完成、バラの髪留め!
「アスカ、早かったね。お昼持ってくるよ」
「うん、お願い」
リュートが持ってきてくれたのはローストビーフっぽい料理だった。きっと、パーティーの時にあんまり食べられなかったの覚えててくれたんだろうなぁ。
「ん~、野菜もいっぱい入ってるし、おいしい。昨日も野菜だったんだけど、肉が結構続いたからこういうのもいいよね」
「気に入ってくれた?それじゃあ、僕は奥に戻るから」
「うん。がんばってね」
まだ、料理の手伝いをしているリュートに挨拶をしてご飯を食べる。
「それにしても働き者だなぁ、リュートは」
「そうだね~」
「あれっ?サティーさん」
「へへ~、どうしてるかなって覗きに来てみた!」
「そうなんですね。私はこれから細工の仕上げに入るところです」
「そうなんだ~。見学してもいい?」
「大丈夫ですよ。ただ、返事とかしないと思いますけど。前にジャネットさんが見てたことあったみたいなんですけど、何も返さなかったらしいんです」
「いいよ~。見てるのも好きだから。普段はハイルの素振りとかずっと見てるし」
ハイルさんは剣士らしく、鍛錬を欠かさないまじめな人で、2時間とか毎日素振りをしているそうだ。それを延々と見てるなんてサティーさんってすごいなぁ。私なら途中で細工をしに行っちゃうよ。
「それじゃあ、行きましょうか!」
「待って待って、あたいまだ食べてない」
「それじゃあ、待ってますね」
サティーさんの席に移って食事が終わるのを待つ。
「なんか見られてると食べにくい」
「ですよね。私も経験あります」
「ああ~、普段から見られてる感じする~」
「そうですか?そんなわけないと思いますけど」
サティーさんが食べ終わったので、一緒に部屋に戻る。
「あれ?従魔たちは」
「アルナはジャネットさんと出掛けたままで、キシャルがお昼寝中。ティタはそこで見張りをやってくれてます」
「わっ!?ほんとだ~気づかなかった」
サティーさんが机の上に鎮座しているティタをつんつんと突く。しかし、ティタは意に介した様子もなく外を見ている。
「とりあえず細工再開ですね」
「わかった、見てるね~。わっ!なにこれすごい!?こんなにきれいに色がついてる!」
「ジャネットさんの依頼ですし!力が入るってものですよ。あっ、もちろん普段のやつも一生懸命やってますけどね!」
「う、うん、わかったから。あたいは見てるね」
「わかりました。それじゃ作業始めますね」
作業といっても塗装は終わってるし、残りの作業といえば魔石をはめ込むのと髪留めの台座部分だ。
「まあ、気を抜いていい作業じゃないけどね。さっ、始めよう」
まずは魔石のサイズ合わせだ。ひとつひとつサイズにはブレがあるからそれを調整して合わせていく。
「うう~ん。わずかに削る必要があるな~。嫌なんだけどな」
魔石は傷がつくと一気に性能が下がる場合もあるから気が抜けない。慎重に削って細工に合わせる。
「はまった!よ~し、あとはぐらつかないように型を取ってと…」
底の型を取り、その裏側には髪留めをつける。髪留めの部分はピンを入れてそれをちょっと溶かす。こうすれば外れないはずだ。
「あとは実際に付けてみないとね。サティーさん」
「なに~?終わったの」
「たぶん。ちょっとつけてみてくれませんか?おかしくないか見たくって」
「りょ~か~い!」
サティーさんの髪に出来上がったばかりの髪留めをつける。うん!いい感じだ。
「問題ないみたいですね。重たくないですか?」
「う~ん。ちょっとつけてる感じはあるけど大丈夫。にしてもきれいだね~」
「頑張りましたからね」
サティーさんに髪留めを返してもらいもう一度、問題ないか確認する。
「うん!これで髪留めは終わりですね」
「ほかにもなんか作んの?」
「はい。この国で売っちゃう分のバラの細工と、アルバの街に向けて卸す分ですね。できたら次に行く街の分も欲しいんですけど、こっちは最悪向こうで作ります」
「しっかりしてるね~」
そんな会話を交わし、再び細工に戻る。バラの型を作る間に余ったやつを仕上げていくのだ。
「塗料は残ったやつを使うとして、売値も考えたら安いやつにしないとね」
今回作った中のお気に入りの形のだけは今余っている塗料を使用して、残りは既存の塗料だ。塗りも単色に近くしてある程度量を作らないとね。
「そういえばサティーさん」
「なに~?」
「守り石ってどこで売ってますか?」
「あれは発掘品を扱う店ならどこでも売ってるよ。そこそこ人気だから在庫はあんまりないだろうけど」
「うう~ん。魔石を入れる予定だから全部空洞になってるんだよね~。あれがあれば魔道具扱いで売れると思ったのにな~」
「買ってきてあげようか?」
「いいんですか?」
「うん。見てるのも楽しいけど、こういうの手伝うのも嫌いじゃないし」
「それじゃあ、お願いします」
「は~い」
サティーさんを見送って私は細工に戻る。途中で作成を放棄しているものもあるのできれいにしていかないとね。
ホリホリ
「ん、ちょっとここ出っ張ってるな。削ろう。これで3つ目か、まだあと4つは作らないと」
魔道具で削る分、普通よりはるかに早く制作できる。その強みを生かして作れる時に一気に作っておかないと、次の旅に出た時に在庫がなくなってしまう。
「アスカ~、戻ったよ」
「サティーさん!早いですね」
「うんまあ、あれから2時間近く経ってるけどね。数聞くの忘れてたからとりあえず10個買ってきたよ」
「すみません。お金大丈夫でした?」
「うん。いっつも街じゃハイルと一緒だからね。ツケて来た!」
「ツケっていいんですか?」
「まあ、顔見知りも多いしね。自分達で行ったこともあるし、ハイルと行くこともあるし。デートの3分の1くらいはそういう店だよ。髪飾りとかも売ってるからね~」
発掘品を扱う店は買い取り制限を設けないところが多いので、大体の店が何でも屋だということらしい。それに二人とも冒険者だからやっぱり武器とかでも盛り上がったりするらしい。どっちがついでって感じだけど、そういうのもいいかもね。
「でも、たまには専門のお店とか行きたくないですか?」
「行きたいけど、行くと護衛みたいになっちゃうんだよね~。ほら、ハイルって顔はいいけどまじめで堅いでしょ?服とかも騎士が護衛してますよみたいな感じなの」
「ああ~、なんとなくイメージできるかも。リュートも案外そっち寄りなんですよね。もうすこし、派手でもいいと思うんですけど…」
「あ~、あの子の場合はほら、目立ってもしょうがないっていうか…」
何やら口を濁すサティーさん。何かあるのかな?
「それよりさ、せっかく作るんでしょ?見てみたいな~」
「あっ、そうでした!さあ、作るぞ~」
カリカリ
守り石ひとつひとつのサイズに合わせて中を削っていく。こっちの作りは正面から入れるやつだから、ちょっと奥の方が難しい。
「むむ~、この彫刻刀じゃ難しいな…。魔道具かぁ~。でもなぁ~」
魔道具なら簡単なんだけど、なんだか毎回それに頼ると負けた気がする。どうしても手で作りたいものもあるのだ。
「頑張ってるけどそんなに難しいの?」
「はい。やっぱり、彫刻刀ってまっすぐですから曲面に当てるとすぐにガリッっていっちゃいますから。うう~ん、これはあれをもう一つ作るか」
私はマジックバッグから多重水晶作成に使う専用の治具を取り出して魔道具で複製する。これなら、バラ中央の局面でもきれいに削れるはずだ。
「あとは水晶用に切れ味を落としていた部分を鋭くしてと…」
水晶は金属ではないからゆっくり掘っていくのを金属用に刃を鋭くする。
「よしっ!これでいけるかな?」
頑張って守り石ひとつひとつに合うように形を合わせていく。
「あっ、サティーさん。この紙に番号書いていってもらっていいですか?その下にできたバラと守り石をセットで置いていくんで」
「いいよ~、ほいっと」
サティーさんが紙を取り上げ、番号を振っていってくれる。これで私は細工に専念できる。
……。
「アスカ~、ししょ~」
「何ですか?」
「そろそろご飯行かない~?」
「でも、まだそんなに経ってませんよね?まだ、バラも5個ぐらいですし」
「ええ~!?もうお外真っ暗だよ」
「わっ!?ほんとです!行きましょう。そういえば、ハイルさんに連絡しなくていいんですか?」
「大丈夫。宿にいない時はアスカのところって言ってあるから」
「そうだったんですね。それじゃ行きましょうか」
もうちょっとで次のバラも終わるところで名残惜しかったけど、時間も時間だし仕方ない。続きは食事の後だなぁ。そんなことを考えながら下に降りたのだった。




