みんな一緒に
休憩も終わり、次はいよいよ群体鳥たちとの面会だ。
「カラム~、アルナたちも入っておいで」
ピィ
チュンチュン
声をかけると窓から6羽が入ってくる。
「この子がカラムです。今はわかりやすいように小さい足環をしてます。さあ、カラム。この人がアーヴァインさんだよ。これからみんながお世話になるかもしれない人なんだ」
チュン
カラムは私の呼びかけに答えるとスッとアーヴァインさんに近寄っていく。私に近寄ってきた時と同じように、他の群体鳥たちはそれをじっと見ている感じだ。
「これが群体鳥…とてもきれいな姿ですね」
チュン
「ありがとうってカラムが言ってます」
「えっ!?何を言っているのかわかるのですか?」
「大体ですけど。私は小鳥を従魔にすることも多いから他の言葉はあまりわかりませんけど」
一応他の人もいるから、ちょっと適当な感じで私はアーヴァインさんに説明する。
「そうですか。カラム、これからよろしく!といってもいいのかな?」
アーヴァインさんが手を出すとカラムはその上にちょこんと乗る。わ~、かわいいなぁ。その後は頭に乗ったり、肩や腕のところに移動したりとせわしなく動くカラム。アーヴァインさんはそれをじっと眺めている。
「これはどういう感じなのですか、アスカ様?」
「私以外の人では広場に来る人としか交流がなかったので、観察してるんだと思います。警戒心も強いですけど、もともと町暮らしですから興味はある感じですね」
「なるほどな。アーヴァイン、せっかく向こうから来てくれているんだ。何かリアクションを返したらどうだ?」
「何かと言われてもこっちもこういうことは初めてで…」
「何でもいいんですよ。この子たちに何かしたいって思ったことなら」
「じゃあ…こ、こっちに来てくれるかい?」
アーヴァインさんは再び手を出すと、手の甲を上に向けてカラムを誘う。カラムはその手に乗るのかな~と思っていると、すぐに後ろに飛びのいた。
「えっ!?」
驚くアーヴァインさんや私たちをしり目にカラムは残っていた4羽を呼んだ。どうやら、自分だけではなくて他の子たちの意見も聞きたいみたいだ。案外、カラムはいたずら好きなのかもしれない。
チュンチュン
カラムに呼ばれた群体鳥たちはアーヴァインさんの手の甲に乗るとくちばしの先でちょんちょんとつつく。
「こ、こそばいよ…」
アーヴァインさんが耐えられなくなってピクッと反応すると、群体鳥たちは一斉に飛び退きそれぞれ思い思いの部分にとまった。興味は持ってくれたみたいで、順調に懐いているようだ。
「よ~し、ここでひとつ…」
私は考えていた作戦を実行する。おもむろにマジックバッグからご飯を入れた入れ物と水を入れた入れ物を出したのだ。
チュンチュン
ピィ
私が2つを出した瞬間、アーヴァインさんに興味を持っていた群体鳥たちが一斉にこちらに向かってくる。
「ふふふふ、計画通り…」
「アスカ、あんたって子は」
「そ、それがこの子たちの餌ですか?」
「はい。見た目は野菜ですけど、中には乾燥させた薬草も入っていて、体にもいいんですよ」
「なるほど。薬草はやっぱりリラ草ですか?」
「今使ってるのはルーン草ですね。ほら、人間でもご馳走を食べたい時ってあるじゃないですか?ちょっとしたご馳走がリラ草で、豪華なご馳走だとルーン草とかムーン草とか使ってくださいね」
「うっ、わ、わかったよ」
「使ってくださいね」
「わかったから」
ご飯を食べ終わった群体鳥たちは私のところに来るのかと思うと、どうやらアーヴァインさんに興味があるようでそっちに行ってしまった。
「くそぅ、計画が…」
「また、変なこと考えてたんだろう」
「ナニモカンガエテマセン」
「ふむ、実際に魔物との交流は問題ないようだな。一番心配していたことだがとりあえずはよかった」
「そうですね。いくら面接の結果が良くても、あの子たちに嫌われては意味がありませんから」
「じゃ、じゃあ、採用になっちゃうんですか?」
「え、ええ。さっきの面接でも問題はなさそうだし。ただ、しばらくは副業もしないと安定しないし、そっちが問題よね。外に出られるように低ランクの冒険者を付けてみるわ」
「ちゃんとお世話してくれる人にしてくださいね」
「もちろんよ。彼らは町の暮らしにも関わるのだし」
こうして面接は終わり、引き渡しになった。
「何も今日でなくても…」
「すまないが、一刻も早く慣れさせたくてな。こいつが他に従魔を持っていれば余裕を持たせるんだが、初めてではな」
「お願いします。大事にしますから」
「当然です!ちゃんと守ってあげてくださいね。さっ、カラムおいで」
私はカラムを手に乗せると契約解除を行う。
「次はお前の番だ」
「はい。来てくれるかいカラム?」
チュン
カラムは私の手からアーヴァインさんに移ると契約を行う。
「これが従魔契約…」
「では、登録しましょう。その時に注意点も説明するので忘れないでくださいね。特にMPの管理は」
「わ、わかりました!」
「む~」
「何すねてんだい、アスカ」
「文句の一つも言いたかったんですけど、従魔契約の時のうれしそうなアーヴァインさんを見たらなにも言えなくて」
「未練がましい子だね。なぁ、アルナ」
ピィ!
「だって、ここ最近は手放してばっかりで…」
「だけど、あんまり大きい種族だと移動や宿泊が大変だしね。落ち着いてからしたらどうだい?」
「そうですね。機会はまだまだありますし!」
私たちは気を取り直して食事をしに宿に帰った。
「あれ?思ってたより早いね。ご飯食べるの?」
「うん。とびっきりのをお願い、リュート」
「はいはい。ジャネットさんも一緒のでいいですか?」
「ああ。量は多めにね」
「わかりました。20分ほど待っていてください」
リュートにご飯を頼み、私たちは部屋で着替える。今日は一応、冒険者としての行動だったのでそっちの装備だったのだ。まあ、ジャネットさんは鎧を外すだけだったけど。
「んで、午後からはどうするんだい?」
「う~ん、細工でしょうか?明日はまたダンジョンに行くんですよね?」
「ああ。この前ので30Fまでは行けるって話だったから、ちょっと本格的にね。ボスも考えてちょっと多めに買い込んどくかな」
そういいながらジャネットさんはすでに明日のことに思いを馳せているようだ。私はここ数日でたまっていた仕上げ待ちの細工を完成させる作業に入った。
「あとは塗料を塗るだけだ~!ん~、最初は宝石とかをそのまま使おうとも思ったけど案外、商人さんに評判がいいからこっちでやらないとね」
地方地方で求められるつくりも違うからね。この国ではシンボルとなるのはバラだけど、隣のデグラス王国では剣と菖蒲がシンボルだ。逆に敵対していた帝国のバラのデザインは好まれないので、こっちを出る時に売り払っておかないといけない。持っててもいいけど、荷物になるからね。
「なあ、アスカ。あたしにバラのやつ一つ作ってくれないか?ちゃんと払うからさ」
「急ですね。いいですよ!ちゃ~んと頑張りますね。なので、完成はちょっと待ってくださいね」
「あ、いや、ちょっとつけようかなって思っただけだから、適当なのでいいよ。ほら、大きいのとかだと身につけた時に邪魔になるしさ」
「む~、いやです!頑張りますから、私」
折角、ジャネットさんからの申し出だし、この前使った白銀の残りを使って花の台には魔石を仕込もう。私は決意も新たに今日の分を仕上げていくのだった。
「アスカ~、ご飯だよ」
「は~い」
「今日はえらく返事が早いね」
「今日は細工の仕上げだけだから」
「そっか、下で待ってるよ」
「わかった」
簡単に片付けを済ませて夕食を食べに降りる。
「今日は何?」
「今日は唐揚げだよ。アスカの意見をもとにあん?を作ってかけてみたんだ」
「ねぎは?」
「ちゃんと横に添えたよ」
「おお~、ほんとだ。ロールパンでもあればはさんだりするんだけどなぁ」
「鳥の巣みたいなパンは難しいよ」
「だろうなぁ~。早く広まって欲しいけど難しいよね」
名店の味の秘密を公開するわけだしね。
「あむっ。ん、甘い中にもちょっぴり酸っぱさがあっておいしい。あんとねぎの相性もばっちりだよ~」
「よかった。アスカのリクエストは普通とは違うからいつも緊張するんだよ。味見しても不思議な味だし、自信が持てなくて…」
そういえば、別にリュートは醤油があんまり好きじゃないんだった。あまり好きでもない調味料で料理を作らせて無理させちゃったかな?
「ごめんね。苦手だったでしょ?」
「あ、いや、そこまでじゃないよ。ちょっと慣れてきたし、味付けも自分のは合わせてるから」
「そっかぁ~、よかった。これからもよろしくね、リュート」
「うん。アスカこそ、また新しい料理教えてよ」
「は~い」
今日はカラムの新しいご主人も見つかったし、のんびりとしたいい日だったな、なんてね。




