ダンジョン2回目
「アスカ、持ち物は揃ってるかい?」
「はい。ばっちりです。リュートは?」
「事前にジャネットさんに頼んでたから僕も平気だよ」
「それじゃあ、行くとするかね」
ピィ!
んにゃ
「いく」
従魔たちもやる気十分だ。ティタもゴーレムの核が出るかもと昨日からそわそわしていた。
「こっちこっち~」
「サティーさん!おはようございます」
「おはようアスカ。2日振りだね、昨日はどうだったの?」
「無事に引き継ぎと言うか、お願いしてきました」
「そっか~、仕方ないとはいえ、あんだけ可愛がってたんだしもうちょっと粘るかと思ってた」
「うっ」
作戦が失敗したとはいえない。この街にいる間だけでも一緒にいたかったのになぁ。まあ、今日とかはお世話も絶対無理だし、タイミングとしては良かったんだけどね。
「サティー。急に走るな、見えてただろう?」
「ハイルだって久しぶりにあたいに会う時は小走りでしょ?それと一緒だよ~」
「そ、そんなことは…」
「あら?ハイル気づいてなかったの?」
「マイン!」
「ハイハイ、今日は忙しいんだしそれじゃ行きましょうか」
時刻はまだ朝の5時過ぎだ。今日はこの前と同じ25Fに早く着いて、そこから1泊。早めに起きてそのまま進み、最終的には35Fを目指す日程だ。
「日程としては最初の方がちょっと急ぎ足だけど、私たちならこんなものよね」
「ああ、じゃあ行こう」
ちなみに、10人ぐらいになったり、回復役が少なかったりするパーティーだと、ポーターっていう荷物持ち専門の人がいることもある。全員が戦える訳じゃないから、少し遅い移動になるんだそうだ。私たちは最低でもCランクだし、関係ないけどね。
「最初は…草原ね。この辺はどうでもいいわね。すぐに下りていきましょう」
草原ではフィールドラットという、小型のネズミが出てきた。サイズは30cm足らずでディンさんやジャネットさんの蹴りで倒されていた。
「ちょっとかわいそうかも…」
「何言ってんだい。こいつらはダンジョンだからいいけど、病を持ってきたりと最悪のやつらだよ」
「そうそう。倉庫の中身を食べたりな」
そういえば、ヨーロッパで昔猛威を振るった病もネズミが原因だっけ。そう考えたらかわいそうじゃないかな?そんなこんなでスパッと5Fまで駆け抜けると、次は6Fだ。
「さあて、次はどうかな?」
サァァァァ
6Fに踏み込むとそこは砂浜だった。
「海だ~、すっごく不思議ですね。ダンジョンの中に海があるなんて!」
「全くだね。どうなってんだか。で、何か注意することは?」
「砂浜だ。足を取られることはもちろんだが、魔物もそこから出てくることに注意してくれ」
ズ ズズズ
「ん?何か反応があります…」
「どこから?」
「砂の中になるのかな?」
「十中八九サンドワームだな。ディン、頼むぞ!」
「おう!」
ディンさんが片側は斧、もう片側が鎚の武器を取り出すと鎚側を一気に振り下ろす。
ドォン
音とともに地面に衝撃が伝わると、びっくりしたサンドワームが砂中から出てくる。
「せいっ!」
「やっ!」
すかさずそこにハイルさんとリュートが襲い掛かり、難なく倒した。
「サンドワームはDランクの魔物なんだが、砂の中から出てきて厄介でな。さっきみたいな戦い方が楽でいいんだ」
「私だとアースグレイブは…駄目だろうなぁ。風の魔法で衝撃を加えるのが一番いいかな?」
私はディンさんの真似をするように砂浜の地形へ風魔法を叩きつけながら進む。
「ん~、魔物は簡単に探せるけど、魔法を叩きつけるのは難しいですね~」
「探す方が難しいんだけどね~、砂の中ってそんなに音しないし」
「そうだぜ。俺だってカンで探してやってんのに、嬢ちゃんは簡単に見つけるよな」
「まぁ、サンドリザードで探知は慣れてますから。ねぇ、リュート」
「そうだね。最初のころは魔法じゃなくて、土の状態とかも見てたし。砂はそういうところはわかりにくいけど、距離が近いとわかるよね」
「そういうものなのね。うちはそういうのはさっぱりだからここは苦労するのよ」
「そうそう。砂浜も15F以降の方が楽だぜ!」
「15F以降は何が出るんですか?」
「シーバリアスという怪鳥だな。空は飛んでいるが、一度狙いを付けた獲物を狙う習性があるから対応はしやすい」
「前にあたいが狙われた時はハイルが守ってくれたんだ~」
「小柄な人間を狙う傾向が強いから、今のパーティーだとアスカさんが一番狙われるわね」
「アスカのことだからそれで空を飛びたいとか言い出さないといいけどねぇ」
「あっ、いいですね!大きい鳥さんに抱えられて空中遊泳なんて」
そんな会話をしながら10Fへとたどり着いた。今回のボスはゴブリンナイト3匹だ。
ガァァァ
こちらに気づくと3匹とも横一列に並んで襲い掛かってくる。装備は剣に盾に鎧、兜は被ってないみたいだ。
「せっかくだし、アースグレイブ!」
私は靴をコツンと鳴らすと、進んでくる正面のゴブリンナイトに向けて、地面から槍を突き出す。
ガァッ
「うわっ、えぐっ。鎧ごと貫いてるよ」
「はっ!」
「えいやっ!」
残りの2匹はマインさんがマジックナイフを、サティーさんが暗殺者のナイフを使って仕留めていた。
「うちの女たちはそろいもそろって…」
「あたしも女なんだけどね」
「ジャネットは凄腕の冒険者だろう?枠が違うさ」
「悪い気はしないけど、ごまかされた気分だよ」
「まあまあ、宝箱ですよ。見てみましょう」
魔物も倒し、ボス宝箱を開ける。
「こっちは剣と盾。隣は…ポーション?」
飲み薬だとはわかるけれど、なんだろう?とりあえず、本で確認してみよう。ちなみにこの10Fまでに確認したアイテムといえば。
ラットの皮:小さく汚らしいラットの皮
サンドワームの肉:ぶよぶよしている。一見食感が悪そうに見えるが、油を落として食べるとそこそこ
海鳥の羽:やや大きめの羽。羽ペンに適している
この3つが新規だ。サンドワームの肉はちょっと食べるのが怖いけど、リュートが何とかしてくれるのではと思っている。海鳥の羽はお世話になっている宿の人に羽ペンにしてあげようかな?
「アスカ、鑑定するのかい?」
「はい。剣と盾は…騎士の剣と騎士の盾って出ましたね。でも、Eランクですね」
騎士の剣と盾:Eランクの鉄で作られた騎士用の装備。ただし、装飾中心で実戦装備としては2流の装備
「そっちのポーションは~?」
「こっちは気になってたんですよね。ちょっと見たことない色だし」
薄い青色のポーションだなんてどんな効果だろ?
ハイドポーション:Dランクの姿を消すことができるポーション。効果時間は3分のみ
「変わった効果だね。Dランクにしてはいいものじゃん!」
「そうですね。だけど、使い道が思いつきませんね」
「だなぁ。魔物ってやつらは鼻がいいやつが多くてそう簡単には騙せないからな」
「ってことはこれ、売れないんですか?」
「そういうわけじゃないと思うわ。人相手には有用でしょうし、買い手はつくわよ」
「そうなんですね。私じゃ使い道も思いつかないのでこれは売る方に入れときますね」
レアっぽいけど使い道の思いつかないポーションを売る方に入れて再び進んでいく。
ピィ
「ん?どうしたのアルナ。暑いって。ちょっと我慢してね」
11Fからは高山地帯だ。しかし、よりにもよって火山があるらしく、かなりの気温だ。
「確かになぁ。ほら、そこの猫なんて氷出して固まってるしな」
キシャルはここに来てすぐに暑いと言って自分を氷で包んでしまった。息はできているらしく完全武装でこのフロアに適応?している。
「でも、チャンスだな。レッドリザードやファイアウルフの魔石が手に入るかもしれないぜ!」
「属性専用でも市場価格は高いから狙い目よね」
ディンさんとマインさんの目が輝く。結構言い合いもする二人だけど、息が合うときはぴったりでやっぱり長年活動しているパーティーだなって思う。
「にひひ。それじゃ、宝も合わせて探そ~」
サティーさんの掛け声とともに私たちはフロアを探す。しかし、魔物は出るけれど肝心の宝箱は出ない。
「うう~ん。これまでのことを考えれば、ひょっとして熱いところにあるんですかね~」
「かもねぇ。だけど、そうなったらどうやって取ればいいやら」
岩や木は壊せばよかったけど、熱いのはね~。水魔法で何とかなるかな?
「ティタ、ちょっとそこの燃えてるところに水魔法を撃ってみて」
「わかった」
ティタに水魔法を撃ってもらったけれど、温度が高いのか簡単には消えないようだ。
「これは諦めるしかないかぁ~」
そう思っているとおもむろに肩口から氷が放たれた。
カキン
燃えている火が凍り、ガラガラと崩れていく。そしてそこからは思った通り、宝箱が出てきた。
「火山フロア宝箱初ゲットー!」




