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路銀を得るために

「ん~、いい朝だぁ~。ベッドというより思ったより敷布団がいいお陰で気持ちよかった~」


「だねぇ。ショルバの宿は普通だったけど、ここは良いね」


「ジャネットさん、起こしちゃいました?」


「いいよ。どうせこのぐらいにはいつも起きてるから」


「じゃあ、一緒に朝ごはん食べましょう」


「はいよ。ちょっとだけ待ってな」


いつの間にか帰って来ていたアルナと一緒に私たちは食堂に向かう。食堂にはすでに朝食が用意されていた。というのもカウンターに並んでいて、宿泊客はそこからお盆に乗ったものを1つずつ取るみたいだ。これなら配膳が要らなくて楽だな。


「内容はと…パンにサラダにスープか。普通ですね」


「まあ、こうして用意してくれるだけでもって感じだね。一々朝飯の確保なんて冒険に出るのにやってられないからね」


そういうとジャネットさんはパンをつかんで口に運ぶ。


「しっかし、あっちに慣れちまうとこれはどうしてもねぇ」


「あっ、これ使います?」


「ジャムか。高いんだろ?」


「美味しく食べられますよ」


「なら貰うか」


砂糖が高級品なこの世界ではまだまだ一般的ではないけど、美味しいパンを食べたいので仕方ない。食事を終えるとリュートを待つ。


「あれ?2人とももう食べたんですか?僕も早く食べますね」


「いいよ別に。大した用事はないんだからね」


「でも、今日は依頼を受けるんですよね。ちょっとだけ急ぎます」


リュートが食べ終わったところでこの町の冒険者ギルドに向かう。規模としてはアルバと同じぐらいだ。


「え~と、依頼はと…。あっ、ちゃんとブルーバード討伐もある。でも、1体当たり銀貨1枚か。魔石の買取は…金貨1枚。ただし、中程度に限る。かあ、町の魔道具屋さんで金貨2枚ぐらいだったし、買取はないかな?」


「どうしたのアスカ?」


「見てリュート。魔石の買取価格が思ったより安いの」


「へぇ~、ほんとだね。でも、ここから各都市に運ばれるんだし、こんなもんじゃない?ギルドって基本的に買い取り拒否ってないし」


「そう言われれば…。でも、これならティタにちょっとずつやってもらった方がよさそうだね」


「んで、ブルーバードの討伐依頼はあったのかい?」


「ありました。でも人気みたいで、5体討伐しかありませんでした。他は西の砂漠地帯の魔物討伐ですね。こっちは倒した魔物×銀貨1枚ですね。上限もありませんし、こっちも受けます?」


「まあ、生息地域はちょっとかぶってるし、それでいいんじゃないか」


「それじゃあ、受けてきますね。おねがいしま~す」


時間はまだ込み合う前だったので、空いている受付で依頼を受ける。


「こんにちは。依頼の受付ですね。えっと…この依頼を受けられるのですか?」


「はい、そうですけど」


ブルーバードの依頼には何も言わなかった受付のお姉さんが西の砂漠地帯の討伐依頼に渋い顔をした。特に難しい依頼じゃないと思ったけどな。


「この町は初めてですか?」


「はい」


「すみませんが、パーティーのどなたでもよいので、討伐履歴を確認させてもらってもよろしいでしょうか?」


「構いませんが、何かあるんですか?」


「この依頼は目標数が設定されていない依頼なんですが、それも定期的に西側の魔物がこっちに来ないように貼りだす依頼なんです。ただ、多数の魔物と出くわす可能性もあるので、最初に受ける場合は冒険者のランクを確認しているんです」


「そうなんですね。それじゃあ、ジャネットさんを呼んできますね」


それなら、間違いなく一番魔物を討伐しているジャネットさんに事情を話す。


「なんだい。それぐらいならアスカで十分だよ」


「私で大丈夫ですか?」


「大丈夫だって、ほら見せてみな」


「分かりました。お願いします」


「あなたなの?分かりました、預かりますね」


お姉さんに私のカードを確認してもらう。ギルドカードは高度な魔道具らしく、倒した魔物の情報なんかも記録されているハイテクカードだ。しかも、自動で記録されるしこれを考えた人はすごい。


「えっと、ゴブリン系が231体。オークとオーガは…こんなに!サンドリザードの討伐数もすごいわ」


どうやら情報を見る権限が弱いらしく、種族ごとにしか確認できないようだ。でも、ハイロックリザードの討伐数が確認できないのは助かったかも。レディトでもちょっと騒ぎになりかけたしね。


「確認いたしました。申し訳ありません、十分な実力をお持ちなようですね。良い報告を期待してます」


「はい!それじゃあ、行ってきます」


依頼を無事に受けた私たちは早速、町の西に出る。


「アルナ、もういいよ」


ピィ


町中は飛び回れないのでアルナを隠していたのだけど、町を出たので外に出してあげる。ティタは魔道具制作があるので魔力回復も兼ねて今回はお留守番だ。


「でも、砂塵とかあるかもしれないから気を付けてね。目に入ったら危ないし」


ピィ!


「風のバリアを張るから大丈夫?あんまり使いすぎないようにね」


アルナも小さいからか魔力型でMPが低いからちょっと心配だ。ティタと違って体が丈夫じゃないしね。


「んで、この辺の魔物はと…ポイズンスコーピオンか。毒持ちか、アスカ毒消しは?」


「ちゃんと持ってますよ。あんまり数はないですけど」


「持ってるだけで十分だよ。とりあえず、群れに最初から出会いたくはないね」


そこから砂漠に向かって歩いていく。川を渡ろうとするとアルナが私を呼ぶ。


ピィ


「ん?魔物?」


アルナがこそっと教えてくれた先にはブルーバードがいた。数は…3体か。奇襲すれば行けそうだな。杖をしまって弓を出すと、矢を三本つがえて一気に放つ。普通の矢なら明後日の方向に飛んで行くところだけど、この矢はウルフの牙から作ったものだ。魔法の通りが良く、風魔法を付与すれば真っ直ぐ飛ばすことも可能だ。


「いけっ!」


ヒュン


矢が一直線に三本進んでいく。


とすっ


狙い通り、3体のブルーバードに突き刺さった。頭を撃ち抜いているので、とどめの必要はないだろう。


「アスカ、なにかいたのかい?」


「はい。向こうにブルーバードがいるのをアルナが」


「急に緊張するからなんだと思ったよ」


「すみません、一言いえばよかったですね」


「いや、あたし達まで緊張しちまったら逃がしてたかもしれないしね。鳥系の敵はそういうのが難しいんだ。魔石は?」


「そうだ!確認しますね」


ブルーバードに駆けていくと、魔石が1つ落ちていた。大きさも問題ないし、大事にしまう。残りはリュートによって解体された。


「ちょっと時間食っちまったけど、行くか」


「そうですね。あ、ちょっとだけ待ってください」


「どうしたのリュート?」


「うん。折角だから前の調味料を使ってみようと思って。漬け込んだらおいしそうじゃない?」


「いいねそれ!頑張ってね」


5分程待って今日の夕食の下ごしらえだ。明日も依頼と行きたいところだけど、明日は宿で料理を作る約束をしてるからダメなんだって。準備も終わり川を渡って砂漠に向かう。


「これが砂漠か~、砂ばっかりだね」


「そりゃ砂漠だもんね」


「そんなこと言ってるけど、アスカも砂漠は初めてでしょ」


「そうだけど、見たことぐらいあるもんね」


「行ったことないのに見たことはあるの?」


「えっあっ、本!本でね。とりあえず、砂に埋まりたくないから魔法使っとくね」


私は話を逸らすついでにホバーの魔法で接地しないようにする。砂に足を取られることもそうだけど、サソリとかいそうだしね。


「アスカは良いねぇ。砂地は後が大変だから嫌なんだよ。リュートも気を付けなよ、思うように踏ん張れないからね」


「分かりました、確認しておきます」


私以外の2人は足場がどんなものか確認している。穴なんてないけど、踏み出しとか踏ん張りが思うようにいかないみたいだ。


「思ったより歩きにくいですね」


「だろ?あんまり進まないように気を付けないとね。いつもの倍はしんどいよ」


こうして砂漠地帯を進んでいく私たち。でも、遮るものもないし暑い。


「うう~、影はないんですか?」


「さっき、大岩のところで休んだろ?諦めな」


「それより、先を見てよ。何かいるみたいだよ」


リュートの指し示した先には何かがうごめいていた。


「ちょっと大きいね。サンドリザードみたいな感じかな?」


「じゃあ、デザートリザードだろうね。戦い方は大体一緒だよ」


「うえ~、面倒」


岩場ならともかく砂場で潜られたらまるで分からない。さっきも暑さで探知の精度も鈍ってたし、気を引き締めないと!


「相手は丘の上だ。砂の中を進んでくるならアスカに任せた」


「了解です。フライは?」


「貰うよ。でも、そっちに行ってもフォロー出来ないからそのつもりでね」


「分かってます」


魔法をかけると相手に先攻されないように飛び上がるジャネットさん。それに加わるようにリュートも飛び上がる。そんな中、私はというと砂の中から飛び出るリザードが出てこないように警戒だ。杖を構え直ぐに対応できるようにしている。


シャアァァァ


空からの攻撃に襲いかかろうとするデザートリザードだったけど、付与した魔法で空中での移動もスムーズだ。さっと身をかわすとすれ違いざまに首の後ろに剣を突き立てる。リュートは襲いかかってくる相手にそのまま魔槍を突き刺して、地面に着地する。そこからは砂地ということもあり、乱戦になっていく。


「ん?2匹ほど足りない…そこっ!」


最初に集団を見つけてから数が減っているのに気づいた。恐らくサンドリザードのように地中を進んでいるのだろう。近くの砂が巻き上がった瞬間に私はウィンドカッターを放つ。


ギャアァァ


飛び出してきたところ、頭にウィンドカッターを喰らいそのまま崩れ落ちるデザートリザード。続いてきた相手にも当てる。こっちは首近くを切り裂いたのみで致命傷とはならなかった。そのままこっちに向かってこようとしていたが、空中からさらにウィンドカッターが降り注ぎ、首を切断した。


「ありがと、リュート」


風の魔法だったのでリュートかと思ったが、リュートはまだ慣れない砂地で必死に戦っていた。よく見ると空にはアルナが飛んでおり、悠然と舞っている。


「アルナだったんだね。ありがと」


ピィ


そのまま、ジャネットさんたちに合流しようとするので、慌てて私もフライで飛んで加勢する。


「リュート、右後方!」


「はいっ!せやっ!!」


ジャネットさんの声に反応してリュートが足元に槍を突き出す。しかし、うまく踏ん張れないのかわずかに狙いがずれて地中に隠れられる。


「思ったより、戦いなれてるね!はっ!」


そう言いながらもジャネットさんは剣を振り抜き、1体仕留める。8匹ほどの集団が残り2匹だ。ただ、残りは地中に隠れてしまっているので、手が出せない。逃げられて仲間を呼ばれたら厄介だ。ここで片付けてしまわないと…。


「2人とも右に!」


「ああ」


「分かった!」


2人を右に移動させると私は地上に降りて魔法を使う。


「アースウォール!」


逆コの字に魔道具を使って土の壁を作る。当然、地面の土を使うので潜っていたデザートリザードの周りの砂も少なくなり居場所が割れた。


「見えた!行くよリュート!」


「はい!」


ジャネットさんがナイフをリュートが魔槍を投擲して、戸惑っている2体にとどめを刺した。


「いい判断だよアスカ」


「いえ、2人とも流石でした」


「僕は補助に魔法も使っていたのに、うまくできなかったよ」


「まあ、初めてだしこんなもんだろ。ケガもなかったんだし、良しとしな。そんなことより素材取るよ」


「分かりました」


初の砂漠戦闘を終えた私たちは早速、戦利品の確認を行ったのだった。



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