密林を歩いて
「おったから~、おったから~」
「アスカ、悪いけどちょっと静かにして」
「…はい」
サティーさんが罠解除をしている間、静かにする。どうやら20Fを越えたことで罠のレベルも上がったみたいだ。慎重に解除に挑んでいる。
「ん~、これかな?でも、ちょっと違うかも?」
「サティーさん、これつけててください」
「ナニコレ?」
「盾を展開してくれる魔道具です。何かあったらこれを使ってください」
「ああ、カティアの言ってたやつだね~。ありがとう」
カチャカチャと罠解除にいそしむサティーさん。
「うっし」
「できました~?」
「できたよ~。でもこれ2重にかかってたみたい。多分爆発する」
「え”っ!?」
「アスカ、下がるよ」
あまりのことに立ち止まっていた私は、ひょいっとジャネットさんに抱えられて、その後はリュートに投げられて退避する。
ドオォォン
「結構、大きい音だったね~」
爆風を盾と土壁で防ぎながらサティーさんが感想を言う。
「しかし、珍しいな。サティーが失敗するなんて」
「っていうかあれ、解除しても爆発するタイプみたい。開けてる人が罠にかかるか、爆発かって話」
「面倒だなそれは」
「でしょ~。滅多に見ないやつだね。そんじゃ、いこっか」
「どこにです?」
リュートに抱えられたまま私はたずねる。
「ん?あの手のやつは中身は大丈夫になってるから。早くいかないと消えるかもしれないけどね~」
「なら、早くいかなきゃ!リュートお願い」
「あっ、うん」
リュートに抱えられたまま現場に向かう。
「おっ、あったあった。黒焦げだけど中身は大丈夫っぽいね」
「中身が気になります」
「開けてみる?熱いから気を付けてね」
「は~い」
リュートに降ろしてもらって宝箱の前に行く。
「何が出るかな~。カパッ」
SEもつけて宝箱を開ける。
「ん~、なんだろこれ?」
長方形でちょっと厚みがある。でも、表紙は読めない。表紙?
「本だね~。でも、これ読めないよ?」
「とりあえず、置いてみよう」
本を本の上に置いて鑑定してみる。んっ、反応なし!でも、ところどころ見えるような…。
「これって帝国言語!?」
「あ~、そういえばダンジョンの宝の中には、そこで死んだ人のものが出るって噂もあったわよね。それじゃないかしら」
「うっ、呪われてませんよね?」
「本なんか大丈夫だろ?でも、よく帝国言語なんてわかったな」
「今読んでる本がそうなんですよ」
「まだ小さいのにすごいじゃない!それでなんて書いてあるの?」
「う~んと…帝国の金属錬成とその多様性。多分、鍛冶師さん向けの本ですね」
「ちょっとそれって…」
「ああ、少しだけ見せてもらってもいいか?」
「いいですよ。読めないと思いますけど」
中には簡単な図解が入っているようだったけど、たぶん専門用語とかも多いから難しいよね。
「これは取っておいた方がいい。帝国も崩壊する時に多くの技術が失われている。特に戦いに明け暮れていた帝国の鍛冶技術は秘匿されていて、受け継がれなかったものも多い。ちらっと見たが、軍内のことも書いてある。内容さえ理解できればだが」
「つまり翻訳するとお金になると…」
「そういうことだ。ただ、簡単にわかるようになるかは置いておいてな。やり方も様々だし、合えばかなりの価値を出すだろう」
ふぅむ。もうすぐ、読んでる本も読み終わるし、ちょっと挑戦してみようかな。簡単な錬成なら私でもできるし、役立つかも。
「鑑定はいらないね。別に読めるんだから」
「そうですね。じゃあ、これも確保っと」
その後もじょきじょきと木を切り倒していく。
「ありました~」
「よかったな、アスカ」
うりうりと頭をなでてくるジャネットさん。他の人もいるのに恥ずかしいよう。
「さて~、今度は罠はなさそうだね。開けてみる?」
コクコクとうなづいて宝箱の前に行く。
「ちょっと緊張するなぁ」
カパッ
宝箱を開けると中には剣が入っていた。
「わっ、きれいな剣ですね。鑑定しましょうか?」
「ああ、いや、これはいいよ」
「そうだな。間違いなくCランクはある。銀の剣だな」
剣士2人はなじみのある武器だったみたいで、すぐに鑑定してくれた。そこそこ魔法の通りもよくて、よく使っていたからわかるんだそうだ。
「ちょっと刀身が細いねぇ。女性やサブに向いてるね」
「そうだな。中古じゃ出回りにくいタイプだから、買取も上々だな」
同じ銀でも刀身が広かったり、大剣だったりすると使い込まれているので折れやすい。ただ、在庫も潤沢にあるので全体的に買い取り価格も下がるらしい。細くてよかった。
その後も探したけれど、このフロアにはなさそうだったので次に降りる。
「このフロアもあらかた取り尽くしたねぇ」
「木を切らなくても大体わかるようになりましたし、いいことずくめですね!」
「リュートの方はどうだい?」
「僕はまだ…。なんとなくだとわかるんですけど、全部はちょっと」
「自信もって、リュート!」
「そう言われても。アスカはどうやってるの?」
「ん~とね。魔力を広げていって、ここに空間があるとか、変な形があるって感じかな?どう?参考になった」
「あ~、うん」
よかった~。もう少しでリュートも探索マスターだね。その横ではリュートとジャネットが目で会話していた。
(おい、ちゃんと否定しときなよ)
(いや、あの笑顔の前では無理ですって)
「このフロアはポーションと変な斧かぁ。ポーションは中級のポーションだったし、悪くはないかな?」
使いどころはあまりないけどね。私が回復魔法使えるし。斧は何だろう?ごてっとした飾りもあるけど、気になるなぁ。
「そういえば、斧って鑑定したっけ?」
「あっ、そういえばしてないかも。でも、どの道武器だから難しくない?」
見た目的に鋼の装備よりはいいものだと思うんだけど。
「一応置いてみたらどうだい?」
「そうですね」
私は斧を適当に持って本の上に置く。
虐殺者の斧:Dランク。それは目の前のものを倒し続けた。戦士や重戦士が持つとボーナスと呪いが発生する。
「へ~、戦士や重戦士が持つとボーナスですって、呪いも付くみたいですよ。ん?呪い」
「ディン!絶対触るなよ」
「お、おう」
やっば~、きれいな装飾に見えたけど、この赤いのってもしかして…。
「アスカ~、そいつは捨てとこうか。売っても後味悪いしねぇ」
「そ、そうですね。せっかくですけど…」
ぽいっとダンジョンの壁に向けて捨て、吸収を待つ。間違って拾われても大変だからね。
「それにしても呪いも鑑定できるとはな」
「じゃあ、さっきのナイフは大丈夫だね~。よっと」
そういいながらサティーさんが暗殺者のナイフを取り出す。
「どう?アスカ」
「わっ!?一瞬でここまで?」
「違う違う。これの隠形スキルのおかげだよ~」
「LV1なのにすごいんですね」
「まあ、あたい自身がそっち系のスキル持ってるしね。相乗効果ってやつ?」
「ランクだけ見てたらこいつは厄介な相手だね。このナイフの切れ味が悪くてよかったよ」
「そうだね~。ハイルも見えた?」
「ああ。俺もそれ系は少し持ってるからな。だが、すぐには気づけなかった」
「でしょ~。この先進むにはいい感じだよね~。あっ、でもこれ発動ごとに魔力使うみたい」
「やはりか。ランクが低いからそういうところは不便だな」
「でも、使いやすくはあるかな?ずっと使ってるとみんなにも気づかれなさそうだし」
そして、フロアを進んでようやく25Fについたのだった。
「今日の野営地につきましたよ!」
「ああ、そうだね。先客はと…やっぱり結構いるねぇ」
「まあ、この先は30Fだ。行かない冒険者も多いからな。実際、俺たちも行かないわけだし」
「次は行きたいもんだねぇ」
「まあ、今回はそれほど準備もしてないし、ここぐらいよね」
テントを張りながら次の予定について話す。私は内容が濃いから探索は週に1回でいいかな?
「あとは飯だねぇ~。リュート頼むよ」
「任せてください」
「んじゃ、味付けは俺もっと」
「ディンさん作れるんですか?」
「おう!まあ、切ったりは苦手なんだがな」
「切るのは私の仕事なの。まあ、普段からナイフ使ってるから」
私もナイフは使ってるけど全然だなぁ~。
「ハイルは私と見張りしよ~」
「ああ。それじゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
恋人たちの逢引きを見送った後は料理の時間だ。私は特に何も手伝えることがないので先にテントで休む。
んにゃ~
「あっ、キシャル。今日は頑張ったね。進化はもうちょっと待ってね」
進化だっけ?ランクアップだっけ?まあ、キシャルが強くなるならそれでいっか。でも、いかつい感じになるのはいやだなぁ。しばらく、ごろごろとキシャルたちと遊びながら時間をつぶす。
「アスカ~、ご飯できたよ」
「わかった。いくよ~」
リュートが呼びに来てくれたので、食事をしに行くとみんな揃っていた。サティーさんたちもいつの間に…。
「おっ、起きてたんだね。そんじゃ、よそってやるよ」
「は~い」
栄養たっぷりのスープに固いけど、そこそこのパン。う~ん、まあこんなもんだよね。
「うんうん。今日もおいしいなぁ」
「アスカちゃんって見た目より俗っぽいわよね」
「ど、どうしたんですか突然」
「だって、宝箱を開ける時はすごく笑顔だし、今もこうやって食事してる時も味はどうかなってすごく表情に出てるもの」
「まあ、いんじゃないかい?見た目がこれで俗っぽくなかったらねぇ…」
「そうだな!貴族と間違われて結婚の申し込みが絶えないかもな!」
「もう、そんなことありませんよ!」
だって、アルバにいる時だって誰も声かけてくれなかったもん。まあ、食堂で働いていた時に話してた常連さんとかは話しかけてくれたけど…。そんなことを考えながら、パクパクと食事を済ませた。




