電撃鞭
釣りの後のお昼休憩も終わり、再び黙々と歩きだす私たち。
「川べりを歩いているだけあって、水生の魔物がいますね~」
「まあね。襲ってはこないみたいだけど」
ちょこちょここちらを見てくるものの、物珍しいだけなのか襲ってくる気配はない。カエルっぽいものや、ビーバーみたいなかわいい魔物もいるけど、大人しい種類なんだろう。
「あっ!町の近くを通り過ぎて街道が見えてきましたよ」
「ああ、ここまでくればあれに乗るか」
休憩を入れたものの、順調に進んでいたので残りの道程は街道を通る。街道では前からも後ろからも馬車がたくさん通っていく。北側街道の主要道路だけあってさすがの賑わいだ。
「やっぱり、貿易関係ですかね?多いですね」
「バルドーのおっさんのいるグラントリルって石の産地だろ?そういうのも運んでるのかもねぇ」
「だけど、石を運んでそうな馬車は通りませんね」
「まあ、マジックバッグだろ。普通に運んでたら重すぎるだろ」
そっか、そういうところはとっても便利だな。トラックとかに積み込んで移動しなくて済むから、道路とかも選ばないし。
「でも、走っていく馬車もいますけど大体はゆっくりですね」
「この時間からどんなに急いでもカディールまでは着けないからね。馬だって休ませないといけなくなるし、あの町で休ませるんだろ」
「なるほど」
「急ぎの馬車はどれも小さいでしょ?大口というか払いのいいお得意様だよ」
「へ~、リュートも物知りだね」
「宿の手伝いをしてるといろんな人の話を耳にするからね。たまにホールにも出てたし」
「えっ!?そうだったの。見てないなぁ」
「アスカは僕が呼んでから来ることが多いからね。あの時間はお客さんが少ない時間だから、手も足りてるんだよ」
「そういうこと。たまには細工以外にも目を向けなよ」
ピィ!
アルナもかまってくれと私の周りをくるくる回る。
「わかったから。次の町に着いたらちゃんと遊ぶから!」
約束だよとアルナが私の顔を見ながら肩に再びとまる。どうでもいいけど、歩く私のスピードに合わせてこっちを向きながらとまるなんて器用だなぁ。
「おや、冒険者の方々ですか?どうです、うちの馬車に乗りませんか?」
「えっ!?えっと…」
街道を歩いているとふいに後ろから来た馬車の御者さんに話しかけられた。びっくりして思わずジャネットさんに目線をやる。
「ああ~、ほら。あたしたちはこんな集まりだろ?そんなに持ち合わせがなくてねぇ」
私たちはみんなあまり派手な色は好まないので、冒険者以外から見ると割とランクの低いパーティーにみられることもある。人数も少ないし、女性2人に男性1人でEランクと思われたこともあったのだ。
「お代ならいいですよ。夕刻にはこのペースですと着きますし、まだ中は空いてまして」
「そうなんですね。厚意に甘えます?」
「あたしは構わないよ。リュートはどうだい?」
「人助けと思いますか。僕は御者の隣に座りますから、ジャネットさんとアスカは中の両端にお願いします」
「はいよ」
「うん?座る位置とかいつ聞いたの?」
「ほら、襲撃とかあるかもしれないでしょ?」
「ああ、そっちかぁ。残念、楽しくおしゃべりできると思ったのにな」
「町に着いてからいくらでも話せるさ。それより、乗るならさっさと乗るよ」
「はい」
リュートの指示通りに、馬車の中の人に動いてもらって席に座る。12人乗りの馬車みたいだけど、お客さんは8人だ。空いてるけど、まあまあ乗ってる感じかな?冒険者風の人は1人だけで、あとはみんな町の人だった。
「おっ!追加か、よろしくな」
冒険者風の人がジャネットさんに手を差し出すもぺしっと叩いていた。
「あのねぇ、こっちは客として乗ってるんだ。頑張んなよ」
「ちっ、いいじゃねぇかよ。どうせおたくらもDランクなんだろ?」
「あ、あはは。そんなもんですね」
私に向かって冒険者風の人が話しかけてきたのであいまいに答えておく。ちなみにアルナとキシャルはお客さんが驚くので馬車の上にはり付いている。
「お嬢さんも冒険者なの?小さいのに大変ね」
「いろいろ歩けて楽しいですよ。ちょっと危険ですけど」
「そうなのね。出身はどこなの?」
「フェゼル王国です」
「ほんとに遠いわね。海を渡るなんて危険でしょう?」
「確かに魔物にも出会いましたし、大きくてびっくりします」
「実際に見たの?それは怖かったわね」
よしよしとお姉さんが頭をなでてくれる。どうやら運悪く甲板にいる時に出くわしたとでも思っているみたいだ。実際は戦ったんだけどな。そんな会話をしているとふいに馬車が止まる。
「なんだろ?」
「アスカ!敵襲!」
「OK!お姉さん、これ持っててくださいね」
「え、ええ。大丈夫なの?」
「見てくるだけですから」
「ちっ、やっぱりこうなったか…あんたも行くよ」
「お、おう」
パッと用意して馬車から飛び出る。
「あれ?人間…」
「まあ、そうだろうねぇ。この辺、最近多いってギルドにも出てたし」
盗賊を主に狩る冒険者もいるので目撃情報なんかはギルドに貼られていたりする。それにしても馬車の周りは10人ほどに囲まれているっぽいな。ちょっと、確認しよう。
「正面4人、左右2人ずつ。後ろ2人かぁ。ジャネットさん、一番強いのは?」
「後ろ2人。こうなった以上やるか。バリアは?」
「張ってきました。魔石はお姉さんに預けてあります」
「おい!お前ら、何の相談だ?状況わかってんのか?」
「ひっ!お、お前ら変なことするなよ。相手は大人数だぞ」
「変なことって護衛はあんただろ?」
「俺にどうしろって言うんだよ!Dランクになりたてだぞ」
「へ~へ~、じゃあ下がってなよ。うっとおしいね」
「お前ら!いい加減に…」
「リュート!そこは任せたよ」
「はいっ!」
正面の盗賊団がキレかけたところで私たちは攻勢に出る。まず私がリュートの魔法援護を受けながら正面を攻略にかかる。ジャネットさんは一番強い後ろを倒しに行った。
「なめやがって!俺たちで一気に馬車を襲うぞ!そうすれば護衛たちも手は出せまい!」
左右の4人が馬車に手を出そうと襲い掛かろうとしたところを左側をティタ、右側をアルナとキシャルがけん制する。
「な、なんだこいつら!?」
「魔物を連れてやがる!どいつがCランクなんだ!?」
「かまうことはねぇ!押し切るぞ」
「スプラッシュレイン」
ピィ
くあっ
「うがっ!」
「い、いてぇ」
「氷の嵐だ!こんなの進めねぇぞ」
どうやら左右の盗賊たちもそこまで強くないみたいでこのまま正面に集中してもよさそうだ。
「俺たちの相手は嬢ちゃん一人とはな、なめられたもんだぜ!」
「そうですか?リュートもいますけど…」
「あいつは御者の護衛だろ?大したこともなさそうだ」
「むかっ!くらえっ、トルネード!」
私は全員を巻き込むように竜巻を起こし、宙へと舞い上げる。
「うわぁ~!」
「なんだ!足元から突風が!」
盗賊たちを舞い上げた後はマジックバッグからあるものを取り出す。結局売り払わなかったものだ。
「これでもくらえ、えいっ!」
バチバチ
手元から放たれた電撃鞭の一撃が次々と盗賊たちを襲う。
「ん~?そこまで魔力を込めたつもりはなかったんだけどな。おっと、着地はこっちでやらないと」
思いのほか込めていたのか、はたまた武器の性能か、一撃で盗賊たちは大人しくなった。
「ほかの盗賊たちもこれでやっつけよう!」
すぐにティタの方へと向かい2人を電撃鞭で倒す。この2人はすでにティタの攻撃で満身創痍だったので簡単だった。
「次はアルナたちの方へ…」
風魔法で飛んですぐに向かうと、そこには足を凍らせられた盗賊が2人いた。
「ありゃ、こっちはいらないか。でも、暴れると面倒だし、エイッ!」
バチバチ
とりあえず、気絶させて最後にジャネットさんの方へと向かう。
「あれ?もうそっちも終わりかい」
「ジャネットさんの方は…心配いらなかったですね」
「まあな。んで、こいつらどうする?」
「さっきいい方法ができまして。鑑定のおじさんの言った通りでした!」
「あのおっさんの?はは~ん。いいぜ、試しなよ。見てやるから」
「な、なにをする気だ…」
「痛いとかはないと思いますよ、多分。他の人は特に反応見せませんでしたし」
バチバチ
「そのバチバチいってるのはなんだ!」
「ただの鞭ですから心配いりません。それっ!」
バチバチと音を立てる電撃鞭を盗賊に振るう。2人の盗賊はすぐに物言わぬようになりその場に崩れ落ちる。
「そんじゃ、残りのやつらもふんじばるとするか。そこの見物冒険者、ちょっとは手伝いな!」
「お、おう…いや、はい!」
自分をDランクだと紹介していた冒険者は馬車の横から出てきてロープを巻こうとする。
「おい!そんな弱く縛ってどうするんだい?逃げられたらあんたが捕まえるんだよ」
「わかりました…」
ジャネットさんが手ほどきをしながら盗賊をしばっていく。私たちはその間に御者さんと乗客に説明していく。
「盗賊は全員捕まえました。今は気絶して縛ってるところですから安心してください。ただ、町まで連れて行かないといけないのでちょっとだけ到着が遅れるかもしれません」
「そ、そう…。お嬢さん強いのね。お姉さんびっくりしたわ」
「み、見てたんですか?」
「怖かったけど小窓からね。鞭の扱いうまいのね」
「ええっ!?初めてですよ」
「遅れるって今日中には着けるのか?」
「それはできると思います」
なぜなら、縛った盗賊を馬車の後ろに括り付けた後は魔法で少しだけ浮かせて運ぶ予定だからだ。そして、説明も終えて盗賊団を縛り付けた馬車は再び町を目指して進み始めたのだった。




