起きたかい。用意して食堂に行くよ」
「はい」
パッと着替えて食堂に行こうとする。ところが…。
「この服なんです?」
「これ着て朝は出てこいだってさ。あたしも着たんだからあきらめろ」
そう言うジャネットさんはドレスを着ていた。豪華ってわけではないけど、肩のところは隠れるようになっており、冒険者でも着こなせるようになっている。そして、私に用意されたのは…。
「ええっ!?フリフリのついたやつですか!ちょっと、かわいすぎないですか?」
「そうか?アスカにはこれで大丈夫だよ」
「ほんとですか?そうだ!リュートに確認を…」
「ダ~メ。着替えるんだから、早くしな。あたしは先に行ってるから」
「は~い」
とはいうものの、ドレスだなんて普段着る機会がないから楽しみではある。
「では、アスカ様。こちらへ」
「ひゃっ!?」
突然現れたメイドさんたちによって、私はたちまち着替えさせられてしまった。
「ふむ…これは」
「時間がないのが惜しいですわ。王都の店でそろえたアクセサリーをふんだんに使いたいです」
「そうね。本当に今日だけというのが…」
「あはは。私ってそんなに飾りがいあります?」
「それはもう!ご主人様も騎士ですし、中々ドレス選びが難しくて…。それにあの性格では着てもらえませんので」
「大変ですね」
「おっと、忘れるところでした。こちらをどうぞ」
そう言ってメイドさんに首飾りを付けられる。ふんだんに装飾が使われているわけではないけど、中央に一つ大きな黄色い石がはまっている。どちらかというと豪華なブローチを首飾りにしたようなデザインだった。
「あ、ありがとうございます。でも、これって高いのでは?」
「お気になさらず。グラントリルの件は聞きました。街を守ってくださいました方にふさわしいものですわ」
「でもあれはみんなで倒したんですし…」
「いいえ、この辺りではミスリルゴーレムはマジシャンキラーとして知られています。その相手から逃げずに立ち向かわれたのです。これぐらい当然です」
そう言うもう一人のメイドさんは、グラントリルの出身で家族もそちらにいるらしくしきりにお礼を言われて恐縮してしまった。
「さあ、これで出来ました。それではまいりましょう」
最後に髪をアップにしてもらって食堂に向かう。
「お待たせしました」
「ああ、いいよいいよ。こっちも話してたし」
「そうそう、アスカ…」
「アスカ、おはよ…」
「2人ともどうしたの?固まっちゃって。髪型変えて変かな?」
「変というか」
「似合い過ぎというか」
「なにそれ?」
「あははっ、それにしてもこうやって見ると、本当にどこかの貴族だね。勧めたあたしもびっくりだ」
「そうですか?似合うって言われたのはうれしいですけど、ちょっと複雑ですね」
「ま、そろそろ飯にするか」
そう言うと、昨日のように料理が運ばれてくる。
「でも、ちょっと食べにくいですね」
「そう言う割には昨日も思ったけど、いいナイフとフォークさばきだよ」
「それはほんとにうれしいです。マナーはお母さんと一緒に練習したので」
実際にやった記憶はないけど、大事な思い出なんだ。
「そうか、素晴らしい母君だな」
「はいっ!」
食事も終わり、着替えて現地に向かう。
「もう、お着換えですか~」
「すみません。依頼があるので」
「せめて、髪型だけでもこのままでお願いします」
「そうですね。たまにだし、このまま行きます」
「じゃあ、あとはこれを付けてと…」
メイドさんがせっかくですと髪飾りを付けてくれる。さっきの首飾りといいまるでお姫様気分だ。
「それじゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃいませ!」
メイドさんたちに見送られて依頼に向かう。
「う~ん、なんだかこそばゆいですね」
「そんなもんじゃないよ、こっちは。鳥肌立ってきた」
「僕もあれはちょっと…」
「ええ~、ちょっとしたお姫様気分になりません?」
「ならないねぇ。ほら、今日も見張りに行くよ」
「は~い」
「それにしてもその髪、そのままなんだね」
「せっかくやってもらったしね。かわいい?」
「う、うん」
ちょっと横髪だけロールにしてもらって、後ろはアップに。自分じゃこれはできないから今日だけでもね。現場につくと、今日も鉱山夫さんたちが作業を開始しようとしていた。
「おっ、今日も来たのか嬢ちゃ…」
「すっげ~、昨日より美人だぞ」
「ほんとに冒険者なのか?」
「なんだかみんなざわざわしてますね~。昨日新しい坑道掘ったからですかね?」
「そうかもね。それより、魔物は?」
「ん~、あっ!これかな?ちょっと確認しますね。アルナも行こう」
ピィ
私はアルナを伴って空に飛びあがると魔物のいる方へと飛んでいく。
「居た!ゴーレムだね。数は3体か…このまま行くよ」
ピィ
まずはアルナがゴーレムの足を止めるためにウィンドカッターを放つ。そこでひるんだゴーレム相手に私が魔法で攻撃を仕掛ける。
「敵1体ずつに…フレイムブラスト!」
火線が1体ずつに伸びていき、大火力がゴーレムを襲う。
くあぁぁぁ
「キシャル!?ついて来てたの?」
熱したところで着地して、アースグレイブを打とうと思ったらキシャルが私の肩からブレスを吐いた。それにしても、重さを感じなかったけど、いつの間に乗っていたんだろう。
カキン バラバラ
急な氷のブレスを受けたゴーレムはたちまち凍った後、砕け散った。
「ありゃ、きれいに核が残ったね」
岩の部分が砕けた関係か、ゴーレムのコアがきれいに残った。
「それじゃ、これはティタへのお土産だね。さっ、帰ろう」
んにゃ
ピィ
魔物は倒したので、みんなのところに戻る。
「ただいまです」
「お帰り。どうだった?」
「ゴーレムが3体だけでした」
「ゴーレムのやつが3体か…騎士を!」
「あっ、倒してきたから大丈夫ですよ」
「倒した!?でも、さっき行ったばかりじゃ…」
「あれぐらい、Cランクでも大丈夫ですって!」
「そ、そうなのか?」
ちらりとおじさんがリュートを見るとリュートは顔をそむけてしまった。なんで?
「ま、まあ、弱点があるんですよ。きっと…」
「どうした?」
「あ、ゴーレムが出たってんで…」
「あいつらが?すぐに作業をやめて対応に」
「倒したから大丈夫です」
「ん?そうなのか?」
「らしいですぜ。いや~、今回の冒険者さんは強いんですね」
「仕事が早いな」
「まぁ、それで食ってるんでね」
「ジャネットさん、何もしてませんよね?」
「しーっ、声が大きいよ」
「どうした?」
「いんや。他には魔物が居そうにないし、ちょっとその辺ぶらつくよ」
「ああ。やつらもすぐにはやってこないだろう」
「おや、もう来ていたのか?」
話をしていると、グラベルのみんながやってきた。
「ああ、ちょっと肩慣らしも終わったし、休憩がてら見廻ってこようかと思ってたところだよ」
「ふむ…出来れば外周を回ってもらっても?」
「いいけどどうしてだい?」
「あと2日ほどで見回りも終わりだろうが、一度地形を確認してもらおうと思ってな」
「そう言うことなら断る理由はないねぇ」
「ごめんね~、こっちはやっとくから~」
「あいよ」
という訳で、私たちは当初の予定と違って外周部の見張りに移る。
「ふむ…」
「ジャネットさんどうかしました?」
「な~んか引っ掛かるんだよねぇ。あたしたち、こっちに来る必要あるかい?」
「でも、こちらの地形を知るのは確かに必要じゃ」
「そうなんだけどさ。グラントリルのマスターも言ってただろ。この依頼自体はご褒美なんだって。こんだけの騎士を要して、あたしたちの出番ってものがどれだけあると思う?」
「そう言われればそうですね」
「ジャネットさんは他に何か目的があると?」
「ああ。確かに騎士はいる。でも、それは外敵に対してだ。何か他の考えがあるように感じる」
ドォーン
「な、なに!?」
「鉱山の方からだ!行こう」
魔物が周辺にいないことを確認してすぐに鉱山に向かう。
「どうした!?」
「ああ、鉱石が爆発しやがった!おい!けが人は?」
「バレッジが…」
「あ、あの人は…」
昨日私たちに声をかけてきた不審な人だ。まさか、運悪く巻き込まれるなんて。
「こういうことはよくあるのか?」
「いいや。ただ、輝石は属性があるからたまに火属性のやつが暴発するんだ。滅多にないんだがな…」
「なるほどねぇ。アスカ、間に合うか?」
「やってみます!」
私は担架で運ぼうとする人を呼び止める。
「なんだ、こっちは急いで…」
「私、回復魔法が使えます!すぐに下ろしてください」
「あ、ああ」
「これはまずは血を止めておかないと…ティタ!」
「わかった、アクアヒール」
ケガしているか所の浄化をして傷を治す。ただ、治癒の力が足りないのでここからは私の仕事だ。
「癒しの力よ…エリアヒール」
おじさんに回復魔法をかけて傷をいやしていく。かなりのケガだけど、息はあるし何とか間に合いそうだ。
「うっ、ごほっ」
「だ、大丈夫ですか?」
「あ、あんたは昨日の…」
「はいっ!もう大丈夫ですからね」
他にもけがをしていた人がいたのでエリアヒールの範囲を拡大してけがを癒していく。
「すまねぇ、嬢ちゃん」
「いいえ、事故ですし」
「チッ」
「どうかしたかい?」
「いいえ。何か聞こえた気が…気のせいですね」
不幸な事故はあったけれど、その後は現場の確認を終わらせ再び作業は再開された。




