ゲンガル到着
「ん~、良く寝た。かな?」
実際は見張りの順番が真ん中だったので、まとまっては寝てないんだけどね。
ピィ
「アルナおはよう。リュートにご飯貰おうね」
テントを出て、朝食を用意しているリュートを手伝う。
「おはようアスカ。先に顔洗ったら?」
「う~、そうする」
まだちょっと眠い目を覚まさせるため、ティタに水を出してもらって顔を洗う。ついでにコップに水も入れてと。
「はふ~」
「おはようさんアスカ。よく眠れたみたいだね」
「はい!今日は町に行く日ですしね」
「どこでも寝られるのは良いことだよ。今日は川が見えたら北上するからね」
「了解です」
朝食を取ってまずは西に進んで川を目指す。適当に北西に進んでいけば町にたどり着けるはずだけど、そこは未踏の地。安全を考えて分かり易い道を行くのだ。
ピィ
「さっきからどうしたのアルナ?川の方ばっかり見て」
「さかな、とりたい」
「ああ、釣りかぁ。久しぶりだね」
「それならもうちょっと後にしてくれよ。今魚を取っても食べるまで長いんだから」
「ですね。アルナ、お昼近くになったらお願いするね」
ピィ
こう見えてアルナは釣りが得意だ。釣りというか狩りなんだけどね。でも、まだ昼には早いのでそのまま川沿いに北上する。しかし、当たり前というか水源を求めた魔物とはち遭ってしまった。
「います!前方に6体。大きさは小さいです」
「なら、ブルーバードかね。リュート、気を付けなよ」
「はい!」
ジャネットさんとリュートは川沿いで見通しがいい中を進んでいく。私はちょっと後方から弓を構えて飛び立つのを待つ。向こうも気付いたみたいで一気に飛び立って襲いかかるつもりだ。
クワァー
飛んだ瞬間、1羽に狙いを定めて射る。射る前に風魔法を付与しているので速度もばっちりだ。
トスッ
まず1羽を落とし、次に目を向ける。
シュー
「水魔法!?この程度!」
恐らくアクアスプラッシュだろう。向かってくる水の魔法を風魔法で撃ち落とす。あっちは収束しているけど、魔力は私の方が勝っている。中級魔法を使わずとも防げる。
「今だ、ウィンドカッター!」
私が攻撃を防いでいる間にリュートが側面から魔法で攻撃する。さらにジャネットさんも跳びかかって斬りつける。だけど、今回の相手はやや小さく、空に逃げられるので動きは小回り重視だ。
「ちぃ、空に逃げたか。なら!」
こっちは空に対しては投擲と魔法が主だ。私は弓もあるけど、大体みんな冒険者はこんな感じだろう。
トスッ
「よし、あと3体…そこだ!」
集中して矢を放つ。中型の鳥なので動きが読みやすいのが助かっている。アルナたちみたいな小鳥は急上昇とか急加速も出来るので、もっと難しいのだ。ヴィルン鳥に至っては風魔法も使えるから余計にだけど。見れたら幸運だって言われてたしね。
バシュ
1体は仕留めたものの私の矢を避け、反撃にブルーバードが放ったアクアスプラッシュへ別のアクアスプラッシュが迫る。それはそのまま貫通してブルーバードを1羽落とした。
「ナイスティタ!最後はあたしが…」
「はぁっ!」
ジャネットさんが空にいる最後の1羽めがけて飛ぼうとしたところへ、横から一筋の光が魔物を穿つ。
「よしっ!」
「ちっ、リュートに獲物を横取りされるとはね」
「魔槍は投げられるのも利点ですから」
「やれやれ、あたしも精進しないとね。近接はともかく遠距離はどうも苦手でね」
倒したブルーバードたちを一か所に集める。6羽いた中で魔石を持っていたのは2羽だった。まぁまぁかな?オークメイジなんかはそんなに落とさないしね。
「えっと、ブルーバードはと…」
「羽毛と肉だね。肉は結構おいしいみたいだよ」
「ありがとリュート。なら、解体もお願いね」
「了解。ジャネットさんもお願いします」
「はいよ。アスカ警戒は任せたよ」
「分かりました。アルナもお願いね」
ピィ
「ティタも」
ティタは私の肩から、アルナが空から警戒している中、解体は進んでいく。最初はオークの解体とか気分が悪くなっていたけど、最近は慣れたから大丈夫だ。身も川できれいに洗っておく。ギルドの方にそのまま持って行ってもいいんだけど、解体費用もかかるし自分たちで取りたいところもあると面倒だからね。馴染みの町ならともかく初めての町だとトラブルになっちゃうこともあるらしいし。
「こっちはあらかた終わったよ。後は内臓の方だけどそっちは任せる」
「分かりました。こっちはもう終わってますからアスカの方をお願いします」
「了解。んじゃ、休憩代わりに見張りでもするかね」
内臓処理をリュートに任せジャネットさんも見張りに加わる。解体の腕はジャネットさんもリュートも変わらないけど、普段から料理をしているリュートの方が部位ごとに切り分けるのは得意なのだ。適材適所だとジャネットさんは言うけど、私は解体に関してはやることがないのでちょっと後ろめたい。
「リュートどう?」
「もうちょっと。流石に初めてで慎重にやってたから」
「分かった」
警戒を続けつつ、川の水を汲んでおく。ティタの水魔法でも大丈夫だけど折角だし、魔力ももったいないしね。もちろん、鍋に汲んだ後は簡単だけど火魔法で一旦沸騰させておく。生水は当たると怖いからね。結局、魔力を使ってる気がするけど気にしない。自然の水の方がおいしい気がするし。無事に解体も終わって後はそのまま町に向かう。
「衛兵には誰が話しかける?」
「普通にジャネットさんでいいんじゃないですか?」
「アスカはやらないのかい?」
「まじまじと見られるの嫌です」
「んじゃ、入るとするか」
「ん?冒険者か?」
「ああ、一緒のパーティーだよ」
「念のため全員分見せてくれ。見慣れん冒険者は全員確認する決まりなんだ」
「あいよ。そうだ、数日泊まる予定なんだがいい宿を知らないかい?」
「アクアスという宿がいいぞ。銀貨2枚で5日は泊まれる。朝夕の食事つきだ」
「風呂は?」
「町の中央に1軒あるだけだな」
「了解。ありがとな」
ジャネットさんが後ろの人たちに分からないように大銅貨を渡す。表立って渡すと体裁悪いからね。こうしてゲンガルに入るとアルバのような感じだ。町の規模としたら半分ぐらいだけど、入り口はショルバ方面ということもありそこそこにぎわっている。
「宿はと…あっちですね」
町に入ると必ず入り口近くに案内板があるから便利だ。まあ、更新頻度が悪いという弱点はあるけど町の形状とかもわかるので重宝している。
「ここですね」
「ん?いらっしゃい。泊まりかい?」
「はい。この宿の方ですか?」
「ああ、案内するから入ってくれ」
通された宿の食堂はそこそこ掃除が行き届いていた。
「料金は1泊大銅貨3枚で朝夕付きで大銅貨4枚です」
「とりあえず4泊で」
魔石の入手具合で滞在日数も変わるのでひとまず4泊にしておく。案内された部屋は2人部屋だったけど、前の宿よりはちょっと広めだった。備え付けの机は一つだけど作りはしっかりしてるしいい宿だ。
「こっからは自由行動だけど、アスカはどうするんだい」
「先に魔道具屋さんをのぞいて行こうと思います。運よく2個は手に入れましたけど、水の魔石がどのぐらいの値段なのか気になりますから」
「まっ、生産地だしその分安いかもしれないしね」
水の魔石は汎用性に優れているので結構高い。今までティタの食事に使っていたのは、魔石としての利用価値のないもので、さらに宝石としても使えないようなかなり下位の石だ。たまには豪華な食事にしてあげたいし、いい石が安いなら私の魔道具制作にも使えるので見ておきたいのだ。
「何より水と言えばシェルレーネ教。ムルムル達にもいいお土産になると思うしね。ブルーバードは水の適性がないと使えないけど、みんな水の巫女だから困らないだろうし」
普段ムルムル達のお世話をしている人たちにもお土産をと思っていたのだが、細工の町で思ったより買い物しなかったのでそれならば自分で作ろうと思いついたのだ。魔石を使った魔道具の方がそのまま魔力を込めるより威力がわずかに上がることも分かっているので、無駄にはならない自信がある。
「その前にティタが魔道具を作れるかどうかなんだけどね」
「がんばる」
「期待してるよ。頑張ってくれたらご褒美に魔石も買ってあげるからね」
そんな話をしながら私は魔道具屋に向かった。
「いらっしゃい。お嬢ちゃん冒険者かい?」
「はい!今日は水の魔石を見に来たんですけど…」
「ほう?魔道具ではなくて魔石か」
「私、水の魔力がないのでこの町で魔道具はちょっと…」
「ああ、そういうことなら問題ないよ。確かにここじゃブルーバードの魔石が多いけど、ちゃんと他の属性のものも置いてるからな。魔石というなら確かにブルーバードのは安いが何に使うんだ?」
「ちょっと知り合いの魔道具師がいて作ってもらおうと思って…」
「そうなのか。出来が良かったらこっちにもまわして欲しいもんだ。ま、効果によるがな。魔道具って言っても商売にならなきゃ意味がないからな」
「そうですよね。ちなみにブルーバードの魔石はおいくらですか?」
「最近は大きいのは高いな。あんまり市場に出なくてな。ただ中ぐらいのサイズとなると金貨2枚だ。他の町なら金貨1枚はプラスになるからお買い得だぞ」
「使い捨てとか、質が悪いのは?」
「そんなもんにまで興味あるのか知り合いは。使い捨てやクズ魔石はまとめて銀貨4枚だ。大体5つぐらい入ってる」
「結構安いんですね」
「まあ、魔石に傷がついてたり魔力が乗らないもんは、質の悪い宝石みたいなもんだからな。ほら、こっちもそんなもんは用がないから袋にまとめてるんだ」
「それなのに店に置いてるんですか?」
「ギルドから言われててな。一定量の仕入れを確保したかったらこういうのも買い取れってな。たまに付与できるのも混ざってるから損はないぞ。まあ、それはこっちもなんだがな」
店内の商品も紹介してもらう。確かに他の属性のもあるみたいで火属性はファイアボールが放てるガントレットが売っていた。うう~ん、ジャネットさんがもうちょっと魔力があるなら良さそうなんだけどな。魔石自体は普通の品質で詠唱破棄して撃てるのと、格闘術と組み合わせれば炎の拳の出来上がりだけど、多分1回ぐらいしか使えないと思う。これなら私の作ったフレイムタンもどきの方がよさそうだ。
「他にはと…えっ!?」
「ああ、そいつか。商人が良いのがあるって仕入れてみたんだよ。すでに今月は1つ売れたぞ」
「そ、そうなんですね~」
目の前にあったのは風の小手だ。もちろん私の作った風の盾を発生できる魔道具だ。自分の作ったものが別の町に並んでるなんてちょっと不思議な感覚だ。
「仕入れたのは誰でも魔力があれば使える方で、剣士が喜んでたな。ろくに攻撃魔法が使えないのに魔力は余ってるから便利が良いってな。盾を出すって聞いてたが、エアカッターみたいなのが出てるみたいでそのまま斬りつけられて重宝してるってよ」
「それは良い買い物をしましたね、その人」
「おうよ。あんたも風の魔力があるならどうだい?」
「いえ~、私は後衛ですから」
「そうか。ま、気に入ったのがあったら買っていってくれよ」
そう言われたもののちょっと気恥しくなってしまったので、当初の予定通りティタ用のクズ魔石と、ムルムル達用のブルーバードの魔石を購入した。といっても私たちが手に入れた魔石も結構いいものだったみたいだから、2つだけだけどね。




