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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
16章 石の町グラントリルとアスカ

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師匠と呼ばせていただいても?

奥の部屋に入った私たち。さっそく、作った細工を出していく。


キショウブの多重水晶

ユリのネックレス

ショウブのブレスレット

ユリの指輪

桜の指輪

プリファの小さな髪飾り

プリファの大小2つの花の髪飾り

月と大小の花の髪飾り


これらの在庫品を見てもらった。


「おおっ!?この細工、2重水晶じゃいい出来だぞ」


「あっ、それ3重ですよ!」


「はっ?」


「ええっ!?そんなのできるの!…出来るんですか?」


「ま、まあ、コツというか大きさの制限とか、いろいろ苦労はありますけど作れますよ、普通に」


「バルドーのやつ、こんな難題を送ってくるとは。酒の一杯なんて言うんじゃなかったぞ」


思わず隣を見るとタリアさんも頭を左右にふるふるとしていた。ええっ、なにも変なこと言ってないのに…。


「3重だと…これはいくらで売るんだ?」


「まあ、素材は水晶ですから技術料込みで金貨7枚ぐらいですかね?」


「「金貨7枚!?」」


2人は同時にそう叫ぶと何も言わなくなってしまった。


「おい、お前がこれを金貨7枚って言われたらどうする?」


「あるだけ買います。それか、専属契約を勧めます」


「だろうな。こんなものをこの値段で売る細工師は他にいないだろうな」


「で、でも、細工の町の人は慣れたら出来ましたよ?」


「細工の町ってフェゼル王国のか?」


「はい」


「お前、あそこのものがこっちの大陸に流れてくる過程でどれぐらい値段が上がると思う?」


「えっと、銀貨5枚ぐらい?」


「はぁぁぁぁぁ~、いくら国を出たことがなかったからといってな、知らないってことはだめだ。隣の大陸で1割から2割、離れると3割上がってもおかしくないんだぞ」


「で、でも、今回のやつは1割だとしたら銀貨7枚だし、そんなに差がないんじゃ…」


「まずこれ自体金貨10枚は下らんわ、馬鹿者!」


「ひょえぇぇ…」


「それとな。1割ってのはもっと安い商品だけだ。海を渡るリスクと売れなかった時のことを考えろ。そんなんじゃ、細工以外は一切扱えんぞ!」


「あ、いや、それは別に…」


「口答えするんじゃない!」


「はい!」


「今から商売のイロハってやつを叩きこんでやるからな」


こうして、おじさんのお値段講座が始まったのだが…。


「うん。この魚の細工は変わってていいな。確かにこれなら、大銅貨3枚ぐらいでも売れる」


「そうでしょう?でも、体に合わない人がいるから銀で…」


「馬鹿もん!それなら銀貨2枚になっちまう。それなら、木製にして色味で何とかしろ」


「なるほど!」


「気軽に銀、銀というな。新人じゃあ使えんやつもいっぱいいるし、全員がそのアレルギー?だかになるわけじゃないんだろうが」


「それはそうですね」


「そうなるとお前が滞在する街には銀の細工があふれちまう。これまでそこで頑張ってた新人の作品の行き場がなくなるだろうが!」


「はっ!?確かに…」


「んで、このユリのネックレスは何で中央が空いてんだ?」


「そこは魔石をはめ込むんです。守り石とかでもいいですし、簡易魔道具ですね」


「なるほどな。これの価格は…いや、いい。アスカ、お前にはこれから紙を渡すからこれを覚えて値付けしろ」


「は、はい」


というわけでおじさんから1枚の紙を受け取る。


「なになに…」


A+:ミスリル、または銀で精巧に作られた細工。金貨10枚以下にはしない

A:ミスリル交じりか銀で精巧に作られたが、未彩色・一部微妙な点がある

B+:銀で作られた秀作程度のものか、銅や鉄などの優れた細工物

B:銅や鉄で作られた秀作。オーク材で作られた出来のよいもの

C:大量生産用の銅・鉄・オークで作られたもの。もしくはBの欠けがあるなどのB級品


目安としては最低金額がA+は金貨10枚、Aは5枚、B+が3枚、Bが1枚。Cは銀貨か大銅貨ということだ。


「ちょっと高くないですか?」


「高くない。お前の細工の実力からいったら、これ以上は下げようがないんだ。試しに…いや、実際に試すなよ?お前の作品を一つでも大銅貨7枚ぐらいで売ってみろ。2度と新人の作品は見向きもされないだろう」


「そんなに差がないと思うんですけどね」


「アスカ様。3重水晶は細工の町の職人でも練習が必要なのでしょう?」


「まあ、やれば大体の人はできるようになると思いますけど」


「普通の町の職人でも大ベテランと呼ばれる人が1人できるかどうかでしょう。それでも、成功率は低く店頭に技術の証として飾るのが関の山です。新人がこの域に達するには現状から20年はかかるかと」


「そ、そんなにですか!?」


「お前さんは別の細工師を見たことがないからわからんかもしれんが、そもそも個人の作品を作るまでの年数が必要なんだ。弟子入りして数年は基本の技術の習得と、簡単な修繕や下処理だけを行うんだ。そこから数年かけて個人の作品に移る。大体10年ぐらいか?」


「そんなにかかるんですね!」


「そうですね。だから、名前が売れる前に辞める人も多いし、少々売れたところで生活は苦しいんですよ。それまでに借金している人も多いですから」


本格的に弟子入りしている人は他に収入がないので、売れる頃に作品を安価に流す契約をすることでお金を借りることも多いんだとか。


「だから、値付けの常識が必要なんだよ。お前さんの言う思いっきり手を抜いたもんでも、町の人にとっちゃ立派な細工物ってこった」


「分かりました、師匠!これからもよろしくお願いします!」


「お、おう?」


「師匠はすごいですね!お店も経営しながら細工までなんて!」


「い、いや、細工はだな…」


「アスカ様、店主さんが細工も一流だと勘違いしてますね…」


「そのままにしとけ。その方が話も早いし、おやっさんが楽だ」


「バルドー!店はどうした?」


「いや、気になったもんでね。どうだ?うちのアスカは。すごいだろう?」


「すごいというかどうやったらこうなるんだ?」


「さてな。その辺はジャネットも知らんようだし、どうにもな」


「それで、わざわざ見に来ただけか?」


「いや、そろそろ飯の時間だろ?」


「むぅ、もうそんな時間か。行くとするか」


「いいんですか?」


「もちろんだ。師匠だからな!お前もこい」


「お世話になります」


というわけでみんなでお昼ご飯だ。


「それで、進捗はどうなの?やっぱりすぐに終わっちゃった?」


「んなわけあるか!まったく、どこで学んできたんだか。よっぽど周りのやつが気を付けて扱ってたんだな。おっ!今日はうまいな」


「今日は、は余計でしょ。お父さんたら」


「師匠ってすごいんです!目利きもすごくて、塗装の意味とか魔石の枠の形とかも詳しいですし。店にあるのもきれいですよね!」


「アスカちゃん別にお父さんは…」


「んん!ジェシー、マルクは?」


「寝てるわよ。どうしたのいきなり?」


「いや、なんでもない。ならいいんだ」


「それにしても、これオークアーチャーの肉っぽいですよね。この辺にもいるんですか?」


「めったに見ないわね。アーチャーじゃ、弱いもの」


オーガもよく出るこの周辺ではオークの実力では中々生き残れないらしい。オーガかぁ、お金にも食料にもならないんだよね。


「出所はどこなんです?もぐもぐ」


「リュート君よ。ここで食べるだろうからって」


「げほっ!リュ、リュートが!?」


「そう。アスカちゃんが迷惑かけるだろうからって」


「もう…子どもじゃないのに」


「まあ、心配されてるうちが花だな」


「そういえば、聞いたぞバルドー。シウスのやつがまた何かやるらしいな」


「まあな。だが、一応相手の了解は取ってるぞ。昔とは違うんだよ」


「やれやれだ。あいつは本当に変わらんな」


「シウスさんと知り合いなんですか?」


「私がね。バルドーとシウスは年も近いから、それでお父さんもよく気にしてたの」


「腕はいいのにあんな性格だからな。よく生きてたもんだ。強い魔物と聞けばパーティーを置き去りにしてでも突っ込むやつだからな」


「そ、それは周りも大変そうですね…」


「大変なんてもんじゃないわよ。あの頃私は受付になったばかりでおかげでいっぱい解散と結成に関わらせられたんだから!」


「解散ですか?」


「そりゃあ、あんな危険な依頼ばかりを受けたがるリーダーなんて御免だろ?冒険者だって強くなりたいだけじゃない。そこそこ稼いで引退したい奴も大勢いるんだ。そういう奴らはけがを恐れるからな」


「そういうバルドー、あなたもよ。せっかく穏便に済ませてたところに。『そんな二流とじゃ、どうせ無理さ』なんて煽るから」


「そ、そうだっけか?いや、昔のことだしな」


「まあ、それより飯だ。冷めるぞ」


その後も楽しい食事は終わり、午後はというと…。


「ほら、それはもう一つランクが上だろうが!」


「で、でも、こことかちょっと…」


「お前の評価は高すぎるんだよ。職人と考えるといいんだが、ちゃんと市場と合わせろ。他のやつらはそういう目利きには疎いんだろうが?それならお前が頑張るしかないんだぞ」


「うう…。わかりました」


むむ~、ちょっとぐらいいいと思うんだけどな。でも、他の人との兼ね合いもあるなら仕方ないか。それに…。


「おい!今、それならつぶしてしまえと思っただろう?」


「なぜそれを…」


「顔に出てるんだよ!いいか、それでももうけが出ないとだめだろう。まさか冒険者だからそっちで補おうなんて思ってないだろうな?」


「そんなことありませんよ~」


なぜばれたのか?ううむ。やっぱり師匠の読みはすごい。


「まず、お前は細工を作る以外の時は生活に密着させろ。冒険者の財布と分けてな。その中で今日のもうけが0になったらと考えるんだ。まだ若いから実感はないかもしれんが、けがとかの可能性もあるんだ。そうなったらどうやって稼ぐ?」


「えっと…」


「冒険者も細工師も廃業かもしれん。その時に考えるか?いきなり、これまでの販売価格を上げるのに誰が納得する?そういうもんだぞ」


「そういわれると…」


「今はお前ひとりだからいいかもしれんが、そのうち子どもとかができてみろ、そいつの生活にも関わるんだぞ」


「子ども…」


「ま、まあ、アスカ様にはまだ早いと思いますが、そうなるとしばらく細工もお休みされるでしょう?そういう時期にどう生活するかということもありますわ」


「なるほど~。そういわれると納得ですね」


というわけで、これからはあんまり安く売るのとつぶさないように約束してその日はお開きになった。



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― 新着の感想 ―
[一言]  実直な仕事にはふさわしい報酬を。  住民の多くに変人だと知られてない場所で、日本基準による安全かつ低いコスト計算で価格設定をする変人だったとさ。  ホント、他の商人達にとっちゃ悪夢です…
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