見回り最終日
「あっ、そっちに羽根は置いといてくれ。使えるらしいからな。それと肉の方はリュートに任せればいい。毒はないんだよな?」
「ええ。私たちも何度か食べたことあるし、町でも見かけるわよ」
「んぅ?何ですか朝から…」
「アスカちゃん起きたのね。昨日の夜に空から来たらしいのよ」
カティアさんの言葉でテントから出て来ると、そこでは鳥さんが解体されていた。
「何ですかこれ?」
「パークホークよ。集団で一つの縄張りを持つ鳥でたまに人の食料を奪いに来るの。ただ、夜行性で明るいところが苦手だから、町なんかには寄り付かないけど」
「羽根とかは枕とかペンに使えるし、血も少ないから高く売れそうだって」
「そんなことがあったんですね。すみません、寝てて」
「いいのよ。エラの見張りの時間に一瞬でティタちゃんが落としてくれたのよ。音で私やリュート君は起きたけど、他にも寝てた人はいるわけだし」
「そうなんですね。ティタえらい!」
ティタを撫でると嬉しそうにコクコクとうなづいた。
「それにしても中々の威力の水魔法だった。ゴーレムにしては見事だったな。狙ったところも良くて、血も噴き出さなかったしな」
「ちょっと変わったゴーレムなんで、魔法が使えるんですよ」
「それは変わってるわね。まぁ、サイズからして変わってるけどね」
「そういえば、そのようなかわいいサイズのゴーレムは見たことありませんわね。従魔の出会い所などで見つけられましたの?」
「出会い所?そんなものがあるんですか?」
「ええ。保護した従魔の適性のある魔物や、元従魔で主人が死んだ従魔などが少数ですがいますわ」
「そのまま野生に帰ったりしないんですね」
「主人との関係次第ではそのまま居ついたり、子どもに引き継がれたりもあるらしいです。ただ、魔物使いにとって従魔は自分を示すものですから、引き取り手の方が多く中々普通の方は獲得できないみたいですが…」
結局のところ、魔物使いが自分の力以外で従魔を得るのは大変だということだ。
「解体も終わったし、飯にするか。リュート、火は?」
「見張りので十分です。この鳥使います?」
「ん~、昼でいいかね?それとも売る?」
「た、食べましょう!せっかく合同パーティーですし、記念に!」
「まぁ、そうだねぇ~。カティア、そっちは?」
「鳥系の魔物って結構高いから久しぶりに食べてみたいわね」
「決まりだな。昼までにメニューを考えておいてくれ」
「了解です」
「それじゃあ、出発ですね」
私たちは野営地を出発して、南の草原地帯に向かう。他のパーティーと捜索範囲が被るように今日は大体が草原だ。見晴らしがいいように見えて、ところどころ背の高い草があるから侮れない。
「魔物は…流石に昨日も結構倒したし、いないわね」
「草原は前から安全だと言われていたからな。海寄りの方はやや危険らしいが」
「この前はブリンクベアーが出て大変でした。気を抜かずに行きましょう!」
「ひょっとしてアスカちゃんは、ブリンクベアーに対応できるの?」
「まあ、光学迷彩かけてるだけで、消えてるわけじゃないですから」
「コウガクメイサイが何か分からないけど、対応できるなんてありがたいわ。草原の見張りはそれがあるから、1人じゃ出来ないのよね」
「確かに目で見るのは大変ですね。私は風で、キシャルは鼻で分かるみたいです。魔物使いの人がいたら一番安全かもしれませんね。嗅覚の良い魔物は多いですから」
「確かにね。でも、中々いないのよね。すごく警戒されるし」
「警戒ですか?」
「不人気職だから入れてやろうって誘いが多いのかしら?結構、警戒心むき出しの人が多いわ。パーティーも2,3人ぐらいの小規模なところが多いしね」
「というか、不遇職の人はそういう傾向が強いな。不遇といっても戦闘に関してだが」
「そういや、アスカも幾つか適性でてたよね。転職の予定は?」
「今はこの子たちがいるから無理ですね。でも、落ち着いたら他の職もいいですよね!面白そうです」
「ちなみにどんな職業だったの~」
「えっと、確かホルンさんにもらったメモが…。ありました!伝道師…何かを伝えたいと思う人物に発現する。交渉や物語などの伝聞や書籍の刊行時にボーナス。ただし、戦闘系のスキルに対してマイナスが付く。です」
「あ~、詩人とかそっち系かぁ~。確かに今なってもね~。紙が高くて買うのも大変なのに本となるとね。交渉ってのはちょっとだけうらやましいけど、Cランクにまで商人を育てて取るっていうのもね~」
「パーティーなら、生産職や非戦闘職でも問題ないけど旅に出る時にあからさまに戦力が下がるのは大変そう」
「ですよね。私もそれで魔物使いになったんですよ」
「なるほどね~。でも、従魔たちも懐いてるし、よかったね」
「はいっ!」
結局、この後は何度か魔物を倒したものの、強い魔物はおらずそのまま町に帰ることになった。
「いや~、やっぱり鳥系の魔物は良いね~」
「はいっ!唐揚げもどうでした?」
「おいしかったわ。部位によって味の濃さも違うし、あれなら色々な店で売れるわよ」
「後は、買取だけね。その前にギルドによって報告ね」
「いらっしゃいませ!あら?皆さんお戻りですね。奥へどうぞ」
「他の冒険者はもう戻ってるの?」
「1組だけ戻られてますよ。ただ、結構傷も多かったので苦労したみたいですね。みなさんは?」
「ケガはないよ。元々、そんなに強力な魔物の出る地域でもないしね」
「それはよかったです。さっ、こちらです」
案内されて依頼の説明をされた部屋に入る。しばらくするとギルドマスターのベストさんがやって来た。
「おっ!お前らも帰って来たか?どうだった」
「特に大きなけがもなく依頼は完了しました。魔物の分布や討伐数はこちらに」
「うん。うん?なんだか魔物の討伐数多くないか?1組帰って来たが、あっちも同じような魔物の予測数で、そこまで倒してこなかったぞ」
「う、運じゃないですか」
「まあ、そうだろうがここまで討伐数が変わるとな。おっ!フォレストハウンドか。毛皮はどんなもんだ」
「ギルマス。自分たちで使うからそっちまでは回って来ませんよ」
「チッ、あれは毛並みもいいし温いから好きなんだがな」
「アスカたちが倒してる分があるから、買取はあるかもね~」
「そうですね。私たちはもうコートは持ってますから使うことはないと思います」
「テントとかに使ったりしないのか?俺は昔そうしていたが」
「あたし達のとこじゃ、ガンドンの皮が使えるからね。あっちの方が重さはあるけどシーズン関係ないから便利だよ」
「ああ、あれか。確かに重いが温度変化には強かったな。他の報告はと…結構広い地域で魔物に遭っているな。しかし、草原側は比較的弱い魔物が多くて助かる。しばらくは住民の不安の対策で、あの辺りもギルドで回らんといかんからな」
「奥は知らないよ。草原に行ったチームに確認するんだね」
「ああ、今回は助かった。後で報告を窓口で行って、勲章を受け取ってから詰所までゆっくり歩いてくれ」
「勲章?何でさ」
「今回の依頼は領主様からだからな。領内の安全に寄与したものということだ。そしてお前らはケガしてないだろ?その姿で住民の前を歩くことで、みんなが安心するんだよ。これも依頼のうちだからな、頼んだぞ」
「ええ~、目立っちゃう」
「しょうがない。できるだけ中央に寄ってなよ。そんじゃ、完了報告に行くかね」
私たちは連れ立って受付に戻る。
「お疲れ様です。完了の報告ですね。フォレストハウンドが…えらく多いですね。この短期間で倒した数としては異例ですよ。他にはオーガやその亜種に、オークですね。あら、ゴブリンもちょっと居たんですね。討伐された分の依頼報酬はと…それぞれのパーティーに金貨20枚ですね。各パーティーごとに振り分けていいですか?」
「もちろんです。素材の方は個別になりますけど、良いですか?」
「はい。ただ、オークの肉だけはレートが下がっていますので、気にされるのであればどこか知り合いの商人に頼まれた方がいいと思います」
受付のお姉さんがちらりとこちらの方を見ながら説明してくれる。まあ、前も結構倒して持って来たし、しょうがないけどまた頼みに行かないとね。
「あたいたちはどうする?当てって言っても食堂を回るぐらいだけど」
「う~ん。価格が戻るまでは待てないわね。仕方ないけど半分ぐらいは売っちゃいましょうか。残りは各自で営業よ」
「そうか。なら、私は教会に行くかな」
「ちょっとエラ、抜け駆けは駄目よ。ちゃんと紹介しなさい!」
「分かった。カティアに合いそうなやつがいるから会わせる」
「絶対よ!ちゃんと時間も日取りも確認しといてよね」
「あ、ああ」
「みんな大変そうですね」
「そうそう、パーティーの皆さんはこれを付けてくださいね」
「何ですか?あっ、これがベストさんが言っていた勲章ですね」
「はい。帝国章勲章です。都市防衛や商業での成功など、国に貢献したものに送られる勲章です」
「見回りだけでもらっていいんですか?」
「ギルマスから話があったと思いますが、町の治安と人々の不安を取り除くためです。この町にいる間は必ずつけておいてくださいね」
「分かりました。必ず身に付けます」
カティアさんがそう答え、みんなそれぞれ思い思いの場所に勲章を付けていく。私はちょっと悩んだ末に、首から下げる形にした。
「それじゃあ、詰所に向かうかね」
「オッケ~、みんな行こう!」
勲章を身に付け、サティーさんが先頭で私たちはゆっくりと詰所まで歩き出した。




