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迷宮都市カディールに向かって

薬の製法を登録して数日後、細工も終わらせて街の薬草も供給され始めて、買い付けにも成功した私たちは出発の準備をしていた。


「あれ?これはもう使わないんだっけ?」


「ん?調合用のキットは新しいの買ったろ?というか、貰ってたよな」


「あはは。どうにも作った薬がよかったらしくて、薬を扱う商会の人に一式新品をもらったんですよね~。使い易いというか混ざりが良くて助かります」


「本当に感謝されてたもんね。ここで登録ってことで町の体面も保たれたって」


「まあ、特に最近は魔物が多くて薬の出荷もままならなかったから余計だろうね。久しぶりに帝都や他の都市に大規模に納品できるって話もあるみたいだしねぇ」


「それより、今日は馬車で移動するんでしょ?時間に遅れないように準備しないといけないわよ」


「ミリーさん…。ありがとうございます。出発までお世話になって」


「それはこっちのセリフよ。対した力も無いのに依頼も一緒に受けさせてくれて…。私が出来るのはこれぐらいだから」


ミリーさんは町に入る時の予定通り、これから亡くなった仲間の家族を捜して彼らの最後を伝えるとともに、その遺品や財産を渡しに行くのでここでお別れだ。


「寂しくなりますね。でも、頑張ってくださいね」


「ええ。みんなの家族は調べてもらっているから、結果待ちだけどね。それが終わったら、実はこの宿で雇ってもらえることになったの」


「ここで働くんですか?」


「そうよ。2人ともアスカちゃんの薬で良くなったとはいえ、水仕事…特に汲み上げが大変でしょう?私なら魔法でやれるし、ここ数日一緒に依頼をしていたけど、どうしてももう以前のように戦いに行こうとは思えなくなったの」


「ま、それが一番だね。毎回命のやり取りをするぐらいなら、町でのんびりした方がいいさ。でも、本当にいいのかい?あんたなら貴族の邸だろうが薬師のところだろうが、引く手あまただろう?」


「薬師の方は依頼をたまに受けるつもり。アスカちゃんにというかティタにこっそり教えてもらった純度の高い水の生成でかなり稼げそうなの。そしたら、この宿もちょっとずつ直していきたいわ」


「宿を?確かに、ところどころ傷んでますもんね」


「そうなのよ。あの人たちも嫁いでいった娘が帰って来たようだって言ってくれたし、親孝行しないとね!」


「頑張ってくださいね!応援してますから」


「ありがとう。さて、これで荷造りは終わりね。後はマジックバッグに入れるの?」


「そうですね。それじゃあ、行ってきます!」


「ええ。元気でね、みんな」


ミリーさんと別れて、私たちは馬車乗り場へと向かう。


「それにしても乗合馬車ですか~。どんなんでしょうね~」


「あれ?乗合馬車は初めてだっけ?」


「多分…。依頼の時に荷馬車には乗ったけど」


「まあ、そんなに変わるもんでもないさ。多少、クッションがいいぐらいでね」


馬車乗り場について数分後、聞きなれた声が聞こえてきた。


「師匠~、待ちました?」


「いえ、今来たところです」


「よかった~、案内を言い出したのに遅れちゃうところだった~」


カティアさんたちのパーティーは私たちみたいに週に何度か依頼を受けて残りは休み、という形ではなくて集中して依頼を受けて、その後はしばらくお休みになる形だ。というわけで、今回は案内も兼ねて迷宮都市に一緒に行くことになった。


「ご予約の方ですね?先に乗り込んでもらっていいですよ」


「ありがとうございます。これが乗車券です」


「確かに」


馬車の案内の人に券を見せて、乗り込む。乗合馬車は大きく分けて3種類だ。魔物と掛け合わせた馬に馬車を2台連結させたもの、普通の馬に馬車が1台、そして魔物と掛け合わせた馬に馬車1台の高速馬車だ。私たちが乗るのは最初の連結馬車だ。普通の馬では力が足りないけど、魔物との交配種の馬を使うことで出来るようになった輸送方法だ。


「でも、意外ですね~。思ったより料金安かったです。魔物との交配種だからもっと高いのかと…」


「連結の馬車で客も多いし、時代も進んだからねぇ。昔はもっと高かったらしいよ」


「そうそう。町のおじいさんとかが言ってたな~。今ほど気軽に買えなかったから、商人とか貴族専用だったって」


「後はリュートのお陰だねぇ」


リュートはというと、見張りのため御者の人の隣の席に座っている。つまりは護衛だ。私たちは乗客だけど、いざという時の護衛も兼ねている。そうすることで乗車券代を割り引いてもらっているのだ。もちろん、ランクによっては引いてもらえないんだけど。


「いや~、リュートさん。今回は頼りにしてますよ。乗客の方にBランクの方までいるとは…。最近安全になって来たみたいですし、依頼料も高くなってて困ってたんですよ」


「ははは、頑張りますよ。ところで、お客さんは多いんですか?」


「もちろんですとも。料金もそうですが、このところ中々乗合馬車も出てませんでしたから、多くの人が待ってますよ」


「でも、行先は迷宮都市ですよね。一般の人も行くんですか?」


「もちろんですとも!迷宮都市と言えばダンジョン!珍しいものもたくさん出ますからな。まあもっとも、庶民に買えるのは変わっているけど、役には立たないようなものですが…」


「どういうのがあるんですか?」


「お楽しみにと言いたいところですが、頭を叩くと首が1回転する木像とかですね。地味に人気なんですよ。子どもとかが面白がるとか」


「それってただの仕掛けじゃ…」


「ちゃんとした魔道具ですよ。魔力を一定こめて叩かないと回らない仕組みなんです。子どもが遊びながら、魔力を扱えるので庶民には人気なんです。どうせ、大した魔力もありませんからね。全力を込めても壊すようなこともないんですよ」


「でも、たまに魔力の強い子もいますよね?」


「それはそれで簡単に分かるので困りませんから。50でしたかな?それ以上の魔力の人が叩くと壊れるようですよ」


50か…平民じゃ30ぐらいでも高いって言われることもあるし、確かにそれぐらいなら良さそう。それにしても子供かぁ~。アスカの子どもならそれぐらいすぐに…って何考えてるんだ僕は。


「リュート、ごめんね。1人で任せちゃって」


「ア、アスカ!大丈夫!任せてよ」


「明日には代わるから」


「気にしなくていいよ。僕がそっちに行っても気まずいし」


「そう?無理はしないでね」


その後、乗客がどんどん乗り込んで来たけれど、ほとんどが女性だった。


「あの…いつもこんなに女性ばかり?」


「いえ、折角Bランクの女性剣士様が護衛とのことでしたので、ちょっと宣伝に…。いくら、護衛といっても冒険者は男性が多く、警戒される方も多いですから」


「そうでしたか」


これはジャネットさんには黙っておいた方がいいな。絶対に後で報酬に上乗せしろとか言いそうだし。それは良いんだけど、なぜかそこで「剣士様ワイルドで素敵」とか色々言われて女性が来るんだよね。あの人も意識してないだけできれいだからなぁ。顔を洗う時も適当に水を取ってやるし、ひょっとして鏡見てないんじゃないかな?


「あんたが今日の御者か?2人もいるなんて珍しいな」


「護衛の方々ですね。よろしくお願いします。ああ、それと彼は乗客の冒険者ですよ。他にも何人かいらっしゃってますので、緊急時は対応をお願いしてます」


「それで、俺たちDランクでも受けられたんだな。頼むぜ!」


「こちらこそ」


多分、僕が若いから同じDランク位だと思われてるんだな。その方が都合いいし、そっとしておこう。



「あっ、みんな乗ったみたいですよ、ジャネットさん」


「はいはい。全く、子どもだねぇ」


「違いますよ。初めてだからちょっとはしゃいでるだけです」


「ちょっと、ねぇ…」


「あ、あの…その膝に乗ってるのは?」


「あ、すみません。びっくりさせちゃいました。私の従魔なんです」


「この子たち大人しいから大丈夫だよ~。触れるし」


「さ、触れるんですか?」


「大丈夫ですよ。あっ、でも、キシャルは寝てるから優しくですよ」


「じゃ、じゃあ、そーっと」


なでなで


んにゃ~


背中を軽くなでられたキシャルが小さく鳴く。嫌がっていないところを見ると、気持ちよかったみたいだ。


「かわいい猫ちゃんね。Eランクの魔物なの?」


「一応、Dランクです。多分、成長したから今はCランクに近いと思いますけど」


「そ、そうなの。小さいのに強いのね」


ほんとはもっと大きいんだけどそこは黙ってよっと。


ピィピィ


「ん?アルナも撫でて欲しいの?」


「いいの?小鳥だけど…」


「大丈夫です。アルナ、手につかまってね」


私は肩から手にアルナを誘導すると、お姉さんに撫でてもらう。


ピィ!


「気持ちよかった?よかったね、アルナ」


「あまりこの辺では見かけない小鳥ね」


「あっ、一応別の大陸から来てるので…」


「それでだったのね。町に着くまでよろしくね」


「こちらこそ」


その後も一緒に乗り合わせた人と話をしながら、今日の野営地に着いた。






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