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帰してきなさい

「帰してきな!」


「で、でもぉ~」


「帰してきなって!アルナでもあるまいし、そいつらじゃ旅についてこれないだろ?」


「どうしてもだめですか?」


「駄目。大体、なんでそんなことになってんのさ」


時をさかのぼること数時間前。オフを楽しく過ごしていた私は、小鳥たちと戯れていた。


「わぁ!とうとう来てくれた!」


「おや、珍しい。スティン鳥は警戒心が強くて、餌をあげても中々懐かないのに…」


「運が良いんですかね?」


広場にいる人と話ながら近づいてきた1羽に餌をやる。


「ほらほら、栄養満点のご飯だよ~。みんなもおいで~」


最初の1羽が食べたあと、1度群れに戻ると今度はみんなやってきてくれた。


「わわっ、元気だね。ちょっと待ってね。追加もあるから」


ここぞとばかりに余っている乾燥した薬草を取り出す。ミネルも大好きだったブレンドだ。


「それにしても一杯いると誰が誰だか解らないね。ん?君は最初の1羽かなぁ?そうだ!みんなに紹介してくれたお礼に名前付けてあげる。ん~とね、カラム!カラムなんてどうかな?」


チュン!


カラムは気に入ったのか、私のそばに来るとピカッと光った。


「ん?あれ、この光景見覚えがあるような…」


チュンチュン


もう一度嬉しそうにカラムが鳴くと、食事中の小鳥たちもピタッと止めてこっちを見てきた。


「あ、あれ?これってもしかして…」


-----

「というわけなんですよ。不可抗力なんです」


「何がというわけなんですだ!不用意に名前を付けたからじゃないかい」


「でも、最初に来てくれたわけですし、他と一緒って言うのも…」


「んで、ギルドには?」


「ちゃんと行ってきました!」


「そいつらのランクは?」


「Fランクです…」


「まあ、予想はしてたけど最低ランクかい」


「でも、群れの中で言葉を使った意志疎通が出来るんですよ?」


「それを毎回通訳するのかいティタが?」


「うっ。ジャネットさんのけち」


「けちでも何でも良いけど、さっさと契約解除しな」


「は~い。ごめんねみんな、あのお姉さんが一緒にはいられないって言うんだ。せめて従魔になってくれたお礼に魔力をあげるね。今日は細工もしないからど~んとあげられるんだ!」


「アスカ!ちょい待ち!」


「えっ!?」


今生の別れとばかりに私が魔力を受け渡すと、スティン鳥は輝きだした。


『条件を満たしました。ランクアップしますか?』


「えっと、はい。ん?」


さらに一瞬強く輝くと、光の中から鮮やかな緑を基調とした体に赤いラインの入った鳥たちが現れた。


チュンチュン!


「わっ!?みんなどうしたの?」


「アスカのおかげで、ランクアップした」


「ティタ、そうなの?なんて種類?」


「ぐんたいちょう」


「群体鳥?聞きなれないね。ギルドで調べてもらおっか」


「アスカ、ひょっとしてこれで強くなってたら…なんて考えてないよねぇ?」


「ギクッ!?そ、そんなことありませんよ~。ピュー」


口笛を吹いて誤魔化しながら、どんな魔物なのかを調べにジャネットさんを連れて翌日、ギルドに向かう。


「いらっしゃいませ~!あら、アスカちゃん。どうしたのまた。ジャネットさんまで、先日はありがとうございました」


「いや、アスカが従魔にした奴がちょっとね…」


「お話が長くなるようでしたら奥にどうぞ。うちは暇ですから」


「なら、そうさせてもらうかね。ほら、アスカ行くよ」


「は~い」


小部屋に案内されたのでそのまま入っていく。群体鳥のみんなは代表して5羽だけがついてきた。


「それで従魔についてでしたね」


「はい。以前、辞典を持っていたのでこの子たちの種類がわかるんじゃないかと思って…」


「あら、そちらはスティン鳥では?」


「色味が違うだろ。また、ランクアップさせたんだよ、この子」


「まぁ!この短期間にですか?素晴らしいですね。そういえば、いつも見る子は茶色いですね。少々お待ちください」


お姉さんは辞典を持ってくると同様の特徴を持つ小鳥を検索し始めた。


「あ、ありましたよ!」


「ほんとですか?」


私はちらりとジャネットさんに視線をやってから本に向けた。


「じゃあ、読みますね。群体鳥…スティン鳥とは違い、念話で仲間同士会話できる。名前の通り、統率する1羽以外は実働隊として動く。個々の意思は薄く、個体という概念ではない。なお、戦闘力は皆無に近く、魔力も念話で消費するのみだ。当然、Fランクである。ですって」


「Fランク…」


「まあ、こんなもんだろう。アスカ、わかったね」


「しょうがないですね。でも、ちょっとは強くなったし、よかったのかな?」


「ところで、この子たちはどうされるんですか?」


「そ、それがですね。旅には連れていけないのでこの街に置いていくしかないんです」


「う~ん。それでしたら、こちらにお任せいただいてもいいですか?」


「任せる?ギルドがどうしてだい」


「この子たちって知能が高いので、街限定にはなりますけど手紙を届けたりできるんです。群体なのでまずいなくなりませんし、街の中の近い個体が運んでくれるので早いんですよ。ちょうどといいますか、条件に合いそうなDランクの魔物使いがいるんですよ」


「ちょ、ちょい待ち!職はCランクからだろう?」


「そうなんですけどね。その方は以前は魔剣士を目指してランクをあげられていたんです。それが適性試験で魔物使いが出たからそちらにされたんですけど、不人気職ですからパーティーから弾かれてしまって…。以降、中々パーティーが組めず、依頼の未達や受注難度から下げざるを得なかったんです」


「あ~、そういう。職だけは持ち越せるんだっけ?」


「まあ、持ち越せても格落ちになりますが、魔物使いだけはそういうのは関係ありませんから。正直、ギルドとしても説明が長くなってしまい、実力もギリギリCランク程度ですので雇用先を紹介したかったんです」


「面接…していいですか?」


「面接ですか?当日の立ち合いぐらいでしたら…」


「それでお願いします!」


「アスカ、いいのかい?」


「はい!この子たちの面倒を見てくれる人がどんな人なのかきちんと見ないと!」


「へ~へ~、じゃ、あたしも付き合うかね」


「ジャネットさん!」


うれしくなって私はジャネットさんに抱き着く。


「こ、こら、ここは外だよ!」


「いいんですよ。ここには私たちしかいませんし」


「ジャネットさんって、ギルドに来られる時と普段は違うんですね。当たり前といえば当たり前ですけど」


「…言いふらすんじゃないよ」


「もちろんです。ギルド職員として冒険者の個人情報は守りますから」


「それじゃあ、2日後にまたお願いします」


「はい、ちゃんと準備してきますから」


お姉さんと別れてみんなと一緒に食事だ。とはいえ、店の中では食べられないので、ジャネットさんがリュートに作ってもらった食事を宿から持ってきて公園で食べている。


「さあ、みんなも食べてね~」


群体鳥たちには薬草を混ぜた食事をアルナや他のバーナン鳥たちと、キシャルはお昼に出る予定だったお肉の冷凍。ティタはゴーレムの核をあげた。


「アスカは今の食事代わかってるかい?」


「や、止めてくださいよジャネットさん。考えないようにしてるんですから」


アルナたちの食事は旅先でも見つけられるけど、キシャルはどうも薄味の調理済みのお肉の方が好きらしく。ゴーレムの核はレアドロップだ。毎日は…難しいだろうなぁ。それこそ、毎日のように細工をして売ればなんとかなるかもしれないけど。


「それだと、のんびりできないしな~」


「アスカ、なにかいった」


「ううん。ティタがおいしそうで何よりだなって!」


「じ~」


「きょ、今日の分はそれだけだよ」


あ、危ない危ない。ティタがおねだりを覚えたみたいだ。あげようとするのを私はなんとか我慢した。


ピィ


「あれ?珍しいね、アルナがご飯をあげるなんて」


アルバにいたころでも我先にと食べるタイプだったのに。アルナがあげているのは一回りも小さい子だ。


「いもうと、みたいだって」


「ああ~、弟はいたけど妹はいないもんね。わかるわかる、私も妹欲しかったな~」


お姉ちゃんが勉強教えてあげる!なんてね~。私の成績ってどうだったかな…あっ、今は考えないでおこう。姉っぽいことが今考えることだしね。


「こうやって見てるとやっぱりアルナはアスカに似てるねぇ~」


「そうですか?へへっ!」


ジャネットさんがそういうと、なぜかアルナはこっちをじーっと見てくる。うれしいんだね。みんなとの食事も終えてその日は何事もなく過ごし、とうとう面接の日がやってきたのだった。



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