リターン
「そろそろ33Fですね」
「ああ、思ったよりアイアンゴーレムの数が少ないね」
「ざんねん…」
アイアンゴーレムはワンフロアに1体ぐらいしかいない。さっきの階もドロップはなく、ティタはがっかりしている。
「それにしてもジャネットさんの戦い方にはびっくりしました!あんなことができるなんて」
ジャネットさんが任せてと言ってアイアンゴーレムに突っ込んでいったら、ゴーレムの腕が簡単に切断されていたのだ。
「はぁっ!」
ガコン
「一撃で腕が…なんてパワーだ!」
「いやいや、あたしがそんなに力ないのは知ってるだろ。あれはこの剣の力さ」
そういいながら、黒い刀身の剣を掲げるジャネットさん。そしてすぐに剣をコアに突き刺しとどめを刺してしまった。
「それって…」
「アスカは知ってるだろ?この剣はちょっと特殊な魔法がかかってるって。そいつのお陰で魔力でつないでいるのを分けているんだ」
あの剣は金貨100枚はするとっても高い剣だ。なんでも魔法を切ることができるらしい。正しくは魔力を分ける効果でそれが切るように見えるんだって。一度、アルバで模擬戦をしていた時に使ってきて、とっても苦労した思い出がある。だって、こっちの魔法は簡単に分けられてしまうんだもん。
「じゃあ、魔法生物系はジャネットに任せていいのね?」
「まあそういうことだね。と言っても、このエリアで最後だからこいつ以外には対して役に立たないだろうけど」
「それにしても黒い刀身とは変わっているな。元からその色なのか?」
「当たり前だろ?あたしがわざわざ剣に色を付けるなんて思うかい?」
「そりゃあないか」
そして、ディンさんを先頭に置いたまま、その後ろにはジャネットさんがいて私たちだ。後方はマインさんとハイルさんが勤めている。2人とも回避はうまいけど、今回の敵にはあまり戦えないとのこと。マジックナイフも温度差の攻撃ができると思ったけれど、握っていないと十分に魔力を供給できないから、接近しないとできないんだって。そういわれれば、今までの爆発とかも効果は短かったな。
「来ます!ロックワームが4体、アイアンゴーレムが3体です!」
「了解だ!腕が鳴るぜ!」
「あたしはゴーレムの方を!ディン、そっちは頼んだよ」
「おうさ!」
「私もゴーレムの方に行きます」
「じゃあ、僕はロックワームに」
「あたいもそっちに行くよ~」
私の役目はジャネットさんが攻撃するゴーレム以外の足止めだ。風魔法も効きはしないものの、その風で動きを止めることはできる。強風と足元を不安定にすることで、同時に相手をすることがないようにするのだ。
「よし次っ!」
「はいっ!」
2体にかけていた魔法を1体にして、ジャネットさんの方に向かわせる。あっちは…。
「そおりゃぁ!」
「風よ…」
「いま!」
うん、問題なく連携もいってるようだし、心配はいらないな。だけど、ちょっとサティーさんが前に出すぎな気はする。あっちはハイルさんもフォローに入れる体制だから大丈夫だろうけど。
「おっ、ドロップか。ティタ、よかったな。ゴーレムのコアっぽいぞ」
「たべていい?」
「まちな。鑑定が終わってからな」
「むー」
不満げなティタをなだめながら、他の戦利品を確認する。
「他には特になしですね。向こうも終わったみたいですし、行きましょうか」
「そうだね」
34Fでも5体のアイアンゴーレムが出現した。やっぱり、階層を経るごとに強くなる傾向にあるようだ。
「うむむ、結構手間ですね。アイアンゴーレム」
「そうだな、いちち…」
「ほら、ディン。傷口を見せなさい」
「ほんとにやんのか?それ怖いんだけどなぁ」
アイアンゴーレムが5体同時に出てきてディンさんがけがをしたので、今は見張りをしながら治療中だ。でも、その光景がびっくりだ。マインさんがマジックナイフを取り出してディンさんに切り付けている。
「これはヒールナイフって言って、切りつけたところを治癒させることができるの。手術なんかにも使われるのよ。医者は使い慣れてるからね。ま、よほどのことがない限り、魔法で治すけど」
こっちの医者はあまり人数がいないらしい。というのも治療院のお陰でケガは直ぐに治るからだ。医者が必要になるのはできものなどの、体を元気にする過程で、そのものまで成長する場合だ。だから、医者自体少ないし、そこで技術を使うわけだから、ものすごく高額なんだって!私もそういった病気にはかからないようにしないと。
「でもこれ、はたから見たら危ない光景ですよね」
「それは言ってやるなよ。通報されかけたこともあるんだからな」
パーティーが一人の人をナイフで脅しているようにも見えるかららしい。う~ん、確かに説明されないと勘違いされそうだよね。
「これで良し!」
「わりぃな」
「仕方ないわよ。ゴーレムが横一列に並んで迫ってくるんだもの。あなたが先頭に立ってくれて、みんな助かったわ。ケガもなければなお、よかったんだけどね」
「でも、こういうところで前に出るのが俺の仕事だからな。よっと、さて、進むか!」
治療も終えて、再び進んでいく。
「あっ、あそこが空洞ですね」
「またこれの出番か…」
前の岩場はただの岩だったから簡単に魔法で壊せたけど、今回の岩は鉄鉱石交じり。たまに硬いところにガンッて当たるので、ウィンドカッターで傷をつけて、そこをディンさんに壊してもらっている。
「おっ!あったぞ。しかもでかい!」
ディンさんも宝箱を見つけるのに自分が関わるとあってすごくうれしそうだ。
「そんなに大きいなんて何かしらね?」
「そんじゃ~、あたいが確認するね~」
サティーさんがいつものように罠を確認して箱を開ける。
「おお~!お?」
「何だ?変な反応して」
「いや~、なんていうかあたいには関係ないな~って」
「どれどれ。おっ!結構いいもんじゃないかこれ?」
そういいながら、大きな宝箱からアイテムを乗り出すディンさん。中身はというと、大きめの斧だった。ちょうどディンさんが使っているやつと同程度だから、これはそのまま渡す感じだな。
「これは鑑定できませんね。それじゃあ、ディンさんが持っていてください」
「いいのか?いやぁ~、町で鑑定してもらうのが楽しみだぜ!」
「全くもう、子供みたいにはしゃいじゃって…」
「いいじゃないか。マインもマジックナイフを見つけた時はあんな感じだぞ?」
「嘘っ!」
「本当だ」
へ~、見かけによらず、ディンさんとマインさんは結構似てるのかもしれない。
「さあ、この辺でこのフロアの探索も終わりだ。いよいよ次は最後の階だぞ。気を引き締めろ」
「はいっ!」
元気よく返事をしてみんなで階段を降りていく。いよいよ、ここが最終エリアだ。まあ、敵は一緒だけど。
ゴゴゴ
「いきなりかよ…おらぁ!」
階段を降りるとそこには待ち構えていたかのようにアイアンゴーレムが3体いた。
「むっ!時間を稼ぎます。ストーム」
私は手のひらから嵐を起こし、ゴーレムに放つ。ダメージはないけれど、その強い風が相手の歩行を困難にする。アイアンゴーレムもゴーレム系の例にもれず、遠距離の攻撃は投石のみだ。ただ、階段を降りたばかりのところには持てそうな岩もないから、これで時間は稼げる。
「ナイス!リュート、左右に分かれるよ!ハイル、リュートの援護を頼む」
「了解した。そっちも注意しろ」
「ああ」
ジャネットさんが例の黒い剣を持ってアイアンゴーレムに突っ込んでいく。素早い動きで敵の攻撃をかわし、即座に反撃で右腕を切り落とす。コアを一気に狙うこともできるけど、ゴーレム種は体が重たいせいで腕ひとつでかなりバランスを崩す。そのため、こうした方が安全に倒せるとティタからのアドバイスだ。
「はぁっ!さぁて、お次はどっちだい?」
ドォンとコアを失ったゴーレムの身体が崩れ落ち、そして消えていく。ジャネットさんは次の標的へ。私も足止めする必要がなくなったので、ティタと一緒に残りの1体の方へと向かう。
「ハイルさん!次の攻撃を避けたら下がってください」
「了解だ。聞いたな、リュート君?」
「はい」
「行きます!フレイムブラスト」
「アクアスプラッシュ」
先行して炎が、そして炎が消えるとティタの水がゴーレムを包み込む。
んにゃぁ~
「あっ!キシャル」
キシャルもなぜか連携に混ざり、アイスブレスを吐いた。
「あ~あ、凍っちゃった。どうすればいいんだろ?」
ピィ!
私が困っていると、アルナが風魔法で凍ったゴーレムを粉々にしてしまった。いくら温度差攻撃で脆くなっているとはいえ、やるなぁ。ちなみにアルナは今回のエリアでは危険なのでずっと私の肩が定位置だ。本人は哨戒任務をしたかったみたいだけど、やっぱりこの小さい体だと心配だからね。
「終わったな。よし、この調子でどんどん行こう」
そして、幾度かの戦闘を経て最終目的地であるセーフティーエリアに着いた。
「ふぅ、ここまで大したけがもなくよく来てくれた。これで今回の探索は終了だが、ここで昼を食べた後に30Fまで戻ることが残っているのを忘れるな」
「ああ」
「分かりました」
そんなわけで、お昼ご飯だ。お昼は時間通りに着いたので温かいスープを作って、パンと一緒に食べる。食事も終えようかというところで、後続のパーティーがいくつか到着した。
「おおっ!ハイルか。えらくのんびりしているが、ここまでか?」
「聞くまでもない。お前たちは40Fへ行くのか?」
「まあな。とはいっても、ボスに戦いを挑むわけじゃないぜ。ワンフロアでも稼がないとな。お前らは?」
「これから帰るところだ」
「そうか、気をつけろよ」
「ああ、そっちもな」
「お知合いですか?」
「たまに一緒に行くやつらだ。そうでなくても大体同じ場所までは潜るから自然と知り合いになる。簡単な情報交換もするから損はない」
「なるほど~」
それから食事も終えて、いよいよダンジョンから帰ることになった。
「それじゃあ、ここを引き払って帰るぞ。帰り道には気を付けるんだ。魔物はほとんどいないだろうが、たまに追剥みたいなやつがいることもあるからな」
こうして、私たちは来た道を戻っていった。幸いにも魔物などに出くわすこともなく、30Fまで戻ってこられた。
「さあ、これで今回のダンジョン探索も終わりね。みんなで帰りましょう!」
「「はいっ!」」
元気よく返事をして転送装置に乗る。
シュイィィィン
「ここは…入り口横のエリアですね」
「ああ、無事に帰ってこれたな」
「よ~し、そんじゃあ鑑定屋に行くぞ!」
「お~!」
こうして、2度目のダンジョン探索に向かった私たちは無事に帰ることができたのだった。




