ダンジョン探索中
次のフロアに降りると、ふとジャネットさんが漏らす。
「そういえば、普通にトレニーついて来てるけど問題ないのかい?」
「えっ!?魔物って階ごとに何かあるんですか?」
「どうなのかしら?ダンジョンで従魔にしたって話は聞かないわね」
「基本的に魔物は階をまたがないからな。ただ、追いかける時はフロアを越えてやってくることもある。ボス部屋は開かないが、通常の魔物が階下から来る可能性はゼロじゃないな」
「じゃあ、しばらくはトレニ―と一緒なんですね!よかったねトレニー」
に~
んにゃ
トレニーが嬉しそうに鳴くと、キシャルが対抗して鳴く。
「ふふっ、キシャルったらどうしたの?もしかしてやきもち?」
んにゃ~
からかってみるとプイッとそっぽを向くキシャル。もう~、可愛いんだから!そんなこんなで、引き続き砂漠地帯を進んでいく私たち。
「にしても、フロアをまたいでも会話できるんだな。魔物って」
「言語は一応同じみたいですから。同種ならどこでも大丈夫です」
その間にも魔物をサクサク倒していく。
「おっ、こいつはデザートリザードの皮だな。商人に売ると結構いい値で買ってくれるぜ」
「確かに手触りは良いですよね。耐久性はあまりないですけど」
「そうなのよね。私も出かける時は使うわ。冒険にはもっていかないけど」
宝箱はいくつかあったけど、低層階だからかほんとにくだらないものばかりだった。
スケルボーン:スケルトンの骨。使う?使わない
サソリの殻:サソリの殻。毒サソリの殻ならもしかしたら毒が残っているかも?
こういうのばっかりだった。図鑑埋めとしては必要だけど、何だかなぁ。もちろん、持ち帰ることもなく捨てていったよ。売れないからね。
「やっぱ、宝箱は鍵付きだよね~。鍵もトラップもないやつは3流だよ~」
「そうなんですね」
「それにしても順調ね。1泊って言ってたけど、結構潜れそうね」
「ああ。今のところはだが…おっと、団体だ」
このフロアではかなりのポイズンスコーピオンをトレランスキャットたちが捕食した関係で、残っているのはデザートリザードやその他の弱い砂漠の魔物だ。トレニーが満腹だから仲間に場所だけ教えてあげたんだよね。そしたらすごい勢いでみんな行っちゃって大変だった。何匹かは感謝のつもりか私の周りにいて、キシャルが追い払ってくれたしね。
「それにしてもトレランスキャットって、空間把握というかフロアを良く知っているわね」
「ああ。さっきのフロアもそうだったが、宝箱や魔物の位置も大体わかっていたしな」
「おかげで階段もすぐに分かって快適です」
「だなぁ。んじゃ、先に行くか」
そんな調子で9Fまで問題なく進んでいった。そして、ボスフロアである10Fに進もうとしたところ…。
に~
「どうしたの、トレニー?」
降りる階段のところでトレニーが立ち止まった。無理に進もうとするけれど、何やら見えない壁のように阻まれるみたいだ。
「う~ん。これ以上は進めないって感じなのかな?」
「ボスフロアに行くのに何か特殊な条件があるのかしら?」
トレニーもついて来たそうだけど多分、これがダンジョンのルールなんだろう。
「ごめんねトレニー。この先はついて来れないみたい。元気でやるんだよ」
そうしてトレニーと別れて先に進もうと思ったら、後ろでひときわ大きな声がした。
に~~!
「トレニー!」
トレニーが丸まって宙に飛んだと思ったら、体が光に包まれていった。
ポトリ
「えっ!?嘘でしょ、トレニー…」
そこにトレニーの姿はなく、1つの魔石が落ちていた。
に~
トレニーの声が聞こえたと思ったけれど、そこには魔石があるだけで他には何も残っていなかった。
「トレニー、どうして…」
「あんたについて行きたかったんだろうね。ほら、持っときなよ」
「ジャネットさん、でも…」
「いいから、大事なもんだろこれは。トレニー自身なんだから」
「そう、ですよね」
にゃにゃ
「えっ、何、キシャル」
「キシャルがかんていしろって」
「鑑定?そっか、本で」
私はごそごそと本を取り出すとトレニーだった魔石を置いてみる。
「反応がありません…」
「きっと、いいもんだよ。だから、大事にしてやりなよ」
「はい…はいっ!」
私は涙をぬぐうと魔石を大事に布でくるんでマジックバッグに入れる。
「大丈夫か?」
「はい。心配をおかけしました」
「いや、低層とはいえボスフロアは危険だからな。なら、行こう」
そして、このダンジョン初めてのボスフロアへと足を踏み入れた。
「何もないような空間ですね」
「まあこんなもんだ。ボスフロアってのは待機所みたいなもんだからな」
私たちの前には1パーティーだけ待っている様だ。順番なので並んで待つ。
「あっ、急がれますか?よかったらお先どうぞ」
「いいんですか?じゃあ、遠慮なく」
私たちは前にいたパーティーを抜かしてボス部屋に入る。
びちゃ
ボス部屋に入ったとたん、辺りは沼地に変化していた。
「やっぱな。こういうことか」
「ディン、そんなことより今はボスよ」
「はいはい。ボスはリザードマン2匹だ。ぬかるなよ」
見ると沼地の先にはリザードマンがいる。だけど、この距離なら別に矢が届きそうだ。
「えいっ!」
トスッ トスッ
小気味良い音と共にリザードマンが倒れる。
「あらら、出番も何もなかったわね。ああ見えてリザードマンは鎧も着てるし、眉間以外は鱗もかたくて厄介なのよ」
「そ、そうだったんですか…。よく知らずに狙ってました」
ウルフ種とかも眉間を狙えば倒しやすいからあそこを狙うのは癖になってるんだよね。リザードマンは倒したものの、沼地は足を滑らせやすいので気を付けて進む。
「それにしてもディンさんさっきのやっぱりって何ですか?」
「ああ、ここのボスはローテーションなんだ。オーガの亜種1体にゴブリンジェネラルかゴブリンナイト3体。それにリザードマン2体にビッグボアだ。この後のビッグボアは1体で大きいがそこまで特徴もないから人気なんだぜ。肉も確定で落とすしな!」
「それを売るだけで金貨3枚にはなるからそれ目当てでしょうね。ああいう、低級の冒険者は困るのよね…」
「逆にリザードマンは足場も悪くて、近接職じゃ怪我のリスクが高いから不人気だ。ゴブリンとかは仲間を呼んだりもないし、見通しもいいからそこまで問題もないしな。宝の方もしれてはいるが、結局は10Fで落ちるものは大したものじゃないからな」
「そうそう~、あたいもついて行くけど、ろくなの無かったし」
「とはいえ、ボス宝箱だ。ちょっとは良い物が入ってるはずだぜ!」
「それじゃあ、開けてみましょう!」
私は期待を胸に宝箱を開ける。ボス宝箱は罠もないので安全なのだ。
カパッ
「これは剣、ですか?変わった形の剣ですね」
「まあ、登録してみなよ」
「はい」
剣を本の上に置いて見ると輝き出した。ああっ、Dランク以下なんだね…。
クックリ刀:Dランクで特異な形をしたナイフ。草の伐採から狩猟まで幅広く使うことができる。
「ちょっと癖があるけど使えなくはないね」
「でも、専用に鞘作ってまで持ちます?」
「それはないけどさ」
というわけで、即刻売る用のところにポイっと入れる。まあ、そんなにいいものばかりじゃないよね。
「それじゃあ、次に進むか」
次からは11F。敵もちょっとだけ強くなるみたいだ。
シュウゥ
「おっ、今度は草原か。ラッキーだな」
「草原がラッキーなんですか?個人的にはあまりいい印象がないんですけど…」
「アスカさんが言ってるのは本当の草原でしょう?ダンジョン内は違うのよ。このフロアだと15Fまでだから、いいのよ。同じ地形が続くことはないの」
「それがどうしていいんですか?」
「16Fから20Fまでの草原にはブリンクベアーが少数だが出るんだ。ここで草原を引き当てられたのは運がいい」
「ブリンクベアーが…」
「それは厄介だね。ちなみにこの草原だと?」
「強いのがソニックウルフだな。音波攻撃が厄介で中々倒しにくい相手だ」
「ソニックウルフかぁ。ソニアを思い出すなぁ」
「ソニックウルフも従魔だったの?」
「はい。ちょっと好戦的でしたけど、リンネと仲が良かったんですよ」
「戦えるのか?従魔と同じ種類の魔物と戦えない魔物使いもいると聞いたが…」
「大丈夫です。相手はソニアじゃありませんし」
「後はガンドンとか定番の魔物だな。ガーキャットも出るが数は少ないし、群れないから楽だ」
「とはいえ、奇襲があるかもしれんから気を付けることだ」
みんなでうなづき合い、先に進んでいく。
「はっ!」
「やぁ!」
「火のマジックナイフ!」
「はあぁっ!」
流石に初心者エリアを過ぎたということか、魔物の数も多い。冒険者の中にはさっきの宝箱の中身を見てそこそこよかったら撤退する者もいるらしい。
「草原エリアは流石に魔物が多い。気を抜くなよ」
「まあ、あたいたちも数いるわけだし平~気でしょ」
「それはそうだが…むっ!」
「はっ!」
ハイルさんが気づくと同時に私が魔物に向かって矢を放つ。
「ふぅ、ガーキャットは面倒ですね」
「全くだな。1匹でもこうやって小さい木の上から跳んでくるからな。サティー、油断したな?」
「ごめん。みんないるからちょっとね」
「やれやれ、16Fからは気を付けるんだぞ?」
「分かってるって。アスカもありがと」
「いいえ。あれならサティーさんだけでも間に合いましたよ」
「そう?まあ、弓の腕も上がったしね」
「確かに前に見た時よりもよくなってるわね」
「へへ~、師匠のお陰だよっ!」
そう言いながらサティーさんが抱き着いてくる。
「あら、それでなの。かわいい師匠ね」
「でしょ~、マインさんもどお?」
「流石にちょっとね…。もうちょっと若かったらお願いしたかも」
「5歳か?10歳か?ワハハ」
ドンッ
冗談交じりにディンさんがそういうと、真横にマジックナイフが飛んだ。炎系のナイフらしく。着弾点で爆発するタイプのようだ。
「あらぁ~、手が滑ったわ」
「じょ、冗談で…」
「あの2人は気にしなくていい。いつも…ではないがああなんだ」
「仲いいよね~」
「「誰がっ!」」
「ほらね。さあ、先に進も~」
ダンジョンの局面は第2部を迎え、私たちは進んでいくのだった。
 




