本日の営業は終了
「たっからばこ~宝箱~海のたからばこ~」
「もうちょっと待ってね、アスカ。すぐ罠外すから」
「は~い」
私はサティーさんの罠外しが終わるまで後ろで待つ。
「サティー大丈夫?」
「う、うん。大丈夫。終わったよアスカ」
「よ~し、行きますよ」
私は海エリアの最初の宝箱を開ける。財宝とかでないかな~?
「中身は杖?」
「どうやらそのようね。きれいな青い宝玉が付いてて良さそう」
「じゃあ、鑑定してみましょう!」
杖を本の上に置く。
パァァァ
「光っちゃったね」
「うん。効果はなにかな?」
リュートと一緒に本の記述を読む。
水勢の杖:Dランク。水の攻撃魔法の威力を底上げしてくれる杖
「へぇ~、ランクは低いけど効果は良さそうだね」
「うん。ティタが持てたらよかったのにね」
さすがに杖自体は普通のサイズなので今のティタには持てない。
「そうね。でもこれなら良い値が付くわよ。ただでさえ水使いは攻撃魔法が苦手だから」
「それじゃあ、勿体ないですけど売る方ですね」
「こっちは水の石か。使い捨てだがかなりの魔法を込められる」
いくつか見つけた中には、評価こそDランクだったものの、有用なものがあり、どんどん入れていった。
「はぁ! 」
「やっ!」
「終わったな。ん?マストマーマンからドロップか」
「鑑定しますね」
水の鱗:Eランク。マストマーマンの鱗。わずかな水耐性がある水色の鱗
「使えねぇな」
「いえ、この色合いなら細工に使えそうです。脆いけど加工しやすいってことでもありますから」
「そう?なら、それはアスカさんのね。私たちじゃ使い道はないわ」
「それにしてもこいつらも災難だよな。俺たちに襲いかかろうとしたら、水面が凍って身動きが取れなくなるなんてよ」
「キシャルのお陰ですよ。ありがと」
んにゃ
マストマーマンはキシャルが足場を固めている時にちょうどやってきて、ディンさんの言う通りにやられたのだ。ランクアップして間もないのに、キシャルってばすごいなぁ。
「次は…もうこのフロアは終わりだな。下に降りる階段だ」
ダンジョンに潜っていて思ったのは、案外戦いやすいことだ。強い魔物と弱い魔物が入り交じったりすることも無いので、常に同じレベルの警戒で足りる。弱い魔物はたまに怯えて、不可解な行動に走ることもあるけど、それがないから落ち着いて対処できる。
「まぁ、まだ対処できる相手だからだろうけど」
「アスカ、どうかしたのかい?」
「いえ、パニックになる魔物がいなくて楽だなぁって」
「そういえばそうだね。良く気がつくね、アスカは」
「まぁ、そこはありがたいね。急に突撃されても困るしねぇ」
うちはみんな軽量鎧だから予想外の動きはごめんなのだ。
「このフロアも特に問題はないな。進んでいこう」
ここはもう23F。今日の探索はあと少しだ。
「右下に反応3体!海面にはほぼ反応ありません!」
「恐らくキラーシャークだろう。気を抜くな!」
相変わらず、凍らせながら進んでいるのだが、運悪く相手が先にこちらを捉えるとこうやって戦闘になる。
「サメかぁ。サイズはそこまででもないけど、やっぱり怖いなぁ」
どっちかと言うとオークやオーガといった、前世で見たことの無い生き物はそういうものだと思える。でも、サメとか向こうでもいた生き物はちょっと怖いのだ。
「キシャル、手前の方にアイスブレスだ。なに?当たらないかもだって。別に良いよ、そんときゃあたしが行くまでさ」
キシャルのアイスブレスで海面が凍る。1体はそこに巻き込まれたけれど、もう2体はそのままこちらに向かってくる。
「上出来!」
ザシュ
船に迫るキラーシャークをヒレを頼りに位置をつかみ、飛び上がって剣を突き刺すジャネットさん。
「すごい!…あっ、魔法」
フライの魔法は着地すると解けてしまうので、すぐにかけ直す。
「サンキュ」
そして今度は身動きの取れないキラーシャークに止めを刺した。
「あと1体!…は問題なさそうだねぇ」
残りの1体はマインさんが氷のマジックナイフで固めて、ハイルさんが止めを刺していた。
「なんだ、マインもキシャルと同じことできるんじゃねえか。なんで、普段はやらなかったんだ?」
「あのねぇ。本来、氷属性は貴重なのよ?もしマジックナイフが変な凍らせ方をして落ちてごらんなさい。折角の希少属性のナイフがパーよ。貴方、代わりに買ってくれるの?今日は周辺が既に凍っているからしただけよ」
なるほど。マジックナイフは現象を起こしたい場所に必ずナイフが必要だ。海面を凍らせる時はそこに向けて投げないと行けない。回収を考えれば後は自分も飛び降りる事だけどさすがにね。
「わ、悪かったよ。まあ、氷属性は希少な割にそこまで使えないからな。大事にしとけ」
「えっ!?氷属性は使えないんですか?」
「使えなくはない。ディン、適当に言うな」
「でも、氷使いと組んだことあったけどやりにくいぜ?」
「それは貴方だからよ。まあ、厄介ではあるけど」
氷属性は消費MPが高く、影響範囲も広めだ。そのため、冷気で相手の動きを遅くすることもできるが、味方も相応の装備でないと条件は同じだ。主力魔法のアイスグレイブやアイスウォールも土魔法で置き換えられるから、居て欲しいけど単属性なら他を当たるって感じらしい。
「しかし、キシャルのアイスブレスは範囲が狭いから良いな。周りへの影響が少ない」
「今はちょっと離れて使って、凍りやすくしてますもんね」
ただ、ワンフロアにつき最低でも1本マジックポーションを飲まないと行けないのはね~。
「ふぅ~、もう一杯!」
「アスカ、まだ飲むの?」
「キシャルがもう少し分けて欲しいって」
「そっか。こればっかりは僕らじゃ消費が解らないからしょうがないね」
美味しくはない、むしろ不味いポーションを飲みきって進む。
「もっと美味しいのが欲しいなぁ…」
「それならあるわよ!」
「ほ、ほんとですか!?」
「と、とはいっても、この国だと高いの。ここから南にある別の大陸で作ってるのよ。他にも既存の物より効果が高いものとかが並んでいるんですって」
「へ~。でも、高いんですよね」
「戦いに便利だということは、戦争に使われるってことだからな。安易に安くはできないさ。美味しいやつは貴族用なんだそうだ」
「ポーションにいちいち味で文句なんて、細かいやつだぜ、貴族は!」
「……。」
「ちょ、ちょっと、ディン!」
「あん?なんか…ああ、いや、嬢ちゃんはほら!まだ、子どもだからなっ!」
「私もう15歳です!」
すごんで見せるものの、そうかそうかと返されてしまった。むぅ~、こっちじゃもう成人の年なのに。
「でも、あたしも興味あるねぇ」
「ジャネットさんも!?やっぱり気になりますよね!」
「ああ。ポーションなんて要は薬草の味だろ?味を変えるってことは配合が変わるんだろ?それなのに効果が高くなったり、美味くなったりなんて不思議じゃないか」
「そう言われると一理あるな…。単なる改良品だと思っていたが、中身は俺たちが思っているより複雑なのかもな」
「じゃあ、そこに直接買い付けに行きます?」
「そいつはやめた方がいいな。なんでも、その薬を開発した奴は貴族になって専門の施設で研究しているらしい。俺たちなんかが行っても門前払いどころか、危険人物だと思われるぞ」
「ま、大陸渡って行くんだしね。バルドーのおっさんに会った後はそっちにでも行くか」
「そうですね」
「でもまあ、今はこのダンジョンだ。敵のドロップもまずまずだし、進んでいくぞ」
「おう!ベゼルシートが出るのはいいよな」
ベゼルシートというのは盾やガードに貼るもので、持ち主が危険を察知すると防護膜を展開してくれる。使い捨てで数回で壊れるものの、防具の耐久を気にしなくてよくなるので、前衛職には人気だ。ただ、使い捨てのため安価な上に自分たちで使うので、市場で見かけることは滅多にない。
「私たちは基本的に被弾しないようにするからいらないけどね」
「あたしは昔使ったね。ただ、収支が合わなくてね。そんなに簡単に付け外しもできないし、戦場で着替えってのもね」
「こういうところはダンジョンならではだな。セーフティーエリアがあるからそういうこともできる」
というわけで、こっちはハイルさんたちにあげることにしている。後は気になるものはそれぞれ買取って感じだ。
「あ~、つかれた~」
「アスカ、お疲れ様」
「うん。今日はいつもの倍は疲れたよ」
ようやく25Fのセーフティーエリアへとたどり着いた。前回と違って、MPを大量に消費しているせいかかなり疲れている。
「渡し慣れていないせいかも。キシャルはどう?」
んにゃ~
私とは反対にキシャルはすこぶるご機嫌だ。やってることは同じなのにどうしてだろう?
「ティタ~、キシャルがご機嫌なのってわかる?私は結構MP減ってつらいんだけど」
「アスカのまりょく、きもちいい。まものはげんきになる」
「ふぇ!?そうなの?うれしいような、自分だけ疲れて悲しいような」
その後はみんなで夕食を作り、一緒に食べた。
「さあ、今日はもう寝るぞ。明日は早いからな」
「もうですか?」
「ええ。今日は私たちが早かったでしょ?休息を速めて、明日も先行するのよ。しっかり今寝てないと明日つらいわよ?」
「が、頑張って寝ます。それじゃあ、おやすみなさい」
食後の会話もそこそこに眠りに入る私たち。明日はいよいよ30Fのボスとの戦闘だ。
「緊張するなぁ」




