休息と指南
ギルドへの報告も終え帰ろうとすると呼び止められた。
「おっと、そうだった!お前ら疲れてて気づかなかったようだが、冒険者の一人がこいつを渡してくれたぞ。あとで飯ぐらいおごってやるんだな」
「なんです、この青い石?」
「ミスリルゴーレムの魔石だとよ」
「珍しい奴もいたもんだな。普通はそのまま黙っておくってもんを」
「お前が前に助けた冒険者だ。恩返しだそうだ」
「Bランク魔石でか?割に合わないだろ」
「効果はなんなんですか?」
「なんだったかな?パルメ、覚えてるか?」
「一応。確か魔力を一部増幅して放てる。だったはずです。ちなみに全属性対応ですよ」
「ゲッ!ひょっとして…」
「前はいくらでしたかね~、金貨90枚?ギルマス覚えてます?」
「前ん時はちょうど王都から来てた冒険者がいて、セリになっちまったから120枚ぐらいだったか?それでも安い方だぞ。魔力増幅の魔石はほとんどないんだよ。あと思いつくとすれば増幅ではないが、威力を高める竜眼石か?」
「マスター、何言ってるんですか!あんなものお目にかかれるわけないじゃないですか。こっちでも出たって話はないんですよ。ミスリルでも出るのに、竜眼石は全く発見報告がないんですから!」
「こ、こっちでも珍しいんですね…」
「もちろんですよ!ひょっとして、アスカ様方もお探しで?」
「え、あはは。まあ、持ってみたいとは思いますよ」
もう、持っちゃってるけどね。
「ですよねぇ~!魔法使いなら憧れですよね~」
なんなら、今あなたの目の前にある杖の石がそうなんですよ。ちょっと、別の石をかぶせて色を変えてますけど。
「ふふっ、そういうところは子どもっぽくて安心したわ。やっぱり、あこがれる装備ってあるわよね!」
「ソウデスヨネー」
それ以上は何も言えず、そのまま一部のミスリルをギルドに売って帰ったのだった。
「アスカ、偉いぞ~!ちゃんと黙ってたな、竜眼石のこと」
わしゃわしゃと頭をなでるジャネットさん。
「まぁ、当然ですよ。それぐらいはできますからね!」
「威張ることでもないような…」
「しっ!」
「でも、今日は疲れました」
「そうだね。久々の強敵だったしねぇ」
「同じ1体でもオーガの上位種とは違いましたね」
「魔法の耐性というかコントロールがねぇ。あれを抜いてもそこそこだけど。まあ、戦闘技術がないのは楽でいいよ。速くたって無駄な動きも多いし」
「あっ、それは戦ってても感じました。動きが単純なんですよね」
「でも、大人数で戦ったら動きにも制限かかるから危険そうだね」
「ああ、そりゃあねぇ。しかも、本来はそうやって戦う相手だし、あそこで倒しておかないと被害は出ただろうね。それより今日は疲れただろう?早めに飯を食べて明日に備えなよ」
「ですね~。ふわぁ~、ご飯食べましょう」
疲れたからか、さほど起きないやる気を出して食堂に向かう。
「おや、あんたも駆り出されたのか?今日は何でも強い魔物が出たとかで、冒険者が慌ててたよ。でもまぁ、強い冒険者もいるもんで、無駄骨だったらしいがね」
「そ、そうなんですか…それは大変でしたね~」
「なに言ってんだよおっさん!その子たちが俺たちがさっき話してた人だぜ!もう、強いのなんのって!」
「やめてくださいよ!そんなに強くないですよ」
「いやいや、助かったぜ」
「なるほどな。それじゃあ、今日は従魔も一緒でいいぞ!一緒に戦ったんだだろ?」
「ほんとですか?連れてきます」
急いで部屋からアルナとキシャル。それに珍しくティタも連れてきた。
「飯はなんにするんだ?街の英雄だからな。毎日は無理だが、今日ぐらいは食わせてやるよ」
「やったぁ!なんにしよう?ねっ、リュート!」
「どうしようかな?疲れてるから、胃にやさしいものとかかな?」
「そう?まあ、頼んじゃおうよ」
というわけで好意に甘え、一通り注文をする。
「キシャル、分かってると思うけど、いつものように…」
にゃ!
私が言うより早くキシャルは出された料理にブレスを浴びせ、今日も凍らせて食べ始める。
「おおっ、すげぇな。このちっさいの」
「あ、あはは…害はありませんよ」
「でも、あったかいのをそのまま食べないで凍らす奴なんて初めてだなぁ」
「おう!まあ、氷魔法自体初めて見るけどな!」
「そういやそっか!」
はははと酒を飲みなおす冒険者たち。おおらかだなぁ。
「よかったね、キシャル。いつものように食べていいって言われて」
にゃ~
もう許可は得たといわんばかりに料理を凍らせるキシャル。
にゃ!
ついでに冒険者たちのエールも冷やし始める。
「おっ、おおっ!これは冷えててうめぇ。ありがとな」
冷蔵庫なんて高級品は一般の家庭どころか店舗にもないので、冷え込んできたとはいえ、まだエールはぬるいのだ。なんだかんだ言いながらも町への脅威が去ったということでその場は盛り上がった。
「ふぅ~、いっぱい食べましたね~」
「あんた、途中から適当にもらってただろ?食べすぎじゃないかい?」
「ですね~。良くないんですけど今日はもう寝ます」
「そうしなよ」
みんなに挨拶をして床につく。今日もお疲れさまでした。
ちゅんちゅん
「ん…」
小鳥のさえずりで目を覚ます。体を起こすとそこには町の小鳥たちと戯れるアルナの姿があった。
「おはよ~、アルナ。お友達~?」
ピィ~
そうだよとみんなを紹介してくれる。バーナン鳥もいるけど、他の種類の小鳥もいるみたいだ。
「それなら、ご飯あげないとね。ちょっと待ってね~」
眠気まなこをこすりながらマジックバッグから薬草交じりのご飯を出す。
ピィ!
アルナはみんなにこれは栄養もあっておいしいと紹介しているみたいだ。だけど、町の小鳥たちは見慣れない人間からのご飯だからかちょっと緊張してるみたい。
「というか、キシャルがいると余計緊張するよね。ほら行こう」
にゃあ~
キシャルを誘って朝食を取りに下に降りる。
「おはようございます!」
「おおっ!おはようさん。飯ならそこにあるよ」
「は~い」
どうやらこの宿の朝はセルフみたいなので用意されているところからご飯を取る。
「あら、アスカ様。おはようございます」
「タリアさん!おはようございます。今日はお休みですか?」
「そうですね。まだまだ、ついて直ぐですし、昨日は簡単な市場調査をしておりまして…どうやら騒ぎがあったみたいですが」
「はい。まあ」
なんか自分から活躍しました!というのも恥ずかしいので、やや言葉を濁して答える。
「なんでも、大きな魔物相手に小さな冒険者の方が大活躍だっただとか」
「小さくありません!」
「あっ、あら、小さな冒険者というのはアスカ様でしたのね。申し訳ありません」
「あっ!?」
しまった。自分からバラしちゃった。
「違うんです!ちょっと現場に居合わせただけで…」
「ん?タリア。誰と話して…おおっ!アスカ様ではないですか!?昨日はご活躍だったそうで」
「あ、はい。おはようございます」
むむう、商人さんは耳が早いというけど、ワグナーさんの耳にはもう入っていたみたいだ。
「おはようございます。その後の調子はいかがですかな?」
「ん~、ちょっと今日は寝すぎたみたいですけど、体調には問題ありません」
「それはよかったです。なんでも、良いものを手に入れられたとか。機会があればまたお見せください」
「はい。今日は予定もあるので、数日後になると思いますけど…」
「時間はありますので大丈夫ですよ。私は食事も終えておりますのでこれで…」
ワグナーさんとは食堂で別れた。代わりに食事を一緒に取ったタリアさんとは一緒に細工の店に行くことに。商談もあるし、ちょうどいいんだって。
「こんにちわ~、バルドーさんいますか?」
「ん?アスカか。よく眠れたようだな」
「えっ、まあ、疲れてましたから」
「そういえば、ハイロックリザードと戦ったんだったな。そりゃあ、大丈夫か。おっと連れもいたのか。あんたは、この前もいた商人だな」
「はい。改めましてタリアです。商談のついでといいますか、食事が一緒になりましたのでアスカ様と一緒に来ました」
「そうか。しかし、今日はアスカに常識を教える日でな」
「じょ、常識って知ってますよ。それぐらい…」
「そうか。まぁ、今日教えるのは俺じゃなくておやっさんの方だがな」
「おじさんの方ですか?」
「ああ。アスカ、お前って商品の値付けとかへたくそだろ?」
「へ、へたくそ…。まあ、否定できるかというとあんまりですけど」
実際、店に置く時はアルバならおじさんに、レディトなら商会の人に任せてたからなぁ。唯一値付けてたのはシェルオーク製のアクセサリーぐらいだろうか?
「おやっさんはここで店を構えてうん十年だし、これで3代目だ。今のアスカの師匠には目利きだけじゃなくて諸々ぴったりだと思うんだがな」
「すごいです!私なんてまだ1年半ぐらいですよ!」
「嬢ちゃんと比べられてもな…」
「そういう訳だがあんたも構わんか?」
「はい。実際にアスカ様の細工も見られるでしょうし、勉強になります」
「んじゃあ、客が来ても邪魔だから奥でやるか。バルドー、店番頼んだぞ!」
「おうっ!おやっさんも頼むぜ」
「ふんっ!今度、酒を用意しておけよ」
バルドーさん、お義父さんと仲いいんだな。そう思いながら私たちは奥の部屋に入った。
本年もマイペースに頑張っていきますので、よろしくお願いします!
 




