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転生後に世界周遊 ~転生者アスカの放浪記~【前作書籍発売中】  作者: 弓立歩
国境を越えて…

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道中記

最初の中継地点の町を出て、再びグラントリル目指して馬車は進む。今日もキシャルはジャネットさんと、アルナは満足したのか鳥小屋でゆっくりしている。


「今日は一日馬車の中ですけど、こういう時って何してるんですか?」


「そうですね。基本は持ってきている荷物の確認でしょうか?リストに間違いはないでしょうが、気づかないところに傷などがないか再確認ですね」


「へ~、さすがは商人さんですね」


「他にやることがないだけとも言いますね。こうしてアスカ様のように護衛と話す時もありますが、話さない時もあります」


「何か話さない理由があるんですか?」


「まあ、言ってしまえばそこまで商売や物に対して理解されない方もいらっしゃいますので。冒険者としては素材を売る方の知識はあっても、商売となると興味のない方も多いですし」


「そう言われると何とも…」


「あとは、どうしても男性相手が多いので、変に話すと揉めたりしますから。特に今みたいに長旅になる場合は気を付けています。自衛できるといっても所詮はDランク程度ですから」


あ、そっか~。タリアさんはきれいだもんね。きれいで鑑定もできて商売は支店を任されるぐらい信頼されてる。冒険者の人なら声かけちゃうよね~。そりゃあ、簡単に口は開けないよね、うんうん。


「アスカ様、どうかなさいました?」


「いえいえ~。難しいですよね、そういうのって」


「はい。ですのでやれることが少なくて結局、荷物整理程度になってしまうんです」


「そうですよね~。中は揺れるから本も読めないですし」


そんな話をしていると、外から声がかかった。


「アスカ、ちょっと外頼んでいい?」


「どうしたの?」


「前の馬車が魔物に襲われているみたいだ」


「わかった。気を付けてね。行ってきます!アルナ、ここをお願いね」


ピィ


アルナとタリアさんにそう告げ、馬車を出て前に出る。


「ワグナーさん、どんな状況ですか?」


「前にいる馬車が魔物に襲われそうだということです。まだ、ギリギリ戦闘にはなっていないとか」


どうやら、魔物の嗅覚よりリュートの探知の方が勝ったみたいだ。リュートは前の馬車にいる護衛にすぐに知らせて戦闘状態に入っている。意外かもしれないけどこうやって別の馬車の護衛が力を貸すことは多い。ほとんどの商会が商人ギルドに所属しているから、あとできちんと報酬が払われるのも大きいんだ。冒険者側も商人ギルド向けの実績も貯まるし次の護衛依頼を受ける時もプラスになるしね。


「でやぁ!」


どうやら馬車を襲っているのはゴブリンのようで、元の護衛たちも余裕がありそうだ。数分後、20匹余りのゴブリンを倒し、こっちの馬車が追いつく。


「おや、やはりバーナードさんのところでしたか」


「おおっ!?これはワグナー会長ではありませんか!」


どうやら、前の馬車に乗っていたのは知り合いの商会らしく、2人は馬車を下りて話をしている。前の護衛たちもリュートと話をしている。見た感じは20台後半ぐらいの冒険者だ。


「助力感謝する。しかし、よくわかったな。俺達でも気づかなかったのに」


「偵察は慣れてるんです。荷が傷まなくてよかったですね」


「全くだ。ゴブリンごときで減額はやめてもらいたいからな」


護衛の冒険者のランクはCランクとDランクの混合パーティーだった。5人いて報酬もそこそこ分けないといけないから減額はつらいだろうなぁ。


「アスカ様、お待たせしました。いやぁ、知り合いの商会ということで話し込んでしまいまして…」


「いいですよ。別に急ぎでもありませんし」


「それでは出発しましょうか」


「あれ?一緒に行かないんですか?」


「向こうは護衛の人数も多く、護衛は徒歩ですからな。こちらとは速度が違いますので」


「そうですか、残念ですね」


依頼をあまり受けない私が悪いんだろうけど、他のパーティーと話をする機会って少ないからお話ししたかったのにな。ちょっと残念に思いながら、前の馬車を追い抜いて先を進んでいく。今日の街道はさっきもゴブリンが出たようにちょっと魔物も多いみたいだ。


ガァー


「ウィンドカッター」


「えいっ!」


街道を進んでいると近くの林から出てきたゴブリン6匹と運悪く鉢合わせしてしまった。倒すまでは楽だけど、穴を掘って埋めるのが面倒だな。これをしないと他の魔物が寄ってくるからさぼれないしね。


「終わりました!」


「それではまた進みましょうか」


今日はところどころで魔物と戦いながらの行程だった。明日は平和になるといいな。


「さて、この辺りで野営ですね。そちらはテントで?」


「ああ、いつも通りって感じだね。アスカ、出してくれ」


「は~い。ワグナーさんたちは馬車で?」


「ええ。ここにさらにテントを出すと、護衛も大変ですから」


「なら、これどうぞ!レンタルになっちゃいますけど…」


「これは?」


「馬車を覆えるバリアの魔道具ですよ」


「おおっ!?うわさで聞いたことがあります。よいのですか?」


「道も一緒で護衛もやってるから特別に銀貨1枚だな。あっ、一日でね」


「それぐらい安いものですよ。ではお借りしますね」


嬉しそうに魔道具を持って馬車に入るワグナーさん。しかし、2分ほどで戻ってきた。


「あの、魔力を込めていただいても?私たちではどうにも1晩に足りないようでして…」


「はいよ。リュート」


「これですね。…はい、できました」


「と言う訳でだね…」


「もう1枚ですね。では、良い夜を」


「そっちもね」


ワグナーさんたちが戻っていったのを確認して私はジャネットさんに話しかける。


「いいんですか?せっかく護衛依頼を出してもらったのに」


「いいんだよ。それはそれ、これはこれだ。なんなら、旅の途中で売っちゃうっていえばもう少し取れると思うけどねぇ。さすがにそれは悪いし、あたしらも護衛が面倒になるしね。こういうのも商売だよ。金払わずに使うのと実際に払って使うのじゃ目線も変わるだろうしね」


「へ~、すごいです。いつの間に商売のことなんて覚えたんですか?」


「えっ!?いや、暇な時に」


「ありがとうございます!商会も作ってくれて、お手伝いまで」


「まあ、作った以上は責任持たないとね」


「2人とも今日のご飯できましたよ~」


「は~い。今行くよ」


珍しく、食事は別なので今日は3人分だ。


「キシャル、これ熱いぞ?」


んにゃ


「わっ!?ブレス吐くな!そこにおいてやるから」


相変わらずジャネットさんとキシャルは仲良しだ。私はそれを横目で見ながらアルナにご飯をあげる。


「ごちそうさまでした」


ピィ


今日の見張りも私が一番でジャネットさん、リュートといういつも通りの順番だ。


「それじゃあ、今日も見張りがてら細工を…あれ?タリアさん」


「こんばんは。見張りをご一緒しようかと思いまして」


「大丈夫ですよ。みんなもいますし」


「あっ、細工をされるのですね。見学しても?」


「それなら構いませんよ。眠くなったら戻ってくださいね。多分、集中して返事しませんから」


「分かりました」


テーブルと椅子を用意して細工を始める。今日はバラの細工が必要なくなったので、代わりに剣と菖蒲のデザインを作っていく。これはデグラス王国のシンボルでこの先、販売が安定して見込めるものだ。


「あら、デグラス王国のシンボルですね。新たに作るのですか?」


「はい。やっぱりこういうのはその国ごとに大事にされてますからね。型崩れした物は売れませんけど」


バルディック帝国でもそうだけど、国のシンボルだけあってあまりに出来の悪いものは市場から駆逐されるどころか、国家に対する侮辱として捕まった事例もあるらしい。個人で作る分にはいいけど、売り物になるとかなり扱いが難しいのだ。


「ちゃんとデザインも考えてきてるんですよ。ほら!」


「本当ですね。でも、紫色のスタンダードなものは少ないですね」


「あはは。この前までは赤いバラが多かったですからね。紫も赤系が入ってますし、できるだけ白や黄色なんかの菖蒲を作ろうかなって思いまして。あとは色も薄めの品種を参考にしてます」


「なるほど。その辺りは細工師としての心持なんですね。私たち商人ならその地方の人気の色や柄にどうしても惹かれてしまうので、そういう視点になるのは難しいですね」


「だから、自分の商会があるのは助かってます。発注とか別に気にしなくていいので」


おじさんとかフェゼルの方の制作も自分のペースでいいって言ってくれてるしね。


「旅もしていると大変ですね」


「でも楽しいですよ。こうやって野営しながら細工もできますし。出来た!どうです?木目が菖蒲の模様みたいでかわいいですよね?あとはちょっと薄めに彩色してと…」


「えっと、この木製の細工に彩色を?」


「そうですよ。これは小さい子とか町の人用ですね。あんまり高くすると売れなくなるので、こうやってうまく模様とかで使う塗料を少なくするんです」


「そこまで工夫するならもう少し高くてもいいのでは?」


「高くしたらいつまで経ってもアクセサリーが高級品のままですから。これぐらいのは大銅貨4枚ぐらいでいいんです」


軽く白い塗料を塗った後に彩色が施された木製の細工は、タリアには銀貨2,3枚でもおかしくないものに見えた。それを多くの人に付けて欲しいということで安く卸すこの少女を、商人としての自分が測りかねていることに悩み、結局アスカの見張りが終わるまで付き合ったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] >タリアには銀貨2,3枚でもおかしくないものに見えた。それを多くの人に付けて欲しいということで安く卸すこの少女を、商人としての自分が測りかねていることに悩み  コレの返事は「趣味です」なん…
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