修練と弟子
「はっ!やっ!どうですか師匠?」
「う~ん。構えがもうちょっと上向きですね。最初はやや上に行くようにして、当たるようになったら下げていくといいですよ」
「それは何かの考えに基づいてでしょうか?」
「基づいてるかは分かりませんけど、矢が下に向いていると敵は飛びかかって来れますけど、上向きの矢だとくぐっても姿勢が悪くなります。それに相手は当たると思って注意しながら来るので、勢いが殺せるはずです…多分」
深く考えたことはないけど、多分そうなるはずだ。特にウルフ種なんかはそういうのに優れていて、当たらないと思ったら簡単に突撃してくるんだ。
「わっかりました。では、引きつづき撃ちます」
「私も自分の練習をするので、良かったら参考にしてください」
「はいっ!」
ちなみに、当然ながら私が教えているのはサティーさんだ。どうやら、師匠と弟子の関係になった時はキャラが変わるみたいで、なんか熱血後輩みたいな感じになっている。
「よしッ!私も負けません。1,2,3,続いて4本目!」
「あっ、直ぐに撃つから疲れで肩が下がってますよ。ちゃんとこうやって肩はあげておいてください」
「ううっ…この姿勢窮屈です」
「窮屈でもその方が安定しますから。中途半端な型で撃ってもまぐれ当たりにしかなりませんよ!」
「師匠は案外厳しいです」
「弟子の将来のためです!心を鬼にしますよ」
「分かりました!せっかくの機会ですし、私も一生ついて行きます!」
「では行きますよ~」
「アスカ、ごはん出来たよ」
「ありがとう、リュート。では、弟子よ。飯にするぞ!」
「はいっ!あれ?師匠、練習は?」
「腹が減っては戦は出来んのだ!さあ、リュート案内せい!」
「いや、案内とか要らないよね?また、変な本でも読んだの?」
「へ、変な本なんて持ってないもん!」
リュートに抗議しつつ、食事をしに野営地へと向かう。
「おっ、アスカ帰って来たね。どうだ成果は?」
「う~ん。ちょっと進歩ですかね?ご飯を食べたら続きをしようかなと思ってます」
「まあ、いいか。カティア、午後の見回りは5人ぐらいで回らないかい?この戦力ならそれでも十分だし、敵が強けりゃこっちに逃げてくればいいしさ」
「物騒なこと言うわね。あなたがいて逃げ帰るだなんて」
「可能性の話しさ。あたしも相性の悪い相手はいるんでね」
「別にいいわよ。サティーの腕が上がるのは私たちも大歓迎だし」
「それじゃあ、決まりだな。ここに残るのはアスカとサティーと…ミリーにするか」
「私?」
「ああ。水魔法といっても日をまたぐわけじゃないし、そこまで攻撃魔法も得意じゃないだろ?」
「そうだけど、メイは火魔法よね?戦いにくくない」
「まあ、そうだけどアスカも火魔法だろ?残ってる人間が同属性ってのもな…」
「そう言われればそうね。分かったわ、留守番してるわね」
「頼む。特にアスカが指導に夢中で魔物に気づかないなんてことがないようにしてくれ」
「そこまでは…ならないと思います」
「思いますじゃないよ、全くうちの妹は…」
「決まりました?それじゃあ、食事を持ってきますね」
「話が終わるまで待ってたなんてリュートは気が利くね」
「アスカの前に出しちゃったら話しできないからね」
「あらあら、リュート君はアスカちゃんのことをお見通しなのね」
「そっ、そういう訳じゃ…」
「どうしたのリュート?顔が赤いよ」
「何でもない!」
急にリュートはばくばくとご飯を食べ始めた。まだみんなに配膳してる途中なのに珍しい。そんなにお腹空いてたんだ。
「さて、食事も終わったし、準備して出かけるかね」
「ジャネットさん、もうちょっと休んでいかない?」
「いいけど、見廻る範囲は変えないよ?」
「厳しい…でも、町のためにもなるし当然よね」
「そういうこと。とりあえず5人の陣形の確認だけ済ませとこうかい」
「ジャネットさんが前で、リュート君が後ろ。エラが中央でその左右は私とメイね」
「リュート。わかってると思うけどメイ寄りに頼むよ。カティアは魔物と正面から戦えるから」
「分かりました。メイさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ。近距離戦は苦手ですので、頼りにいたしますわ」
「うわぁ~、お姫様と騎士みたい!絵になるなぁ~」
「アスカちゃんは感想がそれでいいの?」
「えっ!?他に何かありましたか?」
「ううん。いいのよ…ホロリ」
「それじゃあ、あたし達は行くけど気を付けるんだよ、アスカ」
「はい!ジャネットさんたちも気を付けてくださいね」
私たちはジャネットさんたちと別れて、野営地で過ごす。
「それじゃあ、私はここで見張りをしているから…アスカちゃんたちはどこで練習するの?」
「そこに手ごろな木がありますから、的を置いて練習するつもりです」
「そう。頑張ってね」
「アルナとキシャルはミリーさんと一緒にいてね。ティタは私たちの練習を見てて」
コクリとティタがうなづく。
「それじゃあ、サティーさん。練習再開ですけど、何か見てみたいのはありますか?」
「う~ん。そうだなぁ~。あっ!アスカって連射はしないの?毎回つがえてちゃんと撃ってるよね」
「それですか。私って前に見せた射から弓の練習を始めたので、連射って苦手なんです。ちょっと見ててくださいね」
私は的に向かって連続で矢を射る。
タンタン
私の放った矢は中央から上と下にずれて命中した。
「すっご~い!ほぼ中央じゃん!」
「でもこれ、両方とも的の中心を狙ったんですよ。連射するとこうやってずれるからダメなんです」
「ダメなの?こんなに中央近くに当たってるのに?」
「はい。今は敵もいませんし、集中して撃ててますから。これが実戦だともっと離れちゃいます。それだと駄目なんですよ」
「なるほどね~」
「でも、替わりに同時射ちは得意なんですよ。見ててくださいね」
私は的に近づき2か所に印をつける。
「せ~の!」
トスッ
1度に放たれた2本の矢は印をつけたところに見事命中した。
「今度もすごい!っていうかほぼ、印の中央じゃん!」
「落ち着いてできますからね。これだと戦場でも使えるんですよ。連射はロビン君が得意だったなぁ…」
「ロビン君?アスカの知り合いの子なの?」
「はい。フェゼル王国に住んでて狩人なんですよ。私と一歳しか違わないんですけど、きちんと弓を習い始めてそこまで経ってないのに、連射が使えるんです。連撃っていう珍しいスキルも持ってて連射速度じゃかなわないんですよ!」
「師匠のでも結構早いと思うのにそれ以上なのか…。上には上がいるんだね」
「一応正確さでは負けてませんけどね。ロビン君はずっと弓を使ってるから、その内抜かれると思います」
「逸材だ~。それならパーティーに誘えばよかったんじゃない?気も合うだろうし」
「ダメですよ~。ロビン君は狩人ですから村を守る仕事もありますし。旅に出たら危険なだけじゃなくて収入も安定しませんしね。まだ若いですけど、もう狩人の中でもトップクラスの腕前なんですよ!」
「そっかぁ~。見てみたかったかも、色んな意味で」
「色んな意味?」
「ああ~、こっちの話。気にしないで師匠」
そこからはサティーさんと一緒に訓練の続きをした。サティーさんは駆け出しのころから罠の節約をしていたせいか、私と一緒で連射よりも1射1射を無駄なく行う形が合うみたいだった。
「もう少し早くできないかな…」
「焦っちゃだめですよ。少しずつ早くしていくんです。でないと的に当たりませんよ」
「はぁ~、師匠に近づくのはもっと先かぁ~。ちなみに師匠の器用さは幾つぐらい?目安でいいから教えてよ~」
「私ですか?え~と、今は…394。また上がったなぁ」
「え”っ!?高すぎ…。本当にCランク?魔力も高いみたいだし、師匠ってすごいんだね。あたいも器用な方だけど260ぐらいだし」
「普段から細工してるからかな?最初はもっと低かったんですよ。確か30無かったかな?」
「すごい伸びだね。あたいは登録した時から120ぐらいあったから結構伸びたと思ったんだけど、敵わないや」
「そっちの方がすごいですよ。私の最初の方の細工何てひどかったですから」
「あたいもまだ伸びるかな?」
「伸びますよ!一緒に細工とかしてみませんか?」
「細工かぁ~。でも、ああいうちまちましたの苦手なんだよね」
「私は風魔法の魔道具も使いますから、サティーさんは土魔法でちょっとずつ造形していくなんてどうですか?」
「そんな魔道具あるの?」
「あるんじゃないでしょうか。多分…」
「でも、聞いたことないよ。そんな魔道具」
「きっと、作ればありますよ。そうだ!知り合いの人に魔石を送るんで、それで作ってもらいますよ。腕のいい方なんできっと思った通りのものが作れますよ!」
「本当?じゃあ、期待しないで待ってるよ」
「期待しててください!」
その後、サティーのもとに送られてきたのは、フォレストハウンドの魔石を使った魔道具だった。
「これがその魔道具ってわけ?何々…」
これは造形の魔道具よ。あなたが誰か知らないけどアスカに感謝しなさい。元になる絵や像があればそれをあなたのイメージの通りに複製してくれるわ。ただし!魔力消費もそこそこあるから気を付けることと、相応の価値のある物には手を出さないこと!いいわね!約束を破ったら回収に行くから注意しなさい。その頃にはSランクになってるでしょうから、地の果てまで追っかけるわよ。 フェゼル王国Aランク ーマディーナよりー
「えっ!?アスカの言ってた知り合いってあのマディーナさんなの」
「どうしたサティー?小包が届いていたようだが…」
「うん。前に知り合ったアスカ…師匠から頼んでた魔道具が届いたんだけど、すごいものが来たから。物も人も」
「差出人は…これは本当か?向こうの大陸どころか、こっちでも名の知られた冒険者じゃないか!」
「そうなの~。うれしいけど、悪いよ~。あの人に製作依頼だなんて依頼料だけでもいくらかかるか…」
「ん?手紙に裏があるみたいだぞ」
PS.魔法が二つ同時に込められると聞いたので、水魔法も込めてみたわ。こっちは回復魔法を込めておいたから、試しに使ってみてね。
「あなたって水魔法使えたよね?今度こそっと試してみてもらえる?」
「それは良いが、これが本当ならこの魔石の価値は…」
「言っちゃ駄目~、あたいも気にしてるんだから」
「アスカという少女は今どこに?」
「もうデグラス王国に入ってるんじゃないかな?ダンジョンには何度か潜るって聞いたけど、流石に出発してると思う。街でも見かけなかったし」
「何年かして店を開いたら、たんまり礼をしないとな」
「その前に軌道に乗せてよ。あたいも頑張って作るから」
「分かってる。知り合いにもどんどん声を掛けていくさ」
こうして、ダンジョン産の物品を売る商人の妻として成功したサティーは、感謝の気持ちを込めてアスカが信仰していると聞いたアラシェルの平民向けの神像をアスカ監修のもとで数多く複製し、訪れる人に広めていったのだった。
ちびアラシェル「むむむ、最近また神力の上昇率が上がった気がする…」




