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迷宮都市の細工

食事も終わり、久しぶりに宿に帰ってきた私たち。


「さて。そんじゃ、あたしは依頼でも探しに行くかね」


「えっ!?ジャネットさん、もう行くんですか?」


「流石に出発は明日以降だけどね。アスカは細工だろ?」


「はいっ!」


「リュート、あたしは出かけたりすることも多いだろうから、任せるよ」


「わかりました。気を付けてくださいね」


「ああ。まあ、珍しいもん見つけたら持ってくるからね」


そういうとジャネットさんは部屋を出て行ってしまった。そういえば依頼って言ってたけど、ダンジョンじゃなくて普通の依頼を受ける気なのかな?


「リュートはどうする?」


「いつも通り、交渉かな?ほら、ドーディアーの肉あるでしょ?あれの処理もしたいしね」


「そっか、期待してる」


「まあ、待っててね。アスカも力を入れすぎないようにするんだよ」


「わかってますって!」


ピィ


アルナは久しぶりに戦闘に出たので疲れたのか寝たいと言ってきた。


「はいはい。じゃあ、巣箱用意するね。ゆっくりお休み」


んにゃ~


「キシャルも寝る?お休み」


「みんな、つかれた」


「ふふっ、ティタも通訳ご苦労様。そうだ!店にいる間はあげられなかったから、はいこれ」


私はティタにゴーレムの核をあげる。


「どう?おいしい」


「ん、もっとほしい…」


「えっと、また明日ね」


「もうない?」


「また明日ね」


「わかった」


ほっ、私は心の中で胸をなでおろす。流石に金貨1.5枚のご飯を毎食あげるのはできないからね。


「さて、それじゃあ、細工に移るとしますか」


私は細工道具を取り出して細工を始める。


「今回は何といってもトレニーの魔石からだよね。おじさんもいい魔石だって言ってたし、いい機会だからこのレアな金属を使うとしますか!」


私が取り出したのは白銀だ。元々の単価が高いから今まで遠慮してたけど、今回なら遠慮なく使える。


「デザインはと…太陽をモチーフにして、右上には黄色いバラを配してと。そうそう、塗料を塗ってきれいに仕上げないとね。それを最後に前後で合わせるようにして、中に魔石を組み込む感じかな?」


そう簡単に魔石が入っているのを見破られないようにしないとな。おじさん曰く、金貨20枚でも安いそうだから。もちろんこれは売却価格だから、買うとなったらさらに高くなる。


「売る気はないというか売る前に有用だから絶対持っときたいしね~」


そんなこんなで作業を始めたのだが…。


「硬い。刃の通りが悪すぎるよ~」


魔力の通りだけでなく流石に強度もある金属だ。


「こりゃ、長期戦を覚悟しないとね。ごくごく」


マジックポーションを取り出して飲みながら作業を行う。今日は帰りだけとはいえ少々MPを消費しているし、白銀を加工するには魔力が足りない。


「何より、魔石に恥じない作りにしないとね。他の魔石もそうだけど、これはトレニーが自分の命を懸けて作った魔石なんだから」


気持ちも新たに再び細工に向き合う。



---


「アスカ、寝てるの?」


「…」


「アスカ?」


「えっ、誰か呼んだ!?」


「もう、あれだけ集中しすぎないようにって言ったのに」


「ごめん。それで何だったの?」


「もうご飯の時間だよ。すぐに下りてきてね」


「そんな時間なの!?わかった、すぐに降りるね」


リュートに言われ、すぐに準備をして下に降りる。


「ご飯だぁ~。待ちくたびれたよ~」


「へ~、さっきまで細工をしてたくせにねぇ」


「ジャネットさん、帰ってたんですね?」


「ああ。誰かさんが返事もしないから、下でちびちびやってたんだよ」


「言ってくれたらよかったのに…」


「リュートも2回は呼びに行ったよ。全く…」


「そうだったの?」


「うん、まあ。でも、気にしないでね」


「そう?ごめんね。それで今日のご飯は何なの?」


「アスカが前に言ってたすき焼き?それっぽいたれを使って鍋にしたよ。熱いから気を付けてね」


そういうとリュートが個人用の鍋を持ってきた。鍋の中にはスライスされたドーディアーの肉と、各種野菜が入っている。


「ふわぁ~!おいしそ~。ありがとうリュート」


「いや、好きでやってることだから…あっ、取り皿置くね」


「は~い。さ~て、何から食べようかな~。やっぱりメインの肉?いや、それは最後にとっておいて、お野菜からかな~。具の種類も多くて迷っちゃうな~」


「なんだその黒い汁は?そんなんメニューにあったか?」


「ああ、お試しのメニューですよ。ここで泊まってる間にちょっと作らせてもらってるんです」


「ふ~ん、変わったやつらだな。最近来たのか?」


「まあ」


「そうかそうか。俺はこう見えてもCランクのパーティーのリーダーだ。20階層までなら安く連れてくぜ!」


「ふ~ん。あんたらがねぇ。そこまで余裕そうには見えないがね」


「なっ!誰だ!!」


「こっちは飯時なんだ。つまらない話はよそでしな」


「チッ。坊主、そこのお嬢さんと観光でもしたくなったらこの先の宿に来な。安くしてやるからな」


そういうと男の人は食事を終えていたのか、お金を払って出て行った。


「何だったんだろ?」


「さてね。それより飯はいいのかい?」


「そうでした。ご飯~、はむっ。んん~、流石リュート!おいしいよ~。あれっ?キシャルどうしたの」


「あついから、ちかづけないでって」


「そっか。そういえば、氷の耐性とか持ってたし逆に火には弱くなっちゃったのかもね。気を付けるね~」


「でも、にくはたべるから、おさらにおいといて」


「えっ!?大丈夫なの。わかった、置いとくね~」


ティタの言葉を受けて、私は小皿にお肉と少量の野菜を置いて自分の分を食べる。うんうん、それにしても美味美味。どこでこんな料理の腕を磨いてくるんだろうねリュートは。野営料理とか携帯食の研究を普段してるはずなのに、こうやって夕食に出せるメニューの開発までしてるなんて。


「ひょっとしてリュートって料理人でも目指してるのかな?」


「何をいきなり言ってんだいこの子は…」


「え~。だって、野営食とかも研究してるんですよ。これで目指してなかったら何を目指してるのかと」


「…はぁ。少なくとも今は自炊のできないお嬢様のお守りだね」


「ひ、火加減の調節なら上手いですよ!」


「最初のころ、調子に乗って焦がしてたのは誰かねぇ」


「あ、あれは、魔法が使えるうれしさと、これぐらいできますよっていうデモンストレーションですよ」


「そう?中華は火力が命だ~!とか言いながら、表面を真っ黒にしたのも?」


「熱の伝わり方の勉強ですよ…」


この世界では金属ごとに魔力の通りやすさというものがあり、鉄でもある程度は魔力を通す。慣れていなかった私は火の大きさで判断してやっていたんだけど、魔法によって起こした火から伝えられた熱が大きく、気づいた時には焦げてしまっていたのだ。


「もう…あんな昔のことを持ち出すなんてひどいですよ」


「そうかい?まだたった2年前だけどねぇ」


「ああいうのはもっと心の奥にしまっておくもんなんです!」


「具体的には?」


「できたら一生」


「はははっ、アスカが言うならそうしてやるよ。んで、リュートの話だったね。別に料理人なんて目指してないよ」


「でも、こんなに料理ができるんですよ?私だったら店でも開こうかなって思いますけど…」


「まあ、働き口としては将来あり得るかもね。でも、今まで作っていた料理を思い出してごらんよ。高い香辛料に、珍しい調味料。これで店を開いたら高級店か、毎日大量に人を入れてようやく回る店だよ。そんなもんは目指してないよ」


「そっか~。リュートが店を開いてくれたら、こういう料理も定期的に食べられるのにな~」


「そういうのはエレンと付き合ってる奴か、旅先で相手を見つけるんだね」


「まあ、はむっ。今すぐは別にいいですよ。こうして、いろんな料理が食べられますし」


というわけで、今日はドーディアーの鹿鍋だった。ただ、流石にパンは遠慮したよ。あの味にパンは合わないからね。代わりにパスタっぽいものがあったのでそっちを入れてもらった。


「ふう~、おなか一杯。さて、細工に戻らないと…」


「おや、今日はまだやるのかい?」


「はい」


「じゃあ、先に風呂に入るか、湯でも貰って来なよ。流石にリュートが戻ってきてからって訳にもいかないだろ?」


「そうですね。先にお湯をもらってきましょうか」


もらってくるといっても水をためて部屋に運ぶだけで、あとは私の方で温度を調節しておしまいだ。


「ん~、いい温度です」


「そうかい?あたしはもう少し熱くてもいいけどねぇ」


「そうですか?そういえば、アルバのお姉さん元気かなぁ?」


「アルバのって、あの一番風呂ばっかり使ってたやつかい?」


「そうです。あんなに熱いのに入る日はいつも一番に来てくれて助かってました」


「あたしもあんな温度はごめんだね。あいつもよく入れると思ってたさ」


2人でお湯を使い終え、宿に返す。


「あっ、ついでに次のお湯沸かしときますよ?」


「いいの?それじゃあ、頼むわ。沸かしてくれたら料金はおまけしてあげるから。水の量が多いでしょう?コンロを使う時間が長くて、やなのよ」


「それじゃあ、ちょっと熱めにしておきますから!」


私はお湯を沸かし終えると部屋に戻って細工の続きを始めた。



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