勝利の宴
「ん~、ここはうまくできてるなぁ。デザインが被らなければ量産に回したいぐらい」
今回のはジャネットさんへのプレゼントだ。個人に渡すものはなるべくオリジナルデザインにしたいし使いまわしたくない。
「でもなぁ~、これなんか結構いい出来だし、つぶすっていうのも…今は7分咲きで作ってるから、花びらを付け足して満開バージョンにしてみようかな?」
それならイメージが全然違うし、なんとかできそうだ。
「それに花びらの一部は付け足しで強度がないって売る時に書き加えれば、価格を抑えられるしね」
私も細工師としてそれなりには名声も出てきた。だから、あまりに安く卸すことはできない。だけど、今回のバラ細工みたいに何らかの理由があって、高く売れないものは例外だ。
「そうと決まればこっちの箱から使えそうなのは取っていこう」
ひょいひょいとつぶす予定の箱からバラをとっていく。改めてみてみるともう結構作ってるな…。
ピィ
「ん?アルナどうしたの?」
羽を広げてアピールするアルナ。どうやら、休憩をとれと言っているみたいだ。
「わかったよ。それじゃあ、ちょっとベッドにいこっか」
お外といっても今日はパーティーもあるし、部屋を出ることなくまったり過ごす。
「あっ、そういえばキシャルはダンジョンから帰ってきて大丈夫?」
んにゃ?
なんだ気になるなら触ってみろと言わんばかりにキシャルが背中をこっちに向けてきた。
「いいの?なでるね」
キシャルが珍しく体を預けてくれたので、私は遠慮なく触らせてもらう。あったかいのが苦手だからか、猫だからかキシャルは中々、人に体を触らせてくれないんだよね~。
「はあ~、癒される~。せっかくベッドに戻ったんだし、ちょっとだけ横になろう」
キシャルをなでながら横になる。耳元ではアルナがちょんちょんとつついてきて、ちょっとこそばいけどまあ良しとしよう。
「ふあ~、もうちょっとだけ横に…」
そうして気が付いたらパーティーのすぐ前まで寝ていたのでした。
「キシャル、よくやりました。アスカはいつも無理をしますからね」
「愛想を振りまくのも大変だにゃ~」
「うれしいくせに!」
「静かに!起こしたら意味がありません」
そんな従魔たちの声をよそに過ぎていく午後の時間だったのです。
「アスカ、準備できてるかい?」
「もうちょっと待ってください。服が決まらなくて~」
「服なんてどうでもいいだろ?身内しかいないんだし」
「だめですよ。こういう機会を逃しちゃいけません!でも、ごちそういっぱいだから服に飛んじゃうと嫌だしなぁ」
立食形式の小皿ばかりのパーティーなら汚れなさそうだけど、今回はそういうのじゃないからせっかくのドレスもお預けだな。ということで、街行きの中から選んでるんだけど…。
「これは子どもっぽいしなぁ。こっちは真っ白、さすがに勇気がでない」
服といっても各地で買い集めているの関係上、デザインがその風土に染められているので、なかなか汚れてもOKとはならない。
「ううむ、こっちのブルーの上着にはちょっと黒っぽいタイトスカートまではいかないけど、短めのスカートにしようかな?動きやすいし。ちょっと締め付けが多いのは気になるけど、ベルトがあるから緩めればいいし!」
今日はせっかくのパーティーなんだからいっぱい食べないとね!
「着いたよ~」
「おう、ジャネット遅かったな!お前のことだからもっと早いのかと思ったぜ」
「いや、アスカがね。準備に何分かけてるんだか」
「女性のたしなみですよ。ジャネットさんももう少し頑張ってくださいよ~」
「へいへい」
「さて、あとはリュート君だけか」
「あれ?リュートが遅れるなんて珍しいですね」
「何言ってんだか。リュートは厨房でこのパーティーの料理作ってるよ。さすがにその辺の店に明日パーティーですって言っても難しいからねぇ」
「あっ、そうだったんですね」
そんな話をしていると、玄関からリュートがやってきた。手には料理も持っている。
「皆さんお待たせしましたか?」
「いいえ、パーティーのために頑張ってくれてるんですもの。ありがとう」
「そうそう。さっ、料理は私が運ぶからリュートはこっちに座って」
ひょいっと料理を魔法でテーブルに運んで、リュートには席についてもらう。
席順はテーブル奥にハイルさん。そこからジャネットさんに向かいはサティーさん。続いてディンさんにその向かいがマインさん。最後にリュートと私だ。従魔たちはテーブル手前の端にいるけど、早速キシャルはジャネットさんの横に行ってるし、ティタは椅子に座ってはいるけど背が低くて見えない。唯一、アルナだけはテーブルにちょこんといるぐらいだ。
「じゃあ、パーティーを始めようか。まずは飲み物だな」
「エールを飲むのは?」
「はいよ」
各自希望した飲み物をグラスに注いでいく。
「「「「かんぱーーーい」」」」
キンカンカン
グラスを当てて乾杯し、みんなで飲み始める。
「う~ん、せっかく冷えてるけどちょっと苦いかな?」
「そうなんだ?ちょっともらっていい?」
「アスカはもうちょっと大人になってから」
「ジャネットさんのけち」
リュートは普段料理以外では使わないお酒をこの機会に飲んでいる。今日の分はキシャルが事前に冷やしてくれたので、ほかの人たちはおいしいと言ってすでに2杯めに突入しているけど、リュートにはまだ早いようだ。
「何?アスカ」
「へへ~、それ飲み終わったら一緒にこっち飲もうね」
子ども扱いされたのは不満だけど、二人ならまだましかな?
「さて、それじゃあ料理だね。あたしはこのサラダに肉を乗っけて」
「俺はそのまま肉だけだな」
「私もジャネットの真似しようかしら?」
「ハイル~、あたいが取ったげる!そこからだと料理遠いよね?」
「済まんな」
「いいよ~、あとで食べさせてくれたら」
一か所、違う空間なところもあるけどあれはそっとしておいて…。
「リュートは何から食べる?」
「う~ん。一応味見はしてるしなぁ。だけど、気に入ったのはこれかな?」
「何それ?横にサラダもついてるけど」
「あはは、ちょっと仕入れる量が足りなくてね。ローストチキンだよ。ちょっと赤いけど、ちゃんと火は通ってるから安心して。肉で野菜を巻いてもいいと思うよ」
「じゃあ、私もそれにしようかな」
ちなみにジャネットさんたちが肉と言っているのは家畜用の牛の魔物ジュムーアだ。やわらかい肉が人気でお値段もチョットする。
「あっ、これ美味しいね」
「かけてあるソースは他の肉とかで取った油だしね。そこに野菜をいれて作ってるんだ」
「へ~。パクッ、流石だね」
「そんなこと思ってないくせに。あたしにも寄越しな」
「はい、どうぞ!」
もう3杯目のエールを飲みながら突き出してきたお皿に料理を乗せる。
「そういうあっさりしてるのも悪くはないんだが、こういう時はやっぱりこっちだぜ!」
「ディン、ちゃんとみんなの分は残しておくのよ?」
「分かってるって!そうだ!先にマインの分を取ってやるよ」
そう言いながらドンッとマインさんのお皿に盛るディンさん。
「ちょっと、これ多いわよ!」
「心配すんなって!残ったら俺が食べるから」
「そういうことじゃないのよ。はぁ…」
「アスカもいるでしょ?取ってあげる」
「ありがとう」
リュートは私の分を取ってくれた後で席を立った。
「あれ?どうしたの?」
「そろそろ焼けるから厨房にね」
「私も行こうか?」
「大丈夫、アスカはここで楽しんでて」
そう言うとリュートは家を出ていき10分ほどして帰ってきた。
「ただいま~」
「お帰り…って大きい!」
「大きめの鳥の魔物の肉だよ。蒸し焼きにして、皮目だけ炙ってるんだ。好きなたれにつけて食べてね」
「それより早くおかないと!重たいでしょ?」
「さっきのアスカの真似で魔法を使ってるから大丈夫だよ。よっと」
テーブルの端にお皿を置くと、空いた皿と入れ換えるリュート。
「あっ、まとめとくよ」
「ごめん、頼める?」
「まっかせて!これでも、看板娘だったんだから」
いくつか空いたお皿や、汚れているお皿をまとめて下げる。変わりにリュートの持ってきた料理が中央に置かれた。
「おお~、良いサイズだな!食べごたえがあるぜ!」
「はいはい、分かったから今度は少なめにね。今日は店じゃないんだから」
「さあ、皆さん。好きなたれを取って下さい。種類は5つありますから」
「ほう、そんなにか?サティーはどうする?」
「ん~、この茶色いやつかな?ハイルは~?」
「俺はピリッとしてそうなこの赤いのだ」
それぞれ好きなたれを取る。サティーさんがバーベキューソース、ハイルさんは見た目どおりのピリ辛ソース。照り焼きがお気に入りのディンさんは醤油ベースにマインさんは甘口野菜ソースだ。
「私は何にしようかな~。そうだ!あともう一つは何なの?」
「最後は旅の商人から買い付けた味噌ってやつだね。多分みんなも知らないから取らなかったと思うんだ。冷やせれば長く持つって聞いたから買ってみたんだけど、あんまり使い道がよくわからないから試しにって」
「ならそれにするね!やった~、これで鍋とかもできるなぁ~。ちょうど寒くなる時期だし!」
リュートはというと、マインさんと一緒のソースを使っていた。案外、辛いものとか苦手なのかな?




