秘密の依頼
「ふわぁ~」
「アスカ、顔洗ってきたら。今日はこっちのギルドに顔出すんだし」
「そうだね~」
リュートに言われて顔を洗いに行く。そして軽く朝食を済ませたらみんなでギルドに向かう。
「あっ、いらっしゃいませ。依頼ですか?」
「依頼っちゃ~依頼なんだけど。これ見てわかる?」
「あっ、そちらですか。奥へどうぞ!」
元気にお姉さんが奥へと通してくれる。その後は数分待たされたけど、しばらくして女の人が入ってきた。
「待たせたようですまんな。私がこのギルドのマスターのシェイアだ」
「へぇ~、女のマスターさんかい」
「マスターといっても事務方だがな。この町は一応領主様の直轄地でもあるし、鉱石の確認に毎年滞在される。荒事などは騎士もいるこの町では起きないんでな」
「そいつはいいねぇ。で、依頼ってのは?」
「奴から聞いていると思うが、今回のミスリルゴーレム討伐の褒美のようなものだ。騎士たちと一緒に鉱山夫を護衛して輝石の一部を持ち帰るのが依頼内容だ」
「輝石?」
「ああ。守り石のような魔石とは違うが、魔力を秘めた石のことだ。ここは産地として有名でな。しかし、管理は領主様と国だ。冒険者には一向に渡らないのでそのガス抜きを兼ねて、信頼できる冒険者を数名同行させている。その護衛報酬として、形の悪いものや、大きいが出力が安定しないものなどを渡しているということさ」
「それで今回は私たちがそのおこぼれに?」
「そうだ…と言いたかったのだが、ここまでが表向きでな。よっと…」
シェイアさんはテーブルの中央に丸い何かを置くと魔力を流す。
「これは最近少しだけ流通している魔道具でな。少ない魔力で音を遮断できるものだ。この先は口外されたくも盗聴されたくもないのでな」
「へ~、高そうですね」
「そう見えるか?だが、以前のものより安定している上に値段も据え置きの良い品だ。商売下手だが作ったものはきっと紳士なのだろうな」
「そ、そうですね…」
うううっ、あれって前に売った音声遮断の魔道具だ。ここにまで流れてきてるなんて。あと、商売下手っていう情報はいらないな。
「それで続きは?」
「ああ。まずはこれを見てくれ」
そう言ってシェイアさんは2枚の資料をテーブルに置く。
「これは?」
「こっちが過去10年間の領地の輝石の産出量だ。そして、こちらが過去50年間の産出量」
「へ~、こういうのも取ってるのかい。といってもあたしらには中々見方がねぇ…」
「ふむふむ。特に数値が上がったりしてなくて見やすいですね!あっ、こことか大変そう…」
「アスカ分かるの?」
「まあ、単純な棒グラフだしね。ちょっと要素はあるけど、問題ないよ」
「えっと、そちらの方はどこかのご令嬢だろうか?」
「いいや。でもそう思って対応しておいた方が楽かもね。いちいち考えなくていいから」
「そうか。そうさせてもらおう。説明の手間が省けて助かる。これを見て何か感じることはあるか?」
「感じること…ん~、しいて言うなら8年ぐらい前からかなり産出量が安定してますね」
「どこ?」
「ここですよ。こっちが半年ごとの総量でこっちは年間の産出量。それで、8年前から結構値のブレがなくなってるんですよ~」
「それがどうかしたのかい?いいことじゃないか」
「いいとは思うんですけど、こっちの50年のやつを見ると絶対に乱高下してる時期があるんですよ。そうでなくてもちょっと多い年の次は下がったりってこともあるんですけど、こういうのって安定しないものでは?何か新しい技術とか導入したんですか?」
「残念ながらそういう話ではないんだ。アスカだったか?その娘の言う通り、このデータは不正に操作されている。例えば昨年は上半期は全くといっていいほど出なかったが、後半持ち直した。逆に3年前は順調に来ていたのに下半期はあまり出なかった。こういうことが起こってしまっている」
「鉱山夫の不正はないのかい?」
「捕まえてはいるみたいだが、下っ端ばかりでな。今回である程度けりを付けたいらしい」
「それとあたしたちが参加するのには何の関係が?」
「君たちは旅の途中で、ただ立ち寄っただけの街の人間の為にミスリルゴーレムを倒したのだろう?そういう不正とは無関係で、実力も折り紙付きだ。それならばということで奴に頼んだのだ」
「そういうことかい…面倒な」
「報酬は輝石の現物支給だ。どうだ?」
「どうだといわれてもねぇ~。話は通ったんだろギルドマスター間で?」
「まあ、うちとしても協力してくれると助かる。領主様からも依頼が来ていてな。正直無碍にできん。輝石の依頼を今後も回してもらわないと余計話もこじれるしな」
「という訳らしいよ、アスカ。どうする?」
「話も聞いちゃいましたし、困ってるみたいですし、やりましょう!」
「そうか、ありがとう」
「ところで、何をしたらいいんでしょう?」
「とりあえずは普通に護衛の依頼をしてくれればいい。現場の監督から指示があるだろう。君たちはあくまで普通に依頼を受けに来た冒険者だ」
「それなら、このままいけばいいかい?」
「だな。吉報を待っているぞ!」
シェイアさんに見送られ指定された場所に向かう。
「ん?君たちは」
「ギルドから派遣されてきた冒険者だ」
「ああ、今回の2組目は君たちか。えらく若いパーティだな」
「いつもはおっさんばかりかい?」
「まあな。現場はこっちだ」
「ああ、あんたたちが今回の…へぇ、聞いていたより若いね。まあいい、こっちで説明するよ。あんたたちはベテランみたいなもんだしいいよね?」
「ああ、こっちは構いません」
「そっちは?」
「我々はグラベルだ。見ての通り、3人のパーティーだ。よろしくな」
「ああ」
簡単に他のパーティーとあいさつをした後は現場の監督と思われる人に説明を受ける。
「あたしはここを仕切ってるパラナって言う騎士だ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
「ははっ、かしこまらなくていい。騎士といっても現場詰めだからね。ここのやつらも気さくに呼んでるし、あんたらも楽に呼んでくれて構わないよ」
「そうはいっても偉いんだろ?」
「偉いといってもそこそこだね。あんたらは今回だけだろう?気にするなよ。それで説明だったね。ここが第2鉱山で現在採掘してる場所さ」
「第2鉱山?」
「ああ。元々はグラントリルに近いところの山でやってたんだけど、ほとんど採ってしまったからね。今はこの町に移ってきてるんだ。まあ、もともとはこっちに移る計画もあったからね。ただ、枯渇しそうにないから続けてただけで。それが20年前ぐらいかな?そろそろって言うんで、こっちに移ってきたってわけ」
「じゃあ、領主様もその時からこちらに?」
「いや、もともとは避暑地みたいなもので、その時はちょっとした細工もやっていて元から来られてはいたんだ」
「それで鉱床もあるからついでにってことかい」
「そうだな。ああ、現場はここだ。ここから内部に進んでいる」
そうやってパラナさんが指をさすと、そこでは鉱山夫たちが入れ替わりで中に入っていく。
「この入り口を守るのが私たち…そして今回は君たちの仕事だ。他の騎士団員はこの周辺とこの先にあるキャンプに詰めている。あとは、その先の宿舎だな」
「宿舎ですか?」
「ああ。鉱山夫たちも我々と一緒だと過ごし難いだろうからな。奥に3階建ての家と呼べるほどでもないが、それを建てて暮らしているんだ」
「おっ!姐さん、客人ですかい?」
「冒険者だ。それと、客だったらどうなるかいつも言ってるだろう?」
「すいやせん、つい癖で。そんじゃ、これで」
説明している間も通り過ぎる鉱山夫たちはパラナさんに挨拶を返している。責任者とはいえ慕われているんだろうなぁ。
「以上だ。君たちは初めてだし、どうだ?今日は夕食を一緒に食べないか?」
「いいんですか!」
「ああ、それでは私は書類仕事が残っているのでこれで」
パラナさんが帰っていくと、グラベルのみんながやってきた。
「話は終わったのか?」
「はい」
「そんじゃ、自己紹介と行こう。俺がグラベルリーダーのワットだ。こいつはミュート。そして奥のが」
「ジードだ。よろしく」
「よろしくお願いします!私たちはフロートって言うパーティーで、私がリーダーのアスカです!」
「へぇ、お嬢さんがリーダなんだね」
「はい」
あとは流れでジャネットさんもリュートも自己紹介をしていく。
「それじゃあ、紹介も終わったところで見回りの範囲を決めよう。我々は慣れているし、森側でいいか?」
「じゃあ、鉱山側は私たちがやりますね」
「頼んだよ~」
「は~い」
ミュートさんに励まされ私は気合を入れて辺りを見回す。
「ふむ。魔物も変な感じもないですね。こんなところでほんとに何かあるんですかね~」
「しっ、声が大きいよ」
「すみません」
こうして、秘密の任務を帯びた私たちの依頼が始まった。




