鉄の使徒
「そろそろ、三十一階へ向かうぞ」
「はい!」
みんなで階段を下りていく。そうしてついた先は……。
「岩場ですね」
「ああ」
「いわば!」
ティタが喜ぶ以外はみんなちょっと暗い。何せここからはCランクでも上位の魔物が出る地帯だ。サンドリザードではなく、もっと硬いゴーレムなんかが主流になってくるだろう。
「それにしても岩といっても黒っぽいんですね」
「おそらく鉄鉱石が主成分なんだろう。多分、アイアンゴーレムもいるだろうな」
「うげぇ! あいつ嫌いなんだよな」
「通常の武器じゃ外殻を貫けないから魔法で頼む。一か所でも穴が開けばそこから倒す」
「了解です」
「ティタ、確かゴーレムって核から魔力を流して体を動かしてるんだったよな?」
「そう」
「ふ~ん、なら試してみるか」
ジャネットさんには何か考えがあるようだ。それにしても、魔物には注意しないと!
「リュート、気を引き締めていこうね」
「うん」
しばらく歩くと早速敵の反応だ。
「サイズは……これはサンドリザードですね」
まだ、このエリアになってすぐだからサンドリザードもでるようだ。
「数は?」
「二,三,五……八体です!」
「やけに多いな、おい!」
「僕に言われましても……」
「それはそうね」
「ティタ、地中のやつは頼んだよ」
「まかせて! アクアスプラッシュ」
地中を動き、こちらに接近してくるサンドリザードはティタに任せる。今でも地中を動くのをとらえるのは一番うまいのだ。ティタがどんどん地中に水流を打ち込んでいく。二体ほどは動きも止まったから、とどめもさせたようだ。
「残りが中から出てきた! いけっ、ストーム!」
私は待ってましたとばかりに地中から姿を見せたサンドリザードたちの足元に風を打ち込んで宙に巻き上げる。
「今です!」
「おうっ!」
「いくよ~」
「よっと」
それぞれの得物を構えて空に舞ったサンドリザードに襲い掛かる。サティーさんもさっき手に入れた武器を手にして一気に肉薄し、相手の体の下に回り込んで突き刺している。
「残りはと……おや、新手かい?」
サンドリザードを倒し終えようとした時、奥から新手が現れた。
「黒いサンドリザード?」
「あれはアイアンリザードだな。アイアンゴーレムと一緒で鉱物を食べたせいか体も硬い。外皮は良質の鉄素材になるほどだ」
「つまり内側を狙えって?」
「そうだぜ! 俺の鎚なら間違いないぞ。衝撃で内臓ごとやっちまうからな。ダンジョンだから素材も関係ないしな!」
「それじゃあ、対応はお任せしますね」
私はティタと協力して硬い地面に風と水の魔法でくぼみを作る。
「後はここに誘い込めば……」
「その役は誰がやるんだい?」
「へっ? それは自分で」
「はいはい。そんな装備じゃ危ないだろ。任せときな」
ジャネットさんがわざとアイアンリザードをガンガン剣で殴ってこっちに連れてくる。
「よしっ、これでいいだろう。よっ」
ジャネットさんが軽く飛び退くと、私たちが作ったくぼみにアイアンリザードがはまる。
「ディンさん、今です!」
「おうよ!」
ディンさんが構えていた鎚を一気に振り下ろすと、すごい音とともにアイアンリザードの背中がへこむ。あれなら伝わる衝撃はとんでもないだろう。
その頃、サティーたちは……。
「ハイル! こっちはどうするの?」
「腹の部分は軟らかいからそこから一撃で仕留める」
「そんじゃ、牽制は任せて!」
「気をつけろよ!」
「は~い」
あたいがウロチョロとアイアンリザードの視線を動かす。
「ん、こんなものかな? マインさん!」
「了解。行きなさい、マジックナイフ」
マインさんが投げたマジックナイフがアイアンリザードの手前に刺さり爆発する。そして、アイアンリザードの身体は衝撃によってひっくり返った。
「もらった!」
とどめはハイルがして終わり。ありゃ?
「えいや!」
逃げたと思ったサンドリザードが、ハイルの奥に飛び出たので、そのまま滑り込んで得物を突き刺す。
《ギャァァァ》
「あたいの彼に何すんのさ!」
「サティー……」
「へへっ、どう? あたいもやるでしょ?」
「さっきはちょっとだけ怖かったけどな」
「嘘っ!?」
「本当よ。全く、あなたの方が身軽な装備なんだから気をつけなさいよ」
「は~い」
「あっちも終わりですね。こっちはと……えいや!」
こっちも戦闘終了の隙を突こうとしたサンドリザードを葬って終わりだ。こういう狡いところがあるから、サンドリザードは嫌いなんだよね。
「まずは問題なくってところだな」
「だけど、これからね。とりあえずドロップは鉄の皮ね。一応鑑定してみる?」
「やってみます」
マインさんから鉄の皮を受け取って、本の上に……本の上に……。
「ア、アスカ、無理しないで。ほら、持つから」
リュートに鉄の皮を持ってもらい本の上に置く。
「光らないね」
「まあ、質がいい素材だからな。鉄とはいえ魔力も帯びていて、銀とは言わないが中々の価値だぞ。魔法剣士の一本目とかにはちょうどだな」
「さて、そんじゃ先に行くか。俺が前でいいな?」
「ああ、こいつらなら俺はフォロー役だしな」
「あたしはそのままだねぇ。アイアンゴーレムが出たら任せな」
「オーケー! んじゃ行くか」
再び隊列を整えて進んでいく。このフロアは最初のフロアだからか、まだアイアンリザードが一番強い魔物だ。他にはロックワームという岩の魔物ぐらいだ。こっちは鉄の含有率が低く、剣でも攻撃が通る相手だった。
「えっと、鑑定結果はと」
ロックワームの皮:Eランク。鉄を含んだ皮。精錬が必要なため通常の鉄鉱石より扱いにくい。やや魔力があるものの加工の手間からそこまで価値はない
「ありゃ? 思ったより低いですね」
「まあ、そんなもんだ。宝箱でもない限りドロップ品は倒す魔物関連だからな。アイアンリザードもサンドリザードより皮は固いが、代わりに動きも遅く地中での移動時の音も目立つ。対処できるパーティーなら戦いやすい相手だろう」
「レア素材はなしですか~」
「そうそうでないものよ。三十階を目安に行動するパーティーでも、大きく儲かることはそんなにないのよ。まあ、ボス宝箱があるからマイナスになるなんてよほどでないとないけどね」
「オーガ系の武器防具以外はな! あれは実用性がないから全く儲からん! 強い、硬い、ろくでもないと三拍子揃ってるな」
「でも、普通に行ける一番いいボスの宝箱が三十階なのよね。流石に四十階は無理だから。出てくるのは倒せば総じて○○キラーって呼ばれるほどの相手ばかりだもの。オーガロードにレッサードラゴンでしょ。噂じゃワイバーンの群れなんかも出たらしいわよ。逃げ場がないから対応するのは難しすぎるわね」
「三十階と違いすぎるんだよな。どれもこれも」
「行くにはAランクでパーティーを組む必要がある。ここがランダムダンジョンなのもマイナス要因だ。どんなスキルに長けた人間を集めていいかわからんからな」
そう話しながらも歩みは止めずに進んでいく。そして岩陰を折れると……。
「いたな」
「ああ、アイアンゴーレムだ。やり過ごすか?」
「だが、見た感じ一体だ。今後戦闘になる時に少数相手で感覚をつかんでおくことは悪くない」
ハイルさんの意見をもとに、私とサティーさんとリュートとジャネットさんの四人で向かうことになった。サティーさんも付いていくのは大体三十階ぐらいまでらしく、ここまで来たのは初めてなんだそうだ。
「緊張するね~」
「そうですね。相手は固いって話しですし、まずは物理で反応を見ましょうか」
とりあえずは風魔法や各々の武器で実際にどれぐらいの強度を持っているか試してみることにした。
「いけっ、ウィンドカッター!」
「やっ!」
「はぁっ!」
私の魔法を皮切りに各々が突っ込んでいく。
何度か攻撃するものの、やはり固い外皮に守られているようで、効果的なダメージは見受けられなかった。
「風の魔法はかなり上位でないと効きそうにないですね」
それこそトルネードやストームでも、中心に近い一部の刃でないと効果もなさそうだ。
「こっちも斬撃や刺突じゃ無理だね。どうする?」
「ん~、ひとまず温度差でやってみよう! リュートは風で壁を作って守ってね」
「分かったよ」
私はティタを肩に乗せ、ゴーレムに向かって火の魔法を放つ。
「かなりの火だと思うんだけど、中々効かないね。ティタ、お願い」
火が消える寸前にティタに水魔法で攻撃してもらう。さぁ、どうかな?
私の狙い通り、温度変化が大きいところに見事ヒビが入った。
「よしっ! これなら行ける。ウィンド」
私はヒビの部分に衝撃を加えると、そこからアイアンゴーレムの体が崩れていく。
「後はコアを壊せば……」
「それは任せて!」
壊れた体をゴーレムが修復する前に、サティーさんがコアを突き刺す。そしてコアも砕け、無事に倒すことができた。
「ちょっとMPの消費は大きいけど、一体なら問題なさそうですね」
「そうみたいだねぇ。次に出会ったらあたしに任せてくれ」
「ジャネットさんですか? でも、外皮はとっても硬いですよ?」
「分かってるよ。良いもんがあってね」
自信ありげに発言するジャネットさんとは対照的に、私たちはなんだろう? と疑問が浮かんだのだった。




