こぼれ話 みんなの休日
アスカが広場で小鳥と戯れているその日、他の面々と言えば…。
「ジャネットさん、朝早くから出かけるんですか?」
「近くの村まで往復でね。西側の地理にも慣れときたくてね」
「お願いしますね」
「任せときな。時にリュート」
「はい。何ですか?」
「今日はデートに誘わないのかい?」
「デ、デートだなんて、仕込みがあるので…」
「こっちは食材を出してやってんだからいいと思うけどねぇ。まっ、好きにしなよ」
こうして僕はジャネットさんを見送り、しばらくして今度はアスカを見送ったのだった。
「アスカ、結局お昼は戻ってこなかったな…」
「ハイル~来たよ~」
「サティー、早いな」
「へへ~、こっちにいる間も今回はダンジョンやらなにやらであんまり2人っきりになれないからね~」
「そうか、せっかく来てくれたのに悪いな」
「ううん。私もアスカたちのこと頼んじゃってるし、お互い様だよ~」
「それにしても、あのパーティーはすげえな!まだ、ほとんど10代だろ?」
「ディンでもそういうこと思ったりするんだ」
「当たり前だぜ!前衛は無理が効く内が花だからな!怪我で引退する奴の数といったら…」
「そうね」
「でも、みんなだって強いでしょ?何でBランクにいるの?」
「その方が得なこともあるのよ。それよりいいの?折角のデートでしょう?」
「そうだった!それじゃあ、ハイル借りてくね~」
「…本当に嵐のような子ね」
「でも、ハイルの奴が大事にしてるしよかったぜ!責任感が強いから、無理して大怪我になる前に引退を決められてよ」
「そうね。あなた以上に傷だらけだもの」
「剣士なんだから大人しく避けりゃいいものをよ。かばったりするからなんだよ。うちのリーダーは」
「さて。それじゃ、私も出掛けるわね」
「どこに?」
「この町には馴染みもあるし、小さい家でもって思って」
「気が早いな。ここはどうするんだ?」
「ここはパーティー用でしょ?流石に大きすぎるわよ。元々、6人ぐらいは暮らせる造りなんだから」
「それこそ馴れてるんだから、ここでもいいだろ?」
「ハイルが使うかもしれないし…」
「あいつは商売始めるんだから、こんな人通りが少ないところは選ばないだろ」
「とにかく、今日は見るって決めてるから行ってくるわね」
「へいへ~い」
「…行ってくるわね」
「なんだよ?」
「女一人で、絡まれたりするかもしれないんだけど」
「なら、そう言えよな!よっと」
俺は立ち上がり、バトルナイフを腰に下げると一緒に部屋を出ていこうとする。
「ちょっと、そんな格好で一緒に出掛ける気?」
「いいだろ?この方が護衛に見えるだろうしな」
「ダメよ。それじゃあ、どこかの金持ちに見られちゃうわよ」
「この街でなに言ってるんだか。まぁ、そう言うんなら待ってろ」
ニヤリと笑うと仕切りで着替える。
シャッ
「さあ、どうだ!」
「えっ!?うそ…」
「俺だってちゃんと着飾れば騎士にだって見えるんだぜ!まあ、言葉遣いと傷はどうにもならんがな。行こうぜ!」
「あっ、ちょっと待ちなさい!」
「まだ何かあるのか?」
「その格好に無骨なナイフはダメよ。はい、これ」
「なんだこれ?レイピアか」
「護身用にね。今のあなたにはぴったりよ」
「頼りないが、リーチがある分ましか」
「ぐだぐだ言ってないで付けなさいよ。時間がないんだから」
「畏まりました」
「よろしい!」
俺はレイピアをさげると、ご機嫌なマインと一緒に宿を後にした。
「~~~そんでさ~、師匠ったらすごいの。何がすごいって、あれだけの弓の腕前なのに普通って思ってるところがね」
「だが、上には上がいるだろう。俺も腕がいいことは認めるがな」
「でもさ~、まだ15歳だよ?あたいがその歳だったら絶対、調子に乗っちゃうな~。ハイルだってそうでしょ?」
「うっ、まあ、その歳のころだったらな」
「ほらほら~、そういうところもかわいいというか、面倒見たくなっちゃうんだよね。ほんとなら助けてもらう立場だけど」
「何にせよ、あれだけの腕と発想だ。間違いなくAランクになるだろうな。本人が望めば、だが」
「そういえば、朝の会話でも気になってたけど、どうしてみんなはAランクにならないの?」
「その話か。サティーはAランクの冒険者と聞いてどう思う?」
「どう思うって…う~ん。強くてかっこよくてイケメンとか?」
「イケメンかはともかく、強くてかっこいいというのが一般的な感想だろうな」
「違うの?」
「違いはしないし、俺も昔はそう思っていた」
「じゃあ、やっぱりあってんじゃん!」
「まあ、聞け。Aランクになるということはまず間違いなくトップクラスの実力があると、自他ともに認めるということだ。そんなAランクが受ける依頼とはどんなものだと思う?」
「どんな?そりゃあ、貴族の依頼とか強い魔物の討伐とかサクッと解決しちゃう感じ?」
「そうだ。当然、その辺の魔物退治なんてものはギルドから頼まれない限り、自分から受けたくても受けられない。下位の冒険者からも、自分たちの依頼を取られたと思われるだろう。そうなると、Aランクが受けられる依頼は限られていく」
「まあ、実力があるんだからそれでいいんじゃないの?」
「実力があればな。装備にも気を付けないといけないし、危険度の高い依頼ばかりを受けるようになれば、身の危険も増える。そして、依頼の数が限られるため危険地帯に住まざるを得ない。そんな生活にあこがれるか?」
「うげげっ!そうだったの。あたいたちはCランク止まりでよかったよ~」
「最悪、Bランクになっても指名依頼はそこまで来ないから大丈夫だが、Aランクの指名依頼は断りにくいものも多い。また、ギルドからの頼みもある。凶暴な魔物が出たから退治してくれとな。Bランクの冒険者ならともかく、Aランクの冒険者が断れるか?」
「あ~、それは難しいよね。ほんとにAランクなのかって疑っちゃうかも」
「そういうことを考えるとな、ギリギリAランクの実力ならBランクのままの方が、気ままに依頼も受けられるし、制限も少なくて実入りもいいんだ」
「なるほどね~。実は前から気になってたんだ~。ハイル達って他のBランクの冒険者たちより強いのに、なんでAランクにならないんだろうって。ダンジョンだけじゃなくてたまにギルドで受ける依頼の達成率もほぼ100%って聞いてたし」
「サティーはよく知ってるな。ギルドの依頼なんて本当に年に数えるほどだぞ」
「へへ~、こう見えても情報収集は得意なんだよ~」
まあ、その調べた理由も付き合う前にハイルがどれぐらいの実力を持ってるか、つきとめるためにこっそり調べてた時のだけどそれは黙っておこう。
「まあ、そんな話ばかりしててもしょうがない。これからの予定でも考えるか」
「そうだね~。あっ、店員さん。とりあえずこのデザートお願い」
「かしこまりました」
「いったそばから…」
「まあまあ、食べながら考えた方がいいこと思いつくよ~」
「わかった。俺の分も頼む」
「はい」
俺たちはデザートを頼むと、この後の予定を話し始めた。
「はぁ~、面倒そうだねぇ」
「ねぇちゃん、たかが村まで物資を届けて代わりに商人に野菜を納品するだけだろ。そんなこと言ってないで気楽にやろうぜ!」
「そうそう、こっちにはCランクに上がったばかりとは言え、バンさんがいるんだしな!」
「あぁ、うん。まあね」
ジャネットは今、街の掘り出し物屋から適当な装備を買ってDランクに見えるようにしていた。というのも、気になる依頼があったからだ。
(近くの村まで行って帰るだけの輸送の依頼だが、これまで失敗が2件もあるのが気になる…杞憂だといいけどねぇ)
当然、距離も近いので依頼を受けるのはほぼDランクだ。それも、オークやゴブリンがせいぜいの実力に見える。でも、迷宮都市よりデグラス王国側は安定しているようで、あいつらでもそこそこ依頼にはありつけるみたいだ。
「あ~あ。何もなかったらこりゃ後悔するね」
折角、ギルドで適当なパーティーに20Fまでの誘いがあったってのにさ。そう思いながらも3時間ほど歩くと村に着いた。
「いや~、ありがとうございます。荷物を確認しますので、こちらでお待ちください。もし、お食事がまだでしたらお出ししますよ」
「ほんとか!ついてるぜ。途中休憩しなくてよかったな」
「それでは、案内します。剣士さんは?」
「ああ、ちょっと喉乾いてるからそれだけ飲んでいくよ」
「…そうですか。おい、剣士さんの用が済んだら案内をしなさい」
「はいっ!」
はぁ、そんなに広い村でもないのにこりゃ当たりだね。
ゴクゴク
「ふぅ、生き返るね~。あんたも飲むかい?残りちょっとだけど」
「いいんですか?」
「ああ、珍しいもんだから記念になるよ」
「じゃあ…」
飲み終わると、案内されたところで食事を取る。
「食事ねぇ…」
「なんだよ、もっと楽しそうにしろよ!ただ飯だぞ。ささっ、バンさん。もう一杯」
「すまんな。しかし、依頼料というかそこまでの移動でもないのに悪いな」
「いえいえ、村からの好意ですよ」
「帰りの荷物は任せときな!な~、みんな~…」
「おい、いきなり立ち止まってどうし…うっ」
「どうした!」
バンとやらが立ち上がろうとするが動けないようだ。どうやら、麻痺系の毒のようだね。
「効いたようだな。お前ら、身ぐるみはがしていつもの通りにしろっ!」
「は、はいっ!」
見立てだと、盗賊か何かが村に居ついたって感じかねぇ。こっそり村人が退治するために冒険者を村に呼んだけど、返り討ちにされてるようだね。おそらく、村人の中にも盗賊に協力してる奴がいるんだろう。
「ん?お前は途中から来た奴だな?心配するな。お前は売れそうだし、俺が先にかわいがってやるよ。それにしても、ナムネススネークの麻痺毒はよく効くなぁ、これからも儲かりそうだぜ!」
「言いたいことはそれだけかい?」
スッと剣を持って立ち上がる。頭目がわざわざ出てくるあたり、仲間がいても数人だろう。さっさとけりをつけて帰ろう。
「お、お前!どうしてだ!貴様ら、入れなかったのか!」
「い、いえ、確かに…」
「こんな低レベルの依頼で食事が出るなんて怪しすぎるだろ。さっき飲んでたのは毒の解毒剤さ。前もって飲んでても効果があるお高いやつ。あんたにはもったいないけどねぇ」
「うるせぇ!こうなったら、お前らやれっ!」
頭目の言葉で動き出した奴らを確認して、そいつらに向けてナイフを投げる。さっきの一言で躊躇なく飛び出した奴らだけが仲間だろう。
「ぐぅ!」
「うわっ!」
「何だてめぇ!こうなったら…」
「はっ!」
扱いなれた鉄の剣で襲い掛かってきた相手をサクッと倒す。一応手加減はして。
「ありがとうございました、剣士様。数か月前から盗賊団の残党が住み着いてしまい、村人を人質にこのようなことを…」
「あ~、はいはい。詳細はいいよ。帰ったらギルドに連絡して人を寄こすから。それより、縄を持ってきてくれ、こいつらを連れて行くから」
「すぐに!お前たち、縄を持ってきてくれ」
「はい」
こうして、厄介な依頼を終えて町に戻り、めでたしめでたしだったはずなのだが…。
「姐さん!稽古をつけてください!」
「俺たちにも!」
「え~い、どこでこの酒場に居るって聞きつけたんだい!うっとおしいね」
なぜか、助けた冒険者に付きまとわれることになったジャネットだった。
「そんなこと言わずに!ダンジョンでもついて行きますから」
「子守は一人で十分だよ!」




