市場にて
「ただいま~、アルナ待った?」
ピィ!
部屋に戻るとアルナが待ちぼうけだとべしべしと羽で顔を叩いてくる。食事はと…。
「ちゃんとティタが用意してくれたんだね。ありがとうティタ」
「がんばった」
横目でティタがキシャルを見る。例によって寝てるんだけど、早く出せとごねたんだろうなぁ。
「それじゃあ、公園にでもいこっか!ジャネットさん、リュート。出かけてくるね」
「はいよ。リュートも今回は宿でやることもないだろ?行っといでよ」
「じゃあ、行ってきますね。何かいります?」
「明日は朝も早いしいいよ」
「それじゃあ、あとはお願いします」
私はジャネットさんにキシャルを頼んで公園へと向かう。
「ちょっと肌寒いね」
「そうだね。もうすぐ、本格的な冬だしね」
リュートと並んで公園に着いた。
ピィ
「はいはい。お友達はいないの?」
服に隠したままアルナを運んで、公園で放す。公園で放せば他の小鳥に混ざってしまうので、目立たないのだ。
ピィ!
いいから遊べとまとわりつくアルナ。運動不足だったのかな?
「はいはい。お友達を連れてきてからね。ひとりだと目立つからね」
アルナに近くにいた小鳥を呼んでもらい一緒に遊ぶ。ただ遊んでも疲れるので、合間にはドライ薬草を混ぜたご飯を上げるのも大事だ。
ピィピィ
他の鳥たちも混ざり楽しい時間は過ぎていく。
「ん?リュートどうしたの。遊ばないの?」
「いや、一緒に遊んでるけど。アスカほど僕には来ないから」
リュートにもちょっかいをかけるというか数羽が群がる時もあるけど、大体はなぜか私の方に来る。やっぱり、ご飯あげてるのが大きいのかな?
ピィ?
「あっ、ごめんごめん。ほら、お空に行くよ」
私はふわりと1mほど浮くとアルナたちと一緒に公園をぶらぶらする。こんな低空でもみんなには満足できるようで、右へ左へと忙しく飛び回る。
「わぁ~、あのおねえちゃんすごい!浮いてるよ~」
「見ちゃいけません!」
「えっ!?リュート、私って変?」
「普通ではないかな?」
「そんな!ちょっと浮くぐらいだよ?」
「アスカは忘れてるかもしれないけど、冒険者でもない限り普通は魔力なんて2桁届くぐらいだからね。浮くなんて夢のまた夢だよ」
「そ、そうなんだ。少し控えようかな?」
「今更?結構、人も来てるよ」
言われて周りを見れば、数人集まってこちらを見ている。公園で語らってるって感じではないな。
「き、気にしてもしょうがないよね」
気を取り直して、宙に浮きつつ小鳥たちと触れ合う。途中からは見物人も飽きたのか、同じように小鳥と遊んだり、ベンチに座ったりしていた。
「わたしもえさやる~」
「わかった。それじゃあ、ゆっくりちょっとずつね」
女の子にご飯を渡して少しずつあげるように促す。
「わっ、食べた!」
「大声出しちゃだめだよ。驚いて飛んでっちゃうからね」
「は~い」
ご飯をあげだしたら小鳥たちがますますこっちにやってきてしまった。女の子はパタパタと飛ぶ小鳥を見つめている。
「空飛びたいの?」
「とべるの?」
「うん。行くよ~、フライ!」
魔法を使い女の子を宙に浮かせる。初めての感覚だろうから驚かないようにちょっとだけだけどね。
「わっ!?ほんとうに浮いてる~」
「どう?楽しい?」
「うんっ!もっと、たかくとべないの?」
「できるよ。ゆっくり上げていくからね」
びっくりしないように少しずつスピードを上げていく。
「わ~、すごい!お父さんよりたかいけしきだ~」
「そう。気に入ってくれたみたいでよかったよ」
自然とスピードを上げていき、女の子が怖がらないよう注意しながら一緒に空を飛ぶ。そんなことをしていると時間が過ぎるのは早いもので夕刻になった。
「そろそろ帰らなきゃ!」
「えっ!もう~」
「ごめんね。あなたも親御さんが心配するから帰ろうね」
「ちぇ~」
「そうだ!出会った記念にこれをあげる。今はちょっと大きいけど、大きくなったらきっと似合うよ」
私はマジックバッグからミズアオイのブローチを取り出すと女の子の服につけてあげる。
「わっ!?きれ~い」
「この青いお花はね、この国じゃちょっと人気はないけどシェルレーネ様っていう女神様をイメージしたものなの。大切にしてね!」
「わかった!きっと、これが似合うようになる」
「うんうん。その調子、頑張ってね。それじゃあ」
女の子や他の小鳥たちとも別れる。
「さっ、リュート。帰ろっか」
「うん。ところでアルナは?」
「他の小鳥たちと一緒に飛び立って、宿で合流。こうすると目立たないんだよ」
「よく考えてるんだね」
「キシャルとかには使えないけどね。バーナン鳥とかは街でもメジャーだから大丈夫だけど。さっ、それより帰ろう」
パシッとリュートの手を取って宿に帰る。明日は市場に店を出すんだから改めて作品を確認しないとね。
「おや、思ったより早かったね。アルナならさっき帰ってきたよ」
「はい。日も短くなりましたし、明日の確認もしておきたくて!」
「今日、確認してもらっただろ?」
「そうですけど、久しぶりの出店ですしやっぱり気になっちゃいますよ!」
「そんなもんかねぇ。まあ、アルナもちょっとは満足したみたいだしよしとするか」
ピィ!
まだまだと返事を返すアルナ。小鳥なのに元気あるなぁ。私がアルナならぐったりしてるよ。こうして従魔たちのリフレッシュも済ませ翌日…。
「晴れてよかったですね~」
「だねぇ。滞在を引き延ばすのもできないし、良かったよ」
「アスカ、こっちの棚は用意できたよ。確認お願い」
「わかった。こっちも終わったからすぐに見るよ」
いよいよもうすぐ朝市が開かれる時間だ。こういうところで店を出すのは久し振りだし、緊張するなぁ。
「アスカ様、そちらはどうですか?」
「ワグナーさん!順調です。あとは売れるかだけですね」
「はははっ!アスカ様でも不安なのですか」
「もちろんですよ。自分の作ったものが目の前にあるんですから!」
「それは失礼しました。あれだけのものを作られるのですから、てっきりすぐに売り切れる心配かと」
「あっ、でも、商人さんは結構見てから買われますね。町の人とかは気に入ってくれたらすぐなんですけど」
「それは仕方ありません。値段の割にものが良すぎるのですよ。商人は目利きには自信を持っていますが、それでもだまされることがあります。値段より良いものばかり並んでいれば逆に疑ってしまうというものです」
「へ~、そういうことだったんですね。でも、ほめられすぎて恥ずかしいですよ」
「ほら、アスカ。お客さんだよ」
「は~い!いらっしゃいませ~」
「お嬢さんが売り子かい?商品の説明が欲しいのだが…」
「えっと、どういう方が身に付けられますか?」
「あ~、それはだね…」
「アスカ様。商人相手はタリアにお任せを」
「ワスプ商会の方ですね。こちらへどうぞ」
「あ、ああ。ワグナーさんのところの店だったのか」
「いいえ。販売のスペースをお貸ししているだけです。さあ、こちらへ」
タリアさんが自分の商会の方へ商人さんを案内する。お陰で私のところは人がはけて、見やすくなった。
「あっ、あのっ!これはいくらでしょう?」
「いらっしゃいませ!こちらは金貨一枚です」
「金貨一枚…。ううん、ギリギリ買えるな。次はいつ出しますか?」
「すみません。旅をしているので多分、次はないんです」
「ええっ!?分かりました。じゃあこれください」
「はい。ありがとうございます。こちらはなくさないように木箱にいれておきましょうか?」
「お願いします!」
女性が買ったのはミズアオイのブローチだ。バラが人気のこの国では商人への反応が良くなかったので、久しぶりに出したのだが売れて良かったな。
「ところでどうしてこれなんですか?こっちのバラとかもいいと思うんですけど…」
「ああ。この国じゃ、多いですよね。それに合わせるように他のものも赤色とかが多くて…。実は私、青が好きなんですよ。なのでこういうのを探しているんですが、値段も高かったり片手間だったりとなかなかいいのがなくって。この細工師さんのおかげでおしゃれできます!それじゃ」
「あ、ありがとうございました~」
「アスカ、照れてる」
「うるさいな、もう」
その後も道行く人が足を止めてくれ、この街では無名ながら1時間ほどでほぼ売り切れてしまった。
「いや~、さすがですね。うちはまだ半分以上残ってますよ」
「いえ。ワグナーさんのところはラインナップが幅広いですから。私はアクセサリーだけですから、目に留まりやすいんですよ」
「それでもですよ。うちもこの街じゃ支店もあってそこそこ顔なじみのお客さんもいますからね。大きな声じゃ言えませんがちょっと先の細工を扱うお店、今日はまだ在庫あるんですよ」
「へ~、ちょっと興味ありますね。自分が作るとデザインってある程度固まっちゃいますし」
「そ、そうですか。いやはや、勉強熱心ですな」
「私が付けたいだけですけどね。そういえばさっきはありがとうございました」
「ああ、あの件でしたら予想できておりましたので。この国ならある程度は何とかなりますよ」
さっきの件というのは開店から30分ほど経ったころ、メイドさんと思わしき人が守り石付きのバラを全部くれといってきたのだ。売れることはいいことだけど、あの魔道具は大事な人の身を守るためだから全部はと断ったけど引き下がってくれなかった。そこでワグナーさんが仲裁してくれ、2個までということで渋々ながら帰ってもらった。
「それにしても他の人を連れてくるとは思いませんでした…」
「それだけ評価されたということですよ。この街の貴族の屋敷で働いている人はほとんど覚えていますからね」
「明日から改めてお願いしますね」
「いいえ。こちらこそお願いしますよ」
その後、30分ぐらいで全て売り切ってしまったので、ワグナーさんたちに挨拶をして私たちは先に市場を後にしたのだった。




