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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
16章 石の町グラントリルとアスカ

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家紋の指輪完成

「本当になくてもいいんですか?」


「あっても構わないと思いますが、大丈夫ですか?」


「これぐらい何ともないですよ。するって言っても簡単にですし、押印する関係上、色は塗れませんしね」


今、タリアさんと何を話しているかというと、指輪の指にはめる部分のことだ。はめるだけでそこは実用性だけでいいからデザインはなくていいというんだけど、せっかくきれいに細工を施しているんだからワンポイントでも細工したらどうかというところなのだ。


「ですが、入れるとしたらどんな細工を?」


「そうですね~。ちょうど小さいバラはつたの部分がほとんど切れてしまってるんで、そこからつたが伸びているって感じがいいと思います。反対側はさらに小さいバラをちょっと細工するぐらいですね。どの道、細工のところとつなげるための爪とかもいりますからそんな専門的な細工は入れませんよ」


「それならいいんですけど…」


「じゃあ、許可も出たので着替えてきますね!」


「着替えるって…」


「そりゃあ、せっかく細工部分がミスリルなのに指輪の土台を銀にはできませんからね」


「ま、待って…」


タリアさんの声が聞こえた気がするけど、気にせず部屋に戻って着替える。ジャネットさんは結局、昨日帰ってこなかったので今は一人だ。


「お着替え終了!さ、もどろう」


「アスカ、ついてく」


「ティタ、昨日言ってたこと?」


「うん」


「分かった。さっと仕上げるから一緒に行こ」


ティタを連れてタリアさんの部屋に戻る。


「ただいま戻りました~」


「はい…」


ちょっと疲れた顔のタリアさんをしり目に作業に取り掛かる。


「それじゃ、まずは指定されたサイズに切り取ってと…」


魔力を流し、内側の円はサイズ通りに、外側は少し厚みを持たせておく。こうすることで微妙なデザインの変更を削ることで可能にするのだ。


「彫り過ぎることもあるしね」


今回は頑張るけどデザイン無しの一発勝負なのでこういう形にしたのだ。


「まずはこの小さいバラから伸びたつたをデザインしてと…次はこっちの方は小さいバラを描いていって」


慎重かつ大胆に線を引いていく。やっぱり植物って生き生きとした感じも大事だから、慎重になり過ぎてもね。


「よっ、ふむ。ここはもう少し曲げて、こっちは花びらをかぶせ気味に…」


どんどん線を引いて作業を進めていく。


「アスカ様、少し休憩されては?」


「そんな時間ですか?」


「2時間ほどは経っているかと、ほら」


カーンカーン


2時間ごとになる鐘の音が聞こえる。作業を始める前にも聞いたからタリアさんの言う通りなのだろう。


「そうですね。別に根を詰めてるわけでもないですし、そうしましょうか」


休憩を取るということでタリアさんが飲み物と軽いお菓子を持ってきてくれる。もっとも、お菓子といっても甘いものではなく、乾パンに近いようなものだけど。


「さぁ、お召し上がりください」


そう言うとタリアさんは机に向かってしまった。


「あれ?タリアさんは休憩しないんですか?」


「私は支店の書類や、会長が仕入れているものの管理がありますから」


「すみません。なんだか付き合わせてしまって…」


「いいえ。私たちは作ったものを見る機会はあっても、作っているところを見ることはありませんから。とても貴重な経験をさせていただいてます。特に職人は見られるのを嫌がる傾向にありますから」


「そういえば細工の町でも見学を始めましたけど、嫌がる工房も多いって聞きました」


「まあ、商人にすれば商品を期日に収めてもらえればいいわけですから、藪をつつくことはしませんしね」


「そっか~、私は集中するとどうでもよくなるから気にしたことはありませんね」


「今見せてもらっておいてなんですが、あまり見せない方がよろしいと思いますよ」


「そうですか?」


「とても集中されていたので気づかれていないと思いますが、見ているだけでも技術が分かりますから。私のような一般人ではなく、職人が見れば問題になると思います」


「そういうことは今までなかったので注意します。ありがとうございます」


「いえ」


その後は20分ほど休憩し、その間もタリアさんは書類仕事に打ち込んでいた。


「そろそろ再開しますか?」


「分かりました」


トントンと書類をまとめて片付けるタリアさん。絵になるなぁ。


「じゃあ、残りの作業をしていきますね」


デザインの線は引き終わったから、今度はそれをもとに彫っていく。


「よ~し、これであとは彫の高さを調節するだけだ」


失敗できるように少し厚めに指輪を作っていたのでその分を削っていく。


「ふむ?これで厚みはいいから彫の崩れたところをもう一回直してと…出来た!」


「完成ですか?」


「はい。あとは爪を作って細工を施した押印部と合わせるだけです。というわけでササッとやっちゃいますね」


これはミスリルといえど、形をちょっと加工するだけなのですぐに終わった。


「さて、あとは…」


「アスカ、おわった?」


「ティタ、終わったよ。そういえば用事があるんだっけ?」


「うん、こじんや、いちぞくにんしょうのまほうじん」


「へぇ~、そんなのがあるんだね。便利だなぁ」


そう言うとティタはスクロールをバサッと広げる。


「えっ?大きくない?」


小さい魔法陣だと思っていたら1メートル四方の魔法陣だ。


「ここにのせる」


「う、うん。わかったよ」


ティタに言われるまま完成したばかりの指輪を乗せる。


「はい」


「あ、うん」


今度はティタから紙を渡された。何々…。


「血族の人の登録をもって他人が使った場合と魔力を通した時の反応が変わります。一族が使った場合は青く、一族以外は赤く光ります。どちらの場合でも光ることで、相手の認識を惑わすことができます。だって」


「複雑な魔法陣ですね。これはどなたが?とはお聞きしてはいけませんね」


「そうしていただければ。でも、この登録はどうしましょう?まさか、当主の人に来てもらう訳にもいけませんし」


「一族ということなら会長でも問題ないのでは?」


「だいじょうぶ。かたおやでも、いっしょならたいおうできる」


「へ~、必要なものとかあるの?」


「ちがいる」


「ち?血液か~。じゃあ、本人がいないとだめだね。今日ってワグナーさんはいつごろ帰ってきます?」


「一応、昼で終わるとは言ってありますから、一度戻ってくると思うんですけど…」


「それなら、とりあえずお昼までのんびりしましょうか」


というわけでのんびりがてら簡単な細工をするのだった。


「ここはこんな感じでうろこは適当ですね~」


「お魚ですか。題材としては珍しいですね」


「でも、こういうのとか身近な方が分かりやすくていいですよ」


コトン


そう言いながら3つ目の細工を横に置く。形が簡単なので少しの手間で作れるのだ。


「あとは久し振りにオーク材で作ろうかな?」


時間はかかるけど、やっぱり手でやるのもいいなと思ってオーク材を削っていく。形はどうしようかな?せっかくだし、グリディア様像だな。


「タリアさんってちょっと似てるし、いたずらしちゃおう」


私はタリアさんの服を確認して、グリディア様の衣装に取り入れる。


「ふんふ~ん」


「あら、ご機嫌ですね。木像ですか?」


「はいっ!せっかくだからグリディア様の像をと思って」


そして、作業を進めていく。


「あ、あの、アスカ様?」


「どうかしましたか?」


「心なしかこのグリディア様の像、私の服装に似ている気がするのですが…」


「そうですね~。でもほら!こういうデザインって細工師に依頼して初めてできるものですし、記念ですよ。ここにきて最初に作る神像ですからね」


「それならもっといい題材が…」


「そうですか?タリアさんの今の服装とかよく似合いそうですよ?」


アスカは日本という独特の宗教観の国で育ったため、神様の服装について特にこだわりはなかったが、そもそも本物が存在するこの世界では基本的に神像の服装は保守的だ。よく言えば神秘的なイメージ、悪く言えば代り映えしないものなのだ。前回、細工屋で広げた中にも神像はあったが、妥当なものだったため、タリアもこれは予想外だった。


「ですが、流石に恥ずかしいですね」


出来上がった神像をタリアさんに確認してもらう。冬なので少しもわっと膨らんだ服に下は厚手のスカートといういで立ちだ。デザインは私が細工をしていた関係で膝を内に向けて座っている形に落ち着いた。


「ふぅ~、まあこんなところですかね。久しぶりに手でやったのでちょっと緊張しましたけど」


どうしても魔道具を使う機会が多かったからね。


コンコン


「は~い」


「アスカ様、タリア、いますか?」


「会長、いますよ。入ってください」


どうやらワグナーさんが帰ってきたみたいだ。


「どうも。それで進捗はいかがですか?」


「無事に完了しましたよ。今は時間が余ったので休憩がてら細工をしていたんです。見てください、ほら!」


「あっ…」


「これはタリアですか?ですが、このお姿は…」


「はい!せっかくなのでタリアさんの服装でグリディア様の像を作ってみたんです。似合ってますよね?」


「似合ってはいますが…神像に」


「え~!でも、ちょっとタリアさんってグリディア様に似てませんか?確かに本人はもう少しはきはきとされてますけど…」


「本人?」


「あっ、いえ。イメージより清楚ですけど、おかしくはないと思うんですよ!」


ふ~、危ない危ない。


「そう言われてみると変ではありませんね。ですが、この像は売れないのでは?」


「まあ、モデルがいますし流石に厳しいですね。でも、ここ数日ずっと付き合ってもらいましたし、プレゼントしますよ」


「ええっ!?」


「いえいえ、これだけの出来でしたら買取しますよ」


「でも、即興で作ったやつですよ?」


「それでも市場に流れているやつよりいい出来ですよ。商会にでも飾っておくには問題ありませんし」


「気を使わせてしまってすみません」


「いいえ」


というわけでしばらくの間、このタリアさんの服装をしたグリディア様の像はべネス商会の客間にあったらしい。



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