密林のベアー
「うわわっ!?」
「大丈夫、アスカ?」
「う、うん。ありがとうリュート」
密林を進んでいると、やはり小さい木の枝や蔓が多く、足を取られてしまった。
「おっ、アスカもリュートもやるねぇ」
「ジャネットさん!」
「何かやりました?まあ、足は取られちゃいましたけど…」
「いやいや、アスカはそのままでいいよ。おっと、敵か」
ヒュンっと剣を振るい、飛びかかってきたナムネススネークを真っ二つにするジャネットさん。探知は苦手だけど、勘は鋭いようで、さっきから何度かこういう光景を目にしている。
「さすがです。密林はあんまり探知ができないんですよね。もうちょっと慣れたらできると思いますけど…」
「そうだね。僕も苦手だよ」
草原ではふわりと魔力を放つとできるのだが、いかんせん密林は障害物が多くすぐに散ってしまう。障害物も草系など揺れ動くものが多く、生物との判別が難しいのだ。
「特にナムネススネークがね~。小っちゃくて木の裏だとわからなくて…」
「まあ、慣れるしかないよ~。あたいもササッと隠れる練習してるし」
「で、なんで俺の後ろなんだよ。ハイルの後ろに隠れろよ」
「だって、ハイルは軽装だし毒にやられるのはいやじゃん!ディンは重装備だからよほどのことがないと当たらないでしょ」
「まあな!そのための装備してるからな!」
と、ちょっと陣形が崩れつつも、各自が安全に進めるように推移している。
「ハイルはいいの?かわいい恋人が自分を頼らなくて」
「その間に俺が倒せば問題ないさ。俺が倒すことを信じてくれてるしな」
「あっそ、つまんないわね」
ガァッ!
その時、奥から魔物の咆哮がした。
「な、なんですか!?」
「これはディプスベアーだな。誰か襲われているのか…」
「行ってみる?」
「ああ、足元だけは注意しろ」
「了解です」
ハイルさんの指示で一気に進む。やや開けたところでは大きめのベアー種が1頭と2頭のベアー種がいた。
「あ、ああ、た、助けて…」
「いかん!行くぞ」
ジャネットさんとハイルさんが大きいベアー種のもとに向かう。私はこっちに気をそらすため、残りの2頭にジャンプして魔法を放つ。
「こっちだよ、ウィンドブレイズ!」
ベアーにあたるものの、皮に衝撃が吸収されて十分なダメージを与えられない。
「くっ!魔法耐性が強い!?」
「あいつの皮には脂肪分が多いの。貫通力がないと効かないわ」
「それなら!ティタ、水の塊を出して」
「わかった」
ティタに水の塊を作り出してもらい、それを一気に風で打ち出す。
「くらえっ!ウィンドプレッシャー」
細く、すさまじい勢いで打ち出された水が2頭いた方のベアー種1頭をを打ち抜く。
「よしっ!残りは…」
「そうら、こっちだ!」
小さい方はディンさんが、大きい方はジャネットさんとハイルさんが連携をとって相手をしている。
「ほら、邪魔だからさっさと下がりな」
「ああ、助かった…」
「ここだ!」
ハイルさんが相手の動きをかわし、距離を取る。そこを狙ってジャネットさんがベアー種の腕を切り落とした。
ガアァァァァ
再び咆哮を上げる魔物。しかし、そこには先ほどの強さは感じられない。己を奮い立たせるだけのものだった。
「リュート!」
「はいっ!」
咆哮で動きを止めたところにリュートが魔槍を放つ。魔槍は頭に命中し、魔物が倒れた。それを見た残りの1頭が引こうとする。
「させないわ」
そこへ、顔の近くにマインさんがマジックナイフを投げる。魔物にあたる瞬間にマジックナイフは爆発した。
「こんなところね」
「相変わらずおっかねぇな。何の効果投げたかわかんねぇしよ」
「それがこれのいいところだもの」
そういいながら先ほど爆発したマジックナイフを回収するマインさん。マジックナイフは基本、見た目はほぼ同じでどんな効果のものを投げたかは本人しかわからない。そのため、対処が難しい武器なのだ。その多くはダンジョンからの発掘品で、そろえるのも大変な苦労だったらしい。
「しっかし、何度も爆発してんのによく壊れねぇなそれ」
「そうね。そこは不思議よね。まあ、使えるんだからどうでもいいけど。ただ、もう少し安くなればね」
マジックナイフもさっき手に入れた暗殺者のナイフと同じで、魔石のない魔道具だ。そのため、製作できないので価格が高いのだ。もちろん、魔石を使った似たような武器なら作れるみたいだけど…。
「魔石を使った魔道具は使わないんですか?」
「ああ、あれ?使えないわけでもないけど、さっきみたいな爆発する魔法だと魔石が壊れちゃうのよ。とっさに取り出したりした時に混ぜて投げたりするとね。かといって命には代えられないんだけど、そっちもそっちで魔石が高くって」
刀身に近い方が魔力の通りはいいけど、ナイフだとはめ込む場所を近づけると耐久性が落ちる。なので、柄の後ろに来る設計が多いんだけど、下位の魔石だと効果が薄いから、結局バランスも悪くなって扱いにくいんだそうだ。
「まあ、マジックナイフと相性が良かったのよね。ほとんどのものは魔力さえ込めれば発動するし、私は1属性だけだもの」
魔法使いといえば少なくとも2属性かららしい。単属性なんて狩場を選ぶから高位のパーティーにはいらないんだそうだ。冒険者って上に行くほど厳しい世界だなぁ。
「でも、こうやって器用に武器を使えば大丈夫よ。ほとんどステータスが200程度でAランクになった人もいるもの。要は実力をどう生かすかなのよね」
「それだけ全体的に高かったら何でもできそうですけどね」
「そう思うでしょ?魔物相手には常に力負けするし、ウルフ種をほんろうできる速さもないし、魔法じゃ撃ち負けるのよ。出遭うまでの組み立てが全てだって言ってたらしいわ」
やっぱり上位陣はすごいらしい。私も力と体力は低いけど、魔力と器用さはあるからなぁ。ここから、その2つが消えるなんて…確かに難しいかも。
「アスカ~、あっち行こ」
「あっ、はい」
とりあえず、魔物は片づけたので助けを求めていた冒険者に近寄っていく。
「-----だからはぐれたんだって!」
「そうか。だが、戦う意思もなかったし、どうして動き回った?」
「そ、そりゃあ、合流を早くしようと思って…」
「素人かよお前。そんなんで密林から出られるわけでもねぇんだぜ?魔物がいないんならそこで待ちゃいいじゃねぇか」
「ディンの言う通りだ。ここまで来てそんなこともわからんのか?」
「そりゃ…だが、実績が…」
「!護衛でもしようと?」
「そ、そうそう。こっからファーガンドの馬車が復活したって聞いて…」
ガッ
「ハイルさんっ!」
「な、なにを…」
話の途中でハイルさんがいきなり、冒険者の男性を殴りつけた。どうしたんだろう?
「借りるぞ」
「あっ、こら!」
ハイルさんは男から冒険者カードを取ると何かを確認する。
「名前は覚えた。もっと、自分の実力にあったことをするんだな」
「うるせぇ!」
それだけ言うと男はササッとボス部屋の階段の方へと走り去った。
「ハイルどうしたの?」
「ん?ああ、いきなりすまないな。あいつが踏破実績を積み上げようとしていたんでついな」
「踏破実績?」
「ああ。ダンジョンに潜っても冒険者ギルドからの依頼にならないことは知っているな」
「それは聞きました」
「それだと、依頼が少なくてランクが上がりにくい。そこで、一部の都市ではそのダンジョンへの踏破階数でランクを上げることができる措置が行われている。オーガジェネラルを倒すEランク。そんな冒険者が出ないようにな」
確かにダンジョンにずっと潜るだけだったら、依頼を受けないからそんな冒険者ができちゃうかも。
「ちょうど、このあたりの階層がその対象なんだ。20Fをクリアしてさらに少し進めばCランク認定される。あいつはそれを狙っていたんだ。知っての通り、DランクとCランクには大きな隔たりがあるからな」
護衛依頼もDランクは可とかって書き方されるし、依頼料も全然違うしね。
「んで、20Fまではどっかのパーティーについてって、そこからは逃げて進んでCランクってわけかい」
「そうだ。以前からも報告は上がっていたが、俺も見たのは初めてだ」
「でもさ~、そんなに怒らなくてもいいじゃん」
「サティー、お前がこちらに来る時はいつもパーティーとじゃないだろう?そう思うとな。あんな奴が護衛で、もし何かあったらと思うと…」
「ハイル…」
ひしっと抱き合う2人。うん、感動的な光景だ。
「って、なんで目隠しを?」
「アスカにゃまだ早い」
「そんな」
それからしばらくして2人は離れたのか手は離された。
「そんなわけで、あいつの名前も確認したし出る時にはギルドに寄らせてもらう」
「ああ、構わないよ。あたしもああいう手合いは嫌いでね」
「なら、方針も決まったし、ちょっと時間を食っちゃったけど進みましょうか」
再び、密林を進む私たち。
「うう~ん」
「どうしたアスカ?」
「いや、ここも宝箱ないなぁって」
「そうだね。でも、この辺にあってもわからなくないかい?大きさもそこまでじゃないしねぇ」
「そうなんですよね~。探知もしにくいし、どうしようかな?」
怪しいところ全部壊してく?う~ん。でも、効率悪いしなぁ。
「でも宝箱ってこんなサイズだろ?案外、でかい木に入ってたりしてな!」
「それですよ!やってみよ~」
私はウィンドカッターで幹の太い木を切っていく。こういう時に魔力操作は便利だよね。サクサク大きめの木を切っていくと、やっぱりあった。
「発見!こういう入り方しているなら、きつめに探知を流せば見つかるはず」
最悪、マジックポーション使えばいいわけだし、気にせず魔法を使っていこう。
「その前にまずは宝箱~」
「アスカ~、ちょっと待ってね。罠とか確認するから~」
「は~い」
「託児所かここ?」
そんなつぶやきを無視して、私はサティーさんが宝箱を確認し終えるのを待った。




