グラントリルへと
「よしっ、こっちはOKです」
「今回は宿からの出発だから楽でいいね」
「んじゃ、護衛開始だ」
宿を出てワグナーさんのところへと向かう。すでに商会の前には大きめの馬車が1台停まっていた。
「おはようございます。今日からよろしくお願いします。こちらは先日の市でも手伝っていたタリアです。御者も務めますので改めて…」
「タリアと申します。この旅の間、同行させていただきます。途中、御者以外にも見張りや店を開く際にはお手伝いさせていただきますので、お声がけ下さい」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「タリアは読み書きなどはもちろん簡単な護衛もできるので、次の支店長にと考えてこうして今は連れているんです。どうかよろしくお願いします」
「へ~、服屋なんかだとよく聞くけど、こういう普通の商品を扱う商会で女性ねぇ」
「光栄に感じています。ではまいりましょう」
さっそく、タリアさんは御者の席に乗り込み、馬車の中にはワグナーさんとリュートが乗り込む。馬車の後ろの荷台の一部には後方の見張りとしてジャネットさんが、私はというと御者の席の隣で見張りだ。従魔たちはというと、ティタは置物に見せかけて荷物に、キシャルはいつものごとくジャネットさんのところだ。アルナはというと…。
「アルナ~、あんまり離れないようにしてね。そこまでお馬さんも早くないけど、危ないからね」
ピィ!
自然を満喫するため、大空に出かけているのだった。
「アスカ様の従魔はかわいらしい子ばかりですね」
「そうですか?ありがとうございます。タリアさんは他の従魔も見たことが?」
「はい。帝国では長らく武力が重んじられてきたため、魔物使い自体は他国より多いんです。ただ、従魔にするのが難しいため、冒険者ではなく多くのものが軍に所属していますが…」
「そういえば、空を飛ぶ従魔の部隊があるんですよね?」
「よくご存じですね。あまり人気のない魔物使いの職ですが、帝国の従魔部隊だけは他の部隊よりも圧倒的な人気です。人を乗せて空を飛ぶ大型の従魔を従えられますからね。アスカ様も興味がおありで?」
「あはは…まあ、そこそこ」
ほんとは一度、ワイバーンを従魔にしてるから入ろうと思えば入れたんだよね。旅が続けられないし、柄じゃないから入らないけど。それに、細工もできなくなっちゃうしね!
「一部の貴族向けには飛竜便なるものもあるらしいです。地形も関係なく進むので、恐ろしく速いのだとか」
「へ~、そういうのもあるんですね。風魔法使いの人はやったりしないんですか?」
私も疫病に悩まされていた町に行く時は空を飛んで、一気に行ったしできなくはないと思うんだけど。
「できるとは思いますが、距離もある仕事になりますから。それに…」
「それに?」
「それだけの魔力がある人が荷運びの仕事をやりたがるとは思えません。貴族に仕えている方が命令でやることはあるでしょうが、もっと好待遇の仕事に就けますからね」
「そっか~。まあ、安全とは言えませんしね。空を飛ぶ魔物に襲われるかもしれませんし」
「確かにそうですね。この子たちみたいに魔物もいい子ばかりならいいんですけど」
そういいながらタリアさんは馬車を引いている馬に目をやる。
「あれ?そういえばこの子ってウォフロホースですか?珍しいですね」
「ご存じなんですか?こちらではみかけない馬なんですが…」
「はい。フェゼル王国はシェルレーネ様の信仰が盛んですから。そちらの方ではよく使われていました」
「アスカ様はフェゼル王国の方でしたか。その通り、この子はウォフロホースです。会長がつてを使って手に入れてくださったんですよ。神官騎士の騎馬隊にも採用されるほど強いのに気性も穏やかでいい子なんです」
「そんなつてがあるんですね」
「まあ、元実家ですけど。子爵家の血縁の繋がりはなくなったといっても、貴族と商人として付き合いはありますので。向こうはある程度信頼していろいろな頼み事ができますし、こちらは貴族向けの販路ができますので」
「頼み事ですか?大変そうですね」
「そうでもありませんよ。どこの町でどんなものを貴族の使いが買ったとかそういうものがほとんどですし」
「そんな情報が何の役に立つんですか?」
「私も最初はそう思ったのですが、案外役に立つとか。特に社交の場では活躍するみたいですよ」
「社交の場で?そんな感じしませんけどね」
「例えば、誰かがアクセサリーを身に着けていて、その話になったとしましょう。その時に『ああ、あそこで買われたものですか?』と相手が購入先を言う前にこちらから言うんです。そうやって機先を制するのですよ」
「それに何の意味が…」
「貴族間の情報合戦ですね。相手をけん制するための。最も、今は戦乱期でもないのでただのマウント取りですけど」
「ほんとに貴族って大変なんですね~」
「やはり、アスカ様も大変ですか?」
「私ですか?私はのんびり気楽にこうやって旅をしてますし、そんな話とは無縁ですね~」
「まあ!公認だったのですね」
「公認?よくわからないですけど楽しいですよ、旅」
「そうですね。私も新しい街で珍しいものを見ると心が躍ります。鑑定も持っているから、昔から旅の機会も多かったですし」
「わぁ!どんなところに行ったんですか?この大陸以外も?」
「はい。南の大陸は魔法文化も発達してますし、西の大陸はこちら側とはまた違う信仰を持つ国があります。一概に楽しいだけではないですが。どうしても長い距離を旅すると、魔物や野盗が出ますから…」
「それは仕方ないですね。私も草原とかを通る時は嫌になります。朝も夜も魔物だらけですから」
「隠れるところも少ないですし、難しいですよね。護衛も必死で守ってはくれるんですが」
「数が多くて大変なんですよね。そういえば、町を出る時気になったんですけど、こっち側の城壁はやけに低かったんですけど…」
「ああ、あれですね。もっと昔は高かったんですが、低くしたんですよ」
「わざわざ城壁を低くするなんてどうしたんですか?壊れかけていたとか?」
「デグラス王国はかつてバルディック帝国の一部でした。独立してからも何度も国境をめぐり戦争が起きたのです。今やそのようなことはありませんが、双方に再び戦闘の意思がないということを明確にするために、あちら側の城壁は高さを半分にしたんです。さすがに全部なくしては魔物に対応できませんから」
「そういえば国境を超えるのも拍子抜けするぐらい簡単でしたね」
イメージだと行列があってなんか揉め事起きてて後ろがつかえるみたいな感じだったんだけど、通行許可証ありとなしで分かれていて、なしの方も冒険者カードとか各種身分証があればすんなり通れる。一般人も簡単な検査で済み、スイスイ進める。他の国もそんな感じなのかなぁ。
「本当です。今後もこうあって欲しいですね。商人はスピードも大事ですから」
「あはは、そうですね。うちの商会はまったりですけど」
そんなのんびりとした話をしながら、一日目は終わった。街道を通っているので、大体馬車の速度に合わせて宿場町的なものがあるのだ。私たちの馬車は護衛も馬車に乗ってるから早いけどね。なので途中少し早く進んで、普通の馬車2日分の距離を稼げた。
「今日はこの町に宿泊します。明日は野宿の予定ですのでよろしくお願いしますね」
「分かりました!」
ワグナーさんに宿を一部屋取ってもらった。部屋はこの前まで泊まっていた宿と同等で、そこそこいい宿だ。
「ん~、今日も疲れたしもう寝ようかな?」
「そうすりゃいいよ。先は長いんだし」
大体、グラントリルまで2週間だから、気長にいかないとね。
「おはようございます」
「おはようさん。リュートもおはよう」
「おはようございます、ジャネットさん」
宿での早めの朝食を終え、ワグナーさんたちと合流する。
「それじゃあ、今日は僕が御者席の隣に座るね」
「じゃあ、私は後ろに…」
「いや、アスカは中に入っててくれ。感知がつかえる人間が2人とも外に居ても意味がないだろ?」
「そうですか?それじゃあ、後ろはよろしくお願いします」
御者とその護衛をワグナーさんとリュートに交代して、再び馬車はグラントリルを目指し進むのだった。




