鉱山の現状
「んで、見張りだけど特に何もないねぇ」
「ちょっと危険だから気が進みませんけど、しょうがないですね」
私はギルドから離れてついて来てもらっていた、アルナとキシャルをグラベルの方へと向かわせる。魔物といっても小さいあの子たちならさほど警戒されないはずだ。
「ティタ、無茶しないように頼んだよ」
「わかった」
今回の調査対象にはグラベルも含まれていた。というのも彼らは30歳になるぐらいのベテランパーティーでここに派遣されだしたのは4年前からだが、前任者との交代も疑われているということだ。
「なにもなければいいんですけどね」
「まっ、こんな昼間からどうこうできないだろ」
「そうですよね。リュートそっちはどう?」
「ん~、反応はないなぁ」
ゴーレムが狙うといっても毎日ではないらしく、また、外周部には騎士団が詰めているので仕事自体は安全だそうだ。
「へ~、ここが硬い岩盤なんですね~。試してもいいですか?」
「おうよ!新しい採掘抗を開けてる途中だ。嬢ちゃんもやってみるか?まぁ、嬢ちゃんには無理だろうがな!」
「あっ、つるはしはいいです。えいっ!」
私は足をコツンと鳴らして、目の前の岩盤に向けてアースグレイブを放つ。
ガラガラ
「あの硬い岩盤を…ひょっとして嬢ちゃんは新しい鉱山夫か?」
「んなわけねぇだろ。護衛だってよ」
「うむむ、残念だなぁ。この岩盤が破壊できるなら護衛よりよっぽどいい仕事するってのに」
「しょうがないですね。ちょっとだけですよ」
私は気をよくして、アースグレイブで掘り進める。
「ん?なんか光ったような…」
掘り進んだ坑道から光る石のようなものを取り出す。
「おおっ!それが輝石だ。そいつを領主様に献上してるんだよ。せっかくだし嬢ちゃんにやるよ!」
「いいんですか!?でも、勝手に持って行っちゃだめですよね?」
「ここだけの話だがな、どうも誰かが持ち出してるらしいんだよ。どこのどいつだか知らんが迷惑なことだ。それはまあ初めてここに来た記念だぜ。姐さんには俺から話しとくよ」
そう言いながらおじさんはつるはしを持ち直すと新たにできた坑道を掘りに戻った。
「ほんとにいいんですかね?」
「あのおっさんも言ってたけど、硬い岩盤だったんだろ?もらっときなよ」
「ただ、輝石がどんなものかちゃんと聞けませんでしたね」
「そう言えば…」
魔力がこもっている石とは言われたけど、属性がそれぞれ異なるとかそういうのは聞きそびれちゃったな。報酬でもらえるらしいし、その時にでも聞いてみよう。
「そうだ!向こうはどうかな~」
私はアルナのいる方向へ風を流して反応を見る。
「なになに。『タダイマミツダンチュウ』か~。密談!?」
「アスカどうしたんだ?変なものでも食べたのかい」
「ち、ちがいます。アルナが冒険者たちが密談してるって…」
「へぇ、ベテランだと言ってたけどいきなり当たりを引いたとはねぇ」
「とりあえずは今いる人たちを確認しましょう。それ以外にはできることはなさそうです」
リュートの案で、現在冒険者たちと話しているのが誰かを調べるためにさりげなく交代で休んでいる人の情報を得る。
「へ~、そうなんですね。交代制なんだ~。ところでそういうのは決まってるんですよね?」
「ああ。だけど、体調にもよるぞ。そういや今日はベカスが休みだな。たまに体調崩すんだよあいつ。普段は元気なのになぁ」
「大変ですね。あっ、おじさんの名前は?」
「俺か?俺はアルトスだ」
「いいお名前ですね!それじゃ」
おじさんと別れて再び警備に戻るふりをしてみんなで話す。
「へへ~、有用な情報っぽいですよ」
「あの話が真実ならね。リュート、どう思った?」
「あれは嘘ですね」
「へっ?」
「仕事を探してる時、スラムの人に声を掛けられたり、怪しい冒険者崩れに声を掛けられたことがありますが、それと一緒の反応でした」
「やっぱりか。ならとりあえず、あいつの名前が正しいかと勤め始めがいつからかってのを探るか」
「えっ!?あれ?私の活躍は?」
「アスカは大活躍だったよ。あのおじさん、すぐに警戒を解いてたし。途中で僕らのことを忘れてたみたいだったしね」
「そう?さすが私だね」
「そうそう。そんじゃ、ちょっとだけ別行動だね。変に警戒されてもかなわないしね。リュートは報告がてらパラナさんのところに行ってくれ」
「了解です」
「私は?」
「アスカは…探知魔法を使いながら適当にその辺で話したり見学してな。細工の勉強とでも言ってりゃいいよ」
「分かりました。擬態ですね!」
「…まあ、そうだね」
敵をだますには味方から。頑張って色々聞かなきゃ!
「へぇ~。こっちのは細工というより置物向きなんですね」
「どうしても欠けやすくてな。そのまま置くとか簡単な形に整えて、あとはやすりがけだな。他には…焼き物か?」
「焼き物ですか?」
「ああ。最近になってここのを使いたいって変わった貴族様からの依頼だとよ。それも、元が悪かったり細かいやつでも買い取ってくれるからありがたいんだ。ボロボロ崩れちまって値が付きにくいのもあるからな」
「それは大変ですね。お仕事頑張ってください!」
「ん?誰か来てたのか?」
「すっげぇ美人?いや、美少女か?」
「なんでまたこんなところに?」
「さぁ?細工とか言ってたし、どこかの商会の娘じゃないか?大方、仕入れ先を見たいとでも言ってきたんだろう」
「なるほどなぁ。変わった人もいたもんだ。ところでそんなにきれいだったか?」
「おう!今日は夜警だろ?そん時にでも話してやるよ、アルトス」
こうして、夕暮れまで働いた鉱山夫たちの仕事も終わり、みんな宿舎の方へと戻っていった。私たちはというと…。
「それじゃあ、俺たちはあっちのテントだ。騎士たちが使っているのと同様だから、そこまで悪くはないぞ」
「そうだよねぇ~。あたしも最初はうげっ!って思ったけど、うちらのよりいいよ~」
「そうなんですか?」
「おっと、待ちな」
「あっ、パラナさん!」
「久しぶりに新規のパーティーだし、一杯やらないか?もちろん、飯も出す」
「いいんですか!」
「アスカ、喜びすぎ…」
「あっ、ごめんなさい」
「いいよ。そんなに楽しみにしてもらえたら、うちのやつらも喜ぶさ」
「へぇ、パラナさんがね。珍しっ!」
「おい、ミュート!」
「いいじゃん。もう結構会ってるんだし」
「構わんさ。いやなに、こんな身なりのやつらだが遠くから来てるらしくてな。面白い話が聞ければと思ってな」
「そうなの?」
「あっ、はい。一応、フェゼル王国出身です」
「フェゼル王国!?それなら、俺たちも聞きたかったな」
「ま、依頼が終わったらだねぇ。ついでにこの辺の店も聞きたいし」
「それはいい。紹介するぞ」
「という訳で今日のところはもらってくよ」
そう言うと私たちを案内してくれるパラナさん。途中でティタたちとも合流してみんなで付いていった。
「あれ?テント通り過ぎてますよ?」
「あはは、流石に現場の責任者がテント住まいじゃね。それに、報告書の管理やらなんやらで到底入りきらないさ」
そう言ってテントを抜けるとちょっと大きい邸が見えてきた。大体、8部屋ぐらいはありそうだな。
「はいって左奥が使用人用。すぐ右が客間そこから空き部屋に倉庫に執務室でその奥は私の部屋だね」
「空き部屋まであんのかい」
「客が多かったら困るだろう?今日は2部屋だろうしな」
「えっ!?お部屋広そうですけど…」
「一部屋って主の許可は取ってあるのか?」
「いや、普通のパーティーだから」
「そうか…」
怪訝な顔をしながら私たちを客間に案内するパラナさん。
「ここがその部屋だ」
「うわっ!ひろ~い。それに家具もたくさん!」
「貴族を泊めることもあるし、大事な商談相手も泊めるからな」
荷物を置く場所は部屋の隅で目立たなくしてあり、そこからはしっかりとしていながらも優雅なテーブルや調度品に囲まれてお姫様のような気分だ。
「あっ、でも、ベッドはちょっと普通かも」
「あまり豪華にしすぎると緊張すると言われてな。眠れないのはつらいからこうしているんだ」
「分かるよ。こっちの方がありがたいね」
「僕も天蓋付きとかどうしようかと思ってました」
「え~。いいじゃない!お姫様気分だよ?」
「アスカはいいだろうけど、あたしたちはねぇ」
「僕とか衛兵に連れて行かれると思いますよ」
「そうかな~」
「本当に面白い奴らだね」
コンコン
「なんだい?」
「お食事の準備ができました」
「分かったよ。聞いたね、早速行こうじゃないか」
「はいっ!」
さあ、ご飯の…調査結果の話をしに行かないと!




