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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
16章 石の町グラントリルとアスカ

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細工卸し

子どもたちや保護者とも打ち解けたところで、もうしばらく遊び帰る時間になった。


「またね~」


「ばいば~い!」


口々に別れ、私は宿に戻る。


「楽しかったね、みんな」


ピィ


んにゃ~


「うん」


アルナだけでなく、キシャルも今日は楽しかったみたいだ。でも、見てる限りだとそんなに触らせてなかったけどね。やっぱり子どもは体温高いから苦手なのだろう。


「ティタもお疲れ。大丈夫?巨大化してたけど」


「うん。アスカは?」


「私も休んでたから大丈夫だよ」


ティタの巨大化のスキルはなぜか私の方に大量のMP消費が来るから大変なんだよね。どうしてこんな仕様なのだろうか?


「お帰りアスカ」


「ジャネットさん!帰ってたんですね」


「まあ、何もないうちにね。楽しかったかい?」


「はいっ!町の子どもたちともいっぱい遊びました!」


「そうか、それはよかったねぇ」


ジャネットさんに頭をなでてもらう。


「あっ、そうだ!」


「うん?」


「ワグナーさんからの家紋の依頼済ませないと」


確か、そこまでは滞在しないってことだし、そろそろ取り掛からないとな。


「今日はもう遅いしいいんじゃない?」


「そうですね。材料だけ準備しておきます」


作る際はミスリルか銀になるだろうから、必要と思われる量を準備しておく。


「あとはご飯までゆっくりしましょうか」


この町に来てから色々あったし、たまにはお休みしないとね。バルドーさんにも周りを見ろって言われたし。


「おや、いい傾向だねぇ。なら、休むか。よっと!」


「ひゃっ!」


ジャネットさんに抱えられてベッドに入る。


「ほら、さっさと寝ないと夜になるよ」


「こ、子どもじゃありません!」


「じゃあ、妹?」


「むぅ」


まあ、引き込まれてしまったものは仕方ない。ちょっと疲れたし、寝るとしよう。


「おやすみなさ~い」


「はいよ。おやすみ」



その翌日。


「こんにちわ~」


「あら、アスカ様。どうされました?」


「ワグナーさんに言われていた、家紋の件なんですけど」


「ああ、その話ですね。会長、お願いします」


「アスカ様、お体の方はよろしいのですか?」


「はい。元々けがはありませんから」


「では、物はこちらです」


「わぁ~!大きな一輪のバラですね。あっ、小さな花もついてる」


「ええ。それが元うちの家の家紋でして」


「えっと、インクを付けて押印出来るようにすればいいんですよね?」


「ええ。ただ、貴族が使うものになりますので、使う個人を特定できる仕組みなどがあればなお良いのですが…」


「ティタ。出来そう?」


「アスカのまりょくなら」


「私?でも、そういうのは詳しくないんだけどなぁ」


魔道具を作るのも感覚派の私には、そういう細かい調整なんて向いてないと思うんだけど。


「まずはスケッチにとりますね。こういうのってこの部屋でやった方がいいですか?」


「そうですね。家紋の詳細なスケッチとなると、取った後はこちらで預からせていただいても?」


「そうしてください」


「では、スケッチ料はお支払いしますよ。これはこれで役に立つでしょうから」


「じゃあ、責任重大ですね」


気合を入れて描き始める。大きなバラはほぼ中央に、そこに小さいバラが添えられている家紋だ。


「ふむふむ。ちょっと、押してみたのを使おう」


スケッチ以外にも実際に押したものを横につける。こうしておけば出来上がったものとの差がきちんと把握できる。流石に貴族の持ち物をずっとは持てないしね。


「ここのつるのところは細かいなぁ。どっちかというとここが一番難しいかも」


「あら、そこは簡単なように見えますが…」


「ところがですね。ここの葉の出方とかつると葉の境のところの線とか細かいんですよ。しかもこれ、押したらはっきりわかるんですよね」


そういいながら私は押印したものと突き合わせる。


「あら、本当ですね。流石はアスカ様。私は気づきませんでした」


「意匠を見る限り、こういう何気ないところの腕が光りますね。逆に花弁はきれいですけどそれだけですね。特別な技術って感じでもないです。この小さい方はサイズだけでなく先が特徴的ですね」


「先?」


「はい。つるが伸びてきてそこから花が出ているのを省略して描いてますけど、すごく柔らかく下から伸びてるんです。これは、実物をスケッチして頭の中に入れてないと難しいと思います。私も一度お花屋さんに行ってきます」


「そ、そこまですごいのですか?」


「ですね。ぱっと見は大きい花が目立つようになってますけど、それ以外のところが難しいですね。多分中央の花はその辺の店でも作れると思いますけど、他はあまりいないんじゃないでしょうか?」


私も一応はこの間、街なんかでちらりと細工を見ている。小さい街ではどのぐらいが普通なのか知ってはいるのだ。ただ、低価格のお求めやすい細工をみんなにという野望がちらつくだけで。


「ん~!とりあえず、スケッチはこんなものかな?」


「では、お昼にいたしましょう」


「もうそんな時間ですか?」


「ええ」


タリアさんに連れられて食堂に向かう。食堂ではリュートがお客さん相手に料理を出していた。


「へぇ~、こいつも兄ちゃんが?なぁ、これうちの店に出していいか?食材も町に出入りする商人から買えるからよぉ」


「いいですけど、商人ギルドで設計料の契約をしてくださいね。名前はトリニティです」


「そこに金を払えば作れるのか?」


「はい。それだけじゃなくて、他の料理もありますよ。料理の数で金額も変わるので、必要な分だけでも可能です」


「そりゃあ、ありがたい。うちの店は酒をほとんど扱ってなくてな。料理の種類も限られてるから助かる」


「へぇ~、これ以外にもあんのか。うちも考えるかな?」


どうやら、料理のレシピを公開することはあまりないようで、店を開いている人もほとんど商人ギルドに問い合わせをしないらしい。大体は料理の仕入れについてのことだという。


「さて、料理も食べたし作業再開です!」


といってもまだスケッチを終えただけだ。ここからは実際に型を作っていく。


「まずは銅を取り出してと…」


「型は銅で作られるのですか?」


「はい。銅が加工しやすくて、強度もあるので。今までの細工物も全部型を作ってマジックバッグに閉まってあるんです。初期のころに作ったやつとかはもう恥ずかしいレベルですけどね」


「いえいえ、そちらを見ればアスカ様の細工の上達ぶりが分かるというわけですね」


「ま、まあそうですかね…」


改めてそう言われると恥ずかしいなぁ。


「それじゃあ、一度作っていきますか!」


さっきのスケッチの内容を思い出しながら型を作る。


「とりあえず、指輪部分と押印に使う部分を分けてと。接着についてはあとで考えよう。全体の形はこうだから魔道具で削って、大まかな形をとって…」


簡単な部分から形作っていく。半分ほど終わったところでいよいよ本番だ。


「ちょっと席を外しますね」


「ええ。どちらへ?」


「部屋に着替えに」


「はぁ…」


怪訝な顔をするタリアさんを部屋に置いて私は自室に戻り着替える。


「やっぱり、この服じゃなきゃね」


アルバのお店で買った、銀糸のワンピースに着替える。魔力を消費して集中力を高めるこの服を着るだけでもいいものが作れる気がするから不思議だ。


「お待たせしました~」


「えっ!?その服は?」


「こう見えてこれも魔道具なんですよ。MP消費はありますけど集中力が増すから大事なんです!」


「それにしても…」


まじまじとこちらを見てくるタリアさん。


「どうかしましたか?」


「その髪色と相まってとても神秘的ですね。まるで見せていただいたアラシェル様のようですわ」


「そ、そうですか。照れますね」


いくら何でもあんな美女じゃないと思うんだけどなぁ。照れつつも作業に戻る。


「さぁ!ここからですよ」


隣にはデザイン画を置いて反対側には今の指輪。見比べながら、しっかりと技術を出せるように魔道具を動かしていく。


「ここは…わずかに内側に沿って。あとはカーブを…」


どんどん作業は進むが、スムーズにとまではいかない。高い集中を維持しながら作業する場面が続くため、見た目の変化は少ない。


「ふぅ…ちょっと休憩」


ゴクゴク


休憩といっても実際に休むわけではない。服の効果によって減っていくMPを補充するものだ。


………


「ん~!終わった~!」


「お疲れ様です。こちらをどうぞ」


「ありがとうございます!」


タリアさんからジュースをもらって一息つく。出来上がった銅の型はというと…。


「うん!いい感じ。あとは一度、ワグナーさんに確認してもらわないとね」


「会長に?これ以上ない出来と思いますけど…」


「必要なのは家紋をちゃんと表したものですから。残念ですがワグナーさんがダメといったらこれはつぶすしかありませんね。家紋の複製を疑われちゃいますし」


「そうですか…そうならないことを祈っています。では、そろそろお食事にしましょう」


「へ?」


そう言われ窓の外を見ると、辺りは真っ暗だった。


「あはは…結構経っちゃってますね」


「待つように言ってますから大丈夫ですよ。こちらについては食後に会長に見てもらいましょう」


というわけで出来上がった指輪を置いて、私たちは食事に向かったのだった。




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