ぐるぐる薬作り
「ああ、君たちかどうだった。見廻りの方は?」
「大体は予想通りって感じだね。ただ、討伐数に関してはあんたたちの想定より多いと思うけどねぇ」
「ほう?それは報告を受けるのを楽しみにしておこう。勲章の付け心地はどうだ?」
「何だか重たいねぇ。町のみんなの視線もちょこちょこ浴びたし」
「宣伝は済ませておいたからな。いや~、中々商人たちもしり込みしていてな。報告が予定より早いのは助かる」
「とりあえず、仕事は終わりでいいのかい?」
「ああ、本当にご苦労だった。領主様にもきちんと報告をしておく」
「その時はぜひカティアのパーティーを推薦しといてくれよ」
「おかしな奴らだな。まあいい、この町にまだ滞在してくれるなら、出来るだけ町中を歩いてくれよ。勲章も忘れずにな」
「へいへい、分かったよ」
「ちょっとジャネット相手は…」
「いいさ、こっちも世話になってるからな。冒険者らしくていい。報酬は他のチームが帰って来てからだが、期待しとけ」
隊長さんに完了報告書にサインをもらっていったん解散だ。
「それじゃあ、お世話になったわね。また、依頼が被ることがあったらよろしくね」
「こちらこそありがとうございました!」
「師匠~、依頼終わってどうするの?」
「う~ん。細工があるのでしばらくはそっちですね。あんまり外に出ることはないかな?」
「そか~、弓みてもらいたかったのにな~」
「それなら、あたしが連絡を取ってアスカを外に出させるよ。この子、細工やってると外に出なくなるからねぇ」
「お願いします!これで、百発百中になるよ~」
「はぁ~、うちのサティーが御免なさいね。あなた、ちゃんとお礼するのよ」
「分かってますって!今度、迷宮都市に行く時に道案内するからさぁ」
「ほんとですか!助かります」
「まっかせといてよ師匠!(それに一緒に彼と会えば後々、商売につながるかもしれないし)」
ちゃっかり、教えてもらうだけではなく将来のことについても考えているサティーだった。
「それじゃ、あたしらはこれで」
「ええ。お疲れ様」
カティアさんたちと別れて、素材を売りに行く。
「おう!来たな。今度はどんな素材を持って来たんだ?」
「今日はフォレストハウンドの毛皮とかですね。後はオーガの牙とかです」
「ほう?フォレストハウンドの毛皮か。状態によっては高く買うぞ。いい質をしてるんだあいつの毛皮は」
「ふ~ん。状態はこんな感じだけど、どうだい?」
「おう?お前さんたちにしてはそこそこ傷があるな。だがそれでも上質な方だ。あっちの方に行く冒険者も少ないから、1匹金貨2枚で買おう」
「ちなみに、もう少し状態がいいとどのくらいだい?」
「そうだな。これでもいい方だが、もっときれいなら金貨4枚はするな。まあ、滅多にないがな」
「それで、魔石をくれたわけかい。中々、目利きだねぇ。カティアたちも」
「ん?あいつらとも知り合いなのか?一緒になったら見てやってくれよ。結構素材の状態も気にする良いパーティーだ。いかんせん、この辺りはそこまで強い冒険者がいないから、適当な仕事をする奴も多くてな。幸か不幸か魔物が多くなったから、そういうのを気にする奴らもそこそこ増えてきたがな」
「そんじゃ、全部頼むね」
買取も済ませ今度は商会へ。
「いらっしゃませ!アスカ様、ようこそおいで下さいました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「また、討伐してきたのでオーク肉の引き取りと、魔石を送りたいんです」
「魔石ですか?どなた宛てでしょうか?」
「フェゼル王国の王都宛で、宛先はマディーナさんだ」
「マディーナ様ですね。お送りするのはどちらですか?」
「このフォレストハウンドの魔石です。手紙もつけるのでまた持ってきますね」
「分かりました。本日はこちらの魔石を一旦お預かりするのと、オーク肉ですね」
「そうですね。また、細工も出来たら持ってきます。フェゼル王国に送ってもらう分があるので、その分もお渡ししますね」
「ありがとうございます。では、次にいらした時に輸送料の方はお伝えしますね」
「お願いします」
「ああ、頼まれていた薬の材料ですが揃っていますのでこちらをお渡ししますね。料金の方も明細を付けておりますのでご確認ください」
「わぁ!もう集めたんですね。ありがとうございます」
「食料に混ざって薬草も一部取り扱いがありますので、専門の商会とも連絡が付きやすいのです。また必要なものがあったらお願いいたします」
「はいっ!じゃあ、今日は帰りますね」
オーク肉を引き渡し、久しぶりに宿に戻る。
「おや、久しぶりだね。部屋はそのままにしてあるからね」
「すみません。気を使ってもらって…すぐに薬の方は作りますから」
「悪いねぇ、わざわざ。今は薬の材料も高いっていうのに…」
「苦しんでる人のためですから!」
部屋に戻ると荷物を置いて早速、薬の調合だ。
「えっと、貰った薬の材料を分けてと…。ん~、やっぱりちょっと品質は差があるなぁ。今回はシェルオークの葉を使うから先に分けておかないと」
少しぐらい珍しい材料ならいいけど、シェルオークの葉は取れるところが限られているし、木を見つけるのも大変なので他の材料も良いものにしないとね。
「後はこれと、これを合わせて飲み薬に。こっちの方は取って来た木の皮と合わせて塗り薬かな?飲み薬は持病的な方で、塗り薬が打撲とかそっち系だね」
「アスカ~、そろそろご飯だよ」
「リュート!?いつ来たの?」
「5分ぐらい前からいるよ。それより、ご飯を先に食べなよ。今から調合してたら時間かかるでしょ」
「そうだね。じゃあ、一緒に行きましょうか、ジャネットさん。あれ?」
「ジャネットさんとミリーさんはもう先に降りたよ。後はアスカだけだって」
周りを見るとアルナもキシャルもいない。ほんとに私が最後みたいだ。
「そうみたいだね。それじゃあ、降りよっか」
リュートの手をつかみ、私は食堂に降りる。
「おっ、ようやく来たね。冷めないうちに食べなよ。といっても、オーク料理だけど」
「今日は豚肉のエール煮ですって!香りもいいし、香草も入ってておいしいわよ」
「そうなんですね。それじゃあ、いただきま~す」
3cm角に切られたオークの塊をパクッと口に放り込む。
「ん~、柔らかい。ひょっとして、帰って来てからずっと煮込んでたの?」
「まあね。ここじゃ、大き目の圧力鍋なんてないし、ちょっと大変だった」
「リュート、ご苦労様。一緒に食べる?」
「そうしたいけど、まだ洗い物の途中なんだ。それが落ち着いてから食べるよ」
「そっか…頑張ってね」
「うん」
リュートを見送って、再び食事に戻る。見るとアルナの前には料理に使ったと思われる香草が、キシャルの前には氷が並んでいる。
「キシャルは氷何処から出したの?」
「ティタにもらったんだってさ」
「あれ?でもティタって氷魔法は使えないはず…」
「溶けやすいけど、この前見つけた鉱石みたいなやつで、何とか作れるらしい。今回の見回りの褒美だってさ」
「そっかぁ。相変わらず仲がいいんだね~」
んにゃ!(こき使われてるにゃ)
キシャルも元気よく答える。そうだよね~、ティタに懐いてるし。
「ん~、お腹いっぱい!それじゃあ、調合頑張るぞ~」
部屋に戻り、調合を始める。
「えっと、ここはこの量で、こっちのはもうちょっとだけだな。でも、お母さんってすごいんだな~。シェルオークの葉の量まで書いてあるってことは、扱えたんだし。ただ、もうちょっと整理しておいて欲しかったかも」
メモ書きの方だからしょうがないとはいえ、量を書いた後に斜線を引いて書き直したりと、一見しても分からなくなっている。どこかで、本にまとめないとな。
「本にして広めたいけど、どうすればいいんだろ?流石に著者を私にするわけにもいかないしな」
お母さんとはいえ、実際に暮らした記憶はないし、人の発明だからなぁ。でも、設計料って死んじゃってる人は駄目なんだろうか?う~ん、難しい。
「時間が出来たら詳しそうな人に聞いてみよう。とりあえず今は調合だ」
ぐるぐると材料を混ぜ合わせていく。
「最後にシェルオークの葉と集めてもらったこれを混ぜてと…ん?最後に魔力を加えるんだ。うう~ん…加減が難しいな。いいや、どうせ依頼の帰りで魔力減ってるし、やっちゃおう!」
お母さんも魔力はそこまでないとはいえ、貴族だし大丈夫でしょ!こうして、帰って来た初日は薬作りに精を出した私なのだった。




