到着、石の町グラントリル
グラントリルを目指して早1週間。何度か魔物の襲撃はあったものの、順調に進んでいた。
「はぁ~」
「どうしたんですか、アスカ様?」
「いえ、順調なのはいいんですけど、特に何事もないなぁって」
「街道を進んでいるのでそこまで魔物も出ませんから」
「いや、さすがに魔物には出て欲しくないんですけど。中間地点の町も昨日泊まりましたけど何もありませんでしたし」
「あそこは王都との中継点ですからね」
そう、昨日は王都と迷宮都市側の中継地の大規模な倉庫を持つ都市に泊まったのだ。しかし、空き時間に買い付けとかをしようとしたものの、ほとんどの商店で門前払いだったのだ。
「でも、売買先が決まってるからって見せてももらえないなんて」
「その前に商会に所属しているか聞かれませんでしたか?」
「あっ、確かに聞かれました。よくわかりましたね」
「きっと、どこかの商会が販売品の調査に来たって思われたんですよ。あの都市は中継点兼倉庫街ですから、Aという商会がグラントリルからあそこへ、Bという商会はそこから王都や迷宮都市などへという形で輸送をお互いに助け合っているんです。その方が速達性が確保できますからね。だから、注力している商品を知られたくないんですよ」
「それで断られたんですね!」
「あとは、アスカ様の見た目では商会長には見えないでしょうから、買うとしても小口の客だと思われたのでしょう。大口での継続取引が望まれるあの町には合っていないのですよ。出来るだけ、多くの商品をお互いにやり取りして馬車に空きを作らないようにしているんです。特に王都行きは物量が違いますからね」
「残ったスペースに個人用の商品を載せることもしないんですか?」
「場合によりけりだと思います。何もなければそうするかもしれませんが、ああいった馬車は常にピストン運行ですから。馬車自体はとんぼ返りで販売はその町の出張所がするんです。余計なものを積まれるとその商会員に文句を言われたりしますから。売れ残るとただでさえテナント料の高い王都の店舗スペースが無駄になりますからね。他に大衆向け以外にお得意様向けの荷物スペースになることもあるので、中々空きは出ないですね」
「はぁ~、どっちにしても私には縁のない話でしたね」
「仕方ありませんよ。倉庫街は大体そういうものですから。町に出ている商店は付き合いで卸してもらったり、ギルドから仕入れたりという感じですので」
「大きい町って聞いてたので、特色とかあるかなぁって楽しみにしてたんですけど…」
「それは残念でしたね。ですが、グラントリルは正真正銘、石の町。きっと想像している以上の町ですよ」
「そっかぁ~、それは今から楽しみです。そういえばタリアさんもグラントリルにはよく行くんですか?」
「いいえ。一度、行ったぐらいでしょうか?町が近づくと魔物も少しずつ強くなるので、当時は行かせてもらえなかったんです」
以前はさらに商会の規模が小さく、護衛も2人がやっとだったという。御者はもちろん、商人も戦えないと連れていってもらえなかったのだとか。
「じゃあ、最近行けるようになったんですか?」
「そうですね。商会も成長してきましたし、護衛もちゃんと雇えるようになりましたから」
「それなら、私の知り合いの人に一緒に案内してもらいませんか?その人も最近商人になったばかりなので、お互い色々お話しできると思うんです」
「まぁ!ぜひお願いします。私たちもグラントリルまで行くことは少なかったので、助かります」
「ああ~、早く着かないかな~」
「アスカ、出番」
「は~い」
せっかくタリアさんと話していたのに魔物の襲撃だ。グラントリル側に近づくほど増えてきた気がする。まだ、出てくるのはオークやたまにオーガだけど、強くなっていくのかなぁ。
「あと3日…はぁ、本当に魔物増えたなぁ」
これまでは数日に1度ぐらいだったのが、一日一度は街道で魔物に遭っている。街道を外れたらと思うとぞっとする。
「もう少し頑張んな~」
「は~い」
今日も後ろの荷台からジャネットさんが励ましてくれる。というか、毎日あそこに座ってるけど飽きないのかなぁ?
「ね~、キシャル」
にゃ?
最近はキシャルも飽きたのかたまにこちらに来てくれるようになった。まあ、3日に1回ぐらいだけど。
「ほらほら~、ご主人様だよ~」
に”~
「あっ、行っちゃった…」
急に構いすぎたのかキシャルはすぐにタリアさんの方へと逃げていった。
「あら?私の方でいいの?」
にゃ~
構わないというように膝に乗るキシャル。
「はぁ、アルナだけだよ。私に構ってくれるのは」
ピィ
だったらもっと遊べと頭をつついてくるアルナ。いやぁ、そういわれても馬車の中だしね。
「ふふっ、本当に仲がいいですね」
「生まれたころからの付き合いですからね。好奇心旺盛で困っちゃうとこもあるんですけど」
そんな会話をして進むこと早2日。明日にはグラントリルに着く予定だ。
「なんだか、森が小さくなってきましたね」
「ええ。ここからは石の町にふさわしい岩盤地帯ですよ。森は途切れることはないですが南側を通るだけになりますね」
「そっか~、こんなところに住んでるんだ。バルドーさん」
途中の町はもう泊まるだけで、観光もなしだ。夕方に着いては翌朝出発を繰り返していた。ちょっと出発を後らせる時は食料を調達しに朝市に行く時だけだった。
「あと、イベントといえば…リュート!馬車の方お願いね」
「分かった。アスカ、気をつけてよ!」
「うん。行くよアルナ!」
ピィ
私はアルナを連れて、馬車から出る。結構魔物も強くなってきたので、内側の人間が魔物に対応するようになったのだ。
「相手はオーガか…。フレイムアロー!」
弓を取り出すとウルフの矢に炎を付与して先頭のオーガに突き刺す。そこから魔力で一気に火が燃え広がり、一緒に行動していたオーガたちに動揺が走る。
「今だ!トルネード」
その火を巻き込みながら竜巻を、集まったオーガたちの足元に放つ。たちまち熱を含んだ風が巻き起こり、風が止んだ後は魔物が地に伏せていた。
「ははは、アスカ様は相変わらず見事な手際ですな」
「ワグナーさん。けがはありませんか?」
「ええ、もちろんです」
そういうワグナーさんは私が戦うといつも微妙な顔をしている。何かおかしいことしてるんだろうか?
「アスカ、お疲れ様。残りはいなさそう?」
「うん。周辺の警戒、よしっ!だよ」
ぐっと腕を突き出してリュートに魔物がいないことを知らせる。
「そう。なら馬車に戻ってなよ。引き続き、こっちは任せて」
「は~い」
私たちのコンビネーションもうまくなったものだ。変に気づかいが要らないのも大きいかもね。
「そうだ!お土産を確認しないとね」
私はマジックバッグから細工の町で買ったお土産を取り出し、じっと見つめる。相変わらずいい作品だ。そんなこんなでとうとう私たちは石の町、グラントリルに着いたのだった。
「ようやく到着です!」
「はいはい。商人用の入口に並ぶよ」
「ん?護衛か」
「はい。べネス商会です」
「たまにこちらに来る商会か…そっちは?」
「あたしも護衛だけど?」
「…そうか。通行証もあるし通っていいぞ」
なんだかいかつい門番さんに通されて私たちは町に入る。
「なんだか怖い人でしたね」
「ああ、厄介そうな相手だね」
「2人ともそんなに警戒しなくても…ただの門番ですよ」
「いいよねぇ、リュートは。相手にされなくて。でも、アスカの杖を見て警戒するあたりどんな門番だよ。あとでバルドーのおっさんに聞いてみるか…」
「そのバルドーさんですけど、どこに行けば会えますかね?」
「えっ!?待ち合わせとかは?」
「特には…着けばわかるって書いてましたけど」
「しょうがない。まずはこっちの護衛依頼を片すか」
「すみませんね。こちらもあまり来ないもので」
「宿は決まってるのかい?」
「毎回、違う宿に泊まっています」
「それならバルドーのおっさんを探すついでに商人ギルドへ報告に行くか。今は商人ギルド所属だしな」
「そうしましょう!さすが、ジャネットさんです」
というわけで、グラントリルに到着すぐ再会とはならず、まずは町の商人ギルドに護衛の依頼報告をするために向かったのだった。




