ボス部屋を越えて…
ガァァァーー
部屋に入った私たちを待ち受けていたのは、なんとワイバーンだった!
「おおっ、当たりというか外れか?」
「面倒なのが来たな。部屋の高さはあまりないが戦いにくい相手だ」
「ん?まあ、そうだね。行くよアスカ」
「了解です!フライ」
私は自分とジャネットさんにフライをかけて空に上がる。リュートは浮き上がる程度で飛びはしない。
ピィ!
アルナが風の魔法を、ティタは水の魔法で連携して視界を奪う。その間にリュートが槍を構え、私とジャネットさんで攻撃する。
「やっ!」
「はっ!」
私の弓が頭に、ジャネットさんの剣が背中に傷を与える。ワイバーンはそれに激昂して私に狙いを定める。
「動きが止まった、いまだ!」
すかさずそこにリュートが魔槍を投げて敵を倒す。
「ワイバーンがあっさり…」
「まあ、初見じゃないしこんぐらいはね」
「一応、このフロアではレアボスなんだが…」
「そうなんですか?」
「オーガジェネラルとオークロードがほぼ同格。そしてゴブリンロードは最初から複数の手下を従えて出て来る。その中でもワイバーンは戦いにくいから嫌がられているんだ。通常のボスローテーションに強制的に混ざってくるのも合わさってな」
「じゃあ、10Fみたいに順番とかどうでもいいんですか?」
「そういうことだ。まあ、この辺りに来るやつらは実力もあるし、あんなせこい真似は出来ないがな」
「それじゃ~、ドロップだ~」
「あっ、そうですね」
ワイバーンも倒したことだし、ボス宝箱を開けてみる。宝箱はボスに関するものが1つとフロア難易度に合わせたものが1つだ。今回は何かな~。
「こっちは鎧。フロア宝箱の方は…種?」
鎧はまあ、ワイバーンのだから鑑定できないのは当然として、種はと…。
ファリアルの種:Dランク。魔力と水で育つ不思議な花。与えた分だけ美しい花が育つ。
「へ~、こんな種ってあるんだね。育ててみようかな?」
「えらく変わったものが出たな。ワイバーンだからか?アーマーはどうするんだ?恐らくスケイルアーマーだと思うが…」
「うちでスケイルアーマーが必要なのはリュートか…」
「ダメですね。魔槍が嫌がってます。動きが制限されるからですね」
「となると、ジャネットは?」
「あたしのはそれよりいいもんだからねぇ。誰もいらないんじゃない?」
「そんじゃあ、俺が…」
「ディン。あなたのそれ、ミスリル混じりよね。必要なの?」
「この鎧も着倒してきてるからな。それに実は買い手もついてるんだぜ!30Fまでは行っても、40F挑戦はしない俺らには十分だろ?」
「そう言われるとそうね。あなたもよく考えてるのね」
「そりゃ、引退するのも考えてるんだからな。俺だってちょっとは考えるさ」
「さて、そろそろ次のフロアだ。気を引き締めるぞ」
「「お~!」」
宝箱も無事取り終えて次の階層に進む。21Fは…。
「ここは森?」
「ヤバいわね。密林エリアよ」
「みんな、小型の魔物も多くいるから気を付けろ。草むらや木の上もだ」
「分かりました」
「特にナムネススネークには気を付けるのよ。小型だけど麻痺毒を注入してくるわ」
「後はディストラって言う、残忍な性格のトラだな。他にもベアー種がいるから気を抜くな」
「はいっ!」
木が多くて隊列も崩れがちだ。そこで魔法で探知して進む。
「前方の草むらに小型の魔物です」
「分かった。草ごと薙ぎ払ってくれ」
「分かりました。行くよ、アルナ!」
ピィ
アルナと一緒に魔法で草むらごと薙ぎ払う。そこには探知の通り、2匹のナムネススネークが。
「あっ、魔物から宝箱です。中身を鑑定してみましょう」
麻痺毒の矢:Dランク。ナムネススネークの毒が塗られた矢。相手を痺れさせる。ただし、死ぬことはない
「矢でもDランクとはな。それに中々いい矢だ。盗賊団を捕まえる時はな」
盗賊は捕まえて町の守備隊に引き渡すことができる。その際に動けるものは特殊な魔道具で隷属させて働かせる。だから、盗賊などは捕まえて引き渡すと報酬がもらえるのだ。この矢のマヒは死なないとは言え、強力なのでちょうどいいみたいだ。
「魔物にも効くんですか?」
「効くだろうが、魔物にはすぐ効くものは少ない。長期戦がわかっているならってところだな」
私は矢筒に矢を入れて、再び探索開始だ。
ガサッ
んにゃ~
「ん?なんだ!」
前方で音がしたと思ったら、キシャルがそれに合わせて鳴く。すぐに探知を使うと反応があるから、知らせてくれているんだろう。
「魔物みたいです!」
「わかった。気を抜くな」
100mほど先の草むらから出てきたのは2頭のディストラだった。
「ディストラが2頭か…素早い動きに惑わされるなよ!」
「はいっ!」
私とマインさんが魔法とマジックナイフでけん制して1頭ずつに分ける。
んにゃ~!
すると、同じ猫同士で何か思うところがあるのかキシャルが1頭に跳びかかっていく。
「キシャル!危ないよ」
にゃ
任せておけと前足を振るとすぐに魔物に向き合うキシャル。小規模な氷魔法と爪の攻撃で徐々に相手を追い詰めていく。
「ほう?今までずっと観戦していたが中々戦えるんだな」
「っていうか、あいつ大きくなってないか?」
「巨大化する種類なのかしら?珍しいわね」
ごめんなさいマインさん、キシャルは普段が縮小化で小さくなってるんです。あれが元々の大きさなんです。でも、従魔の秘密に関わることだから言えないので、心の中で謝っておいた。
「はっ!」
こっちはといえば、キシャルのおかげで7対1なので難なく倒している。
「おっ!宝箱か、中身は…毛皮だぜ!いいなぁ。手触りがいいんだよな」
ディンさんはそういうとすぐに毛皮に向かっていった。私はまだキシャルが戦っているので、興味はあるけどじっと我慢だ。
んにゃ~
キシャルは魔法を展開して相手の退路を断って、とうとうとどめを刺した。
「やったねキシャル!」
私は頑張ったキシャルをほめてあげる。すると突然、頭に声が響く。
キシャルのランクが上がりました。高位種へとランクアップできます。
「えっ!?何この声?」
「アスカ、どうしたんだい?」
「ジャネットさん、なんか変な声が聞こえて…」
「変な声?」
「はい。キシャルがランクアップできるとか…」
「何だいそりゃ?魔物使い特有の何かかね?あたしにはさっぱりだ。お~い、マイン」
「なぁに、ジャネット。あなたもこれ触りたいの?」
「いや、別にいいけど。魔物使いについて3人の中で詳しいのは誰だい?」
「それなら私ね。一見、強そうに見えない武器を使ってるからよく共闘するの」
「それじゃ、ちょっと来てくれ。アスカが変なことを言ってるんだ」
「変なこと?何かしら」
ジャネットさんがマインさんを連れてきてくれた。でも、変ってひどいよ。まあ、確かに意味不明だと思うけど…。
「それで、何を聞きたいのかしら?」
「頭の中に言葉が聞こえてきたんです。それで、キシャルがランクアップできるって」
「ああ、あれね」
「知ってんのか、マイン?」
「ええ。魔物使いの1匹目の魔物ってウルフとか下級のものが多いから、話はよく聞くわ。一人で活動する魔物使いなんて滅多にいないから、みんなすごく不自然になるのよ。いきなりきょろきょろしだしたりとか」
「ふ~ん。まあ、アスカは直ぐに聞いてきた分、対応がいいってことだな」
「そうね」
「も、もう、早く教えてください!」
「ふふふ、ごめんなさいね。ランクアップというのは従魔が上位の種に変化することよ。簡単な例だとウルフなら森で長く生活して実力も付くとフォレストウルフになったりするわ」
「じゃあ、普段戦ってる魔物も?」
「いいえ。彼らは種として実力があまり変わらないからか、そういうことはないの。あくまで従魔の中でのみ起きることみたいね。例外はあるかもしれないけど」
「う~ん。じゃあ、キシャルも別の種類になっちゃうんですね」
「そうね。今は何だったかしら?」
「ノースコアキャットです」
「そうそう。そこから、別の種に変化するの。基本は強くなるわよ」
「基本は?」
「たまにあるのよ。フォレストウルフが岩場で強いロックウルフになったけど、狩場は森のままでステータス上は強くなったのに、苦戦することが増えたりね。まあ、そこまでてこずるわけでもないけど、特徴が強くなる傾向にあるわ。多分、キシャルちゃんはより氷属性に偏るんじゃないかしら?」
「そうなんですね。キシャルはどう?ランクアップしたい?」
んにゃ~~
うんうんとうなづくキシャル。ちょっと意外、強くなることに興味ないと思ってたのに。ひょっとして私のためとか?
「つよくなったら、もっとらくできるから、だって」
ああそうなんだ。ティタったらそんな本音を教えてくれなくてもいいのに…。
「ただ、ランクアップは従魔に負担がかかるから、ここではやらないほうがいいわね」
「なら、今日の野営中にやるか。それなら安全だろう?」
「そうね。それがいいと思うわ」
「なら、お宝を回収しながらさっさと行こうぜ!」
「そうだな。ただし、エリアがエリアだ。気を抜くなよ!」
私たちはボス部屋を越えて、再び次の目的地に進み始めた。




