行き先は
「お待たせしました~。こちらが本日の日替わりのフットチキンです」
「フットチキン?聞きなれない名前だね。鳥かい?」
「はい。この街の北に住んでるんですよ。ただ、そこまで人を襲ったりしないので、討伐に行く人が少ないんです。そんな訳でちょっとレアなので、こうして日替わりでしか提供できないんですよ」
「なるほどねぇ。どれ…おっ!いい味だね。しっかり肉の味もするし油もうまい」
「ありがとうございます。えっと、リザードの大盛の方はこちらですか?」
「はい。僕です」
「普通のは私の分です」
「ではこちらですね。こちらは秘伝のたれに漬けますので、柔らかいですよ」
「へ~、それは楽しみです!」
さっそくテーブルに置いてもらった料理に口をつける。
「わっ!?本当に柔らかい!昨日宿で食べたのとそこまで厚みに変わりもないのに…」
「ふふっ、そうでしょう!この味・柔らかさを求めてうちに来る人もたくさんいますからね~」
「そういえば、人も増えてきたような…」
「お客様が来てくださったのは早い時間ですからね~。ここからですよ」
言われてみれば少しずつだけど席が埋まってきてるな。
「あ~、これはいけるねぇ。リザードもうまそうだけど、あたしはこっちでよかったよ」
「それにしてもフットチキンっておいしいのにみんな狩りに行かないんですね」
「フットチキンはですねぇ~。あんまり、人に害を及ぼさないのでなかなか討伐依頼が出ないんですよ~、では」
「ああ、そういうことかい。なら、そこまで数がないのはしょうがないねぇ」
「どうしてですか?狩ってくれば店の人が引き取ってくれますよ」
「そこの店員が言ってただろ、討伐依頼が出ないって。捕まえても肉の買取料ぐらいだろ?あとは…羽がどうかってところか。そんなんで得る収入より、この辺りなら護衛依頼を受けた方が安定して儲かるさ」
「そっか~、いい名物になると思ったんですけどね」
「はい、かしこまりました~。それに、割と逃げ足も速くて捕まえられないことも多いんですよ~。うちはなじみの冒険者さんが持ってきてくれるんですよ」
接客をしながら店員のお姉さんが追加で教えてくれる。
「あれ?リュート、さっきから食べないでどうしたの?」
「あっ、えっと、どうやったらこうやって柔らかくなるか考えてたんだ」
「確かにね~。はむっ、これだけ柔らかくなってるもんね」
薄切りとはいえ、昨日宿で食べたリザードは弾力があったけど、こっちのは簡単に噛み切れちゃうし。
「でも、秘伝だし難しいだろうな…」
「う~ん。玉ねぎとかお酢とかで出来ないのかなぁ?」
「そんなんでできるの?」
「たぶん。肉ならいけると思う。理由はわからないけど」
「まあ、さっさと食べなよ。冷めちまうよ。それに、それでうまくいったところで味が変わったら意味がないよ」
「…そうですね。今はおいしいうちに食べましょうか!」
気を取り直したリュートはバクバクと料理を食べ始めた。
「あっ!私も食べないと待たせちゃう!」
私は食べるの遅いんだよね。量を食べないはずなのにみんなの方が普通に食べ終わるのが早いのはなんでなんだろう?
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「ふふっ、うちはどうでしたか?」
「おいしかったです。明後日には宿を発つのがもったいないぐらいですよ」
「そういっていただけてうれしいです」
「ほら、テネシー。一通り案内したんだから肉の仕入れに行っておいで」
「…は~い」
「肉の仕入れ。今からですか?」
「さっき言った通り、フットチキンって量が入らないの。お昼の分はあるんだけど、夕食の分がね。代わりの肉を買い足さないと今日はだめみたい」
「それなら、私たちに任せてくれませんか?」
「へ?」
私たちはオークの肉が余っていることを伝える。
「なるほど~。それじゃあ、こっちのアーチャーとかの硬めのお肉買わせてくれない?」
「いいんですかこっちで。普通のオーク肉もたくさんありますけど」
「ほら、うちのたれって柔らかくできるでしょ?あれって他の肉でも効果があるから、ちょっと硬めで筋張ったところの方が受けがいいんですよ~」
「じゃあ、決まりだね。買ってくれる量によっちゃ、こっちもある程度考えるよ」
「ほんとう~?じゃあ、言ってくるわ」
すぐにお姉さんは奥に行って人を連れてきた。ここからはジャネットさんの話術の見せ所だ。隣のリュートは肉の状態を説明する。
「話はまとまったね。じゃあ、こんだけの量で銀貨1枚」
「いいのかい?こっちはそれで文句ないけど」
「在庫を掃くのも大変でね。旅の身だし、大量に一か所に捌くとねぇ」
「なるほど。気を使わせて悪いね。そんじゃ、うちはこの分で。他に売るなら紹介するよ?」
「本当かい?なら頼むよ。ちゃんと口が堅いやつね」
「はいよ。ちょっと待っておくれ。テネシー!」
「は~い」
「今から言う店にこの人たちを案内してあげな」
「わっかりました~!」
お店の人の好意で私たちは次々と店を回って肉を売りさばいていく。あれだけあった肉もとうとう消化できる範囲に収まってきた。
「それにしてもアスカさんたちってすっごい狩りするんだね~。何日分?」
「2日分ぐらいですよ?」
「ええ~!?ひょっとしてみんなは凄腕?」
「うう~ん。どうなんでしょう?」
ジャネットさんに思わず目配せする。
「まあ、見た目以上にってところだね。その辺の馬車の護衛じゃ何も問題ないよ」
「冒険者さんって見た目によらないんですね~。うちの人たちは屈強な人が多いから」
「まあ、わかりやすくはあるね。おっと、店に戻ってきたね」
「それじゃあ、あたしはここで!ありがとうございました~」
「うちこそ世話になったね。じゃあな」
「さよなら~」
手を振って店員のお姉さんと別れる。
「さて、これからどうするかね?」
「市場の調査は終わりましたし、ご飯も食べましたね」
「店といってもそこまで詳しくはないし、明後日は出発…。道具屋でも行くか!」
「ですね。私もポーション買いたいですし!」
「ポー…ション?マジックポーションならリュートのがそろそろ期限になるはずだけど?」
「えっと…ほら!リュートもたまには期限を間違えるというか」
「ふぅ~ん。あとで聞いておくか」
「それより、早くいきましょう!在庫切れになっちゃいますよ」
「はいはい。こんな、国境の町で日用品が売り切れるわけないけどね」
そして道具屋に着くとさっそく、足りないものを見繕っていく。
「なんというか普通ですね」
「あのねぇ、何でもかんでも特色出せるわけないだろ。おかしなもの売ったところで棚を占領するだけさ」
そんな話をしながらみんな思い思いのものを買い足す。
「リュートはそれだけ?」
「うん。ポーションって思ったよりもつみたいで、これぐらいでも大丈夫そうなんだ。アスカは…割と買うんだね」
「えへへ。そりゃあ、使い道がいっぱいあるからね!」
戦闘はもちろん、細工にも使えるし従魔たちの魔力補給にも使える、いわば万能薬のようなものだ。
「それにしても多くない?10本以上あると思うけど…」
「こっちは普段持つ用でしょ。こっちはそれの予備。これはいざという時用で、これはその予備」
「なんだか予備ばっかりだね」
「予備は大事だよ」
「大事だけど、それでそこまでいるの?」
「どうかな?なくなったことは…あっ、ないなぁ」
ムルムルと一緒に病気の町に行った時にそれっぽかった気がするけど、記憶もあいまいだし大丈夫だったということにしておこう。
「会計は終わったかい?」
「はい!」
「なら、あとは商人のやつに連絡して終わりだね」
「でも、今からで間に合いますか?お店を出すのは明日ですよ」
「そんなのあっちの店のスペースを借りればいいんだって!アスカはもうちょっと自分の細工の価値をきちんと認識しないとねぇ」
「迷惑かけるのはだめですよ」
「はいはい。それならかけないように行くとするか」
そんなわけで私たちは市場で店を開くため、べネス商会に向かって歩き出したのだった。




