進化?ランクアップ?
ご飯も食べたし、いよいよキシャルの進化?だ。
「これに立ち会えるなんて幸運ね。従魔が他の人に見られるのを嫌がったりするから、中々機会がないのよね」
「それに、強くなるならできるだけ早くってのも多いな。まさに今もそうだが」
「じゃあ、キシャル。準備はいい?」
んにゃ~
さあ、キシャルもやる気になってるしやろう!
「あれ?」
「どうしたアスカ?」
「どうやってやるんですかね?」
「えっ、わからないの?」
「全く…と、とりあえず、何か言えばいいですかね?進化しろ~とか?」
「そんな適当な…」
んにゃ~!
私たちがそんな感じで話していると、なんとキシャルが輝きだした!?
「わわっ!?眩しい」
「これがランクアップの瞬間なのね…魔物使いのみに許される行為」
んにゃあ~
キシャルが縮小化を解いて、もともとのサイズに戻り光が広がった後、収まるように体が縮んでいく。
「あれ?」
んにゃ~
「キ、キシャルどこ?」
「アスカ、足元だ」
ジャネットさんの言葉に反応して足元を見ると、小っちゃくなったキシャルがちょこんと座っていた。
「えっと、キシャル。元のサイズに戻ってみて?」
にゃにゃ
ぶんぶんと首を振るキシャル。ん~、もしかしてこのサイズが標準なのかな?
「か、かわいいわね。サイズも前よりちょっと小さくなったかしら?」
「みたいですね。毛並みは…ふさふさというかふわってしてますね」
「どれどれ~。わっ!本当だ~」
にゃ!
相変わらず、触られるのは苦手なのかサティーさんの手を逃れて、私の肩によじ登るキシャル。
「大丈夫?疲れてない?」
にゃ~
大丈夫だと肩でゆったりするキシャル。でも、なんか前より白いし、ステータスとかどうなってるんだろ?
「ギルドに行ったら調べてもらわないとね~」
「それにしても、真っ白に近くなって。まあ、元が雪山に生息してるんだから当然か」
「そうそう。頻繁に洗ってあげないと色ついちゃうよね」
にゃ
別に構わないというキシャルだけど、せっかくこんなきれいな色をしてるんだから維持しないとね。
「それにしても、ランクアップというのはすごいな。色味だけでなく、サイズも変わってしまうとは…」
「ああ。魔物使い以外にはできないっていうが、それだけすごいんだな」
「これが自然界で起きたら大変よ。目の前のウルフがフォレストハウンドにもなってみなさい、どんな狩場もCランクは必要になるわよ」
「そうだな。さて、明日もあることだし今日はこの辺にしておくか」
「そうね。見るものも見れたことだし、寝ましょうか」
「は~い。アルナ、おいで」
ピィ
アルナも呼び寄せてテントに入る。セーフティスペースは混んでいるから、テントにはジャネットさんもサティーさんもいる。マインさんは見張りなので、途中で交代だ。見張りいるんですか?って聞いたらアスカさんはいい子ね~って頭をなでられた。
「それじゃあ、おやすみなさい~」
「はい、おやすみ」
「おやすみ~」
みんなに挨拶をして眠る。アルナにはちゃんと巣箱も用意してあげた。
「アスカ、おはようさん」
「おはようございます~」
ジャネットさんに起こされてテントを出る。
「あっ、アスカ起きたんだね。もうちょっとだけ待って」
「いいよ。私がやるね」
スープが温まっていなかったので、魔法でぱっと温める。
「おっ、中々手馴れてるなぁ」
「私のできることと言ったらこれと薪拾いぐらいですから」
ディンさんと話しながら昨日のスープを食べる。昨日の野菜はしゃきっとしてたけど、今日はもうくたっとしている。でも、食べやすくて朝の寝起きの時間には優しい感じだ。
「あっ、そういえばドーディアーのお肉!」
「ああ、あれはきちんと煮込んだ方がおいしいって聞いたから今度ね」
「え~!?」
「ほら、今日は帰るんだからもうちょっとしゃきっとしな」
「は~い」
帰るといっても、25Fから1Fまでではない。20Fのワープゾーンを使うので実際は5F上るだけだったりする。
「そんなに急ぐことでもないと思うがな」
「でも、思ったよりいいものが手に入ってるし、鑑定も必要じゃない?」
「そうだな。15Fぐらいを考えていたから、思ったより多くアイテムも集まったしな」
ということでテントを片付けて、降りてきた階段を上っていく。
「キシャルは無理しないでね」
にゃ~
さすがにまだ自分の体の状態もそこまでわかっていないだろうから、今日は見学って感じでキシャルにはゆっくりしてもらう。
「アルナとティタは代わりに頑張ってね」
ピィ!
コクコク
うんうん、2人も元気に返事をしてくれてるし大丈夫かな?セーフティーゾーンを出発して20Fを目指す。フロアは昨日と一緒の密林なので注意は必要だけど、昨日切り倒したところはそのままだったので、おそらく宝もないだろう。代わりと言っては何だけど、最短距離で帰っていける。
「うしっ!あともうちょっとだぜ」
ディンさんが言う通り、ここはもう21Fだ。ここの階段を昇ればボス部屋に戻れる。
シャーー
「はっ!」
「ふぅ、蛇だけは相変わらず出やがるな」
「全くだよ。密林は面倒だね。暑いし」
「そうね。さっさと戻りましょう」
もうすぐダンジョンを出るから遠慮なく魔法を使って進んでいった。
「ようやく20Fだね」
「ほんとだよ~」
「アスカさんたちもお疲れ様」
「スケイルの皆さんもお疲れ様です」
20Fに帰ってきたのでそこにあるワープポイントに乗る。
シュウゥゥゥ
「おっ、地上に帰ってきたみたいだね。どれ…」
ジャネットさんが以前のダンジョンで手に入れたカードを確認する。きちんとこのダンジョンの到達階も20Fになっているようだ。ボス部屋ごとの記録みたいで、残りの5F分は記録されないみたいだ。
「よしっ、戻ってきたし早速ギルドに向かおう」
「はいっ!」
ハイルさんを先頭にギルドに向かう。
「いらっしゃいませ~」
「ああ、俺だ」
「あら、ハイルさんじゃないですか?どうしたんです。滅多にこちらには来ないのに…」
「ちょっと奥を借りたい」
「はぁ、いいですよ。私でもいいんですか?」
「構わない」
ぞろぞろと奥の部屋に入っていく。
「それで、ご用件は何でしょう?」
「このギルドの所属でバイターという男がいるだろう?」
「バイター?ああ、中々芽の出ない冒険者さんですね。あの人がどうかしましたか?」
「例のランク上昇行為をしていた。ギルドの受付に周知させておいてくれ。あんな実力のやつが護衛に加わるのは看過できない」
「わ、わかりました。珍しいですね、ハイルさんがそこまで言われるなんて」
「冒険者としても許せんが、何よりこの街に来る時の護衛になるからな」
そういいながらちらりとサティーさんに視線を送るハイルさん。受付の人も意図が分かったのかなるほどといった顔をしている。
「わかりました。ギルドとしても評判の悪い護衛は商人ギルドとの軋轢を生みだすだけですから、ちゃんと対応します。他に御用はありますか?」
「あ、あの、従魔の登録をしたいんですけど…」
「従魔の登録ですか?」
「はい。ランクアップしたので再登録というか…」
「まぁ!ランクアップですか。久しぶりに聞きました。ぜひ確認させてください!」
お姉さんに手を引っ張られて登録窓口に行く。
「ささっ、どうぞどうぞ」
勢いよく連れてこられたままキシャルを窓口に出して、再登録を行う。
名前:キシャル
年齢:1歳
種族:グラシアキャット の子猫
従魔:Cランク
HP:360
MP:350/350
力:142
体力:116
早さ:181
器用さ:156
魔力:150
運:54
スキル:氷魔法LV3、縮小化、氷・水耐性、冷爪
「うわっ!?全体的にすごく上がってる。特に魔力が…」
うれしいやら悲しいやら。従魔とのリンクに毎日、最大MPの2割ぐらい持っていかれるんだよね。キシャルの魔力も大きく上がったから、気を付けないと。というか、大きく魔力が上がった関係か魔法のLVも3になってるし。これだと気づかないうちにLV4に上がったりしてそうだ。
「でも、この横の子猫って何だろう?」
「あら、種族は何でした?」
「えっと、よくわからなくて…」
「わからない?見せていただいてもいいですか?」
「どうぞ」
キシャルのステータスをお姉さんに見せてみる。
「これは何でしょうね。子猫ですか?」
「不思議ですよね~」
「少々お待ちください。非公式の魔物辞典がございますので」
「そんなのあるんですか?」
「ええ。魔物好きな人がダンジョンに潜りながら書いたり、旅人から話を聞いて書き留めたものです。信ぴょう性に欠けるので、参考程度なんですけどね」
そういいながら本を出してきてパラパラページをめくる。
「ありました!」
「あったんですか?」
「ええ。といっても、この種ではなく成体の方ですが。グラシアキャット:氷河すら操る氷の女王。冷気を操る種族の中でも高位に位置して、多くの種を従える。ただ、そこまで成長することは滅多になく、子猫から数十年の月日を経て成るとされる。非常に長命で、もし従魔にすることができたなら、家名が存続する限り力になるだろう。とありますね」
「へ~、すごい種類なんですね。よかったね、キシャル。長生きできるって。それにしばらくは子猫のままだから、縮小化もしなくていいんだよ~」
んにゃ~
それは楽だとキシャルが返事をする。でも、数十年も成体になるのにかかるってことは、ステータスはあまり伸びなさそうだね。よかったよかった。成体になったら今よりもっと魔力上がりそうだし。
「アスカ、どうだった?」
「リュート!よかったよ、強い種族の子猫だって」
「子猫?」
「うん。成体になるのに10年以上かかるんだって!ほら」
「本当だ。珍しいね、普通はその種族になると思うんだけど」
「びっくりだよね~。大きくなったらどうなるのかな~。その時には旅も終わってるだろうから問題ないだろうし」
つんつんとキシャルをつつきながら、そのころにはどうなってるのかな?と少し思いを馳せたのだった。




