宴の終わり
「さあ!そんじゃ、切り分けるか!」
大きい鳥の丸焼きをディンさんが切り分けていく。まずは中央から。
ふわぁ~
「わわっ!湯気の後に肉汁がいっぱい!おいしそ~」
「アスカ、食べたい部位とかある?」
「う~ん。やっぱり、ももかなぁ?あのしっかりした味がいいんだよね~」
私はももの部位を切り取ってもらい、味噌につけて食べる。
「ん~、おいしいっ!味噌をあぶってもよさそう…やるか」
私は味噌を一面に塗ると、火魔法で全体をあぶる。
「アスカ、ちょっと焦げてるけどいいの?」
「そういうもんなの」
ご飯だっておこげのところが一番おいしいんだから!まあ、やりすぎると苦いだけなんだけど。私が食べ始めると
皆も食べ始める。それぞれ思い思いの味を楽しんでいるようだ。
「んん、やっぱり照り焼き風味っつーか醤油?系の味はいいな。塩も効いてるしな!」
「よく食べられるわね。照り焼きはまだいいけど、醤油そのものは苦手よ。匂いもきついし」
「そうかぁ?」
「ハイル~、こっちも食べる?」
「ああ。しかし、なんだな。こうやってると夫婦みたいだな」
「やだも~!はい、あ~ん」
「うむ」
「どう?おいしい?」
「甘い」
「もう~、そういう時はあたいからもらったから、いつもよりおいしいって言ってよ~」
「そうか、気を付ける」
「向こうは向こうですごいね」
「そうだね。他に何か気になる部位はある?」
「どうだろ?あんまりそういうの詳しくないから」
ドラムとかキールっていうんだっけ?言葉は知っててもどんなのかはわからないよね。脂っぽいとかそういうのはなんとなくわかるけど。
「ん~、結構デカかったと思ったけど、こんだけ人数がいるとなくなるもんだな」
「食べる人がいればね」
「そうだよねぇ~」
「そういうジャネットも結構食べてたわよね?」
「まあ、うまいもんだし。遠慮することでもないからねぇ」
「それはそうね。でも、この料理とももうすぐお別れね」
「もうちょっとゆっくりしていけばいいのに~」
「そう言いなさんな。あたしたちは旅の途中、そういうもんさ。今度行く街は会うやつも決まっててね」
「そうなのか?てっきり行く当てのない旅かと…」
「普段はそうなんだけどね。デグラス王国で商人やってる知り合いがいるんだよ」
「商人?意外だな。てっきり傭兵か何かかと」
「あはは、間違ってはいないような…」
バルドーさんは元冒険者の商人だけど、見た感じもまだまだ剣士って言えるし。あの人、護衛とか必要なのかな?
「あんまり長く待たせるのもね。アスカは約束もあるし」
「約束?」
「作った細工を納品するんです。たまにフェゼル王国まで来てくれて、買い付けてくれてたんですよ!」
「そりゃあすごい!途中危険もあるのだろうに」
「ですよね!腕もよくてとっても強いんです」
「ああ…まあね」
「ジャネットがそういうならよっぽどだな」
「そうね。妬いちゃってかわいいわね」
「言ってろ」
食事も終わり、今はまったりタイムだ。リュートは食器の返却とかをしているけど、他のみんなはくつろいでいる。
んにゃ~
「お、お前も満腹か?」
キシャルは定位置のジャネットさんの膝で寝始めたし、今日は何時までOKなんだろ?
「ここって、いつまでに出ていくとかあるんですか?」
「一応、明日の午前までよ。酔いつぶれたら困るでしょ?備え付けのベッドもあるし」
「それなら安心ですね。ジャネットさんはここで寝ますか?」
「こいつが放してくれれば帰るよ」
どうやらジャネットさんはお泊り確定らしい。私もそうしようかな?
「アルナはどっちがいい?」
ピィ!
当然、寝床がいいというアルナ。そっかぁ…まあ、中はふわふわお布団だしね。安心できるように羽毛とか柔らかい布を定期的に交換して入れてるから、寝心地がいいらしい。小さいころを思い出すんだろうな。
「ジャネットさん、私はアルナと一緒に寝てきますね」
「あいよ~。リュート、頼んだよ」
「ぼ、僕ですか?」
「他に誰がいるんだい?マインはあたしと大人の話があるし、まさかサティーやハイルを呼ぶかい?」
「す、すぐに片づけてきます!」
なんだか急にリュートが慌てだしたけど、どうしたんだろ?
「アスカ、そんじゃあたしはベッドに行ってくるから」
「わかりました。キシャルをよろしくお願いします。ティタはどうする?」
「かんしする」
「監視?見張りってこと?まだダンジョン気分なの。もう~、アイアンゴーレムコアがそんなに気に入ったの」
「それは…おいしかった」
ウキウキ顔のティタを肩に乗せて部屋に戻る。
「う~ん。明日から2日ぐらいは細工しないと!」
出発前に渡すものとかそのあとで立ち寄った街で売るものとかも作らないとね。
「それに何より、ジャネットさんのやつを完成させないと!」
むんっ!とやる気を出しているとリュートが戻ってきた。
「アスカ、明日は早いの?」
「うん。作りかけのもあるし、色々と追加とかもあるから!」
「そっか、それじゃあ今日は早く寝ないとね」
「そうなんだよね~。前はもうちょっと起きてても平気だったけど、最近寝るの早くなっちゃって」
「しょうがないよ。僕も、魔力を多く使った日はしんどいし」
「だよね~。でも、みんなの分は確保しないといけないし、これは常備しておかないとね」
そういいながらマジックバッグからポーションを出す。今回ダンジョンでそこそこ使ったから補充もしないとな。
「それ、たまに飲んでるけどどうなの?僕はいつも渡してるけど…」
リュートも冒険者として予備のポーションは持っている。ただ、そこまで魔法を使うことがないので、いつも賞味期限が近付くと私がもらっているのだ。
「大しておいしくはないかな?癖もあるし」
多少味があれでも他のものと一緒に食べれば何とかなる食品はあるけど、ポーションは薬草を使うだけあって、変な苦みがある。逆に他のと一緒だとまずいことの方が多い。
「そうなんだ。僕も慣れた方がいいのかな?」
「急に飲んだら吐いちゃう?」
「さすがにそれはないと思うけど、変に躊躇したりするかもって」
「リュートはいっつもおいしいもの作るもんね!それなら、次に行く大陸で売ってるおいしいポーション買おうよ」
「そうだね。いくらぐらいするんだろ?」
「貴族も買うって聞いたから高いんじゃない?」
「やっぱりそうなのかなぁ…安いと嬉しいけど」
「その辺は行った時のお楽しみだね」
「だね。おっと、もうこんな時間!おやすみなさいリュート」
「お休みアスカ」
リュートに挨拶をして寝る。明日は頑張らないと!
「…リュート」
「ティタ、言わなくても何もしないから…」
「おはよ~、あれ?リュートは?」
「ごはん」
「そっか。朝から大変だね、大丈夫かな?」
昨日はお酒も飲んだし、二日酔いとかになってなければいいけど…。
「おはよう、リュート。二日酔いとかになってない?」
「おはようアスカ。大丈夫みたいだよ。そんなに飲んでないからね」
「今日の朝は何?」
「昨日作った料理でスープにできそうなのがあったからそれ。宿の人は喜んでたよ。明日以降は知らないけど」
そうだよね。おいしいのはいいんだけど、所詮は余りもの。毎日提供できないから期待されると困っちゃうんだよね~。それ目当てにされても次はいつか分からないし。
「食事も終わったし、細工だ~。ジャネットさんのアクセ作り終えなきゃ」
なにはともあれまずはそこだ。
「大体のバランスはわかってきたんだけどな~」
一番見栄えがいいのはやっぱり裏からくりぬくんだけど、なかなかうまくいかない。
「この中央だけ見せられればな」
あとは花びらが重なる表現で立体感を出せばいいのかも?
「試しにやっていこう!」
がりがりと削っていく。あとは旅立ちまで戦いもないので心置きなく魔道具で削っていけるのは助かる。
「ポーションもまだあるし、ここは勢いでやっちゃわないと!」
ガキンガキンと塊を崩していく。そして、5個目に差し掛かった時…。
「これ、いけてない?」
うんうん、見栄えもだけど硬さも十分にありそうだ。
「試しにこっちの塊で小突いてみて…」
カン
「うん、いい音だ。これなら強度もよさそう。早速、銅で作って完成させよう」
すぐにでも白銀を使いたいけど我慢して銅でこれをもとに原型制作だ。次に作る予定はないけど、万が一ってこともあるからね。
「よしよし、何度も作ったおかげかいい出来だ!あとはこれをもとに白銀を使って作るだけ」
私はちらりと横のポーションを見る。果たしてこれはいくつ飲むことになるんだろう?そう思いながら制作に取り掛かった。




