ランダムダンジョン
カディールのダンジョンに足を踏み入れた私たち。早速、魔物が出てきたので迎え撃つ。
「魔物は何?」
「多分、ゴブリンかと」
リュートの予想通り、魔物はゴブリンだった。しかも、何も持っておらず素手だ。当然、苦戦することなく倒す。
「まあ、ここら辺は特に何もないし、階段を見つけたらすぐに降りて行こう」
ハイルさんの話だと5Fぐらいで敵が変わるそうで、そこまではオークすら出ないほど安全な地域らしい。
「ドロップもありませんでしたし、スイスイ進めますね」
「まあ、ここら辺は魔物といってもどうでもいい奴だけだしなぁ」
ちゃんとフロアを探さないので宝箱もなく3Fまで進んだ。
「およ?」
入った時は草原のような感じだったのが、いきなり森に代わった。
「おっと早速か。これがこのダンジョンの特徴だ。何フロアか毎にこうやって景色が変わり、魔物もそれに準じたやつが出る」
「森だとウルフがまだ強い方かしら?」
「ウルフかぁ。リンネたち元気かなぁ」
「ん?ウルフ種も従魔にいたのか?」
「はい。旅に出る時に知り合いに頼んだんですけどね」
「その子を連れてこなかったの?ウルフ種は結構役に立つって聞くわよ」
「必要としてる子がいたので。それにその子って怠け者で、旅は嫌だって言ってました」
「優れた魔物使いは従魔と会話できるというが、アスカは優秀なんだな」
「えっ、そんなことないですよ。普通です」
「この子の普通は普通じゃないから気にしなさんな」
「分かった。覚えておこう」
「ジャネットさん!変なこと言わないでくださいよ」
「変と言えばリュートさんの持ってるその槍みたいなのはなんなの?」
「薙刀って言うらしいです。使う機会があまりなかったので今日はこれでと思って」
「面白い武器だな。柄は長く、先には刃がついていて斬るのが主な武器か」
「ええ。慣れれば扱いやすいですよ」
「私のマジックナイフも変わってるけど、それもたいがいね」
そう言いながら森を進んでいく。
「ん?魔物か」
出現した魔物もランクの低いものなのでサクッと倒していく。
「わっ、初めてみます。この魔物」
「ドーディア―だな。突進する鹿の魔物だ。オスの角が…まあ、真っ直ぐだからな簡単に避けられる。角が素材だがここじゃあな」
「ちなみにお肉は食べられるんですか?」
「もちろんだぜ!結構うまいぞ。ただ、季節もんだがな」
「季節?肉に季節があるんですか?」
「ドーディアーは動物に近いの。冬眠もするし、季節で食べるものが変わるから肉の味も変わるのよ」
「へ~、そうなんですね。じゃあ、一頭試しに…」
ヒュン
私は弓を構えてドーディアーの額に一撃を入れて倒す。すると、シュゥゥと消えた後に何かが残った。
「あっ、何か出ましたね」
「そうみたいだな。行ってみるか」
何頭かドーディアーがいたものの、さっきの攻撃で散らばってしまった。まだ、魔物自体が弱く集団で襲ってくるものも出てこないようだ。
「これは肉だな」
「肉ね。結構サイズあるんじゃない?」
「リュート!」
「はいはい。分かったから、しまっておいて。その前に本に登録しなくちゃね」
「そうだった!木の板にでも置いてやってみよう」
本を開いて肉を置くと光が出てきて登録された。
ドーディアーの肉:季節もので春から秋までが旬。
「肝心のこの肉の季節は載らないんだね…」
「毎回登録済みのものを鑑定してくれるわけじゃなさそうだねぇ。もう一回本を閉じて適当なところを開いて置いて見な」
ジャネットさんの言う通りにする。すると、さっき登録したドーディアーの肉のページになった。
「思った通り、わざわざ検索しなくてもいいみたいだね。思ったより高性能だ」
「それじゃあ、やることも済んだし先に進むか」
「そうだね」
再び私たちは進んでいく。5Fに進んだところで今までとは違う空間になった。
「このダンジョンは5Fごとに休憩エリアがある。とはいえ、フロア全体じゃないから場所は先着順だ。気を付けることだな」
「次の10Fじゃ、ボスもいるから気を付けた方がいいぜ」
「分かりました。特に休憩はいりませんから進みましょう!」
6F以降は地形が変わり、今度は砂漠地帯だ。
「あ~、面倒なの引いたわね。毒持ちとかもいるから気を付けなさいね」
「砂漠かぁ~、懐かしいかも」
砂漠を歩いているとキャット種の魔物が現れた。
「トレランスキャット!かわいいなぁ~」
んにゃ~
キシャルが対抗して鳴く。ううっ、こっちもかわいい。しかし、そこは魔物。トレランスキャットはこちらを警戒している様だ。
「ティタ、喋れるか試してみて」
「わかった」
こっそりティタに耳打ちしてトレランスキャットに話しかけてもらう。
「どうだった?」
「ポイズンスコーピオンをさがしてくれるなら、みかたしてやるって」
「そっか、砂漠じゃ戦いにくい相手だし、お願いして」
「うん」
「あの…アスカさんはさっきから魔物を前に何してるの?」
「交渉中です。ティタは魔物と話せるので敵対しないでもらえるように」
「そんなこともできるのか。従魔とはすごいんだな」
「会話できるぐらいには相手も友好的じゃないと駄目ですけど。獲物のポイズンスコーピオンをもらえるならいいって言ってるみたいです」
「ああ、確かに天敵だって聞いたことがあるな」
「あいつはポイズンスコーピオンの毒が効かないからね。放っておけば倒してくれるのさ」
「なるほどな。なら、同行者として扱おう。幸い、この程度の相手なら対処も可能だからな」
いくら魔物使いの私の言葉とは言え、普段から従魔と共闘しないスケイルのみんなには中々警戒心が抜けないようだ。それでも、下級の魔物だから受け入れてくれるあたり、懐が深いパーティーだと思う。
「それじゃあ、よろしくね」
に~
可愛い鳴き声とともに砂漠を進むトレランスキャット。この子の期待に答えないとね。
「ウィンドサーチ」
私は風を強めに意識して砂漠に対してサーチをかける。フロアには私たち以外の人間もいるみたいだけど、少数だ。他に小さくて砂の中をはい回る気配に集中する。
「こっちはリザード。こっちがスコーピオン、あっちはまたリザードか…」
「アスカさんは何をしているのかしら?」
「あっ、たまにああなるんで放っておいてもらえれば。すぐに再起動しますから」
「再起動?リュートは変わった表現をするんだな」
「本人が前にそう言ってたので…」
「よしッ!索敵完了。いくよ、トレニー」
に~
私はトレニーを連れてポイズンスコーピオンを倒しに行く。
「ほら、ぼさっとしてないであたし達も行くよ」
「ああ。サティー」
「なあに、ハイル?」
「彼女たちは変わったパーティーだな」
「うん。でも、アスカがリーダーのパーティーだし」
「そうか。なら仕方ない…のか?」
ポイズンスコーピオンのいる地点に着いた私たちは早速、獲物を捕らえるために動く。
「行くよトレニー!ウィンド」
砂の中に隠れているポイズンスコーピオンを風魔法で宙に吹き飛ばす。そこをすかさずトレニーが口で加えて捕食する黄金パターンだ。
「追いついたわね。うわっ!?」
ばりっぼりっ
みんなが追い付くころにはすでにトレニーは食事に入っていた。口で加えて着地した後、直ぐにとどめを刺すのだ。ダンジョンの魔物は倒せば消えてしまうが、トレニーは加減を知っているみたいで全部は無理だが一部をこうやって食べている。
「確かにダンジョンの魔物は倒せば消えるが、こうやって加減して食べるとはな。魔物の知恵にも驚くな」
「でしょう~。トレニーってば頭がいいんですよ」
「アスカ、さっきから言ってるけどトレニーって?」
「トレランスキャットでに~って鳴くからトレニーだよ」
「また、安易な…」
砂漠地帯の他のトレランスキャットはトレニーが話してくれて、私たちの敵と言えばもっぱらデザートリザードだ。それも若い個体のようで、攻撃方法も単純だし皮膚も柔らかい。
に~
「ん?あっちに変わったものがあるって」
トレニーが仲間から聞いた情報を基にフロアを探索する。そこには見慣れない宝箱が。
「おおっ!?このダンジョン初宝箱!あいたっ」
「突進しないように」
「わ、わかってますよぅ」
「そういえば、宝箱とか分けるのはどうするんですか?」
「今回俺たちは付き添いのようなものだ。遠慮なく取ればいい」
「まあ、そういうこった。どの道、15F以降でないと中々いいもんは出ないしな!」
「それじゃあ、あたいがやるね。まずは周囲よしっと、次は鍵か、鍵があるみたいだし、土魔法で成形して…開いたっ!」
宝箱を開けるとそこには丸い何かがあった。
「盾かな?とりあえず登録してみてよ」
「分かりました」
ラミアの盾:Dランク。皮の盾のため損傷が激しいが、水撃と石化の魔法をはじき返す。
「どうやら特定の魔法のみを弾く盾のようだな。属性ではなく特定魔法に限っているので、Dランクなんだろう」
盾自体は小型で私でも邪魔にならないので指定の魔法を使う魔物がいれば役に立ちそうだ。
「売るにしては難があるわね。この2つのうちどちらかでも使える魔物は少ないもの。水撃ってアクアスプラッシュ系の魔法だからそこそこいるだろうけど、石化はねぇ…」
「コカトリスとかだな。だが、それ以外だともろいからサブ装備だな」
「それにどこまで払えるかよね。数が出回っていなければ高値でしょうけど、出てたら安く買いたたかれそう」
「ランクは低いけど珍しそうってやつだね。とりあえず持って帰ろうよ~」
「そうだな。持って帰る分には損はない。最低でも銀貨5枚にはなるだろう」
価値はまだ不明だけど、そこそこいいものを手に入れてほくほく顔の私たちはそのままフロアを降りたのだった。




