打ち合わせ
「皆さん、お疲れさまでした」
御者さんがそういうと、馬車降り場で乗客が降りていく。
「おねえちゃんありがと~」
「は~い。そうだ!これあげるね」
「なあにこれ?」
「木で出来たネックレスだよ。かけてあげるね、長さの調節もできるからずっと使えるよ」
「やったぁ」
よしよし、これでシェルオーク製のネックレスがまた一つ減ったぞ。中々、目についてくれる人がいないから渡せないんだよね。アルバのおじさんの店に置いてた時はお客さんが見つけてくれたけど、旅の途中じゃ中々そんな機会はないからなぁ。
「あら、おねえちゃんに何かもらったの?」
「ネックレス!」
「そう。すみません、わざわざ、この子のために」
「いいえ。普段から細工をしていてあまりものですから」
乗客と別れて私たちも紹介してもらった従魔が泊まれる宿に向かう。
「いらっしゃいませ!お泊まりですか?」
「はい。とりあえず、1週間で4人部屋ありますか?」
「ありますよ。従魔の方は大型ですか?」
「いえ。このキャット種と、小鳥と小型のゴーレム種です」
「分かりました。食事についてはいかがいたしましょうか?」
「小鳥の分だけでいいです。他はこちらで用意しますから」
「では一部屋1泊、大銅貨8枚です。その他、人間用の食事は下の食堂か町でお願いします。朝は簡単な物でしたらサービスです」
「じゃあ、朝はお願いしますね」
「アスカ。それじゃあ、荷物置いて来てね。彼のところに案内するから」
「分かった。あれ?キシャルは?」
んにゃ~
どうせ降りて来るならここにいると、キシャルは宿のカウンターにぐてっと陣取った。
「す、すみません」
「いえ、従魔宿として宣伝にもなるのでいいですよ」
店の人にキシャルを頼み、部屋に荷物を置く。
「4人部屋だけど2段ベッドだね」
「まあ、一部屋の割に安かったし大型かどうか聞いてたから多分それだねぇ」
「じゃあ、私が上で寝ますね」
「僕が上でもいいよ」
「いや、流石にそれはね。リュートはあっちで従魔と一緒だ。仕切り使えないだろ?」
「そ、そう言えば…」
「最近は仕切りじゃなくて、部屋ごと別だったからねしょうがないさ。んじゃ、あっちに荷物置きな」
「アルナの巣箱も置いておこうっと」
荷物を置いたらすぐに下へ降りる。
「アスカもういいの?」
「整理とかは後でいいから」
「それじゃあ、ご案内~」
「ん?そういえば、キシャルは」
んにゃ
バイバイと手を振るキシャル。こうなったら動きそうにないので、店の人にお願いして預かってもらう。
「すみません、手のかかる子で」
「いいえ。大人しくしてくれるみたいですし、構いませんよ。従魔宿って言っても安宿みたいに利用する人がほとんどですし」
顔見せしておきたかったけど、しょうがない。諦めてみんなでサティーさんについて行く。
「え~と、あったあった。ここが待ち合わせ場所の銀亭だよ」
「えっ、あっ、はい」
どう見ても高級レストランなのだが…。フィアルさんの店よりさらに落ち着いていて。中央通りのいかにもな店だ。
「いらっしゃいませ。おや、サティー様。こちらへご案内いたします。お連れ様もどうぞ…」
「はい」
堂々とサティーさんは入っていく。どうやら、何度も来ているみたいで店員さんも慣れた感じだ。
「やっほ~、元気してた?ハイル」
「サティー!もちろんだ」
「やれやれ、我らのリーダーも変わっちまってまぁ」
「そういうものではないわ、ディン。私たちだってずっとやっていくわけでもないんだから」
「そうだけどよ」
「紹介するね、アスカ。こっちがあたいの付き合ってる、ハイル。横の男性がディンで女性がマインさん。みんな
Bランクなんだよ。すごいでしょ~」
「全員ですか?すごいですね」
「どうも、ハイルだ。3人パーティー、スケイルのリーダーをやっている」
「ディンだ」
「マインよ」
「よろしくお願いします。フロートリーダーのアスカです」
「リュートです」
「ジャネットだ。一応あたしがBランク、この子たちはCランクだよ」
「こいつは良い。ダンジョンの案内何て若いパーティーだって聞いてたから、オーガのところまでの案内だけかと思ったら、そこそこ潜れそうだな」
「もう~、ディンったら無茶は駄目よ?降りていきながらだからね」
「はいよ」
ピィ
「あっ、そう言えばまだ紹介してなかった。この子はアルナ、私の従魔です。他にこっちのゴーレムと宿にもう一人キャット種の従魔がいます」
「へ~、魔物使いか珍しいな。ここでもたまに見かける程度だ」
「たまにってことはいるんですね?」
「ああ。やっぱ野生っていうのか?結構、危険予知には優れてるからそこまで邪険には扱われてないな。それに魔物から食料も出るからな、ここは。従魔の分も幾分かは賄える」
そう言えば、前に潜ったダンジョンはアンデッドダンジョンで一切、食料が落ちない所だった。ああいうところだとあんまり歓迎されないんだろうな。
「それより、手紙で知ったがサティーが世話になったようだな。礼を言う」
「いえ、私も鍛錬になりますから構いません」
「この町で予定の合う限りは協力させてもらう」
「えっと…でも、良いんですか?Bランクパーティーって忙しいんじゃ…」
「私たちは3人だけだし、ダンジョン中心というかほぼ専門だからいいのよ。他の町への護衛なんてめったに受けないの」
「そういえば3人って少ない方ですよね。何か理由でもあるんですか?」
「まあ、大体は4,5人のところがほとんどだな。だが、3人にもメリットはある。4人だとパーティー内でバランスが取れてないと合同パーティーの人数が多くなる。5人だと、最後のひとりや欠員が出た時の加入条件が厳しくなるだろう?3人だと軽く行くのに行動しやすいし、合同パーティーでも前衛が多ければ後衛のパーティーに、後衛が多ければ前衛のパーティーに混ざりやすいから都合がいいんだ」
「うちはそもそもAランクには興味ない人間の集まりだから」
「そうそう。Aランクなんて指名依頼も多いし、簡単な依頼も受けづらいしでいいことないぜ。まっ、実力が足りないだけともいうがな!」
あっはっはっと笑うディンさん。ほんとにそう思っているみたいで、あっけらかんとしている。
「でも、良いのかい?あんたら、腕はあるんだろ?」
「って言ってもなぁ。この町のダンジョンは俺らでも30階前後で厳しくなる。10階でオーガ亜種、20階でオーガジェネラル、30階じゃそいつらが複数の強さだ。噂じゃ、40階はオーガロードが出るらしい。そんなところに首突っ込んでいってもいいことなんてないぜ。この町出身の俺が言うんだから間違いない」
「確かに命あってか…。とりあえず、一度ぐらいはちゃんと潜りたいけどねぇ」
アンデッドダンジョンの時はお試しで何て言ってたけど、ジャネットさんもほんとはちゃんと戦いたかったんだね。これは私も準備をきっちりしないと。
「だけど、そちらのお嬢さんは大丈夫なの?従魔は連れているけど戦えるのかしら?」
「大丈~夫。この中じゃ、あたいが一番駄目だから!」
「サティー、そんなに明るく言わなくてもお前には罠があるだろう?」
「ん~、罠使っても多分同じだよ。そんぐらい、実力は離れてるから」
「へ~、そいつは楽しみだ。久しぶりに30階のボスでも…あいたっ!」
「ディン!下のランクにプレッシャーかけないでっていつも言ってるでしょう?ごめんなさいね」
「いえ、お気遣いなく」
「んで、いつダンジョンに行くんだ?」
「明日はあたいと観光でしょ~、明後日は…何かある?」
「予定はないですね」
「そんじゃ、明後日ね~」
「ふむ。一応の予定も決まったし、軽食でも取ろう」
ハイルさんがそう言ってドアを叩くとすぐに店員が中に入って来た。
「簡単につまめるものを頼む」
「はい、かしこまりました」
「すごいですね。店員さん、タイミングよく来るなんて」
「アスカ、なに言ってんの~。ずっと前で待ってるんだよ」
「ええっ!?大変じゃないですか?」
「それがこの店の仕事だ。この部屋は防音の魔道具も使われている。その上で、ドアの前にああして待機しているんだ」
ひえぇ、とってもお高そうな店だ。それから、すぐに運ばれてきた飲み物と軽食をつまみながら、お互いのことを話す。
「ふ~ん。それじゃあやっぱり、2人はアスカさんの付き添いなのね」
「付き添い…う~ん、そうなるんですかね?」
「あたし達も好きで付いてってるんだからそう考えるんじゃないよ。すまないね、アスカは真面目っ子なんで」
「こちらこそゴメンなさいね。最初はどこかの貴族かと思ったから…」
「えっ、そ、そうですか~。よく間違われるんですよ~」
「それに、帝国勲章もつけてるわよね。そこそこ珍しいのよそれ」
「あっ、町で付けておくように言われていたのでこの町でもそうした方がいいのかなって」
「そうね。それを付けていて面倒に巻き込まれることはないと思うわ。むしろ、並の冒険者なら距離を取ってくるわよ」
「へ~、思ってたより便利なんだねぇ、これ」
「ああ。帝国は軍事国家だからな。その勲章に傷がつくなんてことがあれば…」
「冒険者だってただじゃ済まないか」
「噂じゃ、国外に逃げても追ってくるらしいからな。冗談じゃないぜ!」
「あら、ディン。お世話になるようなことをしたの?」
「し、してないしてない!さすがの俺もそこまで馬鹿じゃないぞ」
「ならいいわ。パーティーに迷惑かけないでよね」
「パーティーと言えば、前衛と後衛はどうなってるんだい?うちはあたしが前衛。リュートが前衛と中衛でアスカが大体後衛だけど」
「そうだな。俺が前衛でディンもそうだ。マインは中衛だな。マジックナイフを主に使う」
「マジックナイフ?聞きなれない武器ですね」
「魔法付与したナイフを魔力で操って攻撃するの。遠距離の魔槍に近いかしら?各属性のナイフを使えば効率的に相手の弱点を突けるのよ」
その後も沢山話をした。もっとも、冒険者の集まりなので、ほとんどはそんな話ばかりだったけど。
「おっともうこんな時間か。それじゃあ、明後日はよろしく頼むな。サティー行こう」
「は~い。みんなまたね~」
こうして明日の待ち合わせ時間を決めて私たちは別れたのだった。
 




