一日目最後のエリア
「20F到~着~」
「はいはい。サティーは装備ちゃんと確認した?」
「ばっちり、でも、服はしまわないとね」
氷山エリアを抜けて私たちは服を着替える。これで動きにくい防寒着ともおさらばだ。まあ、実質戦闘はなかったようなものだけど。思い思いに着替えた後はいよいよボスへと挑戦だ。
「じゃあ、おさらいだな。前はワイバーンだったが、本来はゴブリンロード2体かオークロード1体かオーガジェネラル1体だ。ただし、ロード系は手下を呼ぶから集団戦闘になる。その点を気を付けるんだ。特にロードは指揮持ちだから相手の動きも普段より良くなっているぞ」
「へ~、指揮持ちなんですね。それじゃあ、ジャネットさんと一緒です!」
「ア~ス~カ~、むやみにスキルの話をするなって。この子は…」
「まぁまぁ、私たちしかいないんだし。というか、あなたたちはレアスキルばっかりね、うらやましいわ」
「そんなこと言っても指揮なんて発揮できるほどの数を束ねないけどね」
「あら、わからないわよ?将来そういうことになるかも」
「そういわれるとそうだけどさ」
ちらりとこっちを見てくるジャネットさん。私がそんなに人を集めると思ってるのかな?
「さあ、長話もなんだ。折角、火山と氷山エリアで他のパーティーが来ないんだ。行くぞ!」
「「はいっ!」」
身支度を整えてみんなで入る。中にはでっかい影があった。
「オークロードだね。ダンジョンではランクは低いがそこそこ厄介だ」
向こうもこちらに気が付くと手下を召喚してくる。
「大量に呼ばれる前にこちらも動くぞ!」
「あたしとハイルがジェネラルを倒して、ロードに向かう。アスカはあたしたちに攻撃が来ないように。ディンはリュートとサティーの援護。マインは抜かれそうな時に攻撃してくれ」
「わかったぜ!」
「ええ」
「よ~し、私も頑張らなきゃ!嵐よ、ストーム」
私は大きめの嵐を起こす。サイズは大きいものの、威力はそこまでじゃない。目的はジェネラルやロードと通常のオークの分断だ。魔法抵抗が低い通常のオークたちではストームの風の刃を無視することができず、これ以上は侵入できない。こちらからは焦点を絞れば、貫通可能だ。
「やるわね。私は状況確認に回るわね」
「わかりました。えいっ!」
風が一旦収まると、弓を取り出してどんどん敵を射る。仕掛けるまでそこまで時間がたっていないのに、目の前には30体ほどのオークがいる。
「ロードって本当に厄介だなぁ。MPいくらぐらいなんだろ?」
私たちが戦っている奥でジャネットさんたちは戦っている。ジェネラルは魔法を使っている間に不意をついて倒せたみたいで、ロードもすぐには召喚する時間がないだろうから、決着はもうすぐだろう。
「はぁっ!」
「せやっ!」
「こっちは終わったみたいね。2人ともお疲れ様」
「お疲れ様です」
「ああ。しかし、マイン。お前も働けよな」
「失礼ね。ちゃんと見てたわよ。でも、所詮はオークだし」
「そういえば、リュートもすぐに魔槍から薙刀に切り替わってたね」
「オークの相手は嫌なんだって。それに薙刀なら周囲を一気に薙げるから楽だしね」
「そっか、何はともあれお疲れ様。後はボスだね」
ひょいっと飛び上がりオークロードを確認すると、ちょうどとどめを刺すところだった。
「はぁ!」
「ハイル、お疲れさん」
「ジャネットもな」
「2人ともお疲れ様です」
私は魔法を解くと、2人に歩み寄る。
「ああ。アスカの方は問題なかったか?」
「はい。お二人はどうでした?」
「アスカのおかげだね。突然、部下たちと切り離されてビビったのか、ロードの動きが鈍かったよ」
「そうだな。それに、一回ではそこまで召喚できないのか、追加もほとんどいなかったな」
「なるほど!元々、魔力が高い種族じゃないから一日に呼べるのはそこまでじゃないかもですね」
「それはあるかもな。何にせよ、けがもなくてよかった」
パァァァァ
ボスを倒したことで、部屋には宝箱が出てきた。
「あっ、宝箱ですよ」
「だねぇ。開けるか?」
「はいっ!」
ジャネットさんと一緒に宝箱を開ける。ロードっていえば王様とか領主って意味だったと思うし、期待できそう。
「何かな何かな~」
カパッ
宝箱の中には剣が入っていた。
「何だ、剣かぁ~」
「アスカ、どうだった?」
「ハイルさん。中身は剣でした。いります?」
「あ、いや、それはいい」
「何だいハイル。煮え切らないねぇ。よっと?重っ!何製だいこれは!?」
「ああ、それはな。重たくなる代わりに強度が増すように魔法がかかっているんだ。オークやオーガぐらいのバカ力がないと持てないぞ」
「何だぁ。いいもん入ってたか?」
「オークブレードだ。ディン、今のお前なら持てるんじゃないか?」
「オークブレード?ああ、あの力試しに使われる剣だな。持てるとは思うがどうするんだ?ただの鉄の剣だし」
「鉄の剣…ひょっとして」
私は本を取り出すとオークブレードを乗せてみる。乗せるといっても魔法でだけど。
オークブレード:主にオークロードが使う剣。Dランクで芯の太い鉄の剣に強度上昇の魔法がかかっているがその代わりに非常に重いデメリットもある。たまにオーガ系が持っていることも確認されている。
「鑑定出来ちゃった。せっかくのボス宝箱だったのに…」
「まあまあ、こっちも確認してみなよ」
「そうですね。気を取り直してっと」
もう一つは20Fレベルの宝箱だ。ボスの種類に関係なくそこそこのレアなものがあるから期待できそう。
「こっちは何かな~」
楽しみに開けてみるとそこには鞭が入っていた。
「鞭?でも、魔物にはなぁ」
鞭は一見、有効そうな武器に見えるが魔物の皮膚には効きづらく、もっぱら対人用のものとして認知されている。また、リーチも長いけれど癖が強くて人気はない。
「どうせこれもDランクだよね~」
ひょいっと本の上に乗せてみるものの、なぜか鑑定できない。
「あれれ?Cランク以上なんだこれでも」
「みたいだね。特に飾りっ気もないし、意外だね」
ゴブリンのボス宝箱で出た騎士の剣とは違い、おおよそランクが上がってくると、装飾と効果は比例する。そういう形から言えば、ちょっと意外だ。
「まあ、もらっとこう」
鞭を仕舞うとボス部屋を出て次のフロアに進む。
「ここは…珍し~海上ね」
「か、海上って。ここは船の上ですか?」
「設定上はね。でも、気を付けるのよ。落ちたらちゃんと沈むらしいわ」
「らしいって…」
「浮き上がってこないらしいから、多分だけど」
「じゃあ、テンタクラーとかスラッシャーがいるんですかね?」
「いや、あんな大物は出ない。先のエリアならわからんが、もう少し小型の魔物だな。マストマーマンとかか?」
「マストマーマン?」
「ああ、船のマストのように縦に連なって襲ってくる魔物だ。他はキラーシャークだな。獰猛だが2m50cmぐらいのサイズだ」
「ただ、戦いにくい地形だから気をつけろよ、嬢ちゃん。俺の知り合いも無理してここで突っ込んで腕をやられた奴がいるからな」
「う~ん。そうですよねぇ~」
「あたいはそこまで苦手じゃないけどね。身軽だから船から船に飛び乗るの楽だし」
そう、ここのエリアは小舟から小舟に飛び乗ったり、広い足場を再現するためかちょっと大きい船があったりする。その足場の悪さが魔物の強さ以上に厄介なのだ。重戦士がパーティーにいる場合は風魔法が使えないと移るのも大変なので、ここでも嫌われている職らしい。
「そうだ!いいこと思いついた!キシャル~、こっちおいで」
んな?
なんだ、ジャネットの肩でくつろいでいたのに…。そう言いたげなキシャルを呼び戻し、私は指示を出す。
「キシャル、アイスブレス!」
んにゃ
キシャルがアイスブレスを海に向かって放つと、徐々に海面がビキビキと凍り始めた。
「これで、水面も平気ですよ~、うわっ!?」
「アスカっ!」
「リュ、リュート、ありがと。おかげでこけずにすんだよ」
「アスカはそそっかしいんだから、もうちょっと慎重になろうね」
「う、わかった」
「それにしてもここまでできるとはな。子猫と思って油断できないな」
「でも、どうするの?折角、凍ったけどさっきのアスカさんみたいに滑ったら危ないわよ」
「慎重に進むしかないだろう。飛び移れる奴は飛び移ればいいし、自信がないなら凍った床を進めばいい」
「俺はせっかくだし、こっちで滑っていくわ!」
ディンさんはどうやら滑る床が気になるようで、さっさとそっちに行ってしまった。スケートリンクとかあったら毎日通ってたのかな?
「私たちは身軽だから普通に船を渡りますね」
「あたいも滑っていこ~」
「サティー、気をつけろよ」
「うん。わかってるって」
そうして1F抜けると次のフロアでも同じように進んでいく。
「これってひょっとして魔物が出てこない?」
「水面が凍っていて出てこれないみたいね」
「あっ!でも、そうなったら宝箱とかも取れないんじゃ…」
「それなら心配ないぜ!このフロアは船にあるからな」
「そうなんですか?」
「ああ。昔、船を渡るのにイライラしてな。それで八つ当たりしたらあったんだ」
何とも豪快な話だ。でも、ディンさんのカンを頼りに船の一部を破壊するといくつか宝箱を発見した。




