迷宮都市
「おっはよう~」
「あ、うん…」
目を開けると目の前にはサティーさんがいた。
「あれっ?どうして宿に」
「ふふ~ん。待ち合わせの時間より早めに着きそうだったから来ちゃいました~」
「すぐに用意しますね!」
「わっ!?待って、アスカ。仕切り…部屋から出るから!」
突然リュートが部屋を出て行った。たまにああなるけどなんでなんだろ?
「ふわっ、相変わらずいい仕事するね師匠~」
「そうなの…かな?取りあえず着替えますね」
ささっと着替えて街に繰り出す。
「う~ん。今日もキシャルはお留守番かぁ~」
ジャネットさんが宿に残ると言い出したからとは思いたくないけど、怪しいなぁ。
「じゃあ、最初はどこに行こうか?服屋?アクセサリーショップ?」
「えっと、どうしようかな?リュートはどっちが良いと思う?」
「僕?う~ん、服かな。アスカはアクセサリーは作ることもできるし」
「そっか。じゃあ、サティーさんそっちで」
「おっけー!」
サティーさんの案内で服屋さんに入っていく。大通りでも結構大きい店だ。これは期待できそう。
「いらっしゃいませ…あら、ハイル様の!お連れ様ですか?」
「はい。彼女に服を見てあげて~。私はいつものように勝手にみてるから~」
「かしこまりました。では…」
「アスカです」
「アスカ様、こちらに。護衛の方もどうぞ」
私はリュートと一緒に店を案内される。
「お嬢様にはこちらがお勧めかと」
「ド、ドレスですか…流石に着る機会は…」
「ですが、大変お似合いですよ?護衛の方もそう思いませんか。お嬢様には着飾って頂きたいと」
「そ、そうですね。いいと思いますよ、アスカ…様」
ぐっ、リュートが陥落させられた。なぜか、護衛モードだし。でも、桜色のかわいいドレスだし良いかな?見せる機会はないと思うけど。他にもいくつか服を買っていく。
「しかし、どの服もお似合いですね。うらやましいですわ」
「そんなことありませんよ」
「いえ、本当に素晴らしいです。あっ、こちらもいかがですか」
店員さんが勧めてくれたのはニットの上着とフレアスカートの組み合わせだった。
「あっ、でも、アクセサリーも必要な感じですね」
「でしたら、こちらにどうぞ」
店員さんはちょっと奥にある通路から横に入っていく。どうやら、隣のアクセサリーショップと続きになっているみたいだ。
「あら、こっちからなんて珍しい…まぁ!どちらのお方?」
「ア、アスカと言います」
「こちらにいらして!服はもう買われたの?」
「会計はまだ…」
「会計何てどうでもいいですから、こちらへどうぞ!服はこっちでお着替えになって!」
勧められるがままに店員さんにより、購入しようとした服に着替える。
「悔しいですが似合っておりますわ。これに負けないアクセサリーを選ばせていただきますので」
そういうと店の中をぐるっと見回り、いくつかのネックレスやら何やらを持って来た。
「こちらは大きな魔石を使っております。守りとしてもいい出来です。ワイバーンの魔石で風のバリアを前方に張れます」
「た、高そうですね」
「金貨30枚ほどですので、お求め安くなってます」
お安く?気のせいかなぁ、高いと思うんだけど。
「も、もう少し普通のはないんですか?」
「宝石関連でしたらこちらですね。ブルーサファイアを使ったものです。ドレスにも似合いますし、他の服にも合わせやすいサイズですわ」
「あっ、可愛いですね。こっちのも石は小さいですけど、デザインが好きですね」
「では、トータルで合わせさせていただきます。もちろん、費用の方も調整いたしますので」
そういうと、私の選んだものを参考にしてか再びササーッとアクセサリーがやって来た。
「こちらは普段使いで。こちらは少しかしこまった時にぴったりです。いかがでしょうか?」
「わぁ~、流石です!リュート、リュートはどう思う?」
「うん。とっても似合ってますよ」
「そっか~、なら買っちゃおうかな~。でも、靴がないです」
「靴はこちらにもあります。当店と横の服屋でトータルコーディネートが出来るようにしている関係で、契約している靴職人から仕入れも行っており、デザインも選べます」
「ほんとだ~。わっ、これって人魚をイメージしてるんですか?フリルがついてて面白い靴ですね」
「実はこの町にはデザイナーも多く住んでるんですよ。迷宮から出る宝からは変わったデザインのものもあり、想像力を刺激されるとかで」
「な、なるほど…」
ただ、武器とかが出るんだろうな~って思っていたダンジョンはかなり生活にも密着している様だ。
「さあ、こちらの靴からどうぞ」
「はい。んん?ちょっと大きいですね」
「大丈夫です。先ほども言った通り、デザインだけ決めて頂ければ靴職人にサイズは合わさせますので」
「なら、これとこれ…でも、かさばっちゃうかな?街行きならそんなに数持ってても、う~ん」
私が考え込んでいると店員さんとリュートが話をしていた。
「あのさ、アスカ…様。よかったら、僕のマジックバッグに入れておきませんか?街に行く時は一緒ですし」
「えっ!?いいの?でも、リュートの容量使っちゃうんじゃ…」
「装備以外ではそこまで使いませんし、大丈夫ですよ。実はこの前、1つ大きいやつに替えたので」
「それならお願いしていい?どっちも素敵なデザインだったから!」
「はい」
「では、折角ですしそのままお召いただいてこちらにどうぞ。靴の方はこちらがサイズが合いますので、そのままお使いください」
「し、支払いの方は…」
「こちらでまとめて行えますので」
「アスカ様、その前にサティーさんと合流した方が」
「あっ、そう言えばそうだった!」
「サティー様ですね。すぐにお伝えしてまいりますので」
店員さんが隣の店に入り、2人になる。
「ごめんねリュート、無理言っちゃって」
「いいよ。アスカもこういうの着たいでしょ?普段は野営とかで出来ないし」
「うん!でも、そんなに無理しなくていいからね。着倒せる機会なんてまだまだだろうし」
「大丈夫、無理はしてないから」
「お待たせいたしました。会計の方を進めさせていただきます」
「アスカ、終わった~?」
「はいっ!サティーさんはどうでした?」
「いいのあったから買ったよ~」
ちなみに買ったというサティーさんだけど、後で聞いたらハイルさんが支払っているらしい。
「プレゼントってやつ?一緒に行くことも多いけど、たまにこうやって一人で来るの」
ということらしい。
「お次は~、やっぱり冒険者だしそっち系?」
「そうですね。ダンジョン産のアイテムにどんなものがあるのか知っておくことも大事ですし」
「それじゃあ、いっくよ~」
サティーさんに連れられて今度はダンジョン産のアイテムを扱う店に。
「今から行くところは彼の紹介なんだ~。ダンジョン産のアイテムって結構珍しいから、誰にでも売ってくれるわけじゃないんだよ」
「わ、私買えますかね?」
「あたいがいるから大丈~夫」
「ん?いらっしゃい」
「おじさ~ん、新規のお客さんだよ」
「おお、サティーか。珍しいなお前が新規の客を連れて来るなんて」
「まあ、どっちかは置いといてね。なんか変わったの入った?」
「変わったのか…使えんもんはたまに入ってくるが、使えるものとなるとな…ああ、この靴があったな」
「靴?どんな効果なの」
「ダンスが上手くなるってやつさ。お前も付き合ってるんならどうだ?相手はあのハイルだろう。あいつに教えるよりもこの靴の方がいいぞ」
「それって実用的じゃないじゃん~」
「ははは、冒険者なら自分で見つけた方が早いかもな」
「もう~、ごめんねアスカ。良い物入ってないって」
「い、いえ、色々見ていきますから」
とはいうものの店内には細工物や武器に防具はもちろん、何に使うかもわからないガラクタのようなものまである。
「ん~、この辺りのは魔石かぁ。何かないかな?」
「アスカ、細工用に見てるの?」
「そうだけど、流石に変わったものは無いみたいだね」
「魔石だけは魔道具屋に行っちまうからなぁ。だが、内部じゃ色んな魔物と会えるから魔石の種類は豊富だぞ。倒せるかは別だがな」
「じゃあ、高級魔石とかも出るんですか?」
「ああ、行くのが難しい地域の魔物なんかも出るからな。だから、結構人気のダンジョンなんだ。まあ、その分装備を多く持ってないといけないから、下層に行くのは大変だがな」
「剣は良いのがなさそうですね。ナイフは…ちょっと変わったのがある」
「それはカウンターナイフだな。効果が混ざるから最近はリターンナイフなんて呼ばれてる」
「リターンナイフ?」
「ああ、投擲した後で持ち主の手元に戻ってくるんだ」
「へ~、便利なナイフですね」
「それに金貨3枚だって!安くない?」
「…アスカ。おじさん、何かあるんですね?」
「流石は護衛だな。このナイフはどうなってるのか魔石がないんだ。付与されている方法がわからんし、切れ味もそこまでよくない。盗賊とか相手ならまあいいが、魔物相手には不足だな。後は戻ってくるタイミングが自動でな。そこを狙われるとどうしようもない」
「そんなぁ~。いい武器だと思ったのに…」
「改良しようにも作りも分からないからな。まっ、ダンジョン産ってのはこういうのも多いから、護衛に行ってもらうんなら気を付けるんだぞ?うっかり触って呪われてるなんてこともあるからな」
「おじさん、アスカも一緒行くから大丈夫だよ~」
「一緒に?このお嬢さんが?」
「そうそう。今はこういう格好だけど、ちゃんと冒険者だから」
「冒険者?あっ、いや、どこからどう見ても貴族のお嬢様なんだが…」
「そっ!そんなことありませんよ。例えばどこですか?」
「まず、冒険者にしては顔がきれいだ。それに髪は整っているし、絹のようだろ。そんな人間、貴族様以外には…」
「この服のせいですよ」
「その服がお似合いの時点でです。大方、大通りのペルネーのものでしょう。あそこは上質ですが、高くて庶民には手が出んのです」
いつの間にかおじさんも丁寧に話してくれている。ううっ、本当に貴族じゃないのに…。
※行方不明の侯爵家次男と男爵家長女の娘でちゃんと貴族です。存在が家にばれてないだけです
「ま、まあ、そう言われるなら。ただ、本当にダンジョンの中にある宝箱には気を付けてくださいよ。トラップもそうですが、中身が危険な時もありますからね!」
「は~い!」
おじさんには良い物が出たら持って来るよと約束して店を出た。




