いざ迷宮へ！
「う～ん、外だ～！結局、おじさんのとこでは何も買わなかったね」
「そうですね。装備自体は結構揃ってるから、あまり見るものがないので…」
「あたいはさ～、罠とか使うから結構頻繁に行くんだ～。アイデアだけじゃなくて、そのものズバリ！な～んてのがあったりするし」
「そっか～。でも、おじさんの話だと1点物も多そうですね」
「そうそう。折角、使ってみていけるなって思っても、次が無くて入荷待ちとかね。罠は使いきりのが多いし、効果も使わないといけないからそこそこ安いんだけど、数の確保が難しいからあんまりね～」
「アスカが見てた、さっきの変わったナイフみたいなものはどうなんです？」
「ん～。ああいうのは結構あるよ。ただね～、ろくなのがないから。あたいが見た中で怖かったのは斬りつけた先から回復するナイフかな？」
「な、何ですかそれ！？」
「こう斬ると傷痕が出来るでしょ？でも、回復の魔法がかかっててすぐに傷が消えるの」
「えっ、それって意味ないですよね？」
「あるよ」
「あっ、あるんですか！？」
「だって、斬った時の痛みが消えるわけじゃないから」
「だ、誰が買うんですか？」
「さぁ？でも、そういう無駄なのが多いからいちいち鑑定に出せないんだよね。むしろ鑑定したら売れなくなっちゃう感じ？魔力を感じることはそう難しくないから、よくわからないけど魔道具って感じだと一定の価格で売れるからね」
サティーさんの話では未鑑定魔道具は大体、銀貨5枚ぐらい。鑑定品は鑑定書付きで効果に寄りけりだそうだ。例外はさっき言っていたトラップや込められている魔力が小さい使い切りのもので、こっちは大銅貨6枚位からあるらしい。もちろん、鑑定なんてされてないので使用は自己責任だ。
「そう考えると、パーティーに鑑定持ちの人がいるとすごく便利ですよね」
「そうだよ～。一流の冒険者なら必ず、非戦闘員枠で雇ってるって感じだし。どんなに頑張ってもギルドの受付じゃもらえない報酬が出るしね。こういうダンジョンのある都市だと余計にね」
「サティーさんって物知りです！」
「ま、まあ、私もダンジョンには何度も潜ってるし、彼氏は常連だしね！」
「それはそうと明日の用意は大丈夫何ですか？」
「あたいはハイルがやってくれるから」
「私も聞いてないや」
「ああ、こっちは僕とジャネットさんでやっとくからいいよ。というか、ダンジョンで物を取った時はアスカのマジックバッグに入れようって話になったから入れられると困るかも」
「そうなんだ。それなら、いつもよりちょっと多めに回復薬を用意するぐらいだね」
「ふたりともそんなに力入れなくても大丈夫だって！ちょっと行ってみるだけでしょ明日は？」
「そうなるといいんだけどね…」
「ディンさんのこと？ハイルが止めてくれるよ」
「どうだろう？ジャネットさんも乗り気みたいだし、多分実力が分かったら結構潜ると思うなぁ」
「リュートは心配性だよ。流石にそんな無茶はしないって！」
そうして迎えた当日。
「今日はみんなよろしく頼む。それと、今回は試しだから集合時間も10時だった。次行くことがあればもう少し早くしよう」
「今回はどのぐらいの予定だい？」
「そうだな。初めてということもあるし、夜に戻るかダンジョンで1泊の経験を積んで帰るぐらいか？」
そう説明を聞いて私たちはダンジョンへと歩き出す。
「うわぁ～、すごい露店だらけ！」
ダンジョンのある通りに行くと、そこにはずらりと露店が並んでいた。
「ここはダンジョン通りだからね～。ダンジョンで出たやつをそのまま売ったり、入る人向けに物を売ったりって毎日こんな感じだよ」
「折角だ。少し見るか？」
「いいんですか？でも、皆さんの予定が…」
「気にすんなって！どうせ今日は試しなんだ。時間なんてあってないようなもんだぜ」
「そうね。アスカさんが見たいならどうぞ」
「じゃあ、ちょっとだけ」
私はその辺の店を適当に見ていく。私もダンジョンには興味があるのでほんとに適当にだけど。
「おやぁ、お嬢ちゃん。寄ってかないかい？」
「私ですか？」
「ああ。あんたは良い目をしているからねぇ」
「ほんとですか！？この目はお母さん譲りなんです」
そんなおばあさんの誘いに乗って店に並んでいるものを見る。並んでいるのは書物が多いみたいだ。
「本が多いですね。ダンジョン産ですか？」
「ああ。お嬢ちゃんにいいとびっきりのがあるよ」
そういうと奥から一冊の本を取り出してきた。
「これはねぇ、Dランクまでのダンジョンで出たアイテムが登録できる本さね。鑑定いらずだよ」
「ほ、ほんとですか！すごいじゃないですか」
「ばあさん、そんなこと言ってほんとうなの～」
「もちろんさ。そうだね…ここにリラ草があるだろう？こいつを本を開いて乗せてやると…」
パァアと輝くと本の中にリラ草のページが出来た。
リラ草：主に回復ポーションとして使われる。魔物のエサとしても有用でその辺のものよりも効果は高い。
「わわっ！？ほんとに登録された。いいなぁ～、これいくらですか？」
「ひひっ、金貨30枚だよ」
「たっ、高くない？いくら何でも高すぎるよ～」
「お前さんには言っておらん。鑑定いらずで金貨30枚じゃぞ？」
「う～ん。高いけど、さっきの効果を見ると安いような…」
「おいおい、ばあさん。確かにそいつはすごいみたいだが、Dランクまでなんだろ？具体的にゃどのぐらいまでなんだよ」
「チッ、鋭いやつだね。そうさね…薬草ならムーン草や地方によくある薬草。武器なら鋼の武器かね？ミスリルは駄目だよ」
「うう～ん」
ますます悩んでしまう。地方の薬草については私も知らないから有用そうだけど、鑑定してもらうのに銀貨2枚もあればいい。金貨30枚というと100回以上鑑定してもらえるしなぁ…。
「ばあさん。これも置いてもいいかい？」
「ああ、構わないよ。登録品が増えるのはこっちもありがたいからねぇ」
ジャネットさんが小さいナイフを置くと新たに登録された。
鋼のナイフ：一般的なナイフ。鋼で作られた量産品
「なるほどねぇ。ばあさん、それってCランク以上はどうなるんだい？」
「おや、そっちの冒険者のお姉さんも興味あるのかい？もちろん、登録できないよ」
「なるほど。アスカ、買うか？あたしも半分出してやるよ」
「ええっ！？いいんですか？私も薬草とか鑑定できたらなって思いましたけど…」
「そうそう、あとこれには最後のページに番号があるんだよ。どうも全部でいくつ種類があるか乗ってるみたいでね」
おばあさんが最後のページを開くとすでにいくつか登録されているみたいで、鉱物や薬草の欄にいくつか登録されている。そしてその横には何分の何々という感じで、種類が乗っている。
「コ、コンプだ！買いますっ！」
「まいどあり」
ああ～、こういう図鑑埋めとか好きだったんだよね。時間があるからちょっとゲームにはまっている時によくやったなぁ。ジャネットさんと半分ずつ出し合って本を買う。
「ねぇ、本当によかったの？そんなに高いものを買うなんて…」
「ん？ああ、悪くないと思うよ。特にこれからもダンジョンとか旅をするならね。さっき、ばあさんが言ってただろ？Cランク以上は登録できないって」
「でも、それだと価値がないでしょ？」
「ちがうちがう。逆に言えばCランク未満のものと簡単に分けられるってことさ。魔道具って分かっても使えないやつか使えるやつかある程度はランクで判別できるって訳さ。登録されなかったら鑑定してもらって、登録されたら効果を見て考えればいい」
「なるほどな。有用なものが登録できないから無価値なのではなく、それゆえに価値があるというわけか」
「そういうこと。確かに別に鑑定費用もかかる。でも、どの道あたしらは鑑定持ちがいないし、持ち帰られる物にも限度があるからね」
「ジャネットさん、頭いいですね」
「まあな」
「とりあえず、ランクが低いやつは大体登録できるみたいだし、下層階のドロップ品は適当にやってみようぜ！」
「もう、ディンったら。でも、ちょっと面白そうね。協力するわ」
「お願いします」
おばあさんの店でちょっと時間を取ってしまったので、残りの店は素通りしてダンジョン前に向かう。
「ん？ハイルじゃないか！今日は遅くからなんだな。後ろの見慣れないのは？」
「あたいの知り合いだよ」
「なんだ、サティーの知り合いか。予定は？」
「一応は1日だ。だが、長引くかもしれん」
「ま、あんたらなら大丈夫だろ。入場料は1人銀貨5枚だ。頑張れよ」
「ああ」
ハイルさんを先頭にギルドカードを読ませて料金を支払っていく。それにしてもダンジョンの門番さんに覚えられているなんてスケイルのみんなはすごいんだなぁ。
「よしっ、ダンジョンに入ったわけだが、俺たちとしては人数が多い7人パーティーだ。後方にも前衛を置く形を取ろうと思うが、意見はあるか？」
「問題ないね」
「なら、ディンが後方でジャネットと俺が前。一つ後ろにリュートで、その後ろは左からマイン・アスカ・サティーだ」
「了解」
「私が真ん中でいいんですか？」
「ああ。魔物使いと言え、弓と魔法だろう？気にするな。従魔たちもアスカの護衛で構わん」
ピィ
んにゃ
了解と言わんばかりにアルナとキシャルが返事をする。ティタもこくんとうなづく。
「それにしても、アスカさんの従魔はかわいい子ばかりね。従魔って結構いかつい子も多いからびっくりしちゃったわ」
私の左右の肩にはアルナとキシャル。この前見つけた魔法鉱石を使って重量をなくしたティタは腰の袋に入っている。
「そうだな。前に見たのは1メートルぐらいのウルフだったか？やけに凶暴だったからな」
「あっ、敵みたいです」
話しながらダンジョンを歩いていると、早速魔物の反応をリュートが教えてくれた。
「この程度はなんとでもないだろうが、つまらないところで怪我はするなよ！」
「はいっ！」
さあ、ダンジョン探索の始まりだ。
